壊れた妹と見えない束縛

ケイト

文字の大きさ
8 / 31

密会

しおりを挟む

 
 結論から言うが、バイトをクビにはならなかった。
しかし、客、それも女子高生に頭を下げさせて、叱って下さいと言わせたと勘違いをして怒った店長は俺に対して、しばらくの間は追加シフトを働く事を命じた。

 我が家には両親がおらず、俺のバイトだけで生活しているので、稼げるからラッキーだと思い最初は恋歌に心の中で感謝したんだが、今日のバイト終わりに冷静になって考えると、次の日の朝、冬月さんの所のバイトがめちゃくちゃしんどくなる事に気付いてしまい、辛いだろうなと思いながらスーパーを出る。
 
「えーっと……帰ったらシャワー浴びて、宿題やって、それから……」
 
 あれ、これ時間が足りないんじゃないか?
朝はバイトがあるし、放課後はすぐにバイトに行って夕方に少し帰ってきてまたすぐバイトにもどって……。
うん、宿題とかしてる暇無い!
明日は黙って怒られよう、それしか無い。

「あ、お兄さん!」
 
「うわっ!? れ、恋歌ちゃん?」
 
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか!」
 
 バイト先のスーパーから我が家まではほぼ直線で行けるんだが、その途中の小さな公園に恋歌がいた。
こんな時間に女子高生が公園で一人とか危ないだろうに、何してんだろ。
 
「何してんだ、補導されんぞ」
 
「いやー、お兄さんの店で買ったコロッケを食べてすぐ寝ちゃって、変な時間に起きちゃったから散歩してただけですよ」
 
「散歩? でも……」
 
「本当に散歩っすよ!」
 
 恋歌がすすっと動くが、足元に置かれたニ本のホットココアの缶を隠せていない。
こんな時間に公園で長時間待って……ハッ!
成る程わかったぞ、彼女も年頃だ、つまりこれは夜遊びだな。
 
「散歩にしちゃここにずいぶん居るみたいだけど」
 
「あー、いやその、これはですね」
 
「誰かを待ってる、とか?」
 
 彼女はチラッと足元を見てから視線を俺に戻す。
明らかにソワソワしているし、俺が誰かを待ってるのかと聞いた瞬間、ソワソワしているだけでなく手遊びが始まった。
もうこれは確実だ、絶対に彼氏と待ち合わせに違いない、それかこれから彼氏になる予定の男だ。
時間も時間だから互いの家には行けない、でも会いたい、だから公園で待っていた所に俺が通りかかって……そりゃ落ち着かないよ、わかるわかる。
 
「……あー、やっぱりバレちゃいますよね」
 
 うっすらと赤みがかる頬。
制服とジャージぐらいしか俺や妹に見せないのに、今彼女はいかにも女の子だぞと主張するような、明るい色で可愛い装飾のされたコートを着ているじゃないか、そんな格好をしていればすぐに分かるっての。

「ジャージと制服以外の恋歌ちゃんを初めて見たからな、人と待ち合わせとかしてんのかなって思ったんだが、当たってたみたいだな」
 
「えーっと……似合って……ませんよね、やっぱり私はジャージが一番ですから」
 
「いや、似合ってるよマジで似合ってる」
 
「あ……ありがとう……ございます……」
 
 しかし、ここで彼女の恋人が来たら面倒な事になりそうだ。
自分に彼女がいたとして、夜遅くに知らない男と会っているとか……普通にその男にキレると思うし、彼女にもキレてるだろう。
そして今その怒りは俺に降ってくるので、さっさとここから去らねば俺が怒られる!

「んじゃ俺は帰る、あ、妹には黙っとくよ」
 
 さらばだ恋歌!
くれぐれも補導されないように夜遊びをするんだぞ。
 
「はい、ゆうかちゃんには内緒でお願いします……あ、その、途中まで一緒に帰ってもいい……ですか?」
 
「……ん?」
 
 え、一緒に帰るの?
それはいいんだけど彼氏は?
彼氏じゃないとしても、待ってる人はいいのか?
 
「用事は済んだのか? 人を待ってるんだろ?」
 
「その……はい、もうそれは大丈夫なので」
 
なら……いいんだけど。
 
「夜道を女の子一人じゃ危ないもんな、家まで送るよ」
 
「女の子ってがらじゃないですよ、でもありがとうございます」
 
「そうか? 結構男子から人気あると思うんだけど、ほら、夏頃に妹とどっちが先にナンパされるか競ってた時とか恋歌ちゃんの方が早くなかったっけ?」
 
「あの時はそうでしたけど……学校じゃ僕に告白してくるのは女の子ばっかりですよ、もし学校の男子からも人気があるって思うなら、それはきっとお兄さんが変わり者なんです」

 恋歌はよくモテる。
まぁ同性からだけど、モテる事には変わり無い。
確か俺のクラスにも彼女を王子様と呼び恋している女子がいたはずだ。
満月さんが俺よりもカッコいい女子が後輩にいるとキャーキャー言っていたのも覚えているから、多分間違いない。
学校内の情報に疎い俺でも知っているんだから、きっとかなりの人気者なんだろう。
 
 それに学校外じゃ男からも普通にナンパされていたのを覚えているし……まぁあれだよな。
この会話になって"自分モテるっす!"と答える訳にもいかないだろうし、どうやっても否定する回答しか返ってこないだろう。
 
「変わり者って言うけど、それはそっちもだろ?」
 
「そうですか? 僕は特に変な事してませんけど……」
 
 少し前、学校の廊下を歩いていた時だが、屋上に上がる階段の踊り場で彼女が男子と話しているのを見た記憶がある。
男子は彼女に好意を伝えようとしていたが、それを無視するかのように彼女は"お前に興味無い"と男子が可哀想になるレベルの冷たい一言であしらわれていたのを知っている。
昔の妹と同じかそれ以上にモテてるくせに!
 
「王子様キャラとして扱われるのが嫌なら、あのふるまいをやめればいいだけなのに、恋歌ちゃんはそれをやめず、学校じゃ作った自分しか見せてない、十分に変わり者だろ」
 
 女子に対してはかなり優しく、さり気ないフォローや中性的な顔立ちが人気なんだが、彼女はそれを利用して自分を作っている。
嫌なら止めればいいだけ、なのにそれを止めない、だけど王子様扱いは嫌がる。
……ここだけは理解できねぇな。
 
「それは……本当の自分を見せるのが怖いんですよ」
 
「怖い? 何で?」
 
「お兄さん、月は自分の見せたい顔を満月として見せてくれますけど、本当の自分、人から見たら隠したい裏の顔だと思われている真実の顔は新月として暗闇に隠してしまうんです」
 
 いきなり詩的なことを言われても困る。
ツッコミ待ちか?
君の苗字の新月と、真っ暗でこの夜空の何処に浮かんでいるか分からない新月をかけているんだろと、言えばいいのか?
……それにしては、彼女の表情は暗く、そのリアクションを俺に求めているようには見えない。
ただ、何かとても大事なことを、必死に伝えようとしていることだけは分かった。
しかし今、月は同じ顔しか見せてませんと真面目な話をして欲しいようにも見えないし……うーん。
 
「お兄さん……と、ゆうかちゃんの前でなら、新月は新月でいてもいいやと思えるんです」
 
そんな話をしながら歩いていると、恋歌の家の前に着いた。
 
「送ってくれてありがとうございました、お兄さん」
 
 俺の家からそこまで離れている訳ではないから、ここから自宅に戻るのは簡単だし、負担じゃない。

「気にすんな、んじゃまた明日な」
 
「はい、また明日、今日の時間にあの公園で待ってます」
 
「いやいや、流石に次は恋歌ちゃんの待ち合わせていた人と会っちゃいそうだし、それに夜遅くに女の子一人で出歩くのは」
 
「私を心配してくれるなら、ちゃんと迎えに来て下さいね、それじゃあ……おやすみなさい」
 
 俺の彼女を心配する言葉は、どうやら届かなかったらしい。
君の会っていた友達か彼氏かどっちか分かんないけど、どっちにも会いたくないんだってハッキリ言えば良かったな。
 
 この日から、夜22時過ぎの帰り道の公園に恋歌が現れるようになり、二人で帰る事が多くなっていった。
 


 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

雨に濡れた桜 ~能面課長と最後の恋を~

國樹田 樹
恋愛
心に傷を抱えた大人達の、最後の恋。 桜の季節。二十七歳のお局OL、白沢茜(しろさわあかね)はいつも面倒な仕事を回してくる「能面課長」本庄に頭を悩ませていた。 休憩時間のベルが鳴ると決まって呼び止められ、雑用を言いつけられるのである。 そして誰も居なくなった食堂で、離れた席に座る本庄と食事する事になるのだ。 けれどある日、その本庄課長と苦手な地下倉庫で二人きりになり、能面と呼ばれるほど表情の無い彼の意外な一面を知ることに。次の日にはまさかの食事に誘われて―――? 無表情な顔の裏に隠されていた優しさと激情に、茜は癒やされ絆され、翻弄されていく。 ※他投稿サイトにも掲載しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

なぜか水に好かれてしまいました

にいるず
恋愛
 滝村敦子28歳。OLしてます。  今空を飛んでいたところをお隣さんに見られてしまいました。  お隣さんはうちの会社が入っているビルでも有名なイケメンさんです。  でもかなりやばいです。今インターホンが鳴っています。  きっと彼に違いありません。どうしましょう。  会社の帰りに気まぐれに買ったネイルをつけたら、空を飛べるようになって平凡じゃなくなったOLさんのお話。   

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

処理中です...