32 / 80
第32話 エドワードの話 その1
しおりを挟む
学園の休みは終わり、試験結果が発表され、生誕祭のパーティーは三日後に迫ってきた。
テスト結果はどう考えてもダンスパーティーより重要だろう。
学務課で封筒をもらい、中身をこっそり確認して、私は胸をなでおろした。
思っていたよりずっといい。私はなんと十位以内に入っていた。
ダンスなんかに縁のない平民の特待生は、結果に目の色を変えていた。成績如何によっては次学年の学費免除がなくなる可能性があるらしい。そうなると自動的に退学せざるを得ない。死活問題だ。
したがって上位は当然彼らにより占められていたが、貴族連中にとって成績は重要ではなかったから、学園側は気兼ねなく上位百位までをあっさり貼り出し、それを物見高い連中が見物していた。
自分の名前も張り出されているのだろう。それは気になる。ちょっとドキドキする。
成績順位表は廊下の隅っこにでも飾っておけばいいものを、あろうことか、とても目立つ食堂に堂々と張り出されていた。
これを励みに(貴族たちも)勉学に励んで欲しいと言う意味が込められているそうだ。
二十位以内のほとんどが、名前も知らない平民で占められ、よくわからないが貴族連中は数人だろう。
うん、すばらしい。父に自慢しよう。多分、母は聞いてくれない。
だから、最高学年の表のトップに、エクスター殿下の名前を見つけた時は衝撃だった。
その紙のまわりだけ、いつまでも人が集まってざわざわしていた。
「エクスター殿下はすごいな」
本当にそうだ。すごい。
絶対に勉強しなくてはいけない平民の特待生と違って、彼はそもそも勉強する必要がなかったし、仕事がいろいろあって勉強に割く時間はあまりないはずだ。
「平民のやつら、どうなってんだよ? 特待生のくせに殿下に負けてどうするんだ?」
自分の名前ではなくてエクスター殿下の名前をしげしげと眺めることになってしまった。
それは私だけではなくて、噂を聞きつけたらしい何人かの令嬢たちも、あきれたように成績順位表を見つめていた。
だが、彼女たちの関心は成績にはなかったらしい。
「最終学年なのよ? 勉強ばかりして、踊らないつもりかしら?」
「今後のお相手を占う上で重要なのに……」
「でも、ご本人はパートナーは決まっているとおっしゃっているそうですわよ!」
一人が事情通らしく声をひそめて告げると、少女たち全員がその情報をもたらした令嬢に顔を向けた。
「本当なの?」
私はそろりそろりと動いて彼女たちの脇をすり抜けた。心の底から心配になってきた。
「じゃあ、どうしてパートナーのお名前が出てこないの?」
もう、こんなところにはいられない。体に悪い。こっそり庭に出ようとしたところで、声をかけられた。
「フロレンス嬢」
物陰からすっと姿を現したのは、エドワード・ハーヴェスト様だった。
「ちょっとお話ししませんか?」
「ど、どこで?」
エドワードは学生ではない。
「庭で……と言いたいところですが、庭も人目があります。こちらへどうぞ」
庭から回って案内されたのは、例のフランス窓のついた小食堂だった。
「どこから入るのですか?」
エドワードは、あっさり窓を開けると中へ誘った。なるほど。フランス窓なら窓からの出入りが可能だ。盲点だった。
「ここの鍵はいつも空いているのですか?」
「そんなわけないでしょう。私は学生ではないですから、普段は、学園そのものに出入り出来ませんしね。今日は成績発表の日なので、特別に家族が入れます。誰かの家族の一員と言うわけですよ」
彼は私を中に入れると、用心深くあたりに目を配ってから窓を閉めた。
「さて、ダンスパーティーは、明後日に迫りました」
私はしぶしぶうなずいた。
「エクスター殿下と踊ることに話は決まったのですね?」
「エクスター殿下とじゃないわ。ジルと踊るの」
エドワードは、眉を上げて驚いた様子を示した。シワが多めの額に、余計にシワが増えた。
「エクスター殿下はジルですよ。説明は聞きましたよね?」
テスト結果はどう考えてもダンスパーティーより重要だろう。
学務課で封筒をもらい、中身をこっそり確認して、私は胸をなでおろした。
思っていたよりずっといい。私はなんと十位以内に入っていた。
ダンスなんかに縁のない平民の特待生は、結果に目の色を変えていた。成績如何によっては次学年の学費免除がなくなる可能性があるらしい。そうなると自動的に退学せざるを得ない。死活問題だ。
したがって上位は当然彼らにより占められていたが、貴族連中にとって成績は重要ではなかったから、学園側は気兼ねなく上位百位までをあっさり貼り出し、それを物見高い連中が見物していた。
自分の名前も張り出されているのだろう。それは気になる。ちょっとドキドキする。
成績順位表は廊下の隅っこにでも飾っておけばいいものを、あろうことか、とても目立つ食堂に堂々と張り出されていた。
これを励みに(貴族たちも)勉学に励んで欲しいと言う意味が込められているそうだ。
二十位以内のほとんどが、名前も知らない平民で占められ、よくわからないが貴族連中は数人だろう。
うん、すばらしい。父に自慢しよう。多分、母は聞いてくれない。
だから、最高学年の表のトップに、エクスター殿下の名前を見つけた時は衝撃だった。
その紙のまわりだけ、いつまでも人が集まってざわざわしていた。
「エクスター殿下はすごいな」
本当にそうだ。すごい。
絶対に勉強しなくてはいけない平民の特待生と違って、彼はそもそも勉強する必要がなかったし、仕事がいろいろあって勉強に割く時間はあまりないはずだ。
「平民のやつら、どうなってんだよ? 特待生のくせに殿下に負けてどうするんだ?」
自分の名前ではなくてエクスター殿下の名前をしげしげと眺めることになってしまった。
それは私だけではなくて、噂を聞きつけたらしい何人かの令嬢たちも、あきれたように成績順位表を見つめていた。
だが、彼女たちの関心は成績にはなかったらしい。
「最終学年なのよ? 勉強ばかりして、踊らないつもりかしら?」
「今後のお相手を占う上で重要なのに……」
「でも、ご本人はパートナーは決まっているとおっしゃっているそうですわよ!」
一人が事情通らしく声をひそめて告げると、少女たち全員がその情報をもたらした令嬢に顔を向けた。
「本当なの?」
私はそろりそろりと動いて彼女たちの脇をすり抜けた。心の底から心配になってきた。
「じゃあ、どうしてパートナーのお名前が出てこないの?」
もう、こんなところにはいられない。体に悪い。こっそり庭に出ようとしたところで、声をかけられた。
「フロレンス嬢」
物陰からすっと姿を現したのは、エドワード・ハーヴェスト様だった。
「ちょっとお話ししませんか?」
「ど、どこで?」
エドワードは学生ではない。
「庭で……と言いたいところですが、庭も人目があります。こちらへどうぞ」
庭から回って案内されたのは、例のフランス窓のついた小食堂だった。
「どこから入るのですか?」
エドワードは、あっさり窓を開けると中へ誘った。なるほど。フランス窓なら窓からの出入りが可能だ。盲点だった。
「ここの鍵はいつも空いているのですか?」
「そんなわけないでしょう。私は学生ではないですから、普段は、学園そのものに出入り出来ませんしね。今日は成績発表の日なので、特別に家族が入れます。誰かの家族の一員と言うわけですよ」
彼は私を中に入れると、用心深くあたりに目を配ってから窓を閉めた。
「さて、ダンスパーティーは、明後日に迫りました」
私はしぶしぶうなずいた。
「エクスター殿下と踊ることに話は決まったのですね?」
「エクスター殿下とじゃないわ。ジルと踊るの」
エドワードは、眉を上げて驚いた様子を示した。シワが多めの額に、余計にシワが増えた。
「エクスター殿下はジルですよ。説明は聞きましたよね?」
7
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる