34 / 80
第34話 母来る
翌日にはダンスパーティ用の衣装が届いて、寮の私の部屋には、メアリとアリスの他、なんと母が座っていた。狭い。
「お母様! どうしてここへ?」
「娘の一大事ですもの。来るに決まってるじゃありませんか」
父め。黙っていられなかったんだな。
「すごく遠回しなお申し込みって言うから、何かと思ったのに、ずいぶん思い切ったあからさまなお申し込みじゃないの! オズワルドから聞き出すのに三日もかかったわ!」
私は渋い顔をした。三日しか保たなかったのか、父。
「学園内で、エクスター公子のお相手は誰なのかしらって噂になってるところを通りながら、実はフロレンスなのよーって、叫び出したい気分だったわ!」
なんて恐ろしいことを。よかった。まだ、しゃべっていないらしい。
「それにしても、お母様。どうして寮の中まで入って来れたのですか?」
「いやだわ、フロレンスったら。ダンスパーティーは、家族が見にきても構わないのよ?」
「それは明日でしょう。なぜ、今日、ここに入れたのですか?」
つまらないことを気にするのね?と母は肩をすくめたが教えてくれた。
「侍女のふりをしたのよ。明日のパーティーのための着付けで来ましたって、門番に言ったの」
嘘に決まっている。
どこからどう見ても、どこかの貴族の令夫人以外の何者にも見えない。
どこの門番もそんな言い訳には乗らなかっただろう。
「あと、ちょっと握らせただけよ」
逆に、これほどまでに侍女らしくなくて、あからさまに嘘で、どこかの令夫人に間違いなしだと、ダンスパーティーに出る娘が心配と言う点は事実だと認識されて入ってよし!になったのかもしれない。
とにかく私は諦めた。とりあえず部屋に閉じ込めておけば、悪さはしないだろう。
パーティーは夕方からだ。
午前中は成績優良者の表彰がある。ささやかな、本人が出席するだけの式だ。もちろん、家族が見に来てもよかったのだが、貴族たちや裕福な平民は表彰されるほどの成績を取れなかったし、特待生の平民の家族は貧乏で学園に来るだけのお金と暇がなかった。
だが、そんな式でも私は出たかった。自分で勝ち得た成績なのだもの。
「パーティーのお支度が大変だから、それは行かない方がいいわ、フロレンス」
そらきた。
私にとっては、ダンスパーティよりそっちの方が大事なのに。
だから、母が来ると話が面倒になるのだ。
散々ごねて、着脱が簡単な制服で出席することで許してもらったが、アリスが口を滑らせた。
「最高学年の第一位はエクスター殿下でしたよね? それを見に行かれるのでしょう? お嬢様」
母の目がピカリと光ったような気がした。
「まあ、そうだったの! フロレンス! わかったわ。それは、ぜひ行かないといけないわね! あなたってば、意外に抜け目がないのね! 他のご令嬢方の隙を突いて、出し抜くつもりなのね」
違います。
自分が表彰されるために行くのです。それに隙を突いてるわけじゃなくて、他のご令嬢方は参加資格がないから行けないだけです。でなきゃ会場は嬌声で満たされると思う。
だが、よく考えたら、私は、母にもアリスにもその話をしていなかった。自分の成績の話も、参加者が限られる話も。
「私が表彰されるために行くのですよ、成績が優秀だったので……」
母はあまり聞いていなかった。母は関心がない話題の場合、話を聞かない傾向がある。
話は逆戻りし、制服はしまい込まれ、私は二回、ドレスを着替えることになった。
「エクスター殿下とご一緒だなんて! これは、ぜひかわいい美人で行かなきゃね?」
「お母さま、私はかわいらしいタイプではありませんし、表彰式の会場は平民の特待生がほとんどです。派手な格好は浮くだけかと……」
心配になった私は口をはさんだ。ピンクのフリルとか、レース飾りとかゴテゴテ飾られたら、ジルが驚く。
「いやね。傲然たる美女だってことは知っているわよ。こっちの堂々とした真紅のドレスはどうかしら?」
お母さま、それも違うと思うのですが……
とりあえず、紺の地味な服を選んだ。
「パーティの時との差をはっきりさせたいので」
「なるほど! それもそうね。いい考えだと思うわ。ところで表彰会場はどこなの?」
「え?」
母、行く気なの?
「だって、試験の成績発表日なら家族は学校に入れるんでしょう? 表彰式を見るために」
私は呆然としたが、それはその通りだ。あんなに関心がなさそうで、まるで聞いていなかった風だったのに、都合のいいところだけは覚えているんだ。
「でも、よかったわ! エクスター殿下を近くでよく見たことがなかったのよ。とても楽しみだわ」
母はワクワクしている。ああ、それが目的か。なんだか悪い予感がした。
「お母様! どうしてここへ?」
「娘の一大事ですもの。来るに決まってるじゃありませんか」
父め。黙っていられなかったんだな。
「すごく遠回しなお申し込みって言うから、何かと思ったのに、ずいぶん思い切ったあからさまなお申し込みじゃないの! オズワルドから聞き出すのに三日もかかったわ!」
私は渋い顔をした。三日しか保たなかったのか、父。
「学園内で、エクスター公子のお相手は誰なのかしらって噂になってるところを通りながら、実はフロレンスなのよーって、叫び出したい気分だったわ!」
なんて恐ろしいことを。よかった。まだ、しゃべっていないらしい。
「それにしても、お母様。どうして寮の中まで入って来れたのですか?」
「いやだわ、フロレンスったら。ダンスパーティーは、家族が見にきても構わないのよ?」
「それは明日でしょう。なぜ、今日、ここに入れたのですか?」
つまらないことを気にするのね?と母は肩をすくめたが教えてくれた。
「侍女のふりをしたのよ。明日のパーティーのための着付けで来ましたって、門番に言ったの」
嘘に決まっている。
どこからどう見ても、どこかの貴族の令夫人以外の何者にも見えない。
どこの門番もそんな言い訳には乗らなかっただろう。
「あと、ちょっと握らせただけよ」
逆に、これほどまでに侍女らしくなくて、あからさまに嘘で、どこかの令夫人に間違いなしだと、ダンスパーティーに出る娘が心配と言う点は事実だと認識されて入ってよし!になったのかもしれない。
とにかく私は諦めた。とりあえず部屋に閉じ込めておけば、悪さはしないだろう。
パーティーは夕方からだ。
午前中は成績優良者の表彰がある。ささやかな、本人が出席するだけの式だ。もちろん、家族が見に来てもよかったのだが、貴族たちや裕福な平民は表彰されるほどの成績を取れなかったし、特待生の平民の家族は貧乏で学園に来るだけのお金と暇がなかった。
だが、そんな式でも私は出たかった。自分で勝ち得た成績なのだもの。
「パーティーのお支度が大変だから、それは行かない方がいいわ、フロレンス」
そらきた。
私にとっては、ダンスパーティよりそっちの方が大事なのに。
だから、母が来ると話が面倒になるのだ。
散々ごねて、着脱が簡単な制服で出席することで許してもらったが、アリスが口を滑らせた。
「最高学年の第一位はエクスター殿下でしたよね? それを見に行かれるのでしょう? お嬢様」
母の目がピカリと光ったような気がした。
「まあ、そうだったの! フロレンス! わかったわ。それは、ぜひ行かないといけないわね! あなたってば、意外に抜け目がないのね! 他のご令嬢方の隙を突いて、出し抜くつもりなのね」
違います。
自分が表彰されるために行くのです。それに隙を突いてるわけじゃなくて、他のご令嬢方は参加資格がないから行けないだけです。でなきゃ会場は嬌声で満たされると思う。
だが、よく考えたら、私は、母にもアリスにもその話をしていなかった。自分の成績の話も、参加者が限られる話も。
「私が表彰されるために行くのですよ、成績が優秀だったので……」
母はあまり聞いていなかった。母は関心がない話題の場合、話を聞かない傾向がある。
話は逆戻りし、制服はしまい込まれ、私は二回、ドレスを着替えることになった。
「エクスター殿下とご一緒だなんて! これは、ぜひかわいい美人で行かなきゃね?」
「お母さま、私はかわいらしいタイプではありませんし、表彰式の会場は平民の特待生がほとんどです。派手な格好は浮くだけかと……」
心配になった私は口をはさんだ。ピンクのフリルとか、レース飾りとかゴテゴテ飾られたら、ジルが驚く。
「いやね。傲然たる美女だってことは知っているわよ。こっちの堂々とした真紅のドレスはどうかしら?」
お母さま、それも違うと思うのですが……
とりあえず、紺の地味な服を選んだ。
「パーティの時との差をはっきりさせたいので」
「なるほど! それもそうね。いい考えだと思うわ。ところで表彰会場はどこなの?」
「え?」
母、行く気なの?
「だって、試験の成績発表日なら家族は学校に入れるんでしょう? 表彰式を見るために」
私は呆然としたが、それはその通りだ。あんなに関心がなさそうで、まるで聞いていなかった風だったのに、都合のいいところだけは覚えているんだ。
「でも、よかったわ! エクスター殿下を近くでよく見たことがなかったのよ。とても楽しみだわ」
母はワクワクしている。ああ、それが目的か。なんだか悪い予感がした。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
モブなので思いっきり場外で暴れてみました
雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。
そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。
一応自衛はさせていただきますが悪しからず?
そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか?
※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。