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第6話 相手をしてくれる男を探さねば
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入学前から、ダンスパーティの話は聞いていた。
姉が、それは楽しそうに話していたからである。たくさんのお申し込みをいただいて、姉は誰をパートナーにするか決めかねていた。
そう、生誕祭には男女がペアになって踊る風習がある。これをダンスパーティと言う。
自分とは関係ないと思っていた。
「パートナーを決めないといけないでしょ? パートナーを!」
しかし、目の前のジュディスは鼻息も荒く詰め寄った。
ジュディスは、私の顔のことを堂々たる容貌だとか言うけど、ジュディスの方がよっぽど迫力があると思う。
「でも、踊らない人もいるって聞いたんだけど? 結構多いってよ?」
「それは、男子の話だって言ったでしょ!」
ジュディスによれば、学園は男性の方が数は多いらしい。
考えてみれば、それはそうだ。
男性は多少無理をしても学園に来る。次男三男は学問か武芸に長じて、生きる道を探さなくてはならないし、跡継ぎ息子には見栄がある。他の貴族と交友を深める必要もあるだろう。
女性の場合は、男性ほど切実な理由はない。勉学に秀でていれば、宮廷女官になるにも、どこかの高貴の家の家庭教師になるにも有利だが、そんなことのために高い学費を払う家はない。裕福な貴族の娘たちが良縁を求めて学園に来るのだ。
「ダンスの相手の対象にならないのは、貧乏特待生くらいなものよ! 富豪の平民の娘だって申しこまれているのに、あなたと来たら……」
「でも、あと数週間あるし……?」
「どうしてそんなに呑気なの?」
ジュディスの雷が落ちた。
「学園のパーティはいわば公的なもの。学園には女性の方が少ないのに、あなたみたいな伯爵家の娘にエスコートする男性がいないなんて、よほどブスか、性格に難があるか、変人ですって証明しているみたいなものなの!」
そうなのか。なんだか、ショックだ。
「兄のオリバーに頼もうと思っていたのよ」
私は言い訳を思いついて、言ってみた。
「お兄様のオリバー様にはお仕事があります」
我慢しかねると言った様子でジュディスは解説した。
いや、私だってそれは知っている。兄は忙しい。
「手を煩わせるなんてできません! それで、わざわざエドワード様に来てもらったのよ」
え? 誰?
私はさっきからジュディスの後ろで、愛想のよい顔でこちらをうかがっている上級生らしい男性を下からこっそり見上げてみた。
さっきからずっと、この男性はいったい誰だろうと思っていたのだ。
黒いくせ毛に、浅黒い肌色の背の高い男性だ。なかなかどうしてハンサムだ。
「ジュディスのどういう知り合いなの?」
なんかすごい。必要に応じて男性を工面してくるだなんて神業だ。
ジュディスが珍しく顔を赤くした。
「え? 何々?」
おお。何があった、ジュディス?
「ええと……あの、父にはまだ言っていないけど、私、アレンビー卿のご子息と婚約を決めようかと……」
アレンビー卿のご子息ですって? すごい! ジュディス!
アレンビー卿は財務卿だ。なんてことだ。大臣の家の息子か。爵位は卿だが、叙爵の可能性だってある。少なくとも、お金で不自由することはないだろう。
「わあ。おめでとうと言ったら早すぎるのかもしれないけど、すごいわ! ジュディス!」
「ありがとう」
ジュディスが珍しくしおらしく答えた。
「じゃあ、この方がアレンビー卿の令息なのね?」
私は嬉しくなってはしゃいで、エドワードと呼ばれた青年を振り返った。
だが、二人はあわてて大まじめに否定してきた。
「ちがうの。彼はリチャードではないの。リチャードの友達よ、ハーヴェスト様は」
「エドワード・ハーヴェストと申します」
くせ毛の黒髪の男性は楽しそうに自己紹介した。
「リチャードから、ハーヴェスト様に誰か女性を紹介して欲しいって頼まれたの」
「え?」
「だって、パートナーを探している男性は多いのよ。彼はリチャードの知り合いなの」
文官繋がりか。
私はハーヴェスト様をじっくり眺めた。
身なりが良く、こんな話をしているのに落ち着いていて、むしろ面白がっているような表情だ。
「私なんかでいいのかしら?」
私は傍らのジュディスに小さな声で聞いた。
「なにか……大人な感じがする方だわ。私で大丈夫かしら……」
「そんなことを言わずに、承諾なさってくださいませんか? ウッドハウス嬢」
軽い調子でハーヴェスト様は言い、ジュディスが横で強くうなずいた。
「ハーヴェスト様は学生なのですか?」
ハーヴェスト様は一瞬またたきをした。
それから、作り笑いみたいな微笑みを浮かべると、答えた。
「あなたより年上ですよ。かわいいお嬢さん」
「文句ないわよね?」
ジュディスにすごまれた。
「え。あの、でも、突然で……」
「はっきり聞くけど、誰かから相手を申し込まれたことがあるの?」
ジュディスが聞き、私は焦った。
「ないけど……」
「今後の見込みはどうなの? 誰か、男子生徒から声をかけられたことは?」
「ないけど……」
男子生徒は、ちょっと敷居が高いと言うか、話しにくいなと思っていた。女子同士の方が、話しやすいと思う。
男性と話す必要性を感じないと言うと、ジュディスはげっそりした顔をした。
「授業後とか、食堂とかで、みんな、着々と相手を決めていってるのよ? あなたぐらいなものよ? ぼーっとしてるのは!」
ジュディス、ひどい。私は耳栓をしたくなった。
「それはどうでもいいから、とにかく承諾しなさい」
エドワード・ハーヴェスト様は、全部聞こえないふりをしていた。
ジュディスの剣幕に押されて、私は彼の方に向き直った。
「あ、あの。こんな私で申し訳ございません。いつでも、断ってくださって構いません」
ジュディスに手をぎゅっと握られた。
「断ってもらっちゃ困るのよ?」
「あ、断ってもらっては困ります。よろしくお願いします」
私はあわてて言ったが、ハーヴェスト様は、途中からおかしくて仕方ないような表情に変わっていった。彼は笑い顔で言った。
「よろしくお願いします。ダンスパーティの前に、フロレンス嬢をお茶くらいは誘いますね」
私は驚いてエドワード・ハーヴェスト様の顔を見つめた。
「あ、あら、そこまでお願いするのは申し訳ありませんわ」
「ダンスのパートナーを務めるのですよ?」
「そ、そうですね?」
「では、よろしくお願いします」
最後にまたニコリと笑って彼は去って行き、私はその後姿を見送った。
なんだか、ものすごく事務的だ。これが申し込みと言うものなのか。もっと、大変なのかと思っていた。
利害関係が一致したと言うことか。政略結婚みたいだ。
それにしても、彼は、ほんとに学生なのだろうか。かなり年上に見える。
ジュディスは後ろで大きなため息をついていた。
「とにかく今回のダンスパーティはこれで乗り切れるわ。来年は自分で相手を見つけてちょうだい」
……来年もあるのか、ダンスパーティ。現実は厳しいな。
誰も私を誘ってくれない。
疲れて図書館に寄った私は、例の本を見つけてピンクの紙の友達の手紙を探した。
今日の出来事は、予想外と言うか、いくらジュディスでもあれはない気がする。
だってハーヴェスト様は変だ。
ダンスだって出来るらしいし、何と言うか物慣れた感じのする人が、パートナーに困っているだなんて変だ。自分でどうにか出来そうな気がする。
窓際のいつもの席に座り込んで、私は本を開いた。
ジルはいかにも学生らしい。ハーヴェスト様に比べたら、話の中身も感情的で子どもっぽい。ずっと安心できる。
いつもの本の中にちゃんと紙は入っていて、今日は結構な分量が書かれていた。
『フロウ、ダンスパーティの相手の女の子は見つかった?』
「え……」
図書館の片隅で私は思わず声を出した。ダンスの相手の女の子?
ジルは男の子だったの?
姉が、それは楽しそうに話していたからである。たくさんのお申し込みをいただいて、姉は誰をパートナーにするか決めかねていた。
そう、生誕祭には男女がペアになって踊る風習がある。これをダンスパーティと言う。
自分とは関係ないと思っていた。
「パートナーを決めないといけないでしょ? パートナーを!」
しかし、目の前のジュディスは鼻息も荒く詰め寄った。
ジュディスは、私の顔のことを堂々たる容貌だとか言うけど、ジュディスの方がよっぽど迫力があると思う。
「でも、踊らない人もいるって聞いたんだけど? 結構多いってよ?」
「それは、男子の話だって言ったでしょ!」
ジュディスによれば、学園は男性の方が数は多いらしい。
考えてみれば、それはそうだ。
男性は多少無理をしても学園に来る。次男三男は学問か武芸に長じて、生きる道を探さなくてはならないし、跡継ぎ息子には見栄がある。他の貴族と交友を深める必要もあるだろう。
女性の場合は、男性ほど切実な理由はない。勉学に秀でていれば、宮廷女官になるにも、どこかの高貴の家の家庭教師になるにも有利だが、そんなことのために高い学費を払う家はない。裕福な貴族の娘たちが良縁を求めて学園に来るのだ。
「ダンスの相手の対象にならないのは、貧乏特待生くらいなものよ! 富豪の平民の娘だって申しこまれているのに、あなたと来たら……」
「でも、あと数週間あるし……?」
「どうしてそんなに呑気なの?」
ジュディスの雷が落ちた。
「学園のパーティはいわば公的なもの。学園には女性の方が少ないのに、あなたみたいな伯爵家の娘にエスコートする男性がいないなんて、よほどブスか、性格に難があるか、変人ですって証明しているみたいなものなの!」
そうなのか。なんだか、ショックだ。
「兄のオリバーに頼もうと思っていたのよ」
私は言い訳を思いついて、言ってみた。
「お兄様のオリバー様にはお仕事があります」
我慢しかねると言った様子でジュディスは解説した。
いや、私だってそれは知っている。兄は忙しい。
「手を煩わせるなんてできません! それで、わざわざエドワード様に来てもらったのよ」
え? 誰?
私はさっきからジュディスの後ろで、愛想のよい顔でこちらをうかがっている上級生らしい男性を下からこっそり見上げてみた。
さっきからずっと、この男性はいったい誰だろうと思っていたのだ。
黒いくせ毛に、浅黒い肌色の背の高い男性だ。なかなかどうしてハンサムだ。
「ジュディスのどういう知り合いなの?」
なんかすごい。必要に応じて男性を工面してくるだなんて神業だ。
ジュディスが珍しく顔を赤くした。
「え? 何々?」
おお。何があった、ジュディス?
「ええと……あの、父にはまだ言っていないけど、私、アレンビー卿のご子息と婚約を決めようかと……」
アレンビー卿のご子息ですって? すごい! ジュディス!
アレンビー卿は財務卿だ。なんてことだ。大臣の家の息子か。爵位は卿だが、叙爵の可能性だってある。少なくとも、お金で不自由することはないだろう。
「わあ。おめでとうと言ったら早すぎるのかもしれないけど、すごいわ! ジュディス!」
「ありがとう」
ジュディスが珍しくしおらしく答えた。
「じゃあ、この方がアレンビー卿の令息なのね?」
私は嬉しくなってはしゃいで、エドワードと呼ばれた青年を振り返った。
だが、二人はあわてて大まじめに否定してきた。
「ちがうの。彼はリチャードではないの。リチャードの友達よ、ハーヴェスト様は」
「エドワード・ハーヴェストと申します」
くせ毛の黒髪の男性は楽しそうに自己紹介した。
「リチャードから、ハーヴェスト様に誰か女性を紹介して欲しいって頼まれたの」
「え?」
「だって、パートナーを探している男性は多いのよ。彼はリチャードの知り合いなの」
文官繋がりか。
私はハーヴェスト様をじっくり眺めた。
身なりが良く、こんな話をしているのに落ち着いていて、むしろ面白がっているような表情だ。
「私なんかでいいのかしら?」
私は傍らのジュディスに小さな声で聞いた。
「なにか……大人な感じがする方だわ。私で大丈夫かしら……」
「そんなことを言わずに、承諾なさってくださいませんか? ウッドハウス嬢」
軽い調子でハーヴェスト様は言い、ジュディスが横で強くうなずいた。
「ハーヴェスト様は学生なのですか?」
ハーヴェスト様は一瞬またたきをした。
それから、作り笑いみたいな微笑みを浮かべると、答えた。
「あなたより年上ですよ。かわいいお嬢さん」
「文句ないわよね?」
ジュディスにすごまれた。
「え。あの、でも、突然で……」
「はっきり聞くけど、誰かから相手を申し込まれたことがあるの?」
ジュディスが聞き、私は焦った。
「ないけど……」
「今後の見込みはどうなの? 誰か、男子生徒から声をかけられたことは?」
「ないけど……」
男子生徒は、ちょっと敷居が高いと言うか、話しにくいなと思っていた。女子同士の方が、話しやすいと思う。
男性と話す必要性を感じないと言うと、ジュディスはげっそりした顔をした。
「授業後とか、食堂とかで、みんな、着々と相手を決めていってるのよ? あなたぐらいなものよ? ぼーっとしてるのは!」
ジュディス、ひどい。私は耳栓をしたくなった。
「それはどうでもいいから、とにかく承諾しなさい」
エドワード・ハーヴェスト様は、全部聞こえないふりをしていた。
ジュディスの剣幕に押されて、私は彼の方に向き直った。
「あ、あの。こんな私で申し訳ございません。いつでも、断ってくださって構いません」
ジュディスに手をぎゅっと握られた。
「断ってもらっちゃ困るのよ?」
「あ、断ってもらっては困ります。よろしくお願いします」
私はあわてて言ったが、ハーヴェスト様は、途中からおかしくて仕方ないような表情に変わっていった。彼は笑い顔で言った。
「よろしくお願いします。ダンスパーティの前に、フロレンス嬢をお茶くらいは誘いますね」
私は驚いてエドワード・ハーヴェスト様の顔を見つめた。
「あ、あら、そこまでお願いするのは申し訳ありませんわ」
「ダンスのパートナーを務めるのですよ?」
「そ、そうですね?」
「では、よろしくお願いします」
最後にまたニコリと笑って彼は去って行き、私はその後姿を見送った。
なんだか、ものすごく事務的だ。これが申し込みと言うものなのか。もっと、大変なのかと思っていた。
利害関係が一致したと言うことか。政略結婚みたいだ。
それにしても、彼は、ほんとに学生なのだろうか。かなり年上に見える。
ジュディスは後ろで大きなため息をついていた。
「とにかく今回のダンスパーティはこれで乗り切れるわ。来年は自分で相手を見つけてちょうだい」
……来年もあるのか、ダンスパーティ。現実は厳しいな。
誰も私を誘ってくれない。
疲れて図書館に寄った私は、例の本を見つけてピンクの紙の友達の手紙を探した。
今日の出来事は、予想外と言うか、いくらジュディスでもあれはない気がする。
だってハーヴェスト様は変だ。
ダンスだって出来るらしいし、何と言うか物慣れた感じのする人が、パートナーに困っているだなんて変だ。自分でどうにか出来そうな気がする。
窓際のいつもの席に座り込んで、私は本を開いた。
ジルはいかにも学生らしい。ハーヴェスト様に比べたら、話の中身も感情的で子どもっぽい。ずっと安心できる。
いつもの本の中にちゃんと紙は入っていて、今日は結構な分量が書かれていた。
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