【完結】不本意ながら、結婚することになりまして

buchi

文字の大きさ
15 / 17

第15話 結婚を迫ってみる

しおりを挟む
俺は呆気に取られた。

だって違う。

いや、話の筋は通っている。

そうだ。

宇津木さんが俺を悪くないと思っているなら、それで全部話は済みだ。何も話すことはない。

でも……俺の気は済まない。

なんで?

「それより、真壁さん」

宇津木さんは情けなさそうに言い出した。

「これ」

そう言うと、目の前の畑を指した。

「どうするんですか?」

「えっ?」


ナス畑。

それは見るも無惨だった。

「水やり、どうしたんですか?」


俺は畑を見た。

枯れている。

「あ……」

ナスを忘れてた。ナスを。

「真壁さんにナスは無理ですよ」

横で、宇津木さんが薄ら笑いしていた。ムカつく。

「こんなに遠いのに家庭菜園だなんて。プランターか、やっぱスーパーでしょう」

俺は気がついた。


なんでこんなことになったかってことだ。

先週、ナスの水やりを忘れたせいだ。

何で忘れたかって言うと……それは、あの事件のせいじゃない。

「宇津木さん」

振り返った。宇津木さんはまだ薄ら笑いを浮かべていた。

うん。

これでこそ、宇津木さんだ。

ケチで嫌味で、口が立って、いつでも自分が正しいと主張してやまない。俺のことなんか、気にもしてませんっていつも言う。

だけどな、俺は知ってる。

あんた、俺があの座敷童に酷い目に遭わされることを心配して、ついてきてくれた。

断ることだって出来たんだ。

あと、も一つ、わかってることがある。

俺だ。

そうだよ。俺だって、なんだかんだ言って、無理してあんたを誘った。

大好きな、秘密のこの庭へ連れてきたがった。

嫌われてると思うと、頭がいっぱいになって……ナスを忘れた。


この世の中に、ナスより大事なものがあるだなんて。

「帰りましょう」

いやダメだ。

「宇津木さん」

俺は声をかけた。ここがいい。この場所で言わなくちゃ。

「俺とつきあいませんか?」

宇津木さんはかなりビックリしたらしかった。
しかし、案の定、薄ら笑いが深まった。

「え。だって付き合う理由がないし」

「理由ならありますよ」

冷然と俺は答えた。

「ナスを枯らしたのは宇津木さんのせいですからね」

「なんで?」

「ナスより宇津木さんの方が重要になってしまったからです」

早口になってしまった。恥ずかしいな。

「あと、もっと重要なことはですね」

俺は宇津木さんに近づいた。

「うんって、言わない限り、帰れないことですよ」

宇津木さんはギクリとした。

俺は宇津木さんの手を握った。

肉体言語だ。

「付き合うのを了承しない限り、夜が明けるまでここにいますよ」

「げ?」

反対側の手も取った。

「うんと言うまで、ずっと」

うん。夕闇が広がり、月が出て、星しか見えない夜になるまで。

そんな夜中にやることったら、決まってるだろう。

「警察を呼ぶわよ……」

俺はしたり顔で言い返した。

「圏外です」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました

藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」  リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。 「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」  そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……? ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...