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第33話 エドワードの話 その2
「聞いたわ。でも、あなたは言ったわよね? 私に誰か好きな人が出来なければ、パートナーの席は譲らないって」
「まあ……。言いはしましたが、あなたがエクスター殿下を選んでくれるなら、あとはどうでもよかったんですよ。だって、殿下がフィッツジェラルド侯爵に一言話を通してくれさえしたら私は結婚できますし、殿下はいつだって私を助けてくれたと思います。だから逆に私も殿下を助けたかったのですよ」
そんな話だったのか。真剣に悩んだ私はむくれた。みんなで私をだましたんだ。
「言葉に誠意がないわ。私は真剣に好きな人ができるまでダンスパートナーを変えられないと思ったのに」
エドワードはびっくりしたようだった。
「エクスター殿下をお嫌いなのですか? 殿下と話をしてみて、そうおっしゃるんですか? 彼は悪い人間じゃありませんよ」
「どうして、そこでいい人間です、と言い切らないのかしら」
エドワードは、ふわりと笑った。
「だって、あの方は普通の学生じゃないですもん」
ああ、そうだ。私はそれが聞きたかったのだ。彼がどんな風に普通じゃないのか。
「エクスター殿下のような身の上の方に、いい人、つまり他人を疑わないとか、だまされやすいとか、そう言う資質を期待しても無駄ですからね」
私は黙っていた。だまし過ぎだ。
「あなたはだまされたと思って怒っているのかもしれませんが、大体、なんでだまそうと思ったのかを考えてくれないと。彼は常に注目される高貴の生まれです。数年前まではそれでも比較的自由でした。よく勝手なことをやらかして、周りを困らせていた。だが、学園に入ったころから、黙って期待される人物像を演じていた。上品で礼儀正しい貴公子です。女性に話しかける場合も社交辞令だけ」
「私にも話しかけて来られたわ」
「でも、あなたは断った。ちっとも残念そうじゃなく。プライドの高い殿下を刺激したんだ。あなたが彼に夢中になれば、殿下は満足して、文通ごっこなんかやらなかったでしょう。だけど、あなたは普通の令嬢じゃなかった」
ここでエドワードは愉快そうに笑い出した。
「それだもんで、自分で自分のワナにハマってしまった」
私は、理由もないのに、顔が赤らむのを覚えた。どういう意味で言っているのかしら。
「あなたと手紙を交わしているうちに、だんだんと深みにハマっていってしまったのは、殿下の方。しかも、まずいことに、あなたの方には侍女がやって来て、きれいに着飾るようになってしまった。夜、暇を見つけてはあなたからの手紙を必死になって読み、考えて返事を出す。昼間、学園でこっそりあなたを見ると、見れば見るほど美しい。あのお高く止まった殿下が恋に落ちて、泥にまみれる。見境を無くして、あなたをどうにかしようと焦り、私まで呼び出した」
「それ、おもしろかったんですか?」
「ええ。とても」
エドワードはクツクツ笑いながら答えた。
「だって、彼は秀才なのです。何をさせても人の上をゆく。私だってなかなか勝てないのです。それが、困ってしまって迷走しているのです。人間らしくて、若者らしくて、とてもよかった」
確かにエクスター殿下は文句のつけようがない貴公子だった。生まれといい、成績といい、端正な顔かたち、常識的な身なりや行動、すべて、非の打ちどころがなかった。
「しかも、相手があなただった。身分にも地位にもまるで興味がない。架空の物語や歴史に興味は持っても、男にもまだ興味がない。これまでせっせと築いてきたエクスター殿下と言うブランドが効かない」
またもや具合悪く顔が赤らんだ。悪口じゃないけど、悪口みたいな気がするわ。
「それで、あなたはどう思うの?」
エドワードは笑いを抑えていたが、私を見つめた。
「彼は遊びなのかしら?」
私はそれが知りたかった。ジルのことは信用していた。もし、ジルの正体がどこかの中位の貴族階級の出身だったら、私は何も考えないまま、喜んでダンスパートナーをお願いしたことだろう。
もし、後になって仲が悪くなったとしても、誰も口の端にも乗せないだろう。そんなことはよくあることだ。逆に、ジルと私がお互いをもっと好きになって……例えば結婚しようとなっても、問題は何もないだろう。
だが、事情を山ほど抱えたエクスター殿下のパートナーは簡単にうなずける話ではなかった。
しかも、なんだか、エクスター殿下は本気臭い。
「それはこれからの問題で、今結論が出るわけじゃないでしょう。そして、あなただって、今、何かを決められるわけじゃないでしょ?」
エドワード様は私の質問から逃げた。まあ、その通りだけれど。
エクスター殿下は自分一人で自分の運命を決められる訳じゃないだろう。
「でも、エクスター殿下のダンスパートナーは重いわ」
エドワードの目が真剣になった。
「でも、踊らないわけにはいきませんよ。あなたはジルのことは好きだと彼に言ったのだから」
「だから? そう言ってしまったから断れないの?」
「だって、あなたのジルは本気なのですから」
それから彼はわかりやすいようにとでも思ったのか、付け加えた。
「私がベアトリスを絶対にあきらめられないのと同じように、あなたのジルだってあなたをあきらめられないだろうと思います」
「え……重いな」
私はつぶやいた。
「まあ……。言いはしましたが、あなたがエクスター殿下を選んでくれるなら、あとはどうでもよかったんですよ。だって、殿下がフィッツジェラルド侯爵に一言話を通してくれさえしたら私は結婚できますし、殿下はいつだって私を助けてくれたと思います。だから逆に私も殿下を助けたかったのですよ」
そんな話だったのか。真剣に悩んだ私はむくれた。みんなで私をだましたんだ。
「言葉に誠意がないわ。私は真剣に好きな人ができるまでダンスパートナーを変えられないと思ったのに」
エドワードはびっくりしたようだった。
「エクスター殿下をお嫌いなのですか? 殿下と話をしてみて、そうおっしゃるんですか? 彼は悪い人間じゃありませんよ」
「どうして、そこでいい人間です、と言い切らないのかしら」
エドワードは、ふわりと笑った。
「だって、あの方は普通の学生じゃないですもん」
ああ、そうだ。私はそれが聞きたかったのだ。彼がどんな風に普通じゃないのか。
「エクスター殿下のような身の上の方に、いい人、つまり他人を疑わないとか、だまされやすいとか、そう言う資質を期待しても無駄ですからね」
私は黙っていた。だまし過ぎだ。
「あなたはだまされたと思って怒っているのかもしれませんが、大体、なんでだまそうと思ったのかを考えてくれないと。彼は常に注目される高貴の生まれです。数年前まではそれでも比較的自由でした。よく勝手なことをやらかして、周りを困らせていた。だが、学園に入ったころから、黙って期待される人物像を演じていた。上品で礼儀正しい貴公子です。女性に話しかける場合も社交辞令だけ」
「私にも話しかけて来られたわ」
「でも、あなたは断った。ちっとも残念そうじゃなく。プライドの高い殿下を刺激したんだ。あなたが彼に夢中になれば、殿下は満足して、文通ごっこなんかやらなかったでしょう。だけど、あなたは普通の令嬢じゃなかった」
ここでエドワードは愉快そうに笑い出した。
「それだもんで、自分で自分のワナにハマってしまった」
私は、理由もないのに、顔が赤らむのを覚えた。どういう意味で言っているのかしら。
「あなたと手紙を交わしているうちに、だんだんと深みにハマっていってしまったのは、殿下の方。しかも、まずいことに、あなたの方には侍女がやって来て、きれいに着飾るようになってしまった。夜、暇を見つけてはあなたからの手紙を必死になって読み、考えて返事を出す。昼間、学園でこっそりあなたを見ると、見れば見るほど美しい。あのお高く止まった殿下が恋に落ちて、泥にまみれる。見境を無くして、あなたをどうにかしようと焦り、私まで呼び出した」
「それ、おもしろかったんですか?」
「ええ。とても」
エドワードはクツクツ笑いながら答えた。
「だって、彼は秀才なのです。何をさせても人の上をゆく。私だってなかなか勝てないのです。それが、困ってしまって迷走しているのです。人間らしくて、若者らしくて、とてもよかった」
確かにエクスター殿下は文句のつけようがない貴公子だった。生まれといい、成績といい、端正な顔かたち、常識的な身なりや行動、すべて、非の打ちどころがなかった。
「しかも、相手があなただった。身分にも地位にもまるで興味がない。架空の物語や歴史に興味は持っても、男にもまだ興味がない。これまでせっせと築いてきたエクスター殿下と言うブランドが効かない」
またもや具合悪く顔が赤らんだ。悪口じゃないけど、悪口みたいな気がするわ。
「それで、あなたはどう思うの?」
エドワードは笑いを抑えていたが、私を見つめた。
「彼は遊びなのかしら?」
私はそれが知りたかった。ジルのことは信用していた。もし、ジルの正体がどこかの中位の貴族階級の出身だったら、私は何も考えないまま、喜んでダンスパートナーをお願いしたことだろう。
もし、後になって仲が悪くなったとしても、誰も口の端にも乗せないだろう。そんなことはよくあることだ。逆に、ジルと私がお互いをもっと好きになって……例えば結婚しようとなっても、問題は何もないだろう。
だが、事情を山ほど抱えたエクスター殿下のパートナーは簡単にうなずける話ではなかった。
しかも、なんだか、エクスター殿下は本気臭い。
「それはこれからの問題で、今結論が出るわけじゃないでしょう。そして、あなただって、今、何かを決められるわけじゃないでしょ?」
エドワード様は私の質問から逃げた。まあ、その通りだけれど。
エクスター殿下は自分一人で自分の運命を決められる訳じゃないだろう。
「でも、エクスター殿下のダンスパートナーは重いわ」
エドワードの目が真剣になった。
「でも、踊らないわけにはいきませんよ。あなたはジルのことは好きだと彼に言ったのだから」
「だから? そう言ってしまったから断れないの?」
「だって、あなたのジルは本気なのですから」
それから彼はわかりやすいようにとでも思ったのか、付け加えた。
「私がベアトリスを絶対にあきらめられないのと同じように、あなたのジルだってあなたをあきらめられないだろうと思います」
「え……重いな」
私はつぶやいた。
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