転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

文字の大きさ
7 / 25

#7 綺麗な魔王様は好きですか?

しおりを挟む
   町から森へと移動して散策する。薬草の描かれたイラストを見ながら、辺りをくまなく探す。1つにつき中銅貨1枚、日本円で100円で買い取ってくれる。
   最低5本からでそれ以上ならいくらでも買い取ってくれる依頼だ。
   宿が一泊あたり大銅貨5枚、日本円で約2500円なので出来るだけ多く採取しなくてはならない。

   依頼以外でもギルドは魔物の素材を買い取ってくれるので、採取しつつ下位魔物でも狩れれば儲けものだ。

   ふんふんと鼻歌を歌いながら薬草を摘み取っていく。ルナの格好は侍女の服装だ。持っている服がワンピースと侍女の服だけなので、お金がたまるまでは侍女の服で依頼をこなし、街中はワンピースで過ごす事にした。

   薬草を摘んではアイテムボックスへと入れていく。
結構な量が取れた。でもご飯とか冒険用の服が必要なのでもっと採取していきたい。

「あっちに沢山生えてるわね」

   薬草が点々と生えているのを摘みながら導かれるように進んでいく。すると少し開けた所に沢山の薬草が生えていた。

「うわ~沢山生えてる!これなら新しい服もすぐに買えそう!!」

   一心不乱に薬草を摘んでいく。粗方積むと辺りは日が落ちかけ茜色へと移り変わっていた。

「いけない!もう日が落ちる」

慌てて立ちあがり周囲を見渡すルナ。

「どっちの方向から来たんだっけ…」




   バカか私は!初めて来る場所で目印もつけずにあっちフラフラ~こっちフラフラ~って子供かっ!!
   
   ルナは半泣きになりながら体育座りをして木にもたれかかる。周囲はすっかり宵の闇に包まれている。時折鳥の鳴き声(しかもギェーとかいう可愛くもない恐ろしい鳴き声)が響いているし、ガサガサという音にビクリと身体を震わせる。

「お腹…すいた」

   さっきからお腹の音が大合唱のように鳴っている。見た目が美少女の為、本当に残念な事になっている。
 

   色々見通しが甘かったなぁ。取り敢えず城から逃げ出す事を最優先にしたから。レイト様がギルドに手を回していなかったらその時点で詰んでる。
   今だって道に迷ってこんな状況だし、食べ物も確保出来ていない。


   甘ちゃんだなぁ…私。

   かなり優遇された能力を持っているにも関わらず、それを生かせていない。むしろあの時にレイト様に助けられて居なかったら…今私は生きていない。
   人生最大級の自己嫌悪に陥りながら夜空を見つめる。
   その時背後から草を掻き分ける音がした。


「誰!?」
   隠密スキルは発動している。自分に気付いているなら相手は格上。ルナは息を潜め、音のした方へ意識を集中させる。
   スッと姿を現したのはルナと同じ、漆黒の髪に黒曜石のような瞳の男だった。


   綺麗、そんな言葉がピッタリな男は何も言わずにルナの前に立っている。腰位までありそうな髪は銀の紐で緩く1つにまとめられている。
   そして何故か手にリンゴを持っていた。



   シャクシャク…ゴクン。
   地面に座りリンゴを齧りながら隣の男に目を向ける。男は何も言わずに夜の空を見上げていた。

   …た、食べにくい
咀嚼音が静寂の中に響き渡る。なるべく音が出ないように食べているが何せリンゴ!!リンゴなのである。
   これがお煎餅だったら…バリッボリッと音を立てて食べたのだろうか? 
   こんなイケメンの前でバリボリと音を立ててお煎餅を食べる図太い神経はありそうにない。そんな事を考えながら兎に角早く食べ終わろうと口をモグモグさせた。


   何故こんな状況になっているのか。
ルナにも良く分からない。いきなり近付いてきたかと思えばリンゴを差し出してきたのである。
   リンゴと男を交互に見れば、ずい、と目の前にリンゴを突き出された。
   更に困惑していると…ほっぺにグイグイとリンゴを押し付けてきたのだ。


「いたっ…いだだだっ!!も、もらいます!もらいますから!!」


   という、訳の分からないやり取りをして現在隣同士で座っているのである。無論男はリンゴを食べていない。


   普通全く知らない人からもらった物は食べないよなぁ。でも毒は無かったし…それにしても何で喋らないんだろう。

   そんな事を考えて男の方を見ればバッチリと目が合ってしまった。

「あ、あのリンゴありがとうございました」

「印…」

「え?」

「印をつけられているから触れられない…」

悲しそうにルナを見つめる男。

「印。…これは勇者の印。そうか、彼の方が早かったのか」

   男がルナの首筋のキスマークに触れようとした瞬間、男の手がバチっと弾かれる。

「は?…え?」

「今日はここで引き下がるよ」

   そう言うと男はスゥっと消えたのだった。


   何…今の…

   呆気に取られるルナ。すると、ザッ!と目の前に男が降りてきた。どうやら木の上から飛び降りてきたらしい。

「きゃぁぁ!!?」

「失礼、ルナ様。私はレイト様の配下のクロードと申します。お見知りおきを」

  今日1日千客万来なの!?もう疲れてるんですけど。ルナはグッタリと肩を落とした。
   目の前の男、クロードはそんなルナの事は気にも止めずに話し始める。

「レイト様の命令によりルナ様の護衛として見守っていました」

   聞き捨てならないワードが出てきた。護衛?見守り?それじゃあ鼻歌歌いながらルンルン気分で歩いてて道に迷った事も、体育座りでしょんぼりしてたのも見られていた!?

「レイト様には逐一報告をしています」

   クロードはルナの心を読んだかのように答える。

「…そ、それよりも何故今姿を現したんですか?」

   ゴリゴリと精神的HPを削られる前に話題を変える。

「魔王がルナ様に接触を図ろうとしたからです」

「は?魔王?」

「先程の男が魔王です」

   魔王。配下になれば世界の半分をやろうと言って、はいと答えるとゲームオーバーになったり…あれ?それは竜王だっけか?
   まぁ兎に角あれか。世界を混乱に陥れるってやつですよね。

「いや、色々突っ込み所が満載なのですが…」

「そんな訳で取り敢えず道に迷っていらっしゃるようなので城下町までご案内します。魔王が現れなければそのまま放置していたんですけどね。流石にレイト様に叱られますので仕方無くご案内します」

「うん、取り敢えず貴方が私の話を聞かないで尚且つレイト様を大好きなのは伝わったわ…」

「レイト様からは無理に城に連れて来なくてもいいと承っております。ただ、ルナ様の安全を確保しろと命令されていますので、私の事は気になさらずに」

   クロードはそう言うと城下町へと歩き出す。ルナは慌てて後を追うのだった。

   ギルドへ到着するとルナは、いそいそとカウンターへと向かう。沢山摘んだ薬草を納品する為だ。今回は魔物が出なかった為、薬草だけだがかなりの数になる。

「はい、では確認が取れましたので代金をお支払いします。大銅貨15枚です。枚数をご確認下さい」

   そう言うと受付嬢は袋をカウンターへと置く。ルナは袋を取ると中身を数えだした。

「はい、ちゃんとあります」

「ではお納め下さい。お疲れ様でした。今夜はもう遅いです。もし宿を決めていないのならギルドから紹介しましょうか?」

「いいんですか?是非お願いします。まだこの町には詳しくなくて…」

「ギルドのオススメなのでボッタクリに合うこともないから安心して下さい」

   宿までの地図を貰うとルナはギルドを出る。するとクロードが控えていた。

「歩きながらでいいんで、どうしても聞きたい事があるのですが」

   ルナはクロードに問いかける。

「何でしょうか?」

「よくよく考えたら私の身の安全を確保する任務なのに何故魔王が出てきてもこっちに来なかったんですか?」

「めんど…レイト様の加護がルナ様についているので、死ぬ事はないと確信しておりました」

「今面倒っていいかけましたね!?」

「何の事でしょうか?」

   シレッと答えるクロードにルナは思わず頭を抱えるのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...