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密会
しおりを挟む結論から言うが、バイトをクビにはならなかった。
しかし、客、それも女子高生に頭を下げさせて、叱って下さいと言わせたと勘違いをして怒った店長は俺に対して、しばらくの間は追加シフトを働く事を命じた。
我が家には両親がおらず、俺のバイトだけで生活しているので、稼げるからラッキーだと思い最初は恋歌に心の中で感謝したんだが、今日のバイト終わりに冷静になって考えると、次の日の朝、冬月さんの所のバイトがめちゃくちゃしんどくなる事に気付いてしまい、辛いだろうなと思いながらスーパーを出る。
「えーっと……帰ったらシャワー浴びて、宿題やって、それから……」
あれ、これ時間が足りないんじゃないか?
朝はバイトがあるし、放課後はすぐにバイトに行って夕方に少し帰ってきてまたすぐバイトにもどって……。
うん、宿題とかしてる暇無い!
明日は黙って怒られよう、それしか無い。
「あ、お兄さん!」
「うわっ!? れ、恋歌ちゃん?」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか!」
バイト先のスーパーから我が家まではほぼ直線で行けるんだが、その途中の小さな公園に恋歌がいた。
こんな時間に女子高生が公園で一人とか危ないだろうに、何してんだろ。
「何してんだ、補導されんぞ」
「いやー、お兄さんの店で買ったコロッケを食べてすぐ寝ちゃって、変な時間に起きちゃったから散歩してただけですよ」
「散歩? でも……」
「本当に散歩っすよ!」
恋歌がすすっと動くが、足元に置かれたニ本のホットココアの缶を隠せていない。
こんな時間に公園で長時間待って……ハッ!
成る程わかったぞ、彼女も年頃だ、つまりこれは夜遊びだな。
「散歩にしちゃここにずいぶん居るみたいだけど」
「あー、いやその、これはですね」
「誰かを待ってる、とか?」
彼女はチラッと足元を見てから視線を俺に戻す。
明らかにソワソワしているし、俺が誰かを待ってるのかと聞いた瞬間、ソワソワしているだけでなく手遊びが始まった。
もうこれは確実だ、絶対に彼氏と待ち合わせに違いない、それかこれから彼氏になる予定の男だ。
時間も時間だから互いの家には行けない、でも会いたい、だから公園で待っていた所に俺が通りかかって……そりゃ落ち着かないよ、わかるわかる。
「……あー、やっぱりバレちゃいますよね」
うっすらと赤みがかる頬。
制服とジャージぐらいしか俺や妹に見せないのに、今彼女はいかにも女の子だぞと主張するような、明るい色で可愛い装飾のされたコートを着ているじゃないか、そんな格好をしていればすぐに分かるっての。
「ジャージと制服以外の恋歌ちゃんを初めて見たからな、人と待ち合わせとかしてんのかなって思ったんだが、当たってたみたいだな」
「えーっと……似合って……ませんよね、やっぱり私はジャージが一番ですから」
「いや、似合ってるよマジで似合ってる」
「あ……ありがとう……ございます……」
しかし、ここで彼女の恋人が来たら面倒な事になりそうだ。
自分に彼女がいたとして、夜遅くに知らない男と会っているとか……普通にその男にキレると思うし、彼女にもキレてるだろう。
そして今その怒りは俺に降ってくるので、さっさとここから去らねば俺が怒られる!
「んじゃ俺は帰る、あ、妹には黙っとくよ」
さらばだ恋歌!
くれぐれも補導されないように夜遊びをするんだぞ。
「はい、ゆうかちゃんには内緒でお願いします……あ、その、途中まで一緒に帰ってもいい……ですか?」
「……ん?」
え、一緒に帰るの?
それはいいんだけど彼氏は?
彼氏じゃないとしても、待ってる人はいいのか?
「用事は済んだのか? 人を待ってるんだろ?」
「その……はい、もうそれは大丈夫なので」
なら……いいんだけど。
「夜道を女の子一人じゃ危ないもんな、家まで送るよ」
「女の子ってがらじゃないですよ、でもありがとうございます」
「そうか? 結構男子から人気あると思うんだけど、ほら、夏頃に妹とどっちが先にナンパされるか競ってた時とか恋歌ちゃんの方が早くなかったっけ?」
「あの時はそうでしたけど……学校じゃ僕に告白してくるのは女の子ばっかりですよ、もし学校の男子からも人気があるって思うなら、それはきっとお兄さんが変わり者なんです」
恋歌はよくモテる。
まぁ同性からだけど、モテる事には変わり無い。
確か俺のクラスにも彼女を王子様と呼び恋している女子がいたはずだ。
満月さんが俺よりもカッコいい女子が後輩にいるとキャーキャー言っていたのも覚えているから、多分間違いない。
学校内の情報に疎い俺でも知っているんだから、きっとかなりの人気者なんだろう。
それに学校外じゃ男からも普通にナンパされていたのを覚えているし……まぁあれだよな。
この会話になって"自分モテるっす!"と答える訳にもいかないだろうし、どうやっても否定する回答しか返ってこないだろう。
「変わり者って言うけど、それはそっちもだろ?」
「そうですか? 僕は特に変な事してませんけど……」
少し前、学校の廊下を歩いていた時だが、屋上に上がる階段の踊り場で彼女が男子と話しているのを見た記憶がある。
男子は彼女に好意を伝えようとしていたが、それを無視するかのように彼女は"お前に興味無い"と男子が可哀想になるレベルの冷たい一言であしらわれていたのを知っている。
昔の妹と同じかそれ以上にモテてるくせに!
「王子様キャラとして扱われるのが嫌なら、あのふるまいをやめればいいだけなのに、恋歌ちゃんはそれをやめず、学校じゃ作った自分しか見せてない、十分に変わり者だろ」
女子に対してはかなり優しく、さり気ないフォローや中性的な顔立ちが人気なんだが、彼女はそれを利用して自分を作っている。
嫌なら止めればいいだけ、なのにそれを止めない、だけど王子様扱いは嫌がる。
……ここだけは理解できねぇな。
「それは……本当の自分を見せるのが怖いんですよ」
「怖い? 何で?」
「お兄さん、月は自分の見せたい顔を満月として見せてくれますけど、本当の自分、人から見たら隠したい裏の顔だと思われている真実の顔は新月として暗闇に隠してしまうんです」
いきなり詩的なことを言われても困る。
ツッコミ待ちか?
君の苗字の新月と、真っ暗でこの夜空の何処に浮かんでいるか分からない新月をかけているんだろと、言えばいいのか?
……それにしては、彼女の表情は暗く、そのリアクションを俺に求めているようには見えない。
ただ、何かとても大事なことを、必死に伝えようとしていることだけは分かった。
しかし今、月は同じ顔しか見せてませんと真面目な話をして欲しいようにも見えないし……うーん。
「お兄さん……と、ゆうかちゃんの前でなら、新月は新月でいてもいいやと思えるんです」
そんな話をしながら歩いていると、恋歌の家の前に着いた。
「送ってくれてありがとうございました、お兄さん」
俺の家からそこまで離れている訳ではないから、ここから自宅に戻るのは簡単だし、負担じゃない。
「気にすんな、んじゃまた明日な」
「はい、また明日、今日の時間にあの公園で待ってます」
「いやいや、流石に次は恋歌ちゃんの待ち合わせていた人と会っちゃいそうだし、それに夜遅くに女の子一人で出歩くのは」
「私を心配してくれるなら、ちゃんと迎えに来て下さいね、それじゃあ……おやすみなさい」
俺の彼女を心配する言葉は、どうやら届かなかったらしい。
君の会っていた友達か彼氏かどっちか分かんないけど、どっちにも会いたくないんだってハッキリ言えば良かったな。
この日から、夜22時過ぎの帰り道の公園に恋歌が現れるようになり、二人で帰る事が多くなっていった。
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