【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

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第49話 本人の自首を促す作戦

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「もしかして、ルロード様は、邪心を見抜くとか?」

「どうして、知っているの? 前にどこかのお屋敷で、主によこしまな心を抱く者に天誅を下したとおっしゃっていたわ。どんな残虐なバツを与えたかは、残酷過ぎて話せないって」

あー。あれか。だんだん広がっていくハゲの呪いか。確かに残酷だな。早く治してあげたらいいのに。庭師なのに、雑草を抜けなくなったらどうするの。こう、雑草一本一本が自分の髪の毛に見えるとか……

「あっ。えーと、なんの魔術使いなんですか?」

彼女は眉を寄せた。

「すべてよ」

話半分にしても、相当の魔術師だ。やっと、世の中に本当に使える魔力持ちが少ないことを理解し始めた私は、セス様に違いないと見当をつけた。

世の中、狭いものだ。
いや、セス様を追ってきたようなものだから、会えて当たり前かもしれないけど。
紅蓮とか……漆黒の、とか。
なんとなくダレた安心感が漂ってきた。セス様が、元気そうで何よりだ。

「ところで、あなたのお名前は?」

「ポーシャ」

「私は有明の星ロザモンドって言うの」

「……どーもー。ロザモンドさん……」

この人、さっきメアリとか呼ばれてなかったっけ。
もはや追求しないが吉とみた。

私は結局、鶏を発注し、メアリ・ロザモンド嬢は大急ぎで鶏を持ってきてくれたけど、そのまま、恋人・紅蓮の懐刀(略して紅蓮)の活躍を嬉々として話し続けた。

仕事はどうした。だんだん気になって来た。

「おーい、メアリ! リブステーキはまだか? あと、ビールのお代わりは?」

督促されるたびに、投げやりに料理を配って歩いては、ルイの話を続けるメアリ・ロザモンド。

「あ、あの手伝いましょうか?」

私はついに言った。

「えっ? いいの?」

メアリ・ロザモンドの視線を追うと、奥の調理場で、びっくりするくらいのしかめ面をした筋肉隆々なコックがサムズアップしていた。

「いいじゃねえか。働いてもらえ」

ええと、私、公爵令嬢と言うか、公爵本人なんですけど。まあ、自分から手伝うって言っちゃったけど。

「皿洗ったり、テーブル拭いたりだ。できるか?」

「……できます。けど」

生活魔法は得意中の得意。こんなところで、否応なく役に立ってしまうとは。ぐう。不本意。


閉店まで引き止められ、遺憾ながら、大活躍してしまったら、巨漢コックが言った。

「女手が足りねえ」

コックは、メアリ・ロザモンドの父だった。
とてもそうは見えないけど。
この親子、全然似ていない。

「うちの娘は色ボケで、使えねえし」

いや、まあ、それはその……

「あんたも恋人を追ってきたクチかい」

「ち、違います」

「じゃ、なんでこんな危ないとこまで来たんだ」

「あの、ええと、祖母を追って?」

あ、しまった。余計おかしいわ。

ただ今、絶賛戦闘中の祖母って、世の中にいなさそう。

「ばあさんか。ばあさんは何しとるんだ」

「戦闘……?」

巨漢のコックは目を丸くした。

「そんなババアいるか」

それが、いるんですよね。もう、私だってお手上げで。陛下もヘラヘラしてたし。
漆黒の闇とかなんとかのルロードさんも、顎で使われてましたよ?

「隠しても仕方ないわよ。ゲロっちゃいなさいよ。私、恋バナだーい好き」

「雇ってやるのはやぶさかでないが、本当のことくらい言っておけ。でないと手伝ってやれるものも、手伝ってやれん」

お説ごもっともなのですが、誤解が誤解を積み上げてるみたいで、どこから手を付けたらいいものやら、とんと検討もつかない。

雇われたくないし、困ってるっちゃー困ってるけど、家に帰れば済む話。
そもそも、旅に旅を重ねてきた顔に見えますか?この顔が?

「気の毒に。目に光がない。苦労してきたのであろう」

保護魔法を忘れてた。

そういや、顔がボケて見えるって言ってたな。

小さな親切、大きなお世話を、地で行く経過を辿っている。

「私たち、この町では顔がきくのよ。恋人探し、手伝ってあげられるわ!」

ん?

恋人探し=人探し

「実は……」

連絡したい人の名前を言えばいいんだよね? もう、この際。

「私には、婚約者がいます」

「まああ! 思った通りだわ!」

目を輝かせ、興奮するメアリ・ロザモンド嬢。

なんなの?この勘違いのオンパレード。思った通りなの?

「で、誰だね?」

「ルロード様です」

多分。

「ルロードという名は珍しいがいなくはない。どのルロードかな?」

うちの執事長(仮)を無理矢理やらせてる大魔術師のルロード(本名:セス様ことセバスチャン・マルク様)ですが。

「ルロード・セバスチャン・マルク様です」

ふんふんと二人はうなずいた。

「残念ながら、知り合いにそう言う名前の人はいないが、これから気を付けておこう」

「そうね。私たちは、元からのレイビックの住人なので、顔は広いのだけど、今は大勢の人が遠くの土地からも来ていて。でも、あなたのルロードも遠くからの人なのね」

メアリ・ロザモンド嬢は気の毒そうに言う。

「会えるといいわね」

まあ、遠くからの人かもしれないけど、どうせセス様も絨毯移動組だろう。
距離感もマヒしているに違いない。
遠くから苦労して旅してきたとか言う感覚なんかあるわけない。

そして、メアリ・ロザモンド嬢の反応から見て、漆黒のルロード様は正式な自分の名前を使っていないと見た。
王都を遠く離れて、知っている人がいないのをいいことに、好き勝手始めているに違いない。趣味炸裂だ。

そこへ婚約者の私が来ましたよと。

「もしよかったらルイ様にも、聞いていただけないでしょうか? ポーシャと言う娘が、婚約者のルロード・セバスチャン・マルク様を探しにレイビックに来ていると」

紅蓮の懐刀のことだ。漆黒の闇の帝王ルロード様に心酔してるに決まっている。なにしろ、訳の分からないセス様好みの二つ名を自ら名乗ってるくらいだ。

そんなヤツにとって、婚約者のあとを追って来たかわいそうな娘の話なんか好物だろう。ボスにも話すに違いない。助けてやって欲しいとかなんとか。

その時のセス様の顔が見物みものだわと、抑えた笑いが漏れた。

せっかく闇の帝王を気取って、思う存分、魔力を振るって人外の存在とかえらぶっているところへ、興醒め以外の何者でもない、平凡ヅラの婚約者の登場だ。
うっぷっぷ。

果報は寝て待て。

自分で動き回るより、ルイ君に頑張ってもらおう。
少なくとも数日内に、セス様とは連絡が取れるだろう。

まあ、その間、この店の手伝いも仕方ないか。

「よろしくお願いします」

私は恋バナ好きで仕事ちゃらんぽらんなメアリ・ロザモンドと、くわっと腕を組んだ巨漢コックに向かって頭を下げた。
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