【毎日連載】古魔道具屋『レリックハート』の女房と猫

丁銀 導

文字の大きさ
15 / 54

016 亡き弟の独白②蝶の翅ばたき【リュウ・アーヴァイン】

しおりを挟む
 
 窓の外は嵐だ。
 風の唸りと雨粒がガラスを叩く音が、病室の中まで染み込んでくる。

 …この嵐も始まりも、『蝶のはばたき』だったのかな。

 僕がそう言うと、ジュナイは「そんな物語、あったな」と言った。
 今夜はここに泊まるらしい。なにしろこの天気だ。それが賢明だろうね。

 ジュナイは僕の四つ上の兄だけど、血の繋がりは無いし、戸籍上も他人だ。
 けれど僕もジュナイも同じ日に親に棄てられ、同じ孤児院に入った。
 だからなんとなく、互いを兄弟だと思うようになった。
 …失敗したと思う。僕はジュナイを愛してしまった。
 後戻り出来ないほど深く。
 いつから彼を愛するようになったのかは、憶えていない。
 しかしきっかけはおそらく、些細な事なのだろう。
 蝶のはばたきのように。
 小さな蝶の翅が起こした風が、回り回って強大な嵐となる。
 それは、今の僕の身にそっくり当てはまる。

 九時の消灯時間となり、部屋の照明も消えた。
 いつもなら魔石灯をつけて本を読むのだけれど、
 今夜は補助ベッドで眠るジュナイの邪魔になるので、我慢する。
 よほど疲れていたのだろう。
 横になった途端、ジュナイは眠ってしまったようだ。かすかな寝息が聞こえる。
 暗闇の中で目を開く。
 眠るジュナイの姿を見つめていると、どうしてもその髪や肌に触れたくて、たまらなくなった。
 一度、キスして欲しいとジュナイに頼んだが拒まれた。
 …当たり前だよね。彼からしたら、僕は弟なのだから。
 でも、僕の中ではジュナイはもう兄ではないんだよ。

 僕はベッドから抜け出して、冷たい床を素足でひたひたと歩いた。
 ジュナイの眠る補助ベッドの端に腰掛ける。
 暗闇に慣れた目には、その寝顔がよく見える。
 前髪に指で触れると、さらりと心地よい。頬をつついても目を覚ます様子はない。
 寝付きが良いのは昔からだ。

 身を屈め、口づける。
 触れた唇は柔らかく、少しかさついていた。
 顔の真ん中がふにゃりとへこむような、不思議な感触だったが心地よかった。
 何度も口づけを繰り返すが、ジュナイが目を覚ます気配はない。
 起きたらどうしよう?抱いて欲しいと言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
 僕が抱く側なら…いや、無理矢理なんて可哀相だし、
 たぶんどちらにせよ、僕の心臓が激しい負荷に耐えられないだろう。
 …まったく、我が身が恨めしい。
 色々と考えた結果、添い寝するという妥協案を見つけた僕は、
 布団をめくり、ジュナイの隣に潜り込んだ。…こうして眠るのは何年ぶりだろう。

 子供の頃は僕が一人では眠れないとべそをかくと、
 ジュナイは一緒に寝てくれた。
 朝起きたら、一体どんな反応をするかな。
 驚くか、怒るか、飽きれるか…
 なんであれ、『兄』の顔をするのだろう。
 僕から気持ちを伝えられても「聞かなかった事にする」なんて…
 君は本当に酷いやつだ。

 あれ以来、僕は
 どうしたらジュナイを一番傷付けられるのか
 …その事ばかり考えている。

 死に際の僕が遺した小さな翅のはばたきが、
 ジュナイを激しい嵐に叩き込む事だけを望んでいる。

 君の中で『良い弟』としてだけ記憶に残るなんて、耐えられない。
 僕からしたら、そんなの二度死ぬのと同じなんだよ。

 …ジュナイ、僕は君を許すよ。
 君が僕にした仕打ちを許す。

 でも僕の事は許さないで欲しい。
 身勝手な愛で君を傷つける僕を…

 どうか許さず、憎み続けて。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...