【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?

buchi

文字の大きさ
6 / 58

第6話 違うドレスで別人になって

しおりを挟む
「ちょっと、シュザンナ、こちらへいらっしゃい」



翌日、朝食のあと、私は伯母に呼ばれて、二階の伯母の寝室の隣の部屋へ上がった。





「まあ、侯爵夫人、この方が姪のシュザンナさまですか?」



白髪頭にオレンジ色のドレスと言う少し変わったファッションの、威厳のある年配女性が待っていた。



「シュザンナ、この方はハリソン夫人。この小さな町でドレスのメゾンをしているの」



「昔は王都で店を開いていたのですよ。でも、夫がこちらに来てしまったのでついてきましたの」



ハリソン夫人は陽気に説明した。



彼女はさすが伯母の気に入りらしく、一瞬だけ私を感嘆したように眺めていたが、直ぐにてきぱきと私を測り、手伝いの若い針子たちに命じて、似合いそうなドレスを取り出してきた。



「本当におきれいなお嬢様ですこと! こんな方のドレスを見つくろうのは、楽しいですわ」



ハリソン夫人は忙しそうにしながらも、とても楽しそうだった。



「寸直しを急いで! あしたの晩のパーティに間に合わせてちょうだい」



伯母がはっぱをかけた。



「伯母様、パーティ用のドレスくらいは、持ってきましたわ?」



私は不思議に思って伯母に言った。



伯母はとても楽しそうに笑った。



「たまには別人になってみない?」





どう言う意味なんだろう?



私は首をかしげたが、ドレスメーカーのハリソン夫人もいわくありげに笑うだけだった。









そして、翌日、昼過ぎに持ち込まれたドレスに私はびっくり仰天した。



それはこれまで私が意図的に避けてきた派手な色合いのドレスだった。



首元をひっ詰めたデザインでもなければ、ゴワゴワした生地でもない。自由で生き生きとした、深いローズピンクの美しいドレス。



「伯母様、せっかく作ってくださって、こんなことを申し上げるのは申し訳ないのですけれど、こんなきれいな色のドレスは私には似合いませんわ。勿体ない……」



ハリソン夫人も伯母も笑うだけだった。



「お嬢様、とてもお似合いになりますよ? 間違いございません。私は若いころは王都でも有数のドレスメーカーにいたのですから」



渋々着てみて、寝室の鏡に映った姿に私は驚愕した。



プロの見立てをなめてはいけない。



母の好みは、立派で身分に恥ずかしくないものをという考え方だった。だから、流行の服は出来るだけ避ける方針だった。また、似合うかどうかは別問題だった。



だから、これまで私は、母がOKしたドレスの中から、出来るだけ人目に立たないドレスを選ぶように努力していた。



どうせ何を着ても一緒だ。そんなあきらめがあった。





だが! 似合うドレスと言うものはあるのだと痛感した。



「腰が細くて、首が長い。顔が小さくて目が大きい。でも、メガネがあるのでコンプレックスがあって、出来るだけ首の詰まった黒っぽい服を着ていたでしょう。腰のところにひだがあるドレスを着ていたでしょ? 髪型も顔を隠すように結っていたわね。私はあれは間違っていると思ったのよ」



伯母が言った。



「さあ、これを着てパーティに出てちょうだい」



「いやですわ、こんな目立つ格好」



私は駄々をこねた。髪があげられていて、みっともない顔が隠れていない。襟ぐりも広めだ。ジロジロ見られるのではないだろうか。



いつもと違う格好をするのは度胸がいる。



確かにこの部屋では、まるできれいな人のように見える。でも、他人はどう思うことやら。とても変じゃないかしら?



「大丈夫よ。ここは田舎ですもの。避暑地だから、タガが外れて、みんな好きな格好で来るわ。流行なんてご縁がないのよ。だから、あなたのドレスだって、誰も何も言わないわ。母のドレスを借りて着ましたと言えばいいのよ」



「そんなこと言ったら母が怒りますわ」



私はつぶやいたが、確かに王都の身分の高い人々が出てくる正式のパーティではない。

そこまで気にしなくてもいいだろう。



「それに遠縁のシュザンナとしか紹介しないし、王都の知り合いがあなたを見ても、メガネもないしドレスがいつもと違えばわからないわ。わからない方がいいのでしょ? おかあさまが聞けば怒るかもしれないけど、赤いドレスを着ていたと聞けば、あなたはそんなドレスを持っていないのだから、絶対に別人だと思うでしょう」



伯母の言うとおりだ。



正直に言うと、私はこのドレスが気に入ったのだ。



私は鏡を食い入るように見つめた。



しなやかで、柔らかな雰囲気のドレス。とても華奢で可憐な人に見える。



自分がきれいに見えると言うことは、自己満足だとしても、ちょっと嬉しい。



伯母は親切でこれをわざわざ作ってくれたのだ。



私の気分を上げるために。



私は、嫌な思いを抱えてここへ来てしまった。いつもなら、この山と湖に囲まれた美しい楽園は、それだけで私の心を癒してくれた。



だが、さすがに婚約者が、公爵令嬢の私さえまるで歯が立たないような高貴な美しい王女様と、王都で夏休み中、ずっとイチャイチャしているのだと思うと、心穏やかでいられなかった。



はっきり言って腹が立つ。

そのほかに悲しい。



だけど、仕方ないとか、そこまで好きじゃないしとか、意地なのか、あきらめなのか、負け犬根性なのか、よくわからない感情もある。



でも、どの感情も一緒に居たいようなものじゃなかった。





「ドレスをありがとう、伯母様」



私は言った。



「ここには誰も知り合いはいないから、私が誰だかわからないと思うわ」



「そうよ。私の姪は多いのよ。夫に兄弟姉妹が大勢いるもんだからね。誰だかわかりゃしないわ」



伯母は嬉しそうに言って、準備があるからと部屋を出ていった。





窓から見ると、庭は大騒ぎで、多くの使用人たちが木々に提灯をぶら下げたり、テーブルを運び込んだりしていた。



多分、調理場では、コックが必死になって、いろいろな料理を作っているのだろう。いい匂いがここまで漂ってきていた。



「着付けの残りはハドソン夫人がしてくれるから」



ハドソン夫人と針子たちは、慣れた様子で髪もきれいに結い上げ、私はここで初めて自分には好みも趣味もあったのだということに気が付いた。



服の着付けや髪飾りに細かい注文を付けてしまった。



「花は右に寄せて付けて。髪飾りは要らないわ。ネックレスはこちらを」



私は思わず若い針子に言った。



ハドソン夫人はその言葉を聞いた途端に、嬉しそうに笑った。



「すっきり型の美人がよろしいのですね。わかりました。きっとお似合いでしょう」



そして、私が持ち込んだパーティ用のドレスを眺めた。着ないことになった王都で仕立てたドレスだ。



「ナイジェルの店のドレスですね?」



ビックリした。ビンゴだ。ハドソン夫人はドレスを見ただけで、ラベルを確認したわけではなかったのに。



彼女はちょっと笑った。



「お母さまのお見立てですか?」



私はうなずいた。



それはちっともすてきではなかった。とても上等だということは一目でわかるドレスだったけれど。

濃いえび茶色で、首元まで生地があった。母はデコルテを出すことを嫌ったのである。若い娘が着るようなドレスではなかった。



私は今まで母の言いなりで、趣味もセンスもないのだと自分で思っていた。



ハリソン夫人は笑った。



「違います。お嬢様は、好みもセンスもある方です。それも相当。侯爵の姪御さんでなかったら、うちのメゾンで働いて欲しいくらいです」



「まあ、うれしいわ」



私はつぶやいた。本当にうれしかった。



「好きな服を着て、ご自分のやりたいようになさればいいではありませんか。きっとご事情がおありなんでしょうけれど。でも、ファッションリーダーになる素質がおありです」



真面目に言われてしまった。でも、私の家は王都にある。この町ならファッションリーダーになるのは簡単だけど、王都じゃ無理。



でも、それは言わないことにした。ハリソン夫人に、モンフォール公爵家の令嬢ですだなんて自分の事情を説明するのは、どうかしてるわ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々
恋愛
 先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。  また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?  これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

処理中です...