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第27話 バイゴッド伯爵失格
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私はみんなの視線を集めて困った。バイゴッド伯爵と結婚しなくてはいけないのだったら、希望なんてないわ!
「バイゴッド伯爵は、お母さまの希望を聞くのだとおっしゃっていました」
私は平板に言った。
「まだ、お若いですから、あまり、結婚式に関心はないのでしょう。シュザンナ嬢、ちゃんとお考えになるべきだと思いますね」
バイゴッド伯爵は、人を指さす癖があるらしい。
失礼なことだとわかっているので、私の顔を指さそうとして、途中で気付いて止めて、代わりに指を振っていた。
「結婚後、おいおい、あちこちのパーティに出席した際に紹介すればいいのではないかと思っている次第です。シュザンナ嬢も、きっとその方が気が張らなくていいとお考えでしょう」
「そんなことをしたら、ドレスが余分に要りますわよ?」
母がむっつりと注意した。
伯爵はへ?と言った顔を示した。
「同じドレスを着て訪問するわけにはいかないではありませんか」
母が指摘したが、伯爵はにっこりした。
「大丈夫ですよ。間を空けて、被らないように行くのです。それと、気にしなければいいのです」
「なるほど」
ついうっかり声に出して言ってしまった。
そんな考え方もあるのか。
バイゴッド伯爵が私の方を向いた。
「ドレスごとき気にやむことなく、ちゃんと社交に励まないといけません。いろいろあるのですよ、あなたにはお分かりにならないと思いますが」
毎回同じドレスで出席されたら、多分、私が気に病まなくても、出席される社交界はものすごく気にするのではないかしら。
「申し訳ございません。何事もおっしゃるようにいたします」
私にはまた、頭を下げて陳謝した。
だが、続きをしゃべった。
私が意見を言うのをバイゴッド伯爵が好まないのに気が付いていた。
「でも、社交界に出入りするのに、ドレスは大事です」
バイゴッド伯爵は、私の顔を見ながら答えた。
「大丈夫ですよ。母のお古がたくさんあるのです。ウォルターに仕立て直しをさせれば、あなたぐらいなら十分でしょう?」
あなたくらい……
ははあ。
これは、婚約破棄の話を聞いたのだなと、ピンときた。
器量が悪く、嫁の行き先に困っている娘だと、なめてかかっているのだ。
子を成し、やむなき場合のみ、公爵家の娘をもらったと紹介できれば十分なのだろう。
「もう、結構!」
母が立ち上がった。
「エレン?」
バイゴッド伯爵があわてた。
伯爵は、私のことは、行き損ねの欠陥令嬢だと思っている。
だが、母の機嫌を損ねるわけには行かない。
欠陥令嬢を娶る慈善家の彼にとって、母と公爵家は唯一のメリットなのだ。
こんな娘を正妻として結婚しようとするのだ。感謝されても、話を反故にされる理由はないはずだ。
伯爵はそう信じていたので、母の不機嫌に当惑した。
「この結婚はもう少し考えましょう」
「できれば早く結婚したいと」
「待てないなら、それはそれで結構!」
出た。
母、お得意の問答無用。
「バイゴッド伯爵、ここに留まられる必要もございませんわ。バイゴッド領はこの近く。いつでもお遊びにいらしてくださいませ。ね? グレシャム侯爵」
このような社交上、聞いたこともない失礼千万なお断りをかまされた断崖絶壁状態で、突然同意を求められたのでは、伯父があわてふためき、何かうまいこと言えるわけがなかった。
「あ? ええ、そう。あの、えーと……」
「グレシャム侯爵も、ああおっしゃってますわ。今日のところはお引き取りを」
グレシャム侯爵は何も言っていないが、母は冷たい声で言った。
「お送りいたしましょう」
私は立ち上がった。
母と伯母、伯父は、びっくりして顔を上げた。
私は、メガネを外すと、バイゴッド伯爵を案内した。
「出口はこちらですわ。伯爵」
伯爵は目が点になっていた。
思っていたのとは、全然違う娘だったのだろう。彼は、みじめでひどく不細工な、そして全く自信なさげな哀れな娘を予想していたのだろう。
私が庭であまりしゃべらなかったので、そのイメージは確たるものになったらしい。
こうやって、向かい合って時間をかけてよく見ると、バイゴッド伯爵は身なりもどことなく古ぼけていて、付けている宝石も二流品だと言うことが目についた。
それでも、話が合えばもちろん結婚相手として考えるのだけど、人を指で指す癖や、あなたはお若いからわからないでしょうと言うフレーズが、ふんだんに盛り込まれるあたり、うまく行かない気がする。
だけど、とにかく、どんなに頑張っても母の機嫌を損ねたのだ。彼に二度と会うことなどあるまい。私は安全になったのだ。
私は執事の後ろでさっぱりとした笑顔で伯爵を見送った。
「あ、あの、婚約の件ですが……」
伯爵は往生際悪く取りすがった。あるいは状況が呑み込めていないのかもしれなかった。
「母が再考すると言っておりますので」
「それなら、あなたからお勧めいただけますか? 嫁に行けないのはお辛いでしょう?」
伯爵のこの言葉に、グレンフェル家の執事は顔色を変えたし、私は思わず言った。
「あなたの今のお言葉は、必ず母に伝えましょう。しかし、嫁に行けないとはどう言う意味ですか?」
伯爵はうろたえた。
自分でも失言だと思っているらしかったが、今更取り返しはつかない。
決定打じゃないかしら。
私は、少し古びた馬車をガタピシ言わせながら出て行く伯爵を満足して見送った。多分、二度と会わなくても済むと思うわ。
「バイゴッド伯爵は、お母さまの希望を聞くのだとおっしゃっていました」
私は平板に言った。
「まだ、お若いですから、あまり、結婚式に関心はないのでしょう。シュザンナ嬢、ちゃんとお考えになるべきだと思いますね」
バイゴッド伯爵は、人を指さす癖があるらしい。
失礼なことだとわかっているので、私の顔を指さそうとして、途中で気付いて止めて、代わりに指を振っていた。
「結婚後、おいおい、あちこちのパーティに出席した際に紹介すればいいのではないかと思っている次第です。シュザンナ嬢も、きっとその方が気が張らなくていいとお考えでしょう」
「そんなことをしたら、ドレスが余分に要りますわよ?」
母がむっつりと注意した。
伯爵はへ?と言った顔を示した。
「同じドレスを着て訪問するわけにはいかないではありませんか」
母が指摘したが、伯爵はにっこりした。
「大丈夫ですよ。間を空けて、被らないように行くのです。それと、気にしなければいいのです」
「なるほど」
ついうっかり声に出して言ってしまった。
そんな考え方もあるのか。
バイゴッド伯爵が私の方を向いた。
「ドレスごとき気にやむことなく、ちゃんと社交に励まないといけません。いろいろあるのですよ、あなたにはお分かりにならないと思いますが」
毎回同じドレスで出席されたら、多分、私が気に病まなくても、出席される社交界はものすごく気にするのではないかしら。
「申し訳ございません。何事もおっしゃるようにいたします」
私にはまた、頭を下げて陳謝した。
だが、続きをしゃべった。
私が意見を言うのをバイゴッド伯爵が好まないのに気が付いていた。
「でも、社交界に出入りするのに、ドレスは大事です」
バイゴッド伯爵は、私の顔を見ながら答えた。
「大丈夫ですよ。母のお古がたくさんあるのです。ウォルターに仕立て直しをさせれば、あなたぐらいなら十分でしょう?」
あなたくらい……
ははあ。
これは、婚約破棄の話を聞いたのだなと、ピンときた。
器量が悪く、嫁の行き先に困っている娘だと、なめてかかっているのだ。
子を成し、やむなき場合のみ、公爵家の娘をもらったと紹介できれば十分なのだろう。
「もう、結構!」
母が立ち上がった。
「エレン?」
バイゴッド伯爵があわてた。
伯爵は、私のことは、行き損ねの欠陥令嬢だと思っている。
だが、母の機嫌を損ねるわけには行かない。
欠陥令嬢を娶る慈善家の彼にとって、母と公爵家は唯一のメリットなのだ。
こんな娘を正妻として結婚しようとするのだ。感謝されても、話を反故にされる理由はないはずだ。
伯爵はそう信じていたので、母の不機嫌に当惑した。
「この結婚はもう少し考えましょう」
「できれば早く結婚したいと」
「待てないなら、それはそれで結構!」
出た。
母、お得意の問答無用。
「バイゴッド伯爵、ここに留まられる必要もございませんわ。バイゴッド領はこの近く。いつでもお遊びにいらしてくださいませ。ね? グレシャム侯爵」
このような社交上、聞いたこともない失礼千万なお断りをかまされた断崖絶壁状態で、突然同意を求められたのでは、伯父があわてふためき、何かうまいこと言えるわけがなかった。
「あ? ええ、そう。あの、えーと……」
「グレシャム侯爵も、ああおっしゃってますわ。今日のところはお引き取りを」
グレシャム侯爵は何も言っていないが、母は冷たい声で言った。
「お送りいたしましょう」
私は立ち上がった。
母と伯母、伯父は、びっくりして顔を上げた。
私は、メガネを外すと、バイゴッド伯爵を案内した。
「出口はこちらですわ。伯爵」
伯爵は目が点になっていた。
思っていたのとは、全然違う娘だったのだろう。彼は、みじめでひどく不細工な、そして全く自信なさげな哀れな娘を予想していたのだろう。
私が庭であまりしゃべらなかったので、そのイメージは確たるものになったらしい。
こうやって、向かい合って時間をかけてよく見ると、バイゴッド伯爵は身なりもどことなく古ぼけていて、付けている宝石も二流品だと言うことが目についた。
それでも、話が合えばもちろん結婚相手として考えるのだけど、人を指で指す癖や、あなたはお若いからわからないでしょうと言うフレーズが、ふんだんに盛り込まれるあたり、うまく行かない気がする。
だけど、とにかく、どんなに頑張っても母の機嫌を損ねたのだ。彼に二度と会うことなどあるまい。私は安全になったのだ。
私は執事の後ろでさっぱりとした笑顔で伯爵を見送った。
「あ、あの、婚約の件ですが……」
伯爵は往生際悪く取りすがった。あるいは状況が呑み込めていないのかもしれなかった。
「母が再考すると言っておりますので」
「それなら、あなたからお勧めいただけますか? 嫁に行けないのはお辛いでしょう?」
伯爵のこの言葉に、グレンフェル家の執事は顔色を変えたし、私は思わず言った。
「あなたの今のお言葉は、必ず母に伝えましょう。しかし、嫁に行けないとはどう言う意味ですか?」
伯爵はうろたえた。
自分でも失言だと思っているらしかったが、今更取り返しはつかない。
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私は、少し古びた馬車をガタピシ言わせながら出て行く伯爵を満足して見送った。多分、二度と会わなくても済むと思うわ。
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