19 / 58
第19話 ローズピンクの女の子
しおりを挟む
「失敗したみたいね」
私はウィリアムに話しかけた。
ケネスが顔色を変えて席を離れて行ってしまったからである。
「別な女の子を考えないといけないらしいわね」
「そうだねえ……」
彼は何か考え込んでいるらしかった。
「ルシンダがタイプだったとは知らなかったわ」
どうりで私には全く関心がなかったわけだ。
私は、ルシンダとは全く異なるとび色の髪と、濃い青い目をしていた。
アリス・ガーラント伯爵令嬢とマリオン・ギース子爵令嬢も、ルシンダとはまったく違う外見の令嬢だった。
「リサーチ失敗ね」
まあ、ルシンダは飛び切り美人だから仕方ない。とはいえ、ルシンダ自身がケネスに関心がないので、無茶は出来ない。
「ルシンダに似た感じの人を探してあげればいいのね? むずかしいわ。ルシンダほどの美人はなかなかいないわ」
ふと、疑念が湧いた。まさかの女嫌い?
ウィリアムは、全く聞いていない様子だった。彼は言った。
「そう言えば、最近、ケネスは君の方ばかり見ていなかった?」
「ケネスが?」
私はちょっとだけ赤くなったかもしれない。ちょいちょい目が合うなあと思っていたのだ。
「君と一緒に居ると、僕と目が合うんだもの」
「あいさつすればよかったかもね」
「多分、違うと思うよ。メガネをやめてからだと思うんだ」
「あー。それはね、ウィリアム」
私は解説した。相当、見た目は変わったらしい。
「メガネを取った時は、ものすごく大勢と目が合ったわ。それに、みんな、どうしたの?とか、そんな顔だったんだって言われたわ。最近は、みんな慣れたみたいで、あまり言われなくなったけど」
「かわいくなったって言われなかった?」
「あんまり」
そこは小さな嘘をついた。
思ってたより美人だったんだとか相当言われたけど、そんなことを聞かされて喜ぶ人間はいないだろう。
「結局は同じ顔だもの。いっしょよ」
「そんなことないよ……」
最近のウィリアムは気持ちが悪い。
「ルシンダに似た人に心当たりない? ケネスに紹介してあげたら喜ぶと思うわ。せめてそれくらいしかできないけど」
私は話題を変えた。しかしウィリアムは乗ってこなかった。
「それに、服の趣味も変わっただろ?」
「ああ、これ?」
私はお気に入りのドレスのスカート部分を広げて見せた。
「お母さまに任せきりじゃなくて、自分の好きな服を作ってもらうことにしたの。母は実は流行がわからないのよ。だから、これが流行ですってメゾンに言わせると納得するの。実は違うんだけどね。私の趣味よ」
「僕も服のことはわからないけど、今の方がずっとすてきだと思うよ。それに似合ってるし」
「ありがとう」
なんだか、最近のウィリアムはよろしくない。危険臭がする。私には婚約者(候補)がいるのだ。グレアム・バイゴッド。あんまりよく知らないけど。
「ねえ、試験が終わった後の二週間の休みはどうするの?」
ウィリアムは話を続ける。
知ってどうする? ウィリアム・マンダヴィル。デートに出かけることすらできないのよ。
「伯母のところに行こうかしら」
「どこなの?」
実際のところは、母が行かせてくれるとは思っていなかった。夏にも行ったばかりなんだもの。母は、私が母の手元を離れて出歩くことを好まなかった。
でも、王都にいることにすると、ウィリアムがいろいろ口実をつけて、近づいてきそうで困る……ような気がした。根拠はないけど。
「シャーボーンよ。グレシャム侯爵夫人のところよ」
シャーボーンは王都から少し距離があるし、グレシャム侯爵夫人の家に入ることは招待されない限り出来ない。よく出来た伯母が、年頃の娘のいる家に、彼のような男性を招くとは思えない。
「シャーボーン?」
ウィリアムが少し驚いたような顔をしていた。
「いつも行っているの?」
「どうしてそんなこと聞くの? たまに行くだけよ。今年の夏は、母が毎年出かける海辺の避暑地に行かないと言いだしたので、私だけ伯母のところへ行ったの。いいところよ」
ウィリアムがまだ変な顔をしているので、私は尋ねた。
「それがどうかした?」
「僕はケネスに好きな女の子のタイプを聞いたんだけど」
私は黙ってウィリアムの顔を見ていた。ケネスとシャーボーンとは何の関係もないのだけど。
「その時、彼は、今年の夏はシャーボーンの避暑地に行ったんだって言ってた。シャーボーン近くに叔父がいるらしい。そこで、領主のお屋敷に招かれて、とてもかわいい女の子を見つけたって」
領主のお屋敷?
「昔、一緒に遊んだ、とってもかわいい女の子に似ていて、思い出したそうだ。彼の初恋の人だったんだって。そんな十歳くらいの話は初恋だなんて言わないよって、僕は言ったんだけど。でも、同じ人だって彼は言い張るんだよ」
何の話?
「彼は真実の愛を見つけたんだと言ってた。彼女を探しに行こうと決めたそうだ。アマンダ王女は最初から嫌だった、自分の心に正直になりたいって。侯爵が自慢そうに連れ歩いていて声をかけられなかった、ローズピンクの可愛いドレスの女の子を……」
ウィリアムはじっと私を見ながら言い続けた。
「ねえ、ケネスは何の話をしているの? ケネスが名前も知らないいつか見た初恋の少女を追いかけるだなんて、おかしすぎるよ。あいつは、現実的な実務家タイプだ。それに、なんで僕にそんな夢物語をしたんだろう。気になって調べたけど、シャーボーンの領主ってグレンフェル侯爵家だよね? あなたの大伯父の……?」
私はウィリアムに話しかけた。
ケネスが顔色を変えて席を離れて行ってしまったからである。
「別な女の子を考えないといけないらしいわね」
「そうだねえ……」
彼は何か考え込んでいるらしかった。
「ルシンダがタイプだったとは知らなかったわ」
どうりで私には全く関心がなかったわけだ。
私は、ルシンダとは全く異なるとび色の髪と、濃い青い目をしていた。
アリス・ガーラント伯爵令嬢とマリオン・ギース子爵令嬢も、ルシンダとはまったく違う外見の令嬢だった。
「リサーチ失敗ね」
まあ、ルシンダは飛び切り美人だから仕方ない。とはいえ、ルシンダ自身がケネスに関心がないので、無茶は出来ない。
「ルシンダに似た感じの人を探してあげればいいのね? むずかしいわ。ルシンダほどの美人はなかなかいないわ」
ふと、疑念が湧いた。まさかの女嫌い?
ウィリアムは、全く聞いていない様子だった。彼は言った。
「そう言えば、最近、ケネスは君の方ばかり見ていなかった?」
「ケネスが?」
私はちょっとだけ赤くなったかもしれない。ちょいちょい目が合うなあと思っていたのだ。
「君と一緒に居ると、僕と目が合うんだもの」
「あいさつすればよかったかもね」
「多分、違うと思うよ。メガネをやめてからだと思うんだ」
「あー。それはね、ウィリアム」
私は解説した。相当、見た目は変わったらしい。
「メガネを取った時は、ものすごく大勢と目が合ったわ。それに、みんな、どうしたの?とか、そんな顔だったんだって言われたわ。最近は、みんな慣れたみたいで、あまり言われなくなったけど」
「かわいくなったって言われなかった?」
「あんまり」
そこは小さな嘘をついた。
思ってたより美人だったんだとか相当言われたけど、そんなことを聞かされて喜ぶ人間はいないだろう。
「結局は同じ顔だもの。いっしょよ」
「そんなことないよ……」
最近のウィリアムは気持ちが悪い。
「ルシンダに似た人に心当たりない? ケネスに紹介してあげたら喜ぶと思うわ。せめてそれくらいしかできないけど」
私は話題を変えた。しかしウィリアムは乗ってこなかった。
「それに、服の趣味も変わっただろ?」
「ああ、これ?」
私はお気に入りのドレスのスカート部分を広げて見せた。
「お母さまに任せきりじゃなくて、自分の好きな服を作ってもらうことにしたの。母は実は流行がわからないのよ。だから、これが流行ですってメゾンに言わせると納得するの。実は違うんだけどね。私の趣味よ」
「僕も服のことはわからないけど、今の方がずっとすてきだと思うよ。それに似合ってるし」
「ありがとう」
なんだか、最近のウィリアムはよろしくない。危険臭がする。私には婚約者(候補)がいるのだ。グレアム・バイゴッド。あんまりよく知らないけど。
「ねえ、試験が終わった後の二週間の休みはどうするの?」
ウィリアムは話を続ける。
知ってどうする? ウィリアム・マンダヴィル。デートに出かけることすらできないのよ。
「伯母のところに行こうかしら」
「どこなの?」
実際のところは、母が行かせてくれるとは思っていなかった。夏にも行ったばかりなんだもの。母は、私が母の手元を離れて出歩くことを好まなかった。
でも、王都にいることにすると、ウィリアムがいろいろ口実をつけて、近づいてきそうで困る……ような気がした。根拠はないけど。
「シャーボーンよ。グレシャム侯爵夫人のところよ」
シャーボーンは王都から少し距離があるし、グレシャム侯爵夫人の家に入ることは招待されない限り出来ない。よく出来た伯母が、年頃の娘のいる家に、彼のような男性を招くとは思えない。
「シャーボーン?」
ウィリアムが少し驚いたような顔をしていた。
「いつも行っているの?」
「どうしてそんなこと聞くの? たまに行くだけよ。今年の夏は、母が毎年出かける海辺の避暑地に行かないと言いだしたので、私だけ伯母のところへ行ったの。いいところよ」
ウィリアムがまだ変な顔をしているので、私は尋ねた。
「それがどうかした?」
「僕はケネスに好きな女の子のタイプを聞いたんだけど」
私は黙ってウィリアムの顔を見ていた。ケネスとシャーボーンとは何の関係もないのだけど。
「その時、彼は、今年の夏はシャーボーンの避暑地に行ったんだって言ってた。シャーボーン近くに叔父がいるらしい。そこで、領主のお屋敷に招かれて、とてもかわいい女の子を見つけたって」
領主のお屋敷?
「昔、一緒に遊んだ、とってもかわいい女の子に似ていて、思い出したそうだ。彼の初恋の人だったんだって。そんな十歳くらいの話は初恋だなんて言わないよって、僕は言ったんだけど。でも、同じ人だって彼は言い張るんだよ」
何の話?
「彼は真実の愛を見つけたんだと言ってた。彼女を探しに行こうと決めたそうだ。アマンダ王女は最初から嫌だった、自分の心に正直になりたいって。侯爵が自慢そうに連れ歩いていて声をかけられなかった、ローズピンクの可愛いドレスの女の子を……」
ウィリアムはじっと私を見ながら言い続けた。
「ねえ、ケネスは何の話をしているの? ケネスが名前も知らないいつか見た初恋の少女を追いかけるだなんて、おかしすぎるよ。あいつは、現実的な実務家タイプだ。それに、なんで僕にそんな夢物語をしたんだろう。気になって調べたけど、シャーボーンの領主ってグレンフェル侯爵家だよね? あなたの大伯父の……?」
2
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。
彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。
――その役割が、突然奪われるまでは。
公の場で告げられた一方的な婚約破棄。
理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。
ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。
だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。
些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。
それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。
一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。
求められたのは、身分でも立場でもない。
彼女自身の能力だった。
婚約破棄から始まる、
静かで冷静な逆転劇。
王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、
やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。
-
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
4人の女
猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。
うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。
このご婦人方には共通点がある。
かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。
『氷の貴公子』の異名を持つ男。
ジルベール・タレーラン公爵令息。
絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。
しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。
この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。
こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。
別れたいようなので、別れることにします
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。
魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。
命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。
王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。
良いものは全部ヒトのもの
猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。
ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。
翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。
一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。
『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』
憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。
自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ
七瀬菜々
恋愛
先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。
また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?
これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる