見切り教育

ラッキーセヴァン

文字の大きさ
41 / 93
9月3日

消化器

しおりを挟む

ぎゃああああああ!!

色々な所から断末魔の様な叫び声が聞こえる。いや、実際本当にそうな人も山ほど居るだろう。

私と原は必死に迫り来る火から逃げ続ける。背中には熱風を感じ、辺り一面に焦げ臭い火の粉や塵が舞っている。

「ねえ!!あとどれくらい逃げれば良いの!?」

「そうだな!椚田図書館まであと500メートルだ!」

「長っ!!どっか別の建物に逃げ込むのは駄目!?」

「いや駄目だ!逃げ込んだとしてもこの火を消し止めるまでは外に出られないから大幅なタイムロスになる!!てか建物に逃げたらそこも燃えるから危険だ!」

そんな事を言われてももう体力の限界!!

「・・・そうだ!!」

「何閃いたの!?」

「火をここにいるみんなで消し止めようぜ!!」

また突拍子も無い事言い始めた!

「無理に決まってんでしょ!?水も無いのにどうやって!!」

「いや、水ならあるぜ!」

原はまだ火が回っていない建物に指を指した。

「あの中には消化器が沢山備えてあるはず!だから今からみんなで取りに行って火を消すんだ!!」

成る程。だが、気がかりな事がある。

「周りの人達が聞いてくれると思う?」

この我を失った中高生には何を話しても無駄だろう。

「やるしかねえだろ!?消化器一個や二個じゃ消し止められる火じゃねえし!」

「本当にやるの!?」

「おう!だってこのままじゃ焼け死ぬぜ!!」

そうか。原がそこまで言うなら呼び掛けてみよう。このまま走り続けていても逃げられる気がしないからな。

私と原は早速、周囲の人に呼び掛け始めた。

「皆さん!!私達と一緒に消化器で火を消してくれませんか!!」

「お前らの力が必要なんだ!!」


「何言ってんのあいつら。」

「頭沸いてんじゃね?」

「やるわけねえだろバーカ!!」

周りの反応は私の思った通りだ。

「誰も聞いてくれねえな。」

「そりゃそうだって。」

「畜生!みんな何で協力してくれねえんだよ!!撃つぞ!!」

「ダメダメダメダメぜーったいダメ!!

・・・どうする?やっぱり走って逃げる?」

「うーん・・・。」

流石の原も諦めかけたその時だった。

「あの、これどうぞ!!」

一人の小学校二年生くらいの少女が駆け寄ってきた。

「私、持って来ました!!」

少女はうんしょと手に持った物を持ち上げて私にくれた。消化器だ。

「これ・・・わざわざ持って来てくれたの!?」

「うん!だってお兄ちゃんとお姉ちゃん、頑張ってたから!」

ああ、なんて心が優しいのだろうか。

「・・・ありがとう。」

「お姉ちゃん泣かないで!・・・あっ!そうだ!これあげる!」

少女は私に何かを手渡した。星型のペンダントだ。

「えへへ、お守りだよ!私、ほかにも探してくるね!」

「えっ!?でも・・・」

「大丈夫!またすぐ戻ってくるからね!」

少女はそのまま私達の元を走って立ち去っていってしまった。

しばらくすると、ある変化が起きた。

「俺たちも、持って来ました。」

振り向くと、中学生くらいの学ランを着た男子の集団がいた。手には消化器が握られてる。

「俺たちもあの子みたいに二人に協力したいなって思って。」

よかった。あの少女のお陰で気持ちが伝わった。

「私たちも持って来ました!」

「僕も!」

「ワシもじゃ!年寄りを見縊らないでおくれ!」

「俺たちも!!」

その後も色々な人が消化器を持って来てくれた。その数はざっと50にも及ぶだろう。

「みんな・・・!!俺らの為にわざわざありがとう!」

「良いって事よ!」

「二人とも凄いねえ。」

「まるでヒーローだね!」

「えへへ・・・」

がしゃああああああん!!

火の熱のせいで窓が割れる音が聞こえた。

「・・・もう時間がねえな。みんな構えて。」

原が真剣な表情で音頭を取った。私達は火の方向に体を向けて消化器を傾ける。


「さん!にー!いち!

いけえええええええええええ!!」

ごしゅううううううううううううう!!

私達は原の合図と共に消化器をぶっ放した。辺り一面が白く曇る。

火は大きくうねったり小さく縮んだりを繰り返した。

「おらあああああああああ!!」

私は消化器に意識を集中させて必死に踏ん張った。

お願い・・・消えて!!

すると一気に肌に感じる温度が冷たくなった。周りからシュッ!と消化器の中身が切れる音が小刻みに聞こえる。

私はゆっくりと前を見た。するとさっきまで見えなかった街の向こう側が見渡せる。

火が消えたのだ。

「「「やっ・・・やったあああああああ!!」」」

私達は手を取り合って喜んだ。

「助かったああああ!!」

「いええええええい!!」

良かった。助かって本当に良かった。

でも私には気になっている事があった。さっきの少女が見当たらない。

あの少女は一体、何処へ行ってしまったのだろう。













しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...