128 / 185
サジシーム
第128話 ベルブルグに偵察に行く
しおりを挟む
「ああ、久しぶり。ロッド」
ドルマはびっくりした。
「もう、ここには来ないと思ってたよ。レイビック伯に仕えてるって聞いたよ」
「ねえ、ドルマ、俺のことはどれくらい知ってる?」
「どれくらいって……。だって、すごい力持ちだってことくらいは知っているけど。結構な剣の使い手だとも聞いたよ。知らなかったけどね。もし、本当にレイビック伯のところで働いているんだったら、もうここには縁がないと思ったよ」
「用心棒の仕事のこと?」
「そう。まあ、もともと、あんたが用心棒やってる意味が分からなかったけどね。修道士だって言ってたくらいだから」
ロドリックは黙った。
確かにその通りだった。
「それで、今日はどうしてここに来たの?」
ロドリックは空いている椅子にどっかり腰を掛け、途端に椅子がミシミシ言い出したので慌てて立ち上がった。
「どうも、俺は重すぎるらしいな」
ドルマが急に笑い出した。
「そうだよ。そこの箱の上にお座んなさいよ。一番似合いよ。でないと、イスやソファはみんな潰れちまう」
助言に従って、ロドリックは慎重に頑丈そうな箱の上に恐る恐る腰を掛けた。今度は大丈夫だった。
「最近、ハブファン殿はどうしてる?」
「なんだ。そんなことか」
ドルマは急ににっこりした。
だが、すぐに真剣な顔になった。
「そうねえ。きっと何か大変なことがあったのだと思うわ。だって、全然、ここには来ないのよ。来る暇がないみたい」
「そうなんだ……何があったんだろう」
「わかるわけないじゃない」
ドルマは肩をすくめた。
「筋肉旋風の店長を紹介するから、彼に聞いてみたら? 毎晩、ハブファンの恋人が遊びに来てるわ。何か聞いているかもしれない」
「いやだよ。それにレイビック伯のところににいるのがばれたら、どうしたらいいんだ」
「筋肉旋風の店長は、それは知らないわよ」
「なんで?」
「だって、ロッドのことをよく知ってるのは、私だけだもん」
ドルマはにっこり笑って見せた。
「あんたのことは内緒よ。私だけが知っているのよ」
突然、ロドリックはドルマを理解した。理解したのじゃなくて、傾向と対策が読めた。
人間、理解ができなくても(ドルマの性癖のことだ)、計算の結果、正しい結論に達することがある。
絶対にドルマは彼のことを黙っている。ドルマは、ロドリックを裏切らない。
ロドリックは、いつもの半裸の制服に着替えることにした。
フリースラントじゃないが、彼だって、こんな格好は好きじゃなかったが、やむを得なかった。
「じゃあ、筋肉旋風の店長に知らせて来るわね」
知らせるって何を? ロドリックは不安になったが、筋肉旋風の店長は文字通り、疾風のように走ってきた。
実は噂には聞いていたが、ロドリックが筋肉旋風の店長を見るのは初めてだった。筋肉旋風の店長は、ロドリックに見つからないように彼を鑑賞していたからだ。
店長は小男だったが、もりもりに筋肉をつけた男だった。
ロドリックの筋肉は、実用である。力の割には、(相対的に)しょぼく見える。それでも、見事に均整の取れた芸術品のような体だった。
店長は感激のあまり、涙を流さんばかりだった。くるくるとロドリックの周りをまわると、心ゆくまで鑑賞し始めた。
「触ってもいい?」
「帰れ!」
ロドリックは思わず怒鳴った。
「さわんな」
「ちょっと、ちょっと、ロッド」(と、ドルマが言い)
「ごめんごめん!」(と、筋肉旋風の店長が心から謝った)
「さわんな。コロスぞ」
ロドリックは、筋肉旋風の店長の腕を汚そうにつまんだ。
「骨、つぶすぞ」
「止めて止めて!」
「ロッド! 止めなさい。あんたのバカ力は知ってっから」
掴まれたところををふーふーしながら、筋肉旋風の店長は、なぜかとてもうれしそうだった。
「すごい! すごい力! すばらしい」
ロドリックは不機嫌そうだった。こんなバカげた真似で、情報収集できるのか?
しかし、彼は一晩だけと言う約束で、しぶしぶ筋肉旋風の用心棒として店長の後をついて歩いた。
「じゃあ、あそこ。ううん、こっちに……あ、いいわ。あそこでいい」
こっちと言うのは店の入り口の目立つ場所で、あそこと言うのは、奥の方だった。
入口の目立つ場所を指した途端、ロドリックの目つきが凶暴になったので、言を翻したのだった。
「言っとくけど、用心棒だからな? 客の相手なんかさせたら命はないと思えよ?」
「も、もちろん! もちろんよ!」
しかし、やがて日が暮れて、客が三々五々入ってくると、いくらロドリックが半分隠れるようにしていても、客の視線が次々に彼の体を這い始めた。
と言うのは、店長が事あるたびに、ロドリックに見惚れたような視線を送るので、何があるのだろうと、客がみな店長の視線を追うからだった。そして、ロドリックを発見すると、皆一様にその見事な肉体に釘付けになり、一斉に客同士でひそひそ話を始めるのだった。
そして、その次には、必ず店長が呼ばれ、彼らは何かひそひそと話し合っていた。
「何を話してるんだか、知らないが……」
気分が悪いわ……とロドリックは、内心思った。そして、これでは何の情報収集にもならないと後悔した。
単に、さらし者になっただけではないか。
だが、ついに、待っていた瞬間が来た。
ハブファンの愛人と呼ばれている男が来たのだった。
ロドリックは立っているだけでよかった。
彼は、その人物の声を聞きさえすれば、声質を覚えることができた。
声質を覚えれば、ざわざわしていても、声をたどることができる。
「あれ? 新しい人入れたんだ?」
思いがけず、甲高い声で男は言った。細く痩せた、色白の美しい顔立ちの男だった。
なるほどな……とロドリックは思った。ハブファンを思えばずっと若く、顔立ちは美しかったが、なんとなく疲れたような飽きたような顔をしていた。
「退屈だからね。いい体してるよね。え、なに?」
店長が、ロドリックのことを、ただの用心棒で、何を言うかわからないほど乱暴な奴なのでと断っていた。
付き添いが大声で店長のことを「生意気な奴だ」と言いだしたが、ロンゴバルト語だったので、ロドリックははっとした。
店長はロンゴバルト語がわからないので、一生懸命、ロドリックのことを、田舎者で、ジュリマン様に対する物言いも心得ておりません、失礼があったら手前どもの責任になりますのでと弁解に努めていた。
「逆に面白いじゃない?」
ジュリマンは、おもしろがった。
「これでどうか聞いてみてよ」
彼は三十フローリン貨を差し出した。
店長は渋った。
金で動くとなったら、店中の客が金を出しそうで、そのうち、誰か彼に触る者が出て来るかもしれない。ロドリックのバカ力は、店長もわかっていた。
マジで怒り出したら、店舗破壊では済まない。
「実は、男は嫌いなんでございます。そして、ものすごい力持ちなんで……」
「へえ?」
ジュリマンは、余計興味を惹かれたようだった。
「ここにいるカルムとだったらどうかな?」
カルムとは、ロンゴバルト語の用心棒のことだった。
「力比べなら、乗って来ないか?」
ジュリマンがカルムに通訳すると、カルムは、じろりとロドリックを値踏みした。
彼は、ロドリックほどではないが、かなり大柄の力の強そうな男だった。
「ジュリマン様、こんなところで人を殺めたりしたら、ハブファン様に叱られます」
「ははは、酒場の用心棒だ。金でカタが付く話さ」
「こんなところで、用心棒だなどと言っているヤツなんか、どいつもこいつも見掛け倒しで、別に武術を習っているわけでもなければ、実際の殺し合いに参加したこともないようなつまらんやつです」
実際の殺し合いとは、どんな規模の話だろう。別に競う気はなかったが、ロドリックは、ちょっと気になった。
「本人はできる気満々なんだろう」
ジュリマン、その頭が単純そうな男をあおるのは止めた方が……とロドリックは思わず忠告したくなったが、この距離で聞こえているとばれたくなかったし、ロンゴバルト語に堪能なことも知られたくなかったので、黙っていた。
「それじゃ、店長、力くらべならいいだろう。余興だ。ほかのお客も楽しめる」
「一体、どうやって?」
「そうだな? 君のところの用心棒は何が得意か聞いてみてくれよ」
店長は気がのらなさそうに、しばらくジュリマンとカルムの顔をかわるがわる眺めていたが、ジュリマンは悪気なさそうに軽く微笑んでいるだけだったし、カルムの方は表情が全く読めなかった。
店長はロンゴバルト語がわからなかったので、ジュリマンが軽く、彼の手をつかんで押すと仕方なくロドリックの方へやって来た。ジュリマンの手には五十フローリン貨が握られていて、それがそのまま店長の手に移っていた。
「どうしたらいいでしょう?」
「あの男を殺すとどうなるの?」
店長は驚いて、ロドリックの顔を見た。
「殺しちゃだめですよ。ハブファン様の愛人の用心棒なんですよ」
「愛人って、あの細くて青白い男か」
「ジュリマンと言う名前です。ここ十年くらいずっとハブファンが大事にしてます。この店で、毎晩遊んで、相当な金を使ってくれてます」
「用心棒はロンゴバルト人か?」
「いい勘してますね。その通りです。用心棒なのか、恋人なのか知りませんが。かなりの腕の持ち主です」
ロドリックは苦笑した。
「じゃあ、客を楽しませる方がいいのかな?」
「どうでもいいんで、騒ぎにならない方向で」
「店の真ん中で、格闘技はどうだ? 余興だ」
店長は首をひねった。
「素手だ。参戦するやつは、今後出ないと思うがな。金でおさわりされたらたまらん」
店長は懐疑的だったが、戻ってジュリマンとカルムに伝えると、二人は大笑いした。
「命が惜しくないんだな」
「やる気になるとはな。素人は怖いな」
店長が、アナウンスして真ん中の部分を空けさせた。
客たちは、この異例の勝負を、店の企画した余興だと思ったらしかった。軽くざわめいて、歓迎しているようだった。
二人の男は店の真ん中で向き合った。
観客は、これから始まる楽しいゲームに注目した。
ドルマはびっくりした。
「もう、ここには来ないと思ってたよ。レイビック伯に仕えてるって聞いたよ」
「ねえ、ドルマ、俺のことはどれくらい知ってる?」
「どれくらいって……。だって、すごい力持ちだってことくらいは知っているけど。結構な剣の使い手だとも聞いたよ。知らなかったけどね。もし、本当にレイビック伯のところで働いているんだったら、もうここには縁がないと思ったよ」
「用心棒の仕事のこと?」
「そう。まあ、もともと、あんたが用心棒やってる意味が分からなかったけどね。修道士だって言ってたくらいだから」
ロドリックは黙った。
確かにその通りだった。
「それで、今日はどうしてここに来たの?」
ロドリックは空いている椅子にどっかり腰を掛け、途端に椅子がミシミシ言い出したので慌てて立ち上がった。
「どうも、俺は重すぎるらしいな」
ドルマが急に笑い出した。
「そうだよ。そこの箱の上にお座んなさいよ。一番似合いよ。でないと、イスやソファはみんな潰れちまう」
助言に従って、ロドリックは慎重に頑丈そうな箱の上に恐る恐る腰を掛けた。今度は大丈夫だった。
「最近、ハブファン殿はどうしてる?」
「なんだ。そんなことか」
ドルマは急ににっこりした。
だが、すぐに真剣な顔になった。
「そうねえ。きっと何か大変なことがあったのだと思うわ。だって、全然、ここには来ないのよ。来る暇がないみたい」
「そうなんだ……何があったんだろう」
「わかるわけないじゃない」
ドルマは肩をすくめた。
「筋肉旋風の店長を紹介するから、彼に聞いてみたら? 毎晩、ハブファンの恋人が遊びに来てるわ。何か聞いているかもしれない」
「いやだよ。それにレイビック伯のところににいるのがばれたら、どうしたらいいんだ」
「筋肉旋風の店長は、それは知らないわよ」
「なんで?」
「だって、ロッドのことをよく知ってるのは、私だけだもん」
ドルマはにっこり笑って見せた。
「あんたのことは内緒よ。私だけが知っているのよ」
突然、ロドリックはドルマを理解した。理解したのじゃなくて、傾向と対策が読めた。
人間、理解ができなくても(ドルマの性癖のことだ)、計算の結果、正しい結論に達することがある。
絶対にドルマは彼のことを黙っている。ドルマは、ロドリックを裏切らない。
ロドリックは、いつもの半裸の制服に着替えることにした。
フリースラントじゃないが、彼だって、こんな格好は好きじゃなかったが、やむを得なかった。
「じゃあ、筋肉旋風の店長に知らせて来るわね」
知らせるって何を? ロドリックは不安になったが、筋肉旋風の店長は文字通り、疾風のように走ってきた。
実は噂には聞いていたが、ロドリックが筋肉旋風の店長を見るのは初めてだった。筋肉旋風の店長は、ロドリックに見つからないように彼を鑑賞していたからだ。
店長は小男だったが、もりもりに筋肉をつけた男だった。
ロドリックの筋肉は、実用である。力の割には、(相対的に)しょぼく見える。それでも、見事に均整の取れた芸術品のような体だった。
店長は感激のあまり、涙を流さんばかりだった。くるくるとロドリックの周りをまわると、心ゆくまで鑑賞し始めた。
「触ってもいい?」
「帰れ!」
ロドリックは思わず怒鳴った。
「さわんな」
「ちょっと、ちょっと、ロッド」(と、ドルマが言い)
「ごめんごめん!」(と、筋肉旋風の店長が心から謝った)
「さわんな。コロスぞ」
ロドリックは、筋肉旋風の店長の腕を汚そうにつまんだ。
「骨、つぶすぞ」
「止めて止めて!」
「ロッド! 止めなさい。あんたのバカ力は知ってっから」
掴まれたところををふーふーしながら、筋肉旋風の店長は、なぜかとてもうれしそうだった。
「すごい! すごい力! すばらしい」
ロドリックは不機嫌そうだった。こんなバカげた真似で、情報収集できるのか?
しかし、彼は一晩だけと言う約束で、しぶしぶ筋肉旋風の用心棒として店長の後をついて歩いた。
「じゃあ、あそこ。ううん、こっちに……あ、いいわ。あそこでいい」
こっちと言うのは店の入り口の目立つ場所で、あそこと言うのは、奥の方だった。
入口の目立つ場所を指した途端、ロドリックの目つきが凶暴になったので、言を翻したのだった。
「言っとくけど、用心棒だからな? 客の相手なんかさせたら命はないと思えよ?」
「も、もちろん! もちろんよ!」
しかし、やがて日が暮れて、客が三々五々入ってくると、いくらロドリックが半分隠れるようにしていても、客の視線が次々に彼の体を這い始めた。
と言うのは、店長が事あるたびに、ロドリックに見惚れたような視線を送るので、何があるのだろうと、客がみな店長の視線を追うからだった。そして、ロドリックを発見すると、皆一様にその見事な肉体に釘付けになり、一斉に客同士でひそひそ話を始めるのだった。
そして、その次には、必ず店長が呼ばれ、彼らは何かひそひそと話し合っていた。
「何を話してるんだか、知らないが……」
気分が悪いわ……とロドリックは、内心思った。そして、これでは何の情報収集にもならないと後悔した。
単に、さらし者になっただけではないか。
だが、ついに、待っていた瞬間が来た。
ハブファンの愛人と呼ばれている男が来たのだった。
ロドリックは立っているだけでよかった。
彼は、その人物の声を聞きさえすれば、声質を覚えることができた。
声質を覚えれば、ざわざわしていても、声をたどることができる。
「あれ? 新しい人入れたんだ?」
思いがけず、甲高い声で男は言った。細く痩せた、色白の美しい顔立ちの男だった。
なるほどな……とロドリックは思った。ハブファンを思えばずっと若く、顔立ちは美しかったが、なんとなく疲れたような飽きたような顔をしていた。
「退屈だからね。いい体してるよね。え、なに?」
店長が、ロドリックのことを、ただの用心棒で、何を言うかわからないほど乱暴な奴なのでと断っていた。
付き添いが大声で店長のことを「生意気な奴だ」と言いだしたが、ロンゴバルト語だったので、ロドリックははっとした。
店長はロンゴバルト語がわからないので、一生懸命、ロドリックのことを、田舎者で、ジュリマン様に対する物言いも心得ておりません、失礼があったら手前どもの責任になりますのでと弁解に努めていた。
「逆に面白いじゃない?」
ジュリマンは、おもしろがった。
「これでどうか聞いてみてよ」
彼は三十フローリン貨を差し出した。
店長は渋った。
金で動くとなったら、店中の客が金を出しそうで、そのうち、誰か彼に触る者が出て来るかもしれない。ロドリックのバカ力は、店長もわかっていた。
マジで怒り出したら、店舗破壊では済まない。
「実は、男は嫌いなんでございます。そして、ものすごい力持ちなんで……」
「へえ?」
ジュリマンは、余計興味を惹かれたようだった。
「ここにいるカルムとだったらどうかな?」
カルムとは、ロンゴバルト語の用心棒のことだった。
「力比べなら、乗って来ないか?」
ジュリマンがカルムに通訳すると、カルムは、じろりとロドリックを値踏みした。
彼は、ロドリックほどではないが、かなり大柄の力の強そうな男だった。
「ジュリマン様、こんなところで人を殺めたりしたら、ハブファン様に叱られます」
「ははは、酒場の用心棒だ。金でカタが付く話さ」
「こんなところで、用心棒だなどと言っているヤツなんか、どいつもこいつも見掛け倒しで、別に武術を習っているわけでもなければ、実際の殺し合いに参加したこともないようなつまらんやつです」
実際の殺し合いとは、どんな規模の話だろう。別に競う気はなかったが、ロドリックは、ちょっと気になった。
「本人はできる気満々なんだろう」
ジュリマン、その頭が単純そうな男をあおるのは止めた方が……とロドリックは思わず忠告したくなったが、この距離で聞こえているとばれたくなかったし、ロンゴバルト語に堪能なことも知られたくなかったので、黙っていた。
「それじゃ、店長、力くらべならいいだろう。余興だ。ほかのお客も楽しめる」
「一体、どうやって?」
「そうだな? 君のところの用心棒は何が得意か聞いてみてくれよ」
店長は気がのらなさそうに、しばらくジュリマンとカルムの顔をかわるがわる眺めていたが、ジュリマンは悪気なさそうに軽く微笑んでいるだけだったし、カルムの方は表情が全く読めなかった。
店長はロンゴバルト語がわからなかったので、ジュリマンが軽く、彼の手をつかんで押すと仕方なくロドリックの方へやって来た。ジュリマンの手には五十フローリン貨が握られていて、それがそのまま店長の手に移っていた。
「どうしたらいいでしょう?」
「あの男を殺すとどうなるの?」
店長は驚いて、ロドリックの顔を見た。
「殺しちゃだめですよ。ハブファン様の愛人の用心棒なんですよ」
「愛人って、あの細くて青白い男か」
「ジュリマンと言う名前です。ここ十年くらいずっとハブファンが大事にしてます。この店で、毎晩遊んで、相当な金を使ってくれてます」
「用心棒はロンゴバルト人か?」
「いい勘してますね。その通りです。用心棒なのか、恋人なのか知りませんが。かなりの腕の持ち主です」
ロドリックは苦笑した。
「じゃあ、客を楽しませる方がいいのかな?」
「どうでもいいんで、騒ぎにならない方向で」
「店の真ん中で、格闘技はどうだ? 余興だ」
店長は首をひねった。
「素手だ。参戦するやつは、今後出ないと思うがな。金でおさわりされたらたまらん」
店長は懐疑的だったが、戻ってジュリマンとカルムに伝えると、二人は大笑いした。
「命が惜しくないんだな」
「やる気になるとはな。素人は怖いな」
店長が、アナウンスして真ん中の部分を空けさせた。
客たちは、この異例の勝負を、店の企画した余興だと思ったらしかった。軽くざわめいて、歓迎しているようだった。
二人の男は店の真ん中で向き合った。
観客は、これから始まる楽しいゲームに注目した。
10
あなたにおすすめの小説
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理
SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。
低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。
恋愛×料理×調合
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる