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023 古魔道具屋レリックハートの女房①【ジュナイ】
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「ジュナイさんって独身?」
「つきあってる娘とかいるんでしょ?」
店番をしていると、常連のお客さんには大抵こういう事を聞かれる。
どいつもこいつも本当にこの手の話が好きだな。
俺は赤の他人の私生活なんか、まったく興味ないんだが。
「いないよ。俺はエイデンさん一筋だから」
なんて冗談めかして言うと(主に女には)やたら喜ばれるので、
そう答える事にしてる。
どうせ相手も世間話程度で、大した考えがあっての質問じゃない。
真面目に答える義理なんてないからな。
「まぁエイデンさんには、ジュナイさんみたいなしっかり者がいいかもね」
「変な女に引っ掛からないか心配よ」
常連客の奥さん連中には、エイデンさんはどう見えてんだろうな…。
あの人はただのお人好しとは違う。と言うより普通じゃない。
いきなり来た人間を住み込みの店員として雇って、頻繁に無断欠勤しても咎めることもない。
給料も(安いけど)きちんとくれる。お人好しとかそういうレベルの話じゃないだろう。
…とりあえず、レオの件は収まった。
当分はおとなしく店番をしていられそうだが、
また一つ厄介な問題が持ち上がった。
レオと行ったカロン川で、黒ギルドの幹部の一人であるアスラさんと鉢合わせた俺は、
そのまま黒ギルドの事務所まで連れて行かれた。
何事かと思えば、黒ギルド『グラディウス』の長から、
仕事に戻らないかと誘われた。…その事だ。
黒ギルドの仕事はかなり昔からしていたが、正式に盃を交わした訳じゃない。
いわば外注のような形で関わって来たが、今度は話が違う
正式に黒ギルドの一員となって働けという訳だ。
『もちろん、幹部として充分な待遇は用意する。悪い話じゃねえだろ?』
黒ギルド長のヴィクターさんは二代目で、かなり若いが結構な貫禄の持ち主だ。
黒ギルド長直々の話となれば、これは結局俺に拒否権はないって事で、
請けるか死ぬかの話になる。
別に迷ってはいない。筋者稼業なんざ御免だ。
リュウの治療費が必要なくなった今、金にも自分の身の安全にも興味はない。
そうなれば、選ぶ道はひとつだ。
何より、エイデンさんの迷惑にはなりたくない。
縁を切って別の世界で生きるにしろ、恨みを買うのが当たり前の仕事だ。
俺のせいでエイデンさんやリュウに、いつ危害を及ぶとも分からない。
それならやっぱり、断って死ぬのが正解中の正解だろう。
『時間をやるよ。いい返事、期待してるぜ』
ヴィクターさんが今の俺についての情報をどこまで握っているのかは知らないが、
その一言を幸いに、しばらくだんまりを決め込んでいる。
だが、この平穏はそう長くは続かないだろう。
死期を悟った野良猫のように、さっさと姿を消せばいいものを…
それが出来ないのが情けないところだ。
それと言うのも、ラルフ先生が余計な電話を寄越したせいだ。
一月前に性懲りもなく借金絡みのトラブルを起こして、その仲裁をしてやったから
またそういう話かと思えば、あの不良作家は意外な事を言い出した。
『なんかこの前、俺様んちに「エイデンさん」って人が来たけど』
一瞬耳を疑ったが、店に手帳を置き忘れたまま出た事を思い出す。
あれには大した事は書いてないが、ラルフ先生の連絡先は書いていたので、
それを辿ったのだとしたら、有り得ない話じゃない。
『いい人だな、あの人』
滅多に人を褒めないラルフ先生が、珍しく手放しでそう言った。
『あんたの事、色々聞かれたよ。すげぇ心配してたし話しちまったけど、悪く思うなよ!
それとレオと坂口の連絡先も教えたから』
ラルフ先生はしれっと付け加えた。
気が動転してよく憶えてないが、何か適当な事を言ってその電話を切った。
ひどく顔が熱くて、電話でよかったとつくづく思った。
…エイデンさんからしたら、行方不明の従業員のために
そこまでするのは、特別な事じゃないのかも知れないが…。
色々な事を抜きにしても、こんなにも情の篤い
優しい人から離れなければならない事を、
その時初めてつらいと思った。
「つきあってる娘とかいるんでしょ?」
店番をしていると、常連のお客さんには大抵こういう事を聞かれる。
どいつもこいつも本当にこの手の話が好きだな。
俺は赤の他人の私生活なんか、まったく興味ないんだが。
「いないよ。俺はエイデンさん一筋だから」
なんて冗談めかして言うと(主に女には)やたら喜ばれるので、
そう答える事にしてる。
どうせ相手も世間話程度で、大した考えがあっての質問じゃない。
真面目に答える義理なんてないからな。
「まぁエイデンさんには、ジュナイさんみたいなしっかり者がいいかもね」
「変な女に引っ掛からないか心配よ」
常連客の奥さん連中には、エイデンさんはどう見えてんだろうな…。
あの人はただのお人好しとは違う。と言うより普通じゃない。
いきなり来た人間を住み込みの店員として雇って、頻繁に無断欠勤しても咎めることもない。
給料も(安いけど)きちんとくれる。お人好しとかそういうレベルの話じゃないだろう。
…とりあえず、レオの件は収まった。
当分はおとなしく店番をしていられそうだが、
また一つ厄介な問題が持ち上がった。
レオと行ったカロン川で、黒ギルドの幹部の一人であるアスラさんと鉢合わせた俺は、
そのまま黒ギルドの事務所まで連れて行かれた。
何事かと思えば、黒ギルド『グラディウス』の長から、
仕事に戻らないかと誘われた。…その事だ。
黒ギルドの仕事はかなり昔からしていたが、正式に盃を交わした訳じゃない。
いわば外注のような形で関わって来たが、今度は話が違う
正式に黒ギルドの一員となって働けという訳だ。
『もちろん、幹部として充分な待遇は用意する。悪い話じゃねえだろ?』
黒ギルド長のヴィクターさんは二代目で、かなり若いが結構な貫禄の持ち主だ。
黒ギルド長直々の話となれば、これは結局俺に拒否権はないって事で、
請けるか死ぬかの話になる。
別に迷ってはいない。筋者稼業なんざ御免だ。
リュウの治療費が必要なくなった今、金にも自分の身の安全にも興味はない。
そうなれば、選ぶ道はひとつだ。
何より、エイデンさんの迷惑にはなりたくない。
縁を切って別の世界で生きるにしろ、恨みを買うのが当たり前の仕事だ。
俺のせいでエイデンさんやリュウに、いつ危害を及ぶとも分からない。
それならやっぱり、断って死ぬのが正解中の正解だろう。
『時間をやるよ。いい返事、期待してるぜ』
ヴィクターさんが今の俺についての情報をどこまで握っているのかは知らないが、
その一言を幸いに、しばらくだんまりを決め込んでいる。
だが、この平穏はそう長くは続かないだろう。
死期を悟った野良猫のように、さっさと姿を消せばいいものを…
それが出来ないのが情けないところだ。
それと言うのも、ラルフ先生が余計な電話を寄越したせいだ。
一月前に性懲りもなく借金絡みのトラブルを起こして、その仲裁をしてやったから
またそういう話かと思えば、あの不良作家は意外な事を言い出した。
『なんかこの前、俺様んちに「エイデンさん」って人が来たけど』
一瞬耳を疑ったが、店に手帳を置き忘れたまま出た事を思い出す。
あれには大した事は書いてないが、ラルフ先生の連絡先は書いていたので、
それを辿ったのだとしたら、有り得ない話じゃない。
『いい人だな、あの人』
滅多に人を褒めないラルフ先生が、珍しく手放しでそう言った。
『あんたの事、色々聞かれたよ。すげぇ心配してたし話しちまったけど、悪く思うなよ!
それとレオと坂口の連絡先も教えたから』
ラルフ先生はしれっと付け加えた。
気が動転してよく憶えてないが、何か適当な事を言ってその電話を切った。
ひどく顔が熱くて、電話でよかったとつくづく思った。
…エイデンさんからしたら、行方不明の従業員のために
そこまでするのは、特別な事じゃないのかも知れないが…。
色々な事を抜きにしても、こんなにも情の篤い
優しい人から離れなければならない事を、
その時初めてつらいと思った。
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