16 / 17
第16話 最初からあったけど気がつかなかったモノ
しおりを挟む
金輪際、関わりたくなかったのは、あの座敷童の方であって、俺のことではなかった。
そりゃそうだ。
俺は割とイケメンだ。別に不満はないはずだ。
だが、公式初デートで、メガネを取って出現した宇津木さんに、俺は目を剥いた。
座敷童に似ている……じゃなくて、宇津木さん、美人。
「美人に決まってるでしょう? 今まで何見てたんですか?」
俺もさすがに首を傾げた。
俺、今まで何を見てたんだろう。
「……メガネかな?」
いや、なんとなく美人だと感じていたんだと思う。
「クソ鈍感な」
「いや、あの、宇津木さんの美貌ではなく、中身に惚れたんです、俺は」
ツンとすると、細くて高い鼻と上品な口元が目につく。
こっちを向くと、目元の美しさに気がついた。
パーツ一つ一つを目で追うと、宇津木さんが頬を染めた。
ピンクの頬。
反則である。
あざとすぎる。
なんか感じは悪くないとか、まあいいんじゃない?とか、とにかく悪感情にならなかった理由は、これか……
美人、恐るべし。ナスを打ちのめすとは……
なんでメガネなんか掛けていたのかと言えば、
「目立ち過ぎるから」
と、おっしゃる。
まあ、どうでもいいけどね。
妙なご縁かもしれないけど、俺は三十歳をめでたく彼女付きで迎え、そして結婚になだれ込むつもりだった。
他の誰にも渡さないぜ。
うん。今では、本気でそう思っている。
仕方ない。認めよう。宇津木さん好きだ。
「蓮って、言うんですけど」
つまり、名前呼びしろと言いたいんだな。よろしい。ちょっと交換条件があるけどな。
「仁って呼んでくれる?」
俺は、ニンマリした。そして、宇津木さんのあごを指でつついた。
その後、職場のビルの一階のロビーで、三宅に会った時、俺はいかにも当たり前みたいな調子で、結婚すると伝えた。
「もう、そんな歳だしな。そろそろ考えなきゃと思ってさ」
なんでもなさげに、俺は言い切った。
「へえ……」
三宅は感嘆したように、俺を見つめた。
「すげぇな、お前。あんな会話でお前が嫌われないってのが、不思議だったけど、結婚にまで持ち込むだなんて」
それは宇津木さん、いや蓮ちゃんの返事を知らないからだ。俺より酷い。
「それに俺がいくら言っても、責任負うのが大嫌い、出世には興味がないって言い切ってたのに、随分な転身ぶりだな? 覚悟はいいんだな?」
覚悟?
確かに結婚は責任重大かも。
でも、人口の何割か、かなりの人数がやってることだ。
そこまでの覚悟はいらねーだろ。
出世は関係ないし。
まあ、子どもでも出来たら出費も多くなるだろうから、仕事も頑張らなくちゃいけなくなるかも知れないが。今みたいな手抜きはダメかもな。
「将来は社長か。すげーな、真壁」
は?
社長?
「社長?」
俺は三宅のセリフをそのまま繰り返した。三宅は意味ありげにうなずいた。
「そう。社長」
三宅は、吹き抜けのビルのエントランスの壁に取り付けられている、FKビルの入居企業一覧を指した。
「最上階」
スチール製のネームプレートが入っていた。結構な一流企業ばかりだ。
まあ、俺の会社もその中に含まれちゃいるが。
最上階は、ローマ字で載っていた。
読みづらい。
UTSUGI Corporation
ウツギ コーポレーション
うつぎ 株式会社……?
宇津木?
「宇津木さん?」
三宅がまじめくさってうなずいた。
「オーナー社長の令嬢だが」
「令嬢?」
俺の大声は吹き抜けのエントランス中に響き渡った。
三宅があわてて俺の口を塞いで、外へ連れ出した。
「知らなかったのかよ?」
あまりのショックに俺はコクコクと首を上下に振るしかなかった。
「知ってんじゃなかったのかよ。大物喰いに行くなあって思ってたけど」
今度は左右に首を振った。
知らなかった。
まったく知らなかった。
三宅がちょっと面白そうに笑った。
「え? 結婚するって? 逆玉もいいとこだな」
俺は本気で心臓が喉元から飛び出そうだった。
そんなつもりじゃなかった。
そこらで出会った、ちょっとばかり美人だけどおそろしく口の悪い事務員と、あの田舎の家の縁側みたいに、目立たないけど平凡な幸せを紡ぐつもりだったのだ。
「むっちゃ目立ってましたけど?」
何言ってるんだと、三宅が言った。
「え?」
「だって、あの宇津木さんを、昼食デートに持ち込んだ男がいるって、噂になってたぞ?」
「え!」
そんなつもりじゃ……と言いかけたが、とりあえず三宅の話を聞くことにした。
「公園でも話しこんでいたし。まあ、お前は見た目だけはいいからな。背も高いしな」
「宇津木さん、そんなこと考えてないと思うけど」
いや、わからん。なんで結婚を了承してくれたんだろう。
「まー、がんばれよ? 一人娘だしな」
「ええっ?」
俺はそのあと三日間、宇津木さんに連絡をしなかった。ショックのあまり。
そりゃそうだ。
俺は割とイケメンだ。別に不満はないはずだ。
だが、公式初デートで、メガネを取って出現した宇津木さんに、俺は目を剥いた。
座敷童に似ている……じゃなくて、宇津木さん、美人。
「美人に決まってるでしょう? 今まで何見てたんですか?」
俺もさすがに首を傾げた。
俺、今まで何を見てたんだろう。
「……メガネかな?」
いや、なんとなく美人だと感じていたんだと思う。
「クソ鈍感な」
「いや、あの、宇津木さんの美貌ではなく、中身に惚れたんです、俺は」
ツンとすると、細くて高い鼻と上品な口元が目につく。
こっちを向くと、目元の美しさに気がついた。
パーツ一つ一つを目で追うと、宇津木さんが頬を染めた。
ピンクの頬。
反則である。
あざとすぎる。
なんか感じは悪くないとか、まあいいんじゃない?とか、とにかく悪感情にならなかった理由は、これか……
美人、恐るべし。ナスを打ちのめすとは……
なんでメガネなんか掛けていたのかと言えば、
「目立ち過ぎるから」
と、おっしゃる。
まあ、どうでもいいけどね。
妙なご縁かもしれないけど、俺は三十歳をめでたく彼女付きで迎え、そして結婚になだれ込むつもりだった。
他の誰にも渡さないぜ。
うん。今では、本気でそう思っている。
仕方ない。認めよう。宇津木さん好きだ。
「蓮って、言うんですけど」
つまり、名前呼びしろと言いたいんだな。よろしい。ちょっと交換条件があるけどな。
「仁って呼んでくれる?」
俺は、ニンマリした。そして、宇津木さんのあごを指でつついた。
その後、職場のビルの一階のロビーで、三宅に会った時、俺はいかにも当たり前みたいな調子で、結婚すると伝えた。
「もう、そんな歳だしな。そろそろ考えなきゃと思ってさ」
なんでもなさげに、俺は言い切った。
「へえ……」
三宅は感嘆したように、俺を見つめた。
「すげぇな、お前。あんな会話でお前が嫌われないってのが、不思議だったけど、結婚にまで持ち込むだなんて」
それは宇津木さん、いや蓮ちゃんの返事を知らないからだ。俺より酷い。
「それに俺がいくら言っても、責任負うのが大嫌い、出世には興味がないって言い切ってたのに、随分な転身ぶりだな? 覚悟はいいんだな?」
覚悟?
確かに結婚は責任重大かも。
でも、人口の何割か、かなりの人数がやってることだ。
そこまでの覚悟はいらねーだろ。
出世は関係ないし。
まあ、子どもでも出来たら出費も多くなるだろうから、仕事も頑張らなくちゃいけなくなるかも知れないが。今みたいな手抜きはダメかもな。
「将来は社長か。すげーな、真壁」
は?
社長?
「社長?」
俺は三宅のセリフをそのまま繰り返した。三宅は意味ありげにうなずいた。
「そう。社長」
三宅は、吹き抜けのビルのエントランスの壁に取り付けられている、FKビルの入居企業一覧を指した。
「最上階」
スチール製のネームプレートが入っていた。結構な一流企業ばかりだ。
まあ、俺の会社もその中に含まれちゃいるが。
最上階は、ローマ字で載っていた。
読みづらい。
UTSUGI Corporation
ウツギ コーポレーション
うつぎ 株式会社……?
宇津木?
「宇津木さん?」
三宅がまじめくさってうなずいた。
「オーナー社長の令嬢だが」
「令嬢?」
俺の大声は吹き抜けのエントランス中に響き渡った。
三宅があわてて俺の口を塞いで、外へ連れ出した。
「知らなかったのかよ?」
あまりのショックに俺はコクコクと首を上下に振るしかなかった。
「知ってんじゃなかったのかよ。大物喰いに行くなあって思ってたけど」
今度は左右に首を振った。
知らなかった。
まったく知らなかった。
三宅がちょっと面白そうに笑った。
「え? 結婚するって? 逆玉もいいとこだな」
俺は本気で心臓が喉元から飛び出そうだった。
そんなつもりじゃなかった。
そこらで出会った、ちょっとばかり美人だけどおそろしく口の悪い事務員と、あの田舎の家の縁側みたいに、目立たないけど平凡な幸せを紡ぐつもりだったのだ。
「むっちゃ目立ってましたけど?」
何言ってるんだと、三宅が言った。
「え?」
「だって、あの宇津木さんを、昼食デートに持ち込んだ男がいるって、噂になってたぞ?」
「え!」
そんなつもりじゃ……と言いかけたが、とりあえず三宅の話を聞くことにした。
「公園でも話しこんでいたし。まあ、お前は見た目だけはいいからな。背も高いしな」
「宇津木さん、そんなこと考えてないと思うけど」
いや、わからん。なんで結婚を了承してくれたんだろう。
「まー、がんばれよ? 一人娘だしな」
「ええっ?」
俺はそのあと三日間、宇津木さんに連絡をしなかった。ショックのあまり。
0
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました
藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」
リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。
「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」
そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……?
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる