転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

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#5 どうやらバレていたみたいです。

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   グッと剣が首筋に押し当てられる。
目の前の兵士が少しでも力を入れたらルナの首は胴体と離れるだろう。

   う~ん、困ったなぁ。

   別に呑気にしている訳ではない。ただ、これ以上 下手な言い訳をしても火に油を注ぐだけだ。非はこちらにある。だから素直に謝ろう。それでもダメならその時に考えよう。

「ごめんなさい。行った所の無い場所だから好奇心でつい…」

「好奇心で立ち入り禁止と言われる場所に入り込んで許されるとでも?」

   あ、うん。この手のタイプは何を言ってもダメだ。堅物だ。詰んだかもしれない。

「本当にごめんなさい。罰は受けます。」

   手を上げたまま男を見る。謝罪する時は相手の目を見て誠心誠意。それが社会人としてのマナー。だから私はジッと相手の男を見つめた。

「そこら辺で許してやってくれないか?ジェイク」
   
   いつの間に居たんですか!!と言いたくなる。ルナに剣を突き付けている兵士の後ろにレイトがにこやかに立っている。
   いやいや、おかしいでしょ。ずっとこの兵士…ジェイクと呼ばれている人と対峙していたのに気付かないとか、あり得ないでしょ!!?


「レイト様!!お言葉ですが…」

「ジェイク、同じ事は二度は言わない」

「…失礼しました」

   ジェイクと呼ばれる兵士はスッとルナから剣を離すと鞘へと納める。

「ルナ…綺麗な肌に傷がついてしまってるな。早く治さないと跡が残るかもしれない」

   レイトはそういうとルナをジッと見つめる。

「あ、はい。では私は失礼して回復魔法を使える方に見てもらいますね。」

   そう言ってルナが踵を返そうとした瞬間、レイトに抱き止められる。

「あ、あの…離して頂かないと…」

「何故?ルナは回復魔法を使えるだろう?自分で治せば問題ない。今ここで治せばいいだろう?」


   ばーれーてーるぅー!!!!


   もう何処から突っ込みを入れていいのやら。何故バレてるの!?仮に他人のステータスを見れるスキルがあったもしても、私のスキルは秘匿されているハズ。しかもあの男の子が秘匿したのだから人には絶対にバレないはずだ。

「ほら、早く」

   そう促されルナは渋々自分の首元へと手を当てると治るように念じた。
   すると手の平に光が集まり、スゥっと傷口が閉じていく。手を離すとすっかり肌は元通りになっていた。

   その光景を見てジェイクは息を飲む。

「レイト様…その方は…」

「俺の婚約者だが?」

「いやしかし!!普通ではあり得ません!!無詠唱での魔法の発動は!!それも聖魔法となると…」

「ジェイク、ルナは俺の婚約者だ。それ以外の何者でもない」

   ジェイクの言葉を遮るようにレイトは言葉を発する。レイトの言葉にジェイクは口を閉ざした。

   な…なんか私…やっちゃった感が…

   二人の会話から自分が発動させた回復魔法はこの世界では稀である事が伺える。回復魔法が、というよりは多分…無詠唱が問題なのだろう。


「さて、ルナ。君には比較的自由にしていいとは言ったが、流石に立ち入り禁止エリアに入り込むのは頂けないな。」

「ご、ごめんなさい…」

「本来禁止されている城内での魔法の使用も、少し風を起こすとか、植物を回復させるとかの可愛い程度だから目を瞑ってきたが少しお仕置きが必要だね」

   城内で魔法って使ったらダメなの!?聞いてないし。
いや、それよりも全部バレてるのは何で…

   目の前のレイトに恐怖を感じる。ルナの行動全てがお見通しなのた。多分逃げ出す計画もお見通しなのだろう。


「ジェイクは持ち場に戻れ。ああ、ルナの気配に気付いたのは褒めておくよ。ルナはこの後の家庭教師はキャンセルだ。俺について来い」


   手を取られ引っ張られるようにして着いていく。少し歩くと、とある一室へと招き入れられた。
   中へ入ると、そこは書斎で書類等が積み上がっている。どうやらレイトはここで仕事をしているらしい。
   レイトはルナをソファーへと座らせるとその隣へと腰かけた。


「あの、本当にすみませんでした」

「そんなに怒ってないから。怖がらなくていい」

   おずおずとレイトを見るとニッコリとルナを見ていた。穏やかな笑顔にルナは心の中でホッとため息を吐く。それと同時に少し恐怖も出てくる。
   今は絵本に出てくるような、穏やかで優しい王子様。しかし何かのスイッチが入ると…冷酷な人格へと変貌する。


   二重人格なのか、どっちかの性格は作り物なのか…そんな事を考えていたルナは、いつの間にかレイトの腕が腰に回っているのに気付かずにいた。


「ルナ、こっち見て」

   スッと顎を手で上げられ二人の顔は至近距離まで近付く。薄いブルーの瞳に思わずルナは息を飲む。
   顎から頬へと手がスルリと移動し優しく撫でられる。恋愛経験の乏しいルナには凄まじい破壊力だ。

「あの…レイト様…聞きたい事が」


   流されてはいけないと、ルナは話を振る。


「婚約御披露目って…どういう事ですか」

「ああ、聞いたのか。君をここへ連れて来てから両親が早く御披露目パーティーを開けと煩くてね。流石にルナが作法とかを身に付けてからにしてくれと言って、両親には2ヶ月待ってもらっているんだよ」

「いや、そうじゃなくて…婚約って本気ですか?私は…一人で生きていける知識が身に付いたら、ここを出ていくつもりなんです。助けてもらったご恩はありますが、流石に結婚は…」

   そう言いかけている途中でルナから言葉が発せられなくなる。ルナは思わず目を見開いた。
   自分の口にレイトの口が重なっていたから。

   離れようとするも後頭部を手で押さえられ離れられない。幸い重ねられているだけだが、あまりの衝撃にルナは呼吸も出来ずに眉間に皺を寄せる。
   キスに慣れていれば鼻から呼吸も出来るのだが、28歳独身、逃げ癖のある残念女子にはキスに慣れている事など到底無かった。


   苦しさのあまりレイトの背中をバシバシと叩く。すると口が離れた。
   助かった!と思い呼吸をすると、すぐにまた口を塞がれる。チュッとリップ音を立てながら、何度も何度もそれを繰り返し、やっと口付けから解放された時には、ルナは酸素不足によりグッタリとレイトにもたれかかった。


「あまり可愛い顔をされると、ついつい酷い事をしたくなるな…ルナ、その顔を俺以外の男には見せるなよ?」


   いやいや、人のファーストキスを奪っておいてその言い種はどうかと思います。

「あの、だから私はここから出て…」

   チュッ

「ちょ…話を」

   チュッ

「ち、ちゃんと話を」

   チュッ

「…もういいです」

「何か俺に言いたい事があったんじゃないのか?」

   言おうとすると、すぐにキスするから言えないんでしょうがー!!!!
   と、叫びたいのをグッと我慢して首を振る。


「そうか。なら俺は仕事に戻る。ああ、あまりヤンチャな事はしない事が懸命だ。酷い事をされたくないのなら…な。」


   そう言うとレイトはルナの首筋へと顔を埋める。舌先を這わせた後に噛みつくようにキスを落とす。

「ひゃあっ!!?」

   思わず仰け反るルナ。逃げようとするルナを手で抑えながら首筋にキスを続ける。暫くして解放された時には、クッキリとキスマークが何ヵ所にもついていた。

「せっかくのドレスが血で汚れてしまっているな。…これから着るドレスは襟元が開いたのを着るように。侍女にもそう伝えておく」


    そう言ってクツクツと笑うレイト。ルナは首筋を抑えながら顔を真っ赤にするのだった。
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