真実の愛を貫き通すと、意外と悲惨だったという話(相手が)~婚約破棄から始まる強引過ぎる白い結婚と、非常識すぎるネチ愛のいきさつ

buchi

文字の大きさ
21 / 64

第21話 王妃による襲撃

しおりを挟む
 どうしてビンセント様の馬車におとなしく乗ったのかと言うと、甘い言葉とは裏腹に、何かが起きていることを感じ取らないではいられなかったからだ。

 ビンセント様との付き合い短いけれど、歯に衣着せぬ彼の言葉からは、色々な事が読み取れる。

「あなたの婚約者は悔しそうな顔をしていて、父上は何かありそうだと言う顔をしている」

 ビンセント様は喉の奥でクックッと言うような笑い声をあげた。

「あなたって、不思議な人ね」

 私は思わずビンセント様に言った。

「オーガスタ嬢、それを言うならあなただって、僕にしてみれば不思議な人ですよ? どうして、たいして知りもしない僕に助けを求めたのです?」

「それは……」

「僕があなたに好意を寄せていることを感知したのでしょうか?」

 ビンセント様は薄く笑った。

「違いますよね。僕とあなたは利益が一緒なのです。すなわち、殿下の妻にはリリアンを当てること」

 その通りだ。だが、本当はそれは卑怯な気もしていた。

「エレノア嬢が殿下の妻になりたがっていることがわかっているのに、エレノアを味方をしないあなたは、姉としてどうなのでしょうね」

 それは……説明しにくいことだ。

 だって、エレノアは、王太子殿下と結婚しても幸せになれない。

 妹の夢を潰してしまって、申し訳ないなと思う。それから妹には決して納得できないだろう。彼女には私の考えが理解できない。

 人の将来なんかわからない。
 でも、殿下と結婚する人は確実に不幸になる気がする。

 そしてその役割をリリアンに振ろうとしているので、リリアン嬢の兄のビンセント様に対して引け目というか、自分のことを卑怯なのではないかと感じているのだ。

「あなたの考えていることはわかります」

 ビンセント様は軽い調子で言った。

「殿下と結婚してもメリットはないってことですよね」

 私は答えなかった。だが、それは肯定だった。

「かわいい妹をそんな損な役回りにしたくないと思っているのでしょう?」

「かわいい妹だなんて、そんな」

 思わず本音が出た。ビンセント様は声をあげて笑った。かわいらしい笑い声だった。

「僕だってリリアンにはお手上げです。ついでに言うなら、父にもね。僕は殿下との結婚は、我が家にとって得にはならないと思ってる。でも、父は千載一遇のチャンスだと考えている」

 私は改めてビンセント様の顔を見た。

 それなら、なぜベロス公爵を呼んだのだ。

 ベロス公爵は、娘のリリアンと殿下との結婚を強く望んでいる。

 私を無理やり王太子妃に仕立て上げようと言う目論みがあると知らせれば、妨害しに飛んでくるに決まっている。リリアンを王太子妃にしたいからだ。

「あなたが王太子妃になれば、僕は仕事がやりにくくなります」

 私は目を見張った。

「仕事といっても大した事ではありません。僕は、上手に世の中を渡っていきたいだけなんです。それだけなんですよ。……なのに、あの父と妹では難しいのです」

 彼の仕事とやらを聞くことは出来ないだろうな。
 そんな権利は私にはない。

「だから、あなたに恩を売りたかったんですよ」

「え?」

 ビンセント様は美しい顔に似合わず、ニヤリと悪い笑いを浮かべた。

「あなたとリッチモンド公爵家にね」

 それから、窓から馬車の外を指し示した。

「この馬車はね、遠回りをしている。まっすぐに公爵邸に向かっているわけじゃない」

 私は急に心配になった。何をするつもりかしら。

「大丈夫ですよ。あなたとの話を楽しんでいるだけです。説明をくどくどしなくても、わかってもらえる相手と話すのは楽しみですね」

 私はビンセント様の鋭敏に良く動く目を見つめた。油断ならない目だ。

「それから、恨み言を聞いてもらおうと思って。僕がせっかくエバンス夫人のお茶会に参上したと言うのに、あなたときたら大あわてするだけでした。本当にがっかりしましたよ。もしかして、僕の理想が生きた令嬢の姿をして現れたかもしれないと真剣に思っていたのに」

 何の話? 何の話? エバンズ夫人のお茶会で何か失礼をしたかしら?

 彼はわざとらしくため息をついて見せた。

「僕は勝てない試合には出ない主義なんです。だから、潔くあきらめて、代わりにラルフに恩を売ろうと考えたんです」

 ビンセント様はニヤリとした。

「今頃、王家の別動隊があなたの家の馬車を襲撃してる頃でしょう」

「えっ?!」

 私は馬車の中で立ち上がろうとして、ビンセント様に止められた。

「おお、ダメです。揺れているのに。それとも僕が抱きしめてもいいですか?」

 いや、それは困る。

 彼は笑って言った。

「王家と言うより……王妃様かな。どうしてもあなたのことを嫁にしたい」

「どうしても?」

「そう。どうしても」

 ビンセント様は軽い調子で説明した。

 つまり、王太子殿下に施政は任せられないと。有能な妻が必要なのだと。

「殿下は女遊びでもしていればいいでしょう。妃殿下があなたなら、その間に着々と物事は進んでいく。そして、あなたには有能なあなたの父上が率いるリッチモンド公爵家一族が付いている。ベロス公爵家とは比べ物にもならない」

「私に兄弟はいませんわ。リッチモンド公爵家一族と言われても……」

「ラルフがいます。あなたがラルフと結婚しないと言うなら、ラルフはエレノア嬢と結婚するでしょう。それが無理なら、ラルフは養子になるでしょう」

 私は思わず顔をゆがめた。

「ラルフは公爵家の娘なら、誰とでも結婚するのかしら」

「それはそうでしょう。あなたの方が好ましいのかもしれませんが、あなたは王太子妃候補になった。長年かけて王家は自分たちの息子と王家の行く末を見据えてきた。国王陛下や王妃様だけではない。重臣たちも、何人もの娘たちを候補に挙げ、選別して、絞っていった。そして、あなたはどうしても残ってしまう」

 ビンセント様は私の顔をのぞき込んだ。

「総合点です。実家の実力、立場、本人の能力と性格、それに美貌です。殿下に嫌われてはなりませんから。嫌われるような娘では話は始まりません」

 それは、うんざりするくらいよく理解している話だった。

「殿下はあなたに執着した。いろんな娘たちを遍歴してもあなたのところに戻って来てしまう。殿下をよく理解してやさしく扱い、嫌がることは代わりを務める。代わりが務まる能力がある。だから予定未来だった」

「他家のことを、どうしてあなたはそんなに良くご存じなの?」

 とげとげしく私はビンセント様に聞いた。違うかもしれないでしょう?

「知っている者は知っています。そして私のような立場の者は細かい事実の断片を手に入れることが出来る。そして積み重ねてみれば、大体のところは読めます。今回のことだってそうです」

 馬車は河岸を走っていた。私の家からはかなり遠い。

 ビンセント様は私の視線を追った。

「王妃の手の者は、リッチモンド家の馬車を襲う。狙いはあなただけ。どうしても手にしたいあなたを拉致して王宮にとどめる。父上とラルフは絶対に安全です。あなたを人質に、これから彼らの能力を王家の為に使ってもらおうと考えているからです。でも、いかにリッチモンド家の馬車を追おうとも、あなたは乗っていない」

 本当かしらと私はビンセント様の顔を見た。表情を読もうと試みた。そろそろ暗くなってきていた。

「あなたがいなかったら、王妃の手の者はあなたの父上とラルフを解放するでしょう。何か適当な言い訳を言いながら。伝言したかったとか、申し訳なかったのでお詫びを言いたかったとか。馬車を追いかけてまで言うような用事ではありません。そして帰るでしょう」

 この男の言うことは本当なのだろうか?

 そこに何のメリットがあるのだ? ベロス公爵家の嫡子にとって?

「さあ、リッチモンド家の邸宅に行きましょう。王妃の手勢は多くない。一台の馬車を追うことはできても王都中を探し回るような大掛かりなことはできません。明日は結婚式を挙げるのでしょう? 今晩さえ無事に過ごせば、あなたはラルフと結婚して自由になります」

 カラカラと馬車はなじみの光景に近づいてきた。リッチモンド家の屋敷は近い。

 門には早くもカンテラが点けられ、門の周りには警備の者がいつもより多く見受けられた。

「誰だ!?」

 門に近寄ると、鋭い声で誰何すいかされた。

 ビンセント様が顔を出した。

「リッチモンド公爵にお目通りを。ベロス家のビンセントだ。中へ通せ」

 ざわざわとしていたが、正面玄関の車回しまで馬車が入った時には父もラルフも、母も執事たちも出てきていた。

 ビンセント様が先に下りて、私を丁重に降ろした。

「ベロス殿……」

 父が珍しく相当動揺した声でビンセント様に話しかけた。

「追手がかかったでしょう?」

 何事もなかったように、ビンセント様は父とラルフに尋ねた。

「知っていたのか?」

「勘ですけれどね」

 ビンセント様は客間に通され、私はラルフに付き添われて自分の部屋に引き取った。

「無事でよかった」

 ラルフは心底安心したようにため息をついた。
 本気で心配してくれていたようで、思わずほろりとした……だが!

 問題はそこじゃない。ラルフは、私の寝室の前まで来たけど、一緒に中に入って、後ろ手にドアを閉めてしまったのだ。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

処理中です...