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9月3日
伊集院 華蓮
しおりを挟む彼女、伊集院 華蓮は日本の中で最も大きな財閥、伊集院財閥の一人娘として生まれた。
彼女は幼い頃からずっと勉強に励んでいたから成績が優秀で、学校の通信簿はいつもオール5だった。
「お父様!お母様!私、またオール5でしたわ!」
「おお!流石は華蓮、立派だぞー!」
「今夜はパーティを開かないとね!」
「やったあー!!」
この子はそのまま大きくなっても間違いなく優秀で、周りが羨む様な華々しい人生を送るだろう。誰もがそう思っていた。しかし、彼女が高校3年生になり、大学受験が行われるという大事な時期になってから日本に大きな変化が起こった。
「見切り教育?これってどういう意味ですの・・・?」
そう。あの法律が締結されたのだ。しかし親や周りの大人達は特にこの事に関しては焦らなかった。何故なら彼女は日本国内で最も偏差値が高い高校、優艶高校で一番成績が優秀だったからだ。焦るどころか、国から認められてウイルスまで貰っていたのだから自慢の娘だろう。
「ははは・・・華蓮だったら大丈夫さ!」
「この前の模試だって余裕で70を超えていたでしょう。」
しかし、そんな彼女は人知れず心の中に不安を抱えていた。
「大学・・・落ちたらどうしよう。」
いくら偏差値が70を超えているからって優秀なライバルは探せば幾らでもいる。それから普段出来ている問題が入試でもスラスラと出来る保証は無い。
しかも落ちたらそこで人生終了だ。
そんな彼女には、憂鬱を包み込んでくれるかの様にとても慕ってくれている同級生が学校にいた。
「やっほぉー、伊集院ちん!」
「ふふん、わざわざ違うクラスから来てやったぞ。」
河野と澤田だ。この二人は自分の次に校内で優秀なトップ2とトップ3で、小さい頃から血を吐く様な勉強をしている自分達の力なんか優に超えてしまう伊集院の事を心から尊敬していた。
「あら!お二人方!」
「ねぇねぇ、帰りに椚田図書館で勉強しようよぉー。」
「ふん、賛成だ。もうすぐ大学受験はすぐそまで迫って来ているからな。」
「うふふっ、良いですわね。」
伊集院達三人組は学校の帰りにいつも受験勉強をしに椚田図書館へ行っているのだ。
「さあ!今日も頑張りますわよ!」
「「おーっ!!」」
その日、彼女達はいつも以上にやる気に満ち溢れていたという。
あの後、彼女達はさっき言っていた様に椚田図書館にやって来た。
しかしいつもの様に勉強部屋がある二階の廊下を歩いている時に異変が起こる。
「きゃああああああああ!!」
ドサドサドサッ!!
突然、扉の向こうから図書館内とは思えない程の悲鳴と大きな音が聞こえてきた。
「えっ!?なんですの!?」
「怖いよぉー!」
三人は怖くて中に入れなかった。どうにも出来なくてしばらく途方に暮れていると・・・
「僕が見て来るよ!」
河野が名乗りを上げた。
「流石は男子ぃ!」
「ありがとうございます!よろしく頼みますわ!」
二人は河野に心から感謝した。こいつは女子の声援なんか浴びた事が無さそうだからさぞ嬉しかっただろう。
「えへへ・・・
よし。行くぞ。」
河野が扉のドアノブに手をかけ、そして恐る恐る開いた。
次の瞬間、三人は絶句した。
数え切れない程の中高生がクマだらけの目をカッと見開きながら長机やその下に座ってテキストを奪い合い、揉みくちゃになっていた。その長机にも遠くから見ても分かるくらいに大量にシャーペンで何か沢山書き込まれている。更に見渡すと昨日まで綺麗に並んでいた大きな本棚が全て倒されている。その下からは血が流れ、大きな湖を作っていた。
「きゃあああああああっ!」
「何だよこれ!?」
河野と澤田は驚いて声を上げた。
しかしこの時、伊集院ただ一人だけが、この光景による恐怖より、ある自分の感情の方が上回ってしまった。
「やばい。このままじゃ追い抜かされる。」
この考え方が異常だという事は伊集院自身にも十分過ぎるくらいに分かっていた。でも伊集院は今まであぐらをかいてボケっとしていた人達が急に本気を出してきて焦りを感じてしまったのだ。この時、他にも様々何で感情が頭をよぎった。
「もしも受験に落ちたらどうしよう。」
「校内の順位が落ちてしまう。」
「今まで一度も負けた事が無いのに。」
これらが伊集院の頭を太い管の様になって締め付けた。そして、次の瞬間、彼女は自分でも信じられない事を口にしていたという。
「ねえお二人方、このウイルス、ここで使えないかしら。」
「え!?し、しかしだな伊集院!!」
「ここにいる人達の事、傷付けちゃうのぉ?」
もちろん二人は反対気味だった。しかし・・・
「ふーん・・・このままだとあなた達の順位が落ちますわよ。」
その時、二人はぎくっと肩を震わせた。
「ここをウイルスで占領すれば幾らでも勉強が出来るから順位が落ちる事なんか絶対ありませんわ。」
二人はしばらく黙っていたが、その沈黙を押し切ってようやく河野が口を挟んだ。
「でも・・・流石にやり過ぎじゃないか?」
「おいてめえら!!私に逆らうのかよ!?尊敬してんだろ!?」
突然、伊集院が叫んだ。いつもと明らかに様子が違う。彼女のアイデンティティとも取れる綺麗なお嬢様口調が何処かへ行ってしまった。
「お・・・おい!どうしたんだ?」
「伊集院ちん・・・?落ち着いてよぉ・・・」
「うるせえええええ!!黙れこのダボ共!!」
二人の願いを無視して状況は更に悪化するばかりだ。
そんな中、彼女は二人に向かってこう言い放った。
「いいかてめえら!!耳の穴かっぽじってよーく聞け!!私はなあ、小さい頃から来る日も来る日も必死に勉強に励んで来て・・・それでようやくオール5をキープしてたんだよ!!それなのに見切り教育とかいうチンカス以下の法律なんか急に出してきやがって!!私はなあ・・・
負けたくねえんだよ!!努力を無駄にされたくない!!まだみんなに凄い凄いってチヤホヤされていたい!!地位を落としたくない!!パッと出の今まで勉強して来なかった奴らに追い抜かされて大学受験失敗して死にたくない!!死にたくない死にたくない死にたくなあああああああああああああああい!!!
それはてめえらもよーく分かってるだろお!?トップ2とトップ3さんよおおおおおおおおおお!!」
(これ以上逆らったら殺される。)
そういう余計な感情もあったけれど河野と澤田も同じよう勉強してに励んできた者同士、伊集院と考えている事は同じだった。
「分かった。やろう。」
「賛成するだよぉ。」
「あーっはっはっは!!そうと決まれば早速実行じゃああああああああああ!!」
こうして三人は図書館内にウイルスをばら撒き、私と原が来るまで占領していたというわけだ。
「成る程な・・・」
「だから全部全部私が悪いのです!私が自分の馬鹿みたいな感情に流されたばっかりに!ごめんなさい!」
「うん、もう分かったから・・・」
私は別にもういいよ。さあ、このまま仲直りしよう。
「なあ、一ついいか?」
「えっ?ちょっと原?」
「お前さあ・・・怖いのか?」
・・・え?
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