【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?

buchi

文字の大きさ
55 / 58

第55話 伯母の邸宅にて

しおりを挟む
婚約は契約書にまとめられ、式は私の卒業を待ってすぐと決められた。



母の所有する使っていない別邸を侯爵家の費用で改装し、新居に使うことなど、細かい取り決めも行われた。



女性からの告白案件の増加により、私の事例が問題視されることがほとんどなくなったため、学園でイチャイチャする必要はもうなかった。むしろ、禁止された。



「残念だ」



ケネスはうなったが、風紀監督のブラウン女史はとにかく、あろうことか彼女の尻馬に乗ったアーノルドまでが禁止してきた。



「越権行為だ!」



ケネスは抗議したが、ブラウン女史はうっかり笑い出し、アーノルドは真剣に言った。



「そんな真似は、自邸かデート先でやれ」



さらに、なぜか真剣に付け加えた。



「目の毒だ」



アーノルドが真剣になった理由がわかったのは、だいぶん後のことになる。







そこで、私はケネスをグレンフェル侯爵家へ誘った。



母が今晩は晩餐会に招かれていて遅くなるので、グレンフェル侯爵夫妻のところへ行っていいと許可をもらえたのだ。



正門は厳めしい鋳鉄製だったが、中に入った途端、ケネスは言った。



「懐かしい。あの庭だ!」



客間に通されると、ニコニコしている伯母が出てきて言った。



「そうね、13歳の時以来、入れませんでしたものね」



伯母はケネスがうずうずしているのを見ると、笑って許した。



「シュザンナを連れて庭に出てきてもいいわ。なつかしいでしょう。ここで夕餐を食べてらっしゃい。あなたのお母さまは、バルゾー卿の晩餐会に行って遅くなるはずよ。気にしなくていいわ」



勝手知ったる他人の家。ケネスは子供の頃と同じように、私の手を握ってフランス窓から庭に出て行こうとしていた。



後ろで伯父の咳払いが聞こえた。



「大丈夫かな?」



「庭師のエディとジョーが巡回しているのよ。大丈夫よ」



伯母のおだやかな笑い声が聞こえた。







私はケネスに引きずられるようにして、庭に出ていった。



でも、もう、子どもの頃のように、手を握ってぐいぐい引っ張っていくケネスじゃない。



私の様子を見ながら歩調を合わせてゆっくり歩いてくれる。舗道の敷石がゆがんでいたりすると、手を取って歩みを緩めてくれた。



伯母の家の庭を久しぶりにケネスと歩くと、彼の変わりようにちょっと衝撃を受けた。



もう立派な大人だった。体の大きい、昔も力ではとても敵わなかったが、今はそれ以上に差は歴然としているだろう。



だけど、ケネスの昔からの、私に向けられた特別な感情はそのままだった。

とても気になるらしく、かまって欲しそうな感じ。視線を感じる。





今は顔に向けられるケネスの視線が熱い。



婚約が正式に決まってから、カリカリした焦燥感はなくなったけれど、代わりに熱っぽさを感じるようになった。



目が合うとにっこりする。



よだれでも垂らしそうな、嬉しそうな顔だ。



こっちまで赤くなってしまいそうで目線のやり場に困った。







この庭でケネスと一緒は本当に久しぶりだ。



両親が帰国して以来、会えなかった。



今日は母が晩餐会に行っていて遅いのだから、遅くなってもきっと怒られない。母は、私が自邸にいないと気にするのだ。





「ねえ、覚えてる? あそこに庭師の小屋があったの」



「覚えているわ」



庭はぐるりを塀で囲われていて、隣はオズボーン家だった。

私は庭を越えて、オズボーン家へ侵入したことがなかったので知らなかったが、実は侵入ポイントがあって、子どもの悪戯心をそそっていたらしい。



「ここから出入りしてた」



庭師の小屋の奥に小さな通用門があった。通用門と言うより、塀が崩れた後を木の板を立てかけて修繕しただけように見えた。庭師の物入れ小屋のちょうど裏に当たり、冒険好きの子どもには堪えられない秘密の出入り口だ。



「使用人も庭師以外知らないんじゃないかな」



それでしょっちゅう出入り出来ていたのか。



「子どもの頃の記念の出入り口だよ。君にぜひ知って欲しかったんだ」



彼が笑顔で手招きするので、こんな狭いところを出入りするのはどうかなと思ったが、今日は軽いドレスを着ていたし行ってみることにした。





ドキドキしながら、くぐり抜けると、オズボーン家の庭だった。



「ようこそ」



ケネスが笑っている。



オズボーン家はこの屋敷が本邸なので、庭も広い。

ここは隣家との境界に近く、見通しがきかないように林のままになっていた。



「まあ……まるで森の中にいるようだわ」



大昔に邸宅が建てられた頃、もう何十年も前だろう、その頃に余った石材が積み上げられて小山になっていて、ちょうど頃合いに座れるような高さだった。



「ちょっと、神秘的な感じさえあるのね。町の真ん中なのに」



この場所は、石材と塀に挟まれ、誰からも見えない。背の高い木々が見下ろしているだけだ。



オズボーン家の人たちはこんなところに息子がいるとは夢にも思っていないだろうし、グレンフェル家の人たちは噴水のそばで語らっているか、庭を散歩していると思っているだろう。



「ここに座ろう」



灰色の目の魅力は抗いがたい。



手を取って、座らさせられた。



近すぎる。近すぎるけど、突き放せない。

背中に手を回されて、体ごと引き寄せられた。



彼の手が、私の指を捉え、手を捉えた。



「学園の食堂では何もできなかった」



(そんなことはありません。恥ずかしかったです)



背中の手はまるで鋼鉄のようだった。逃げられない。近いままだ。



「あの……恥ずかしいわ。放して?」



ケネスは返事をしなかった。ますます強く抱きしめられただけだ。



絡ませた指を外そうとしても、手首をつかみ直されると、自分の手なのに動かせなかった。



彼は自分の頬に、いかにも愛おしそうに私の手を持っていって当てた。



「もう一度言って欲しい……好きだって」



「……好きよ」



ケネスは私の手にゆっくりとキスした。



それから目を上げて私の目を見つめた。



何と言う威力! 



だが、同時に、彼は私の指を自分の口元に持っていくと、唇で吸い込み舌で指をなめ始めた。



「あ、あの……てを、指を返して……」



声が震えた。



手は放してもらえなかった。



彼はぐっと身を寄せて、顔を近づけた。私の指をくわえたまま。



「指を放して欲しいんだね?」



ようやく指をなめるのをやめると、顔から数センチのところで彼は聞いてきた。



うんうんとうなずくと、彼はほんの少し口を開くと、その唇が、次は指ではないものをむさぼり始めた。



ずいぶん時間がたった気がしてから、やっと彼は唇を離した。



「婚約者同志がキスするのは当たり前なんだ」



その説明っぽいセリフはいったい……なんなんだ。言い訳?





ケネスは昔からかっこよかった。

すてきな人だった。



だけど、いつも何かおしりのどこかがこそばゆくなるような危険を感じる人物だった。



特に私を見る時の目がどこかおかしい時がある。



もしかして指フェチの変態だから?



おそるおそる口に出して確認すると、彼は言った。



「なに言っているんだ。全然わかってない。まるごとフェチだよ! 今は指だけで我慢してるのに!」







*********





「君の彼女だけど……」



ある時、オスカーがもったいぶって学園でケネスに話しかけた。



「婚約に持ち込む方策として、既成事実化も一応提案してみたんだが……」



ケネスは半目になった。



サービスとして行き届きすぎている。



大体、提案内容が不穏当だ。





「ケネスはそんな人じゃないって怒られてしまったよ」



オスカーはため息をついて見せた。



「僕がケネスも想像してるって教えてあげたのに、これだよ」



「なんだと? 余計な……」



「君を信じてる。ちょっと間違っているような気もするけど。可愛すぎる。だけど先は長いね」



「俺の婚約者だ。余計なお世話だ。お前こそ、考えるな」



「うん。ごめん」



ものすごくめずらしいことにオスカーが謝った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々
恋愛
 先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。  また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?  これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

処理中です...