【完結】いつの間にか全方向から包囲されて、どうしても結婚にまで巻き込まれた気の毒な令嬢の物語

buchi

文字の大きさ
33 / 80

第33話 エドワードの話 その2

「聞いたわ。でも、あなたは言ったわよね? 私に誰か好きな人が出来なければ、パートナーの席は譲らないって」

「まあ……。言いはしましたが、あなたがエクスター殿下を選んでくれるなら、あとはどうでもよかったんですよ。だって、殿下がフィッツジェラルド侯爵に一言話を通してくれさえしたら私は結婚できますし、殿下はいつだって私を助けてくれたと思います。だから逆に私も殿下を助けたかったのですよ」

そんな話だったのか。真剣に悩んだ私はむくれた。みんなで私をだましたんだ。

「言葉に誠意がないわ。私は真剣に好きな人ができるまでダンスパートナーを変えられないと思ったのに」

エドワードはびっくりしたようだった。

「エクスター殿下をお嫌いなのですか? 殿下と話をしてみて、そうおっしゃるんですか? 彼は悪い人間じゃありませんよ」

「どうして、そこでいい人間です、と言い切らないのかしら」

エドワードは、ふわりと笑った。

「だって、あの方は普通の学生じゃないですもん」

ああ、そうだ。私はそれが聞きたかったのだ。彼がどんな風に普通じゃないのか。

「エクスター殿下のような身の上の方に、いい人、つまり他人を疑わないとか、だまされやすいとか、そう言う資質を期待しても無駄ですからね」

私は黙っていた。だまし過ぎだ。

「あなたはだまされたと思って怒っているのかもしれませんが、大体、なんでだまそうと思ったのかを考えてくれないと。彼は常に注目される高貴の生まれです。数年前まではそれでも比較的自由でした。よく勝手なことをやらかして、周りを困らせていた。だが、学園に入ったころから、黙って期待される人物像を演じていた。上品で礼儀正しい貴公子です。女性に話しかける場合も社交辞令だけ」

「私にも話しかけて来られたわ」

「でも、あなたは断った。ちっとも残念そうじゃなく。プライドの高い殿下を刺激したんだ。あなたが彼に夢中になれば、殿下は満足して、文通ごっこなんかやらなかったでしょう。だけど、あなたは普通の令嬢じゃなかった」

ここでエドワードは愉快そうに笑い出した。

「それだもんで、自分で自分のワナにハマってしまった」

私は、理由もないのに、顔が赤らむのを覚えた。どういう意味で言っているのかしら。

「あなたと手紙を交わしているうちに、だんだんと深みにハマっていってしまったのは、殿下の方。しかも、まずいことに、あなたの方には侍女がやって来て、きれいに着飾るようになってしまった。夜、暇を見つけてはあなたからの手紙を必死になって読み、考えて返事を出す。昼間、学園でこっそりあなたを見ると、見れば見るほど美しい。あのお高く止まった殿下が恋に落ちて、泥にまみれる。見境を無くして、あなたをどうにかしようと焦り、私まで呼び出した」

「それ、おもしろかったんですか?」

「ええ。とても」

エドワードはクツクツ笑いながら答えた。

「だって、彼は秀才なのです。何をさせても人の上をゆく。私だってなかなか勝てないのです。それが、困ってしまって迷走しているのです。人間らしくて、若者らしくて、とてもよかった」

確かにエクスター殿下は文句のつけようがない貴公子だった。生まれといい、成績といい、端正な顔かたち、常識的な身なりや行動、すべて、非の打ちどころがなかった。

「しかも、相手があなただった。身分にも地位にもまるで興味がない。架空の物語や歴史に興味は持っても、男にもまだ興味がない。これまでせっせと築いてきたエクスター殿下と言うブランドが効かない」

またもや具合悪く顔が赤らんだ。悪口じゃないけど、悪口みたいな気がするわ。

「それで、あなたはどう思うの?」

エドワードは笑いを抑えていたが、私を見つめた。

「彼は遊びなのかしら?」

私はそれが知りたかった。ジルのことは信用していた。もし、ジルの正体がどこかの中位の貴族階級の出身だったら、私は何も考えないまま、喜んでダンスパートナーをお願いしたことだろう。

もし、後になって仲が悪くなったとしても、誰も口の端にも乗せないだろう。そんなことはよくあることだ。逆に、ジルと私がお互いをもっと好きになって……例えば結婚しようとなっても、問題は何もないだろう。

だが、事情を山ほど抱えたエクスター殿下のパートナーは簡単にうなずける話ではなかった。

しかも、なんだか、エクスター殿下は本気臭い。

「それはこれからの問題で、今結論が出るわけじゃないでしょう。そして、あなただって、今、何かを決められるわけじゃないでしょ?」

エドワード様は私の質問から逃げた。まあ、その通りだけれど。
エクスター殿下は自分一人で自分の運命を決められる訳じゃないだろう。

「でも、エクスター殿下のダンスパートナーは重いわ」

エドワードの目が真剣になった。

「でも、踊らないわけにはいきませんよ。あなたはジルのことは好きだと彼に言ったのだから」

「だから? そう言ってしまったから断れないの?」

「だって、あなたのジルは本気なのですから」

それから彼はわかりやすいようにとでも思ったのか、付け加えた。

「私がベアトリスを絶対にあきらめられないのと同じように、あなたのジルだってあなたをあきらめられないだろうと思います」

「え……重いな」

私はつぶやいた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

モブなので思いっきり場外で暴れてみました

雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。 そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。 一応自衛はさせていただきますが悪しからず? そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか? ※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。