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第5話 ダンスパートナー募集中
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ジルは結構とんでもない奴だった。
『死ねばいいと思う。呪いを覚えたから実験したい』
誰のことかと思ったら、ピンカートン教授のことだった。そのあとには呪いの方法がこまごまと書いてあった。夜中にコウモリの血を絞って、ドドモリとか言う薬草の汁と混ぜて煮込む、そして……なんだか効き目がありそうだ。怖すぎる。
「いきなり人の命を狙うつもり?」
その呪いとやらが本物かどうか、確認する方法がなかった。とりあえず禁忌じゃないだろうか。
ピンカートン教授は、小太りでいつも汗をかいていた。彼の科目は神学史なのだが、猛烈に眠い。そのうえ、うっかり寝てしまおうものなら容赦なく寝ている生徒の手を定規で打つのだ。
『教会がきれいごとばっかり教えるからだ。教皇が浮気してた話でも教えてくれりゃ面白いと思うよ』
教皇の浮気って、事実じゃなかったら不敬罪になるんじゃないのかな?
『歴史上の話だよ! 事実だから、いいんだ』
そうなの? でも、教皇に正式な妻はいないので、浮気と言うんだろうか。戒律やぶりと言うんじゃないかな?
『あ。そうだね。フロウは頭いいな!』
褒められるような話じゃないと思うけど。それと、授業が眠いから呪うのはどうかと思うのだが、その数日後、実際にピンカートン教授が体調不良で授業を休んだ時は一瞬冷や汗をかいた。
「いや、まさかね?」
私は食堂の片隅で、咲き誇るアウレジアの花を見つめながらつぶやいた。
本を開くたびにピンクのしおりが目に入る。
この頃は、あの本よりもしおり目当てに図書館に通っているような気さえする。
私はその日の放課後、図書館に行かずに食堂でジュディスと待ち合わせをしていた。
ジュディスから呼び出されたのだ。
込み合う時間帯ではないので、アンドレア嬢だのマデリーン嬢だのと遭遇する危険性はなかった。
「なにがまさかなのよ?」
いつの間にか近付いてきていたジュディスが聞きとがめた。
「あ、何でもない。何でもないの」
私はあわてて、ジュディスに向かって笑顔で答えた。
ジュディスは不審そうな目つきで私を眺めたが、とりあえず椅子に座った。
「いいこと? 生誕祭のあと学校は休みに入るけど、その前に学園主催のパーティが開かれます」
私はジュディスの顔を見つめた。ジュディスは真剣だった。
「わかってる?」
「え? も、もちろん知ってるわ。ダンスパーティがあるって。姉も踊ったって」
「あなたにパートナーのあては?」
私はびっくりした。パートナーのあてなんかあるわけない。男子生徒とは話したこともない。
「あるわけないじゃない」
ジュディスの眉毛が今度こそキッと逆立った。
「パートナーのあてがないなんて、どういうことなの。お高く留まっているわけでもないのに」
「踊らなければいいだけじゃない?」
「ダメなの! 女子はダメなの!」
「どういうこと?」
「男子より女子の方がずっと数が少ないの。だから、声がかからないだなんて恥もいいとこなのよ!」
「ああ!」
私は思い出した。
「それで、昨日、ポール・ギアが何か話しかけたそうにしてたのかも?」
「誰?それ?」
「ええと、アダムス先生が大嫌いな商家の息子よ。丸っこくて瓶底メガネの」
「却下!」
ジュディスは即時に裁定を下した。
「それから、だいぶ前だけど、エクスター殿下が話しかけてくれたことがあったけど……それだけね」
ジュディスはあからさまにため息をついた。
「だから、そう言う出会いは大切にしろとあれほど……」
「ポール・ギアじゃダメなのね?」
私は確認した。
「彼、イケメンなの?」
私は首を振った。
「よく知らないけど、イケメンってああいう顔じゃないと思う」
「……イケメンかどうかの区別もつかないなら、何をあてがっておいてもいいんじゃないかしら。選り好みしないなら、楽っちゃ楽だけど……」
ジュディスが何事かブツブツ口の中でつぶやいている。何の話だ。私は選り好みはするぞ? 一番好きなのは、一人でいることだ。
「商家の息子で爵位なしでイケメンでもないなら、いいとこなしじゃないの」
「で、でも、私もいいとこなんかないし」
ジュディスは拳でテーブルをドンと叩いた……ふりをした。レディがすることではない。ここは食堂だ。
「とにかく、誰もパートナーがいないなんて困るのよ!」
「誰が?」
「あなたが、よ! それに私だって、お世話になっている伯爵に会わす顔がないじゃない」
私はげっそりした。
「父には私から説明するわよ」
「ダメよ、フロレンス。なんて説明するつもり? いいこと? この学園では、相手がいなかったら恥をかくのよ?」
『死ねばいいと思う。呪いを覚えたから実験したい』
誰のことかと思ったら、ピンカートン教授のことだった。そのあとには呪いの方法がこまごまと書いてあった。夜中にコウモリの血を絞って、ドドモリとか言う薬草の汁と混ぜて煮込む、そして……なんだか効き目がありそうだ。怖すぎる。
「いきなり人の命を狙うつもり?」
その呪いとやらが本物かどうか、確認する方法がなかった。とりあえず禁忌じゃないだろうか。
ピンカートン教授は、小太りでいつも汗をかいていた。彼の科目は神学史なのだが、猛烈に眠い。そのうえ、うっかり寝てしまおうものなら容赦なく寝ている生徒の手を定規で打つのだ。
『教会がきれいごとばっかり教えるからだ。教皇が浮気してた話でも教えてくれりゃ面白いと思うよ』
教皇の浮気って、事実じゃなかったら不敬罪になるんじゃないのかな?
『歴史上の話だよ! 事実だから、いいんだ』
そうなの? でも、教皇に正式な妻はいないので、浮気と言うんだろうか。戒律やぶりと言うんじゃないかな?
『あ。そうだね。フロウは頭いいな!』
褒められるような話じゃないと思うけど。それと、授業が眠いから呪うのはどうかと思うのだが、その数日後、実際にピンカートン教授が体調不良で授業を休んだ時は一瞬冷や汗をかいた。
「いや、まさかね?」
私は食堂の片隅で、咲き誇るアウレジアの花を見つめながらつぶやいた。
本を開くたびにピンクのしおりが目に入る。
この頃は、あの本よりもしおり目当てに図書館に通っているような気さえする。
私はその日の放課後、図書館に行かずに食堂でジュディスと待ち合わせをしていた。
ジュディスから呼び出されたのだ。
込み合う時間帯ではないので、アンドレア嬢だのマデリーン嬢だのと遭遇する危険性はなかった。
「なにがまさかなのよ?」
いつの間にか近付いてきていたジュディスが聞きとがめた。
「あ、何でもない。何でもないの」
私はあわてて、ジュディスに向かって笑顔で答えた。
ジュディスは不審そうな目つきで私を眺めたが、とりあえず椅子に座った。
「いいこと? 生誕祭のあと学校は休みに入るけど、その前に学園主催のパーティが開かれます」
私はジュディスの顔を見つめた。ジュディスは真剣だった。
「わかってる?」
「え? も、もちろん知ってるわ。ダンスパーティがあるって。姉も踊ったって」
「あなたにパートナーのあては?」
私はびっくりした。パートナーのあてなんかあるわけない。男子生徒とは話したこともない。
「あるわけないじゃない」
ジュディスの眉毛が今度こそキッと逆立った。
「パートナーのあてがないなんて、どういうことなの。お高く留まっているわけでもないのに」
「踊らなければいいだけじゃない?」
「ダメなの! 女子はダメなの!」
「どういうこと?」
「男子より女子の方がずっと数が少ないの。だから、声がかからないだなんて恥もいいとこなのよ!」
「ああ!」
私は思い出した。
「それで、昨日、ポール・ギアが何か話しかけたそうにしてたのかも?」
「誰?それ?」
「ええと、アダムス先生が大嫌いな商家の息子よ。丸っこくて瓶底メガネの」
「却下!」
ジュディスは即時に裁定を下した。
「それから、だいぶ前だけど、エクスター殿下が話しかけてくれたことがあったけど……それだけね」
ジュディスはあからさまにため息をついた。
「だから、そう言う出会いは大切にしろとあれほど……」
「ポール・ギアじゃダメなのね?」
私は確認した。
「彼、イケメンなの?」
私は首を振った。
「よく知らないけど、イケメンってああいう顔じゃないと思う」
「……イケメンかどうかの区別もつかないなら、何をあてがっておいてもいいんじゃないかしら。選り好みしないなら、楽っちゃ楽だけど……」
ジュディスが何事かブツブツ口の中でつぶやいている。何の話だ。私は選り好みはするぞ? 一番好きなのは、一人でいることだ。
「商家の息子で爵位なしでイケメンでもないなら、いいとこなしじゃないの」
「で、でも、私もいいとこなんかないし」
ジュディスは拳でテーブルをドンと叩いた……ふりをした。レディがすることではない。ここは食堂だ。
「とにかく、誰もパートナーがいないなんて困るのよ!」
「誰が?」
「あなたが、よ! それに私だって、お世話になっている伯爵に会わす顔がないじゃない」
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