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9月4日
幸せ
しおりを挟むユリさんは血を流して倒れている原を見て舌打ちする。
「ちいいっ!外した!でも今度こそくたばって貰うわ!!」
そして二度目の引き金を引き、今度は原の額に狙いを定めた。
「死いいいいいねえええええええええ!!」
もう駄目だ・・・!私はギュッと目を閉じた。
「百合!何をしてるんだ!止めなさい!」
バンッと後ろの控え室の扉が開き、一人のおじさんが出てきた。
「し・・・支配人!」
支配人!?
そうだ、さっきユリさん本人の口から聞いた。ユリさんがここに来た時からずっと彼女の面倒を見ている人だ。彼女の両親と話をつけたのもこの人だ。
「止めないで下さい支配人!私は何としてでもお金が欲しいんです。それでここから出て行く!今からでも一から人生をやり直したいんです!」
「でも百合、金が欲しいからって周りの人を巻き込んではいけない。だから原さんの事を離して・・・」
「嫌だ!!だってこうでもしないと私は幸せになれない!!実の親に捨てられて学校にも行けなかった。ましてや生まれてくる事も許されずに」
「百合。」
不意に原が呼び止めた。
「何よ急に!私の事を笑いたいの!?」
「まあ聞けよ!お前、本当の幸せって何か分かるか?」
「本当の幸せ?決まっているでしょう?それは親が居てお金があって、学校にも行けて・・・」
「いいや違う。本当の幸せは・・・自分で決める事なんだ。
金を沢山持っている時に、自分が幸せって思ったら幸せだし、不幸だって思ったら不幸なんだ。戦争で貧しくなってる時に、自分が幸せって思ったら幸せだし、不幸だって思ったら不幸なんだ。
幸せは、法律、宗教、ネット、風潮で決まるものじゃ無い。人から押し付けられるものじゃ無い。
自分がどう思うかが重要なんだ。」
私は原の話を黙って聞いていた。私には全然意味が分からない。
「ふぅーん・・・成る程ね。じゃあ、あなたがそう思うんだったら・・・」
「思うんだったら何?ユリさん。」
「私の事、
この場で抱いて下さらない?」
え・・・ええええっ!?えっ!?何言っちゃってんのこの人!?
「百合!お前一体何を言っているんだ!支配人である俺の前だぞ!」
「ユリ先輩!?悠たまは私が好きなのに!」
「大丈夫。拘束されているし、何より支配人もいるし出来っこ無いわ。必ず仕留めてみせる。」
ユリさんは左手でピストルを持って背中に構え、原の方向に体を向き直した。どうやら原はピストルに気付いていないようだ。
「それは・・・お前にとって・・・幸せか?」
「ええ。私はここに来る汚らしいおじさんにしか触れられた事が無かったし、あなたみたいな男前な方に一度、触れられてみたいんです。」
「へえ・・・じゃあ、こっちおいで?」
ユリさんが原にゆっくりと歩み寄る。そして・・・
「死ね!!」
ユリさんは原に抱き着き、後頭部にピストルを向けた。
ごつんっ!!
「いたっ!!」
「ユリさん!」
原はユリさんに思い切り頭突きした。だがユリさんはピストルを離さない。
バキャッ!
ユリさんは原の顔面にパンチをを入れた。
原はその場に倒れこむ。ユリさんは原に近づいてピストルを眉間に当てた。
「渋とい人・・・今度こそこのまま」
すると原は足でユリさんの腰に縋り付き、自分の体と密着させて・・・
「おらっ!!」
うおお・・・
足を上に振り上げてそのままユリさんと共に空中で回転し、自分が上になる様な形で着地した。
どしんっ!!
ユリさんが背中から叩きつけられた。その衝撃でピストルを手から離してしまった。ピストルは綺麗に磨かれた床をシャシャシャと滑りながらユリさんから離れていく。
す・・・凄い。何かかっこいい!
『チュッ・・・チュ・・・』
ん?これ何の音?えっ?ちょ、まさか。
「うわっ!!」
「んっ・・・んむっ・・んん・・・」
私はそちらに目をやるとユリさんが甘い吐息を漏らしていた。その唇を原が上から唇で塞ぐ。
「う・・・う・・・
うわあああああああああ!!何してくれちゃってんだ原ああああああ!!」
「「「悠様ああああああ!!ああ・・・」」」
さっきまで原を追いかけ回していた若いメイド達がバタバタと気絶していく。
「はぁ・・原さん・・・ちょ・・・止めて・・・」
「え?お前が言ったんだよな?ここ、手塞がってるから脱がせろよ。」
原は自分のそれをユリさんのそこに押し付ける。(止めろや!!)そのあとにニヤリと嫌な笑いを浮かべてからこう言った。
「あとゴム持って無いから生でやるぜ?」
生ってそれ彼女にとってはNGワードじゃ!?
「い・・・嫌!!生は嫌なの!!いやだ!助けて支配人!!支配人!!」
血相を変えて泣き叫んだ。そんな事お構い無しに、原はユリさんの首に吸い付いた。
「いやああああああ!!ごめんなさああああい!!」
ユリさんの泣き声は更に大きくなる。
「や・・・止めろ。百合を・・・
娘を離せええええっ!!」バキッ!!
・・・支配人!!
「イテッ!分かった!もう止めるよ!人の事を無理矢理犯すのは俺の幸せじゃ無いからね!」
支配人に殴られた原はそう言うと足を動かして背中を床に這わせ、ユリさんから退いた。
「百合いいいいいい!!10年以上も百合の気持ちに気付いてやれなくてすまなかった!」
「私も無理言ってごめんなさい!でももういいのよ。私の大切な幸せはもっと身近にあったわ。
学校になんか行けなくてもいい。お金なんか無くてもいい。ずっと一緒に居てくれる?私の家族でいてくれる?
・・・お父さん。」
そして支配人とユリさんは互いに抱き締め合った。
その様子を見ながら私は思った。流石は原。一筋縄ではいかないなと。
・・・こんな事してる場合じゃない、早くあいつを助けないと!
私は手の縄を解こうと必死にもがく。すると縄は案外、するりと解けた。
「こんなのもう止めて!!原の事をもう離してあげて!?イコーリーもあんた達には渡さないから!!」
すると残ったメイド達は原の縄を解き、自由の身にした。
「バカ!!人の事一人助けるのにこんな無茶な事して!!あんた闇野の事好きなんでしょ!?このお人好し!!」
私は原に怒鳴りかかった。すると原は顔をあげた。バッチリと目が合う。
「悪い、でも百合が考え直してくれて良かった。山口、心配かけてごめんな。」
その時、ボッと顔が赤くなり、鼓動が早くなるのを感じた。
「あ・・ああ、なら、良かった!」
私は早急に原の元を走り去った。
もうしばらく原の顔をまともに見る事は出来なさそう。
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