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第43話 作戦会議の続き
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作戦会議会場では、マルゴットが渋い表情で伯爵家の状況の解説を始めた。
「アレクサンドラ様は、修道院推しなのでございます」
「修道院推し?」
「つまり、フィオナ様を修道院に入れてしまおうと画策されております」
「はあ?」
「なんでまた?」
コテージの居間にはマリアまで参加していた。
「あの、それは、最初、私が社交界デビューするのをためらっていて……」
フィオナが説明を始めた。
「それは致し方ございません。お金がないので、ドレスは義姉のアレクサンドラ様のお古を着ることになっていましたから」
「社交界デビューに?!」
クリスチンが金切り声をあげた。
「何年前のドレスなの! そんなの着て行ったら、頭がおかしいと思われるわ! そんなにお金がないの?」
「貧乏伯爵家ですから」
マルゴットが言い切った。
「でも、ジョゼフィン大伯母様が社交界にデビューして、いい男と結婚しなさいって遺産を残してくれたのです」
フィオナが言った。
「まあ、いい伯母さんじゃない!」
「アレクサンドラは、今頃になって修道院の話を思い出したのだと思うの……」
「そうです。結婚したら夫が黙っていません。夫だって、妻の財産をあてにするに決まっています。アレクサンドラ様は、フィオナ様の財産に手出しできなくなります。それくらいなら、結婚させるより、本人がもともと希望していた修道院に入れるようにと、伯爵と夫のアンドルー様を説得していております」
「許せないわ!」
突然、クリスチンが叫び始めた。
「ええ。許せません。それに、なぜ遺産の話を黙っていたのかと散々怒鳴られました。ですが、私ごときが知りうる内容ではございません。私は使用人にすぎません」
マリアがマルゴットにこっそりと同情の目を向けた。
「それはそうだわ。フィオナ自身、知らなかった可能性があるわ」
「知っていても知らなくても、とにかく、今となってはフィオナ様のご結婚はアレクサンドラ様が大反対でございます」
「どうして? 十七歳の娘を社交界デビューさせておいて、良縁が決まりそうなのに撤回するってわけがわからないわ。許されないと思うわよ?」
「本人の希望だからというのが言い分でございます。それと、地味で取り柄のない娘でデビューしても誰も踊ろうとすらしてくれなかった、それをお金目当ての殿方に無理に嫁がせるのは今後の不幸が目に見えるようだとおっしゃっておられます」
さすがにこの言い分にはクリスチンもマリアもキレた。そしてあきれ返った。
「地味で取り柄がないって、どこの社交界の評価なの? それは?」
「ジャック様をバカにしているのですか?」
「むしろ、アレクサンドラ様はフィオナ様の評判をよく知らないんじゃないかと思います。ご自分のご友人や親せきという狭い範囲しかお付き合いがないので。子どもさんがまだ小さいので、外へ出られること自体が稀ですし……ですからそれで通るとお考えのようです」
「通るとは?」
「世間が納得する……こんな事を仕出かしても、誰からも悪く思われないと思っているのです。お茶会や晩餐会などに出入りしていれば、婚約した娘を財産欲しさに修道院に送り込み、財産を奪おうものなら、非難ごうごうだとわかるはずです。伯爵家の評判はがた落ちで、いたたまれなくなります。ですが、何かの会に出ることも稀ですし、元々あまり評判や噂に疎い方です。頑固でもあります」
「何言ってるの。フィオナ本人のことを忘れているわ。フィオナが嫌がるに決まってるでしょう。まさかフィオナが言うことを聞くとでも思っているのかしら」
その通り。アレキサンドラは、フィオナが彼女の言うことを聞くと信じているのだ。
それはアレクサンドラが嫁いできた時からずっとそうだったからだ。
ダーリントン家の方針が全てアレクサンドラの意向で決まるようになったのだ。
アレクサンドラはそれで当然だと思っている。
だから、今回の話も、フィオナが抵抗するかも知れないが、最終的にはアレクサンドラの言うことを聞くだろうと思っているのだ。
今回、フィオナは厚かましくも、アレクサンドラの意に反して遺産を相続した。
本来なら、その遺産は、伯爵家の子どもたちや次期当主に分け与えられるべきお金だと正義感に燃えているらしい。
「いたいけな子どもたちに、なんという仕打ちをとおっしゃっておられます。子どもの未来を潰すとは、人の心がわからない愚かな娘だと……」
「馬鹿はそっちよ。その仕打ちとやらをしたのは、フィオナじゃないわ。大伯母様よ。それにいままでだって、遺産なしでやってきたのでしょ? 仕打ちも何もないわよ」
「帰ってきたら、修道院へ直ぐ送り込むと準備をされています」
フィオナとクリスチンとマリアは、顔を見合わせた。
「それ、ジャックとグレンフェル侯爵は知っているのかしら?」
懐疑的にクリスチンが尋ねた。
「知らないと思います。アンドルー様は結婚に賛成ですから。ただ、アンドルー様は、この間グレンフェル侯爵の訪問を断っておられました」
フィオナの顔色が変わった。
「ジャック様とのご結婚が決まったので、ほかの方と会わせるわけにはいかないと……結構失礼な言い分でした」
「アンドルーはジャックと結婚させるつもりなの? 妻のアレクサンドラと意見が違うようだけど」
クリスチンが尋ねた。
「アレクサンドラ様はどうやらアンドルー様には、フィオナ様を修道院に送る計画は黙っておられるようです」
皆が黙った。混とんとしている。
「それと、これはわたくしの推測ですが、ジャック様からアンドルー様へ、なにがしかお金が渡っているのではないかと思われます」
「ジャック……そんな姑息な真似を……人身売買みたいなことを」
クリスチンが青筋を立て始めた。やばい。
「クリスチン様。人身売買ではございません。単なる家同士の援助でございましょう。よくあることです。それに、これはダーリントン家の問題で、クリスチン様はロックフィールド様とのご結婚をまずお考えになりませんと……」
マリアが小さな声で哀願を始めた。正義感にあふれ、面白そうなことにやたら敏感なクリスチンがアップし始めたのだ。マークが見たら、目を覆うだろう。結婚式は無事にできるだろうか。
「ダーリントン伯爵家を焼き討ちにするわよ!」
クリスチンが宣言した。
「アレクサンドラ様は、修道院推しなのでございます」
「修道院推し?」
「つまり、フィオナ様を修道院に入れてしまおうと画策されております」
「はあ?」
「なんでまた?」
コテージの居間にはマリアまで参加していた。
「あの、それは、最初、私が社交界デビューするのをためらっていて……」
フィオナが説明を始めた。
「それは致し方ございません。お金がないので、ドレスは義姉のアレクサンドラ様のお古を着ることになっていましたから」
「社交界デビューに?!」
クリスチンが金切り声をあげた。
「何年前のドレスなの! そんなの着て行ったら、頭がおかしいと思われるわ! そんなにお金がないの?」
「貧乏伯爵家ですから」
マルゴットが言い切った。
「でも、ジョゼフィン大伯母様が社交界にデビューして、いい男と結婚しなさいって遺産を残してくれたのです」
フィオナが言った。
「まあ、いい伯母さんじゃない!」
「アレクサンドラは、今頃になって修道院の話を思い出したのだと思うの……」
「そうです。結婚したら夫が黙っていません。夫だって、妻の財産をあてにするに決まっています。アレクサンドラ様は、フィオナ様の財産に手出しできなくなります。それくらいなら、結婚させるより、本人がもともと希望していた修道院に入れるようにと、伯爵と夫のアンドルー様を説得していております」
「許せないわ!」
突然、クリスチンが叫び始めた。
「ええ。許せません。それに、なぜ遺産の話を黙っていたのかと散々怒鳴られました。ですが、私ごときが知りうる内容ではございません。私は使用人にすぎません」
マリアがマルゴットにこっそりと同情の目を向けた。
「それはそうだわ。フィオナ自身、知らなかった可能性があるわ」
「知っていても知らなくても、とにかく、今となってはフィオナ様のご結婚はアレクサンドラ様が大反対でございます」
「どうして? 十七歳の娘を社交界デビューさせておいて、良縁が決まりそうなのに撤回するってわけがわからないわ。許されないと思うわよ?」
「本人の希望だからというのが言い分でございます。それと、地味で取り柄のない娘でデビューしても誰も踊ろうとすらしてくれなかった、それをお金目当ての殿方に無理に嫁がせるのは今後の不幸が目に見えるようだとおっしゃっておられます」
さすがにこの言い分にはクリスチンもマリアもキレた。そしてあきれ返った。
「地味で取り柄がないって、どこの社交界の評価なの? それは?」
「ジャック様をバカにしているのですか?」
「むしろ、アレクサンドラ様はフィオナ様の評判をよく知らないんじゃないかと思います。ご自分のご友人や親せきという狭い範囲しかお付き合いがないので。子どもさんがまだ小さいので、外へ出られること自体が稀ですし……ですからそれで通るとお考えのようです」
「通るとは?」
「世間が納得する……こんな事を仕出かしても、誰からも悪く思われないと思っているのです。お茶会や晩餐会などに出入りしていれば、婚約した娘を財産欲しさに修道院に送り込み、財産を奪おうものなら、非難ごうごうだとわかるはずです。伯爵家の評判はがた落ちで、いたたまれなくなります。ですが、何かの会に出ることも稀ですし、元々あまり評判や噂に疎い方です。頑固でもあります」
「何言ってるの。フィオナ本人のことを忘れているわ。フィオナが嫌がるに決まってるでしょう。まさかフィオナが言うことを聞くとでも思っているのかしら」
その通り。アレキサンドラは、フィオナが彼女の言うことを聞くと信じているのだ。
それはアレクサンドラが嫁いできた時からずっとそうだったからだ。
ダーリントン家の方針が全てアレクサンドラの意向で決まるようになったのだ。
アレクサンドラはそれで当然だと思っている。
だから、今回の話も、フィオナが抵抗するかも知れないが、最終的にはアレクサンドラの言うことを聞くだろうと思っているのだ。
今回、フィオナは厚かましくも、アレクサンドラの意に反して遺産を相続した。
本来なら、その遺産は、伯爵家の子どもたちや次期当主に分け与えられるべきお金だと正義感に燃えているらしい。
「いたいけな子どもたちに、なんという仕打ちをとおっしゃっておられます。子どもの未来を潰すとは、人の心がわからない愚かな娘だと……」
「馬鹿はそっちよ。その仕打ちとやらをしたのは、フィオナじゃないわ。大伯母様よ。それにいままでだって、遺産なしでやってきたのでしょ? 仕打ちも何もないわよ」
「帰ってきたら、修道院へ直ぐ送り込むと準備をされています」
フィオナとクリスチンとマリアは、顔を見合わせた。
「それ、ジャックとグレンフェル侯爵は知っているのかしら?」
懐疑的にクリスチンが尋ねた。
「知らないと思います。アンドルー様は結婚に賛成ですから。ただ、アンドルー様は、この間グレンフェル侯爵の訪問を断っておられました」
フィオナの顔色が変わった。
「ジャック様とのご結婚が決まったので、ほかの方と会わせるわけにはいかないと……結構失礼な言い分でした」
「アンドルーはジャックと結婚させるつもりなの? 妻のアレクサンドラと意見が違うようだけど」
クリスチンが尋ねた。
「アレクサンドラ様はどうやらアンドルー様には、フィオナ様を修道院に送る計画は黙っておられるようです」
皆が黙った。混とんとしている。
「それと、これはわたくしの推測ですが、ジャック様からアンドルー様へ、なにがしかお金が渡っているのではないかと思われます」
「ジャック……そんな姑息な真似を……人身売買みたいなことを」
クリスチンが青筋を立て始めた。やばい。
「クリスチン様。人身売買ではございません。単なる家同士の援助でございましょう。よくあることです。それに、これはダーリントン家の問題で、クリスチン様はロックフィールド様とのご結婚をまずお考えになりませんと……」
マリアが小さな声で哀願を始めた。正義感にあふれ、面白そうなことにやたら敏感なクリスチンがアップし始めたのだ。マークが見たら、目を覆うだろう。結婚式は無事にできるだろうか。
「ダーリントン伯爵家を焼き討ちにするわよ!」
クリスチンが宣言した。
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