【毎日連載】古魔道具屋『レリックハート』の女房と猫

丁銀 導

文字の大きさ
7 / 54

007 ある抗議文【リュウ】

しおりを挟む
 
 やあ、僕は『猫の方のリュウ』だよ。
 相変わらず古道具屋さんに住んでいるんだ。

 なんだか今日は、同居人であるジュナイと店主のエイデンさんが、
 さっきから何やら僕について話しているようなんだ。
 そばに近寄って聞き耳を立ててみると、エイデンさんは
「そのうちリュウにお嫁さんを見つけてやるべきではないか」と言っていた。
 対してジュナイは「それより去勢手術した方がいいと思う」と言った。

 …正直どちらも勘弁して欲しい。
 そんな重大な話を当事者抜きでするなんて、二人とも常識が欠けていると言わざるを得ない。
 ああ、僕が人語を喋れたらいいのに!まったく、猫の頭蓋骨の構造が忌々しい。
 しかし嘆いていても始まらない。
 何かしらの形で意思表示しなければ、大変な事になる。
 どうしようかな…。

 ふと店内を見ると、売り物の古道具の中にタイプライターを見つけた。
 魔道具ではない、本当に単なるタイプライターだ。はじめて見た…。
 でも万年筆は肉球が邪魔で握れないが、これなら僕でも字を打てる。
 やるしかない!
 そう思い立ったら善は急げだ。さっそく僕は文書作成に取り掛かった。
 使い方はエイデンさんが魔石で観ていた映画に出ていたから、知っている。

 ……
 古いタイプライターと格闘すること小一時間。
 紙を差し込むのに苦労したし、キーが固い上に慣れない作業なので
 随分と手間取ったけれど、なんとか完成した。
 カタカタと派手な音がしたけれど、二人とも外食に出てる間を見計らったから問題ない。
 まったく僕はお利口だなぁ。
 こんな賢い猫が家族なんだから、誇りに思うべきだよ。
 …そう、僕の家族はジュナイとエイデンさんだけだよ。他にはいらない。
 去勢手術は単に痛そうだから嫌だ。
 それと穏便に言っても聞き流されてしまうかも知れないから、文章に脅しを入れてみた。
 子ども騙しかもしれないけれど、何もしないよりマシさ。おそらくはね。




【古魔道具屋主人・エイデン・レリックハートによる後日談】


 ある朝、売り物のタイプライターをふと見てみるときちんと紙が差し込まれ、
 何行かの文章が打たれていた。ジュナイの悪戯だろうかと本人に聞いたが
「いや、知らないけど?」と本当に心当たりがないようだった。
 紙には以下のような事が打たれていた。曰く

「僕は独身主義者であるが故に、配偶者の世話など無用である。
 また、命に関わる大病でない限りは、外科手術の類を一切拒否するもの也。
 僕の意思を無視した場合は、君もしくは君の細君に災いが降り掛かるであろう。
 覚悟し給え」

 …との事だった。恐ろしく読み難かったが。
(こちらの世界の「すべてローマ字で打たれた文章」が近いと思う)

 配偶者に手術…何の話だろうか。
 薄気味悪いが、実害がない限りは放っておくのが良いだろう。
 第一誰に宛てたものなのか、誰が書いたものなのか、
 肝心の名前が抜けている。
 書かなかったのか、書き忘れたのか。
 …賢いようで、ちょっと抜けているところが、なんとなく憎めない。
 ふと机の上を見ると、リュウがちょこんと座ってこちらを見上げていた。

「…リュウ。この手紙、誰が書いたか知ってるか?」

 戯れに聞いてみると、リュウは不機嫌そうに低く鳴いて、
ぷいっと店の奥に行ってしまった。

 どこか悔しそうな顔をしていたが………
 いや、まさかな…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

処理中です...