6 / 31
妹の瞳
しおりを挟む妹は家族だ、異性だが、そういう対象に見ている訳じゃない。
と言うより、見れない。
妹や姉が居ない人に分かりやすく言うなら、君は母親を異性として見る事が出来るのかって話になる。
どうだ、無理だろ?
血の繋がりは強固な家族としての絆を結ぶが、それと同時に男女の関係を避けるように働いている。
恋歌は俺と妹の事情を知っているのに、他の奴らみたいな変な勘違いをされたのがショックだった。
俺が恋歌なら分かってくれると勝手に思い込んでいたと言われればそれまでだけど、彼女との繋がりは四月からあるし、そこそこ仲良くしていたつもりだったんだけど……。
「兄さん? 怖い顔してますよ、どうしましたか?」
「ん、いや別に何も……あるな、ゆうか、少しだけ我慢しろよ」
下校中、知らない男二人組が向い側からやってくる。
ふざけた色の髪、チャラチャラしてて似合っていないアクセサリーを身に着けて、カッコいいと思い込んでいるのかダサいピアスまでつけてやがる。
そんなカスみたいな奴らが、ゆうかを見てやがる。
二日に一回程度の頻度で、こういう面倒なイベントが発生するんだよな。
もし、仮に万が一いや億が一、あいつらが良い奴らだったとする。
だとしても、俺はあんなのを絶対に認めない。
ゆうかに近づけさせる訳にはいかない。
話しかける事も許せない、妹は俺が守るんだ。
だけど手を握っているのが見えているにも関わらず、こっちに近付いてくる。
「……あっ……に……にいさ……」
ガタガタと妹が震え始めた。
きっと気持ち悪い目線が自分の体を舐め回すように流れているのだと分かってしまったんだろう。
さっきまでの綺麗な顔から血の気が引いていて、とてもじゃないが見ていられない。
アイツらはあの時の奴らと同じようなタイプの男だ、学校には居ないタイプだから、妹が怯えるのは仕方ない。
「大丈夫だ、じっとしてろよ」
「は、はい」
暴力は最後の手段だ。
今はどんな手を使ってでも妹に話しかける事を止めなければならないが、それは本当に最後の手段。
そうなると、次に考えられるのは話しかける事すら出来ない雰囲気を出す事だ。
険悪な雰囲気はダメ、寄ってくる可能性が高い。
ならラブラブしているのは……よし、これでいこう。
「お前、本当に可愛いよな」
「兄さん!? ま、まだ家じゃないですよ!? 何して……」
壁側を歩く妹に一歩近寄り、彼女の頬に手を置く。
艶のある肌は触っていてとても心地よくて、さっきまでの血の気の無い表情が少しづつだが赤くなっていくような気がする。
そのまま手を動かして次は髪を触ると、とてもサラサラで肌と同じくとても触り心地がいい。
「お前に触れたいって気持ちが抑えられなかっただけだ、嫌だったか?」
「い、嫌じゃないですよ!? でもそのいきなりで驚いたと言いますか、積極的な兄さんにはまだ慣れないと言いますか何と言いますか……」
「ほら、目閉じろ」
「に、にゃにをするのですか!?」
男共が近くに来ている。
俺が妹に迫っているのを見てつまらなさそうな顔をしてやがる。
ざまぁみろと笑ってやりたいが、まだ話しかけてくる可能性は残されているので油断は出来ない。
「開けててもいいぞ、恥ずかしがるお前も可愛いし」
「閉じます! 閉じますからそれ以上恥ずかしい事を言わないで下さい!」
「いい子だ、ゆうか」
「ひゃいっ!」
こんな時、妹の長い髪がとても役に立つ。
額を合わせているだけだが、彼女の髪を少し手繰り寄せれば、横から見ればキスしているように見えるだろう。
クックック、どうだ、これでもまだ話しかけようとするのか?
ま、しないわな。
男どもはガックリと肩を落として、さっきまで妹を見ていた目とは違う目で、俺を見てやがる。
きっと羨ましいとか、見せつけやがってとか、そんな事しか考えていないだろうが、それはどうでもいい。
今はもう妹に視線が向いてない。
つまり、俺の完全勝利って事だ。
今日も妹を守れたな、うん、頑張った!
「もう目を開けていいぞ、ゆうか」
「……え?」
「男共は追い払った、もう大丈夫だ」
「えーっと、ありがとうございま……す?」
「守るって言っただろ、礼なんていい」
既に妹の震えも無くなった。
さっきまでの表情と違い、少し落ち込んでいるような暗い顔を見せているが、少なくとも怯えてはいない。
何て言うか、彼女の今の顔はバイトが連続した時の俺みたいな顔をしてやがる。
こういう所に血の繋がりを感じる、自分で言うのも何だかとても似ているんだよ。
まぁこれを言えば怒りそうだから何も言わないけどね。
「期待してたのに……兄さんがキスしてくれるって……兄さんの物にされるんだって覚悟してたのに……」
「兄妹なんだからそんな事ならないっての」
「むー! 女の子を弄ぶなんて悪い男ムーブは止めて下さい! 兄さんじゃなきゃ蹴り飛ばしてますよ!」
……何だ。
何か引っかかる。
普通の会話をしているだけなのに……。
「兄さん以外の男性なら……」
「……ッ」
まただ。
魚の小骨が喉に刺さって中々取れない時みたいな感覚に襲われる。
妹が他の男と一緒になるのは当たり前の話で、あんな事件が無ければきっと彼氏の一人ぐらい作っていたに違いない。
兄としてそれに何か言う事があってはならない。
それは間違っている。
分かっているのに、妹が誰かの隣に居る事を拒絶する俺が心の奥に潜んでやがる。
「まだ男はダメだ、お前を傷つけるかもしれねぇだろ、絶対にダメだ」
「おっやー、兄さんさてはさては、私が兄さん以外の男性の話をしたのが気に食わなかったんですかねー?」
「……んな事ねぇよ」
「大丈夫ですよ、私は兄さん一筋です!」
妹と特別な関係なんて望んでない。
これは本心で、そこに嘘偽りは何一つ無い。
なのに、俺はさっき、男共からゆうかを守った時に優越感を感じていて、妹が俺以外の男の話をして嫌な気持ちになってしまった。
二つの相反する考えが、俺の中にある事を確認してしまったんだ。
きっと、あの事件が俺にとってもトラウマになっているに違いない。
クズに妹を渡すぐらいなら俺が……とか、普通は考えない事なのに思考に混ざり込んで消えてくれないし。
何より俺も妹に似て、彼女に関わろうとする男が信用出来なくなっている。
「そうかよ」
「ちょっと、冷たいですよ、兄さん!」
違う。
妹の事が好きな訳じゃない。
俺一筋だと言われて少し嬉しくても、これは違うんだ。
もしかしたら恋歌は意識せずに出ていた俺のこの中身について注意をしてくれていたのかもしれない。
恋人を作る事は出来ない。
妹の側で、彼女を守らないといけない。
まだ俺は正常だ、妹を妹だと認識している。
でも、これがいつまで続くか分からない、終わりの見えないこの状況で、俺はいつまで正気を保てるのだろうか?
少なくとも、今はまだ冬月さんが魅力的な女性に見えているし、冬月さんを彼女にしたいとか現実にはならない妄想をする事があるから大丈夫だろうけど、彼女に拒絶されたら俺は……。
「兄さん」
「ん?」
「大好きです、愛してますよ、兄さん!」
妹の笑顔に引き込まれそうで、おかしくなってしまいそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
雨に濡れた桜 ~能面課長と最後の恋を~
國樹田 樹
恋愛
心に傷を抱えた大人達の、最後の恋。
桜の季節。二十七歳のお局OL、白沢茜(しろさわあかね)はいつも面倒な仕事を回してくる「能面課長」本庄に頭を悩ませていた。
休憩時間のベルが鳴ると決まって呼び止められ、雑用を言いつけられるのである。
そして誰も居なくなった食堂で、離れた席に座る本庄と食事する事になるのだ。
けれどある日、その本庄課長と苦手な地下倉庫で二人きりになり、能面と呼ばれるほど表情の無い彼の意外な一面を知ることに。次の日にはまさかの食事に誘われて―――?
無表情な顔の裏に隠されていた優しさと激情に、茜は癒やされ絆され、翻弄されていく。
※他投稿サイトにも掲載しています。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
同居人の一輝くんは、ちょっぴり不器用でちょっぴり危険⁉
朝陽七彩
恋愛
突然。
同居することになった。
幼なじみの一輝くんと。
一輝くんは大人しくて子羊みたいな子。
……だったはず。
なのに。
「結菜ちゃん、一緒に寝よ」
えっ⁉
「結菜ちゃん、こっちにおいで」
そんなの恥ずかしいよっ。
「結菜ちゃんのこと、どうしようもなく、
ほしくてほしくてたまらない」
そんなにドキドキさせないでっ‼
今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
それに溺れてしまう。
もう一輝くんの魅力から……?
♡何が起こるかわからない⁉♡
『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』
月下花音
恋愛
別れた日から30日。毎日、少しずつ「本当の私」に出会っていく
「嫌いになりたくないから、別れよう」
2年間付き合った彼氏・優也にそう告げられた日、私の世界は色を失った。
コーヒーは苦く、鏡に映る自分は知らない女で、スマホの通知音に心臓が跳ねる。
彼の好きだったチョコミントを避け、彼の痕跡が残る部屋で、ただ泣いていた。
でも、私は決めた。30日間で、私を取り戻す。
Day 1、苦いコーヒーを飲み干した。
Day 5、スマホを遠ざけた。
Day 7、彼のSNSを削除した。
Day 9、部屋の模様替えをした。
Day 13、彼のための香りを捨て、私の香りを選んだ。
Day 17、自分のために、花を買った。
Day 22、長い髪を切り、新しいスマホに変えた。
Day 29、新しい出会いを、恐れずに楽しめた。
Day 30、ストロベリーアイスを食べながら、心から笑っていた。
小さな「さよなら」を積み重ねるたび、私は変わっていく。
「彼に依存していた私」から、「私自身でいられる私」へ。
これは、失恋から立ち直る物語ではありません。
誰かのために生きていた女性が、自分のために生きることを選ぶ物語です。
【全31話完結】こころの30日間を追体験してください。
なぜか水に好かれてしまいました
にいるず
恋愛
滝村敦子28歳。OLしてます。
今空を飛んでいたところをお隣さんに見られてしまいました。
お隣さんはうちの会社が入っているビルでも有名なイケメンさんです。
でもかなりやばいです。今インターホンが鳴っています。
きっと彼に違いありません。どうしましょう。
会社の帰りに気まぐれに買ったネイルをつけたら、空を飛べるようになって平凡じゃなくなったOLさんのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる