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第11話 婚約の危機?
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アマンダ王女は去った。
私は呆然として、その後ろ姿を見送った……が、しかし血が沸騰するような怒りを覚えた。
なんだとう……令嬢らしからぬ一言を叫んでしまいそうだった。
「ちょっと、ちょっと、シュザンナ、みんなが見てるわよ?」
ルシンダが注意してくれた。
と言うのはルシンダと私のほかにも聞いていた生徒たちは多かったからだ。
間に合った者は全員駆け付けて、この脅迫ショーを見物していたのである。
いまや全員が、口々に意見を述べていた。
「どうするの? シュザンナ・モンフォール公爵令嬢」
女子寮の総取りまとめと言う恐ろしい役割を何の苦もなくやってのけている最年長クラスのアレグラ・ブラウンが、人ごみをかき分けてやって来た。
彼女もメガネをかけているが、こっちはすっきりしたメガネで、才女と言う言葉がよく似合う美人だ。
彼女は平民なのだが、誰にも一目置かれている。
貴族でないので、逆に身分のあれこれに関係なく公平に争い事をうまくさばいてくれる。成績もいいし、こういった生徒同士の騒ぎについては、先生方にも頼られている存在だ。アーノルドみたいだ。
「どうしましょう、ブラウン総監」
私は震え声で尋ねた。
ものすごく怖かった。
「あの騎士は、アマンダ王女と一緒に来た人なのよ。だから、この国に来たのは、2か月ほど前かな? ここ1か月は夏休みで、あなたは王都にいなかった。だからアマンダ王女がこの国に来てすぐの1ヶ月の間に、あなたと接触があったということになるけど、ほとんど無理じゃないかしら」
よく透るさわやかな声でブラウン嬢は理路整然と説明してくれた。
私はほっとした。アマンダ王女の言葉を信じない人がいる。
「まあ、真偽のほどは別として、そんなこと発表されるのは嫌だわね。あなたを知っている人は、絶対信じないでしょうけど、あなたのことを何も知らない人は、アマンダ王女の言葉をそのまま通り受け取るかもしれないわ」
なんて恐ろしいことを!
私は、また、指先が冷たくなる感触を味わった。
ブラウン女史はメガネをくいッと上に押し上げた。考えている時の癖である。
「これはもう、どうしようもないわね。あなたのご両親とケネスのご両親に水面下で話し合ってもらうしかないわ」
うちの母はオズボーン家と話し合うかしら? 母のことだ。元凶(アマンダ王女のことである)に向かって突進していく気がした。
「そんな……血で血を洗うような……」
「誰の血と誰の血なの?」
ブラウン女史が不思議そうに尋ねた。
「うちの母とアマンダ王女の……」
元王女と現王女の対決である。両方とも譲歩すると言うことを知らない。タダでは済まない気がした。
もちろんブラウン女史の言っている意味は分かっていた。
王女なんかを相手に真向勝負に出るのではなく、王女に従ったように見せかけて、後で婚約を戻してしまえと言うのだ。
「これは王女の暴走じゃないかしら。表向き婚約破棄しても、王女さえいなくなれば元に戻せばいいだけだわ。短期の留学だと聞いているし」
本当にその通りなのだが、うちの母にそんな理屈が通用するだろうか? それに……
「でもっ……ケネスがアマンダ王女を選んだら……」
こっそりルシンダが私の袖を引いた。
それはそれで、どうでもいいじゃないかという意味だろう。
ルシンダはブラウン女史に向かって言った。
「ケネスは真実の愛を探しているそうなので……それなら好きにしてもらえばいいのでは」
ブラウン女史はうなずいた。
「その相手がアマンダ王女なら、確かに誰も気にしないでしょう。円満な婚約解消は問題にならないわ。事情が変わればあり得ることよ」
ブラウン女史はまるで周りの生徒たちに言い聞かせるかのように、よくとおる声で言った。
生徒たちの中から、すっとそばに寄って来たのは、アルバートと、彼の親友のウィリアムだった。
アルバートはブラウン女史を見ると、うなずいた。
アルバート様は学園の生徒代表の影の世話役なので、ブラウン女史をよく知っているのだ。
「アマンダ王女はケネスを気に入った。手段を選ばず、手に入れようとしている。王女は勝手でわがままだ。人の言うことなんか絶対聞かない」
アルバート様は私に向かって小さな声で言った。
「でも事実無根のあなたへの誹謗中傷さえ避けられれば、婚約破棄なんか気にしなくていいと思うよ? ケネスなんか、どうでもいいだろう?」
ウィリアムもそう言った。
「よくないわ!」
私は顔を紅潮させて、思わず言った。
世の中の人がどう考えているかじゃなくて……ケネスが……ケネスがどう考えているかなのよ。アマンダ王女の言葉を信じているかもしれない。私があの騎士と……。
ひどい。ひどすぎる。
私のことを嫌うにしても、それは違う。
みにくいから嫌われる……かも知れない。陰気くさいと嫌わるかも知れない。
それはいい。でも、誤解が理由で嫌いにならないで。
私はそんなことを思って頭の中がぐちゃぐちゃになっていたが、アルバートとウィリアムは私が怒って混乱していると思い、それは当然だと考えたらしかった。
二人は冷静に話を続けていた。
「ケネスが真実の愛を見つけたと思っているなら、それはいいんじゃないかな」
「ああ。その通りだ。以前から、真実の愛を見つけたいと言っていたからね」
ブラウン女史も相槌を打つ。
「それが誰でも、あのアマンダ王女だったとしても、ケネスの問題だ。だけど、私たちはシュザンナ嬢が無実の罪を着せられるんじゃないかと心配なんだ」
「誰もあなたのことをそんな風には思わないよ。あなたはそんな人じゃない」
ウィリアムは私をまっすぐに見て言った。
それはそうだ。こんなおかしな、重い厳重なメガネをかけた娘が男を誘うわけがない。男の方が逃げて行ってしまうだろう。
ウィリアムは首を振った。彼はそれについては意見が違うらしかった。
「メガネの話なんかじゃない。君がそんな女の子じゃないってことを、みんな知っているよ。あんな言葉、誰も信じない。少なくとも、僕は絶対に信じないよ」
「う……ありがとう、ウィリアム」
公爵令嬢が君呼ばわりになってる。でも、ありがとう、ウィリアム。
アマンダ王女が怖すぎて、私は思わず目から涙があふれてきた。王女の前では緊張しすぎていて、それどころじゃなかったのだ。
「大丈夫だよ。泣かないで、シュザンナ」
ウィリアムが戸惑ったように一生懸命慰めてくれた。ルシンダは手を握ってくれた。
私は何もしていないのに。なんで、こんな目に会わなくちゃいけないの?
私は呆然として、その後ろ姿を見送った……が、しかし血が沸騰するような怒りを覚えた。
なんだとう……令嬢らしからぬ一言を叫んでしまいそうだった。
「ちょっと、ちょっと、シュザンナ、みんなが見てるわよ?」
ルシンダが注意してくれた。
と言うのはルシンダと私のほかにも聞いていた生徒たちは多かったからだ。
間に合った者は全員駆け付けて、この脅迫ショーを見物していたのである。
いまや全員が、口々に意見を述べていた。
「どうするの? シュザンナ・モンフォール公爵令嬢」
女子寮の総取りまとめと言う恐ろしい役割を何の苦もなくやってのけている最年長クラスのアレグラ・ブラウンが、人ごみをかき分けてやって来た。
彼女もメガネをかけているが、こっちはすっきりしたメガネで、才女と言う言葉がよく似合う美人だ。
彼女は平民なのだが、誰にも一目置かれている。
貴族でないので、逆に身分のあれこれに関係なく公平に争い事をうまくさばいてくれる。成績もいいし、こういった生徒同士の騒ぎについては、先生方にも頼られている存在だ。アーノルドみたいだ。
「どうしましょう、ブラウン総監」
私は震え声で尋ねた。
ものすごく怖かった。
「あの騎士は、アマンダ王女と一緒に来た人なのよ。だから、この国に来たのは、2か月ほど前かな? ここ1か月は夏休みで、あなたは王都にいなかった。だからアマンダ王女がこの国に来てすぐの1ヶ月の間に、あなたと接触があったということになるけど、ほとんど無理じゃないかしら」
よく透るさわやかな声でブラウン嬢は理路整然と説明してくれた。
私はほっとした。アマンダ王女の言葉を信じない人がいる。
「まあ、真偽のほどは別として、そんなこと発表されるのは嫌だわね。あなたを知っている人は、絶対信じないでしょうけど、あなたのことを何も知らない人は、アマンダ王女の言葉をそのまま通り受け取るかもしれないわ」
なんて恐ろしいことを!
私は、また、指先が冷たくなる感触を味わった。
ブラウン女史はメガネをくいッと上に押し上げた。考えている時の癖である。
「これはもう、どうしようもないわね。あなたのご両親とケネスのご両親に水面下で話し合ってもらうしかないわ」
うちの母はオズボーン家と話し合うかしら? 母のことだ。元凶(アマンダ王女のことである)に向かって突進していく気がした。
「そんな……血で血を洗うような……」
「誰の血と誰の血なの?」
ブラウン女史が不思議そうに尋ねた。
「うちの母とアマンダ王女の……」
元王女と現王女の対決である。両方とも譲歩すると言うことを知らない。タダでは済まない気がした。
もちろんブラウン女史の言っている意味は分かっていた。
王女なんかを相手に真向勝負に出るのではなく、王女に従ったように見せかけて、後で婚約を戻してしまえと言うのだ。
「これは王女の暴走じゃないかしら。表向き婚約破棄しても、王女さえいなくなれば元に戻せばいいだけだわ。短期の留学だと聞いているし」
本当にその通りなのだが、うちの母にそんな理屈が通用するだろうか? それに……
「でもっ……ケネスがアマンダ王女を選んだら……」
こっそりルシンダが私の袖を引いた。
それはそれで、どうでもいいじゃないかという意味だろう。
ルシンダはブラウン女史に向かって言った。
「ケネスは真実の愛を探しているそうなので……それなら好きにしてもらえばいいのでは」
ブラウン女史はうなずいた。
「その相手がアマンダ王女なら、確かに誰も気にしないでしょう。円満な婚約解消は問題にならないわ。事情が変わればあり得ることよ」
ブラウン女史はまるで周りの生徒たちに言い聞かせるかのように、よくとおる声で言った。
生徒たちの中から、すっとそばに寄って来たのは、アルバートと、彼の親友のウィリアムだった。
アルバートはブラウン女史を見ると、うなずいた。
アルバート様は学園の生徒代表の影の世話役なので、ブラウン女史をよく知っているのだ。
「アマンダ王女はケネスを気に入った。手段を選ばず、手に入れようとしている。王女は勝手でわがままだ。人の言うことなんか絶対聞かない」
アルバート様は私に向かって小さな声で言った。
「でも事実無根のあなたへの誹謗中傷さえ避けられれば、婚約破棄なんか気にしなくていいと思うよ? ケネスなんか、どうでもいいだろう?」
ウィリアムもそう言った。
「よくないわ!」
私は顔を紅潮させて、思わず言った。
世の中の人がどう考えているかじゃなくて……ケネスが……ケネスがどう考えているかなのよ。アマンダ王女の言葉を信じているかもしれない。私があの騎士と……。
ひどい。ひどすぎる。
私のことを嫌うにしても、それは違う。
みにくいから嫌われる……かも知れない。陰気くさいと嫌わるかも知れない。
それはいい。でも、誤解が理由で嫌いにならないで。
私はそんなことを思って頭の中がぐちゃぐちゃになっていたが、アルバートとウィリアムは私が怒って混乱していると思い、それは当然だと考えたらしかった。
二人は冷静に話を続けていた。
「ケネスが真実の愛を見つけたと思っているなら、それはいいんじゃないかな」
「ああ。その通りだ。以前から、真実の愛を見つけたいと言っていたからね」
ブラウン女史も相槌を打つ。
「それが誰でも、あのアマンダ王女だったとしても、ケネスの問題だ。だけど、私たちはシュザンナ嬢が無実の罪を着せられるんじゃないかと心配なんだ」
「誰もあなたのことをそんな風には思わないよ。あなたはそんな人じゃない」
ウィリアムは私をまっすぐに見て言った。
それはそうだ。こんなおかしな、重い厳重なメガネをかけた娘が男を誘うわけがない。男の方が逃げて行ってしまうだろう。
ウィリアムは首を振った。彼はそれについては意見が違うらしかった。
「メガネの話なんかじゃない。君がそんな女の子じゃないってことを、みんな知っているよ。あんな言葉、誰も信じない。少なくとも、僕は絶対に信じないよ」
「う……ありがとう、ウィリアム」
公爵令嬢が君呼ばわりになってる。でも、ありがとう、ウィリアム。
アマンダ王女が怖すぎて、私は思わず目から涙があふれてきた。王女の前では緊張しすぎていて、それどころじゃなかったのだ。
「大丈夫だよ。泣かないで、シュザンナ」
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