15 / 54
016 亡き弟の独白②蝶の翅ばたき【リュウ・アーヴァイン】
しおりを挟む窓の外は嵐だ。
風の唸りと雨粒がガラスを叩く音が、病室の中まで染み込んでくる。
…この嵐も始まりも、『蝶のはばたき』だったのかな。
僕がそう言うと、ジュナイは「そんな物語、あったな」と言った。
今夜はここに泊まるらしい。なにしろこの天気だ。それが賢明だろうね。
ジュナイは僕の四つ上の兄だけど、血の繋がりは無いし、戸籍上も他人だ。
けれど僕もジュナイも同じ日に親に棄てられ、同じ孤児院に入った。
だからなんとなく、互いを兄弟だと思うようになった。
…失敗したと思う。僕はジュナイを愛してしまった。
後戻り出来ないほど深く。
いつから彼を愛するようになったのかは、憶えていない。
しかしきっかけはおそらく、些細な事なのだろう。
蝶のはばたきのように。
小さな蝶の翅が起こした風が、回り回って強大な嵐となる。
それは、今の僕の身にそっくり当てはまる。
九時の消灯時間となり、部屋の照明も消えた。
いつもなら魔石灯をつけて本を読むのだけれど、
今夜は補助ベッドで眠るジュナイの邪魔になるので、我慢する。
よほど疲れていたのだろう。
横になった途端、ジュナイは眠ってしまったようだ。かすかな寝息が聞こえる。
暗闇の中で目を開く。
眠るジュナイの姿を見つめていると、どうしてもその髪や肌に触れたくて、たまらなくなった。
一度、キスして欲しいとジュナイに頼んだが拒まれた。
…当たり前だよね。彼からしたら、僕は弟なのだから。
でも、僕の中ではジュナイはもう兄ではないんだよ。
僕はベッドから抜け出して、冷たい床を素足でひたひたと歩いた。
ジュナイの眠る補助ベッドの端に腰掛ける。
暗闇に慣れた目には、その寝顔がよく見える。
前髪に指で触れると、さらりと心地よい。頬をつついても目を覚ます様子はない。
寝付きが良いのは昔からだ。
身を屈め、口づける。
触れた唇は柔らかく、少しかさついていた。
顔の真ん中がふにゃりとへこむような、不思議な感触だったが心地よかった。
何度も口づけを繰り返すが、ジュナイが目を覚ます気配はない。
起きたらどうしよう?抱いて欲しいと言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
僕が抱く側なら…いや、無理矢理なんて可哀相だし、
たぶんどちらにせよ、僕の心臓が激しい負荷に耐えられないだろう。
…まったく、我が身が恨めしい。
色々と考えた結果、添い寝するという妥協案を見つけた僕は、
布団をめくり、ジュナイの隣に潜り込んだ。…こうして眠るのは何年ぶりだろう。
子供の頃は僕が一人では眠れないとべそをかくと、
ジュナイは一緒に寝てくれた。
朝起きたら、一体どんな反応をするかな。
驚くか、怒るか、飽きれるか…
なんであれ、『兄』の顔をするのだろう。
僕から気持ちを伝えられても「聞かなかった事にする」なんて…
君は本当に酷いやつだ。
あれ以来、僕は
どうしたらジュナイを一番傷付けられるのか
…その事ばかり考えている。
死に際の僕が遺した小さな翅のはばたきが、
ジュナイを激しい嵐に叩き込む事だけを望んでいる。
君の中で『良い弟』としてだけ記憶に残るなんて、耐えられない。
僕からしたら、そんなの二度死ぬのと同じなんだよ。
…ジュナイ、僕は君を許すよ。
君が僕にした仕打ちを許す。
でも僕の事は許さないで欲しい。
身勝手な愛で君を傷つける僕を…
どうか許さず、憎み続けて。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる