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第36話 緊張のダンスパーティ
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いよいよダンスパーティの時が来た。
アリスとメアリと、監督者の母は、精一杯私を着飾らせた。私はだんだんと不安になってきた。こういう面ではあまり自信がない。
「珍しい生地のドレスだけど、絶対目立つわ!」
母は宝石とドレスには目が利くのだ。
その母が言うのだから、きっと目立つのだろう。
「ねえ、フロレンス、とてもきれいだわ。あのエクスター殿下に恥をかかせてはいけないわ。ダンスホール一番の美人でないと!」
また、そう言うプレッシャーを。
母はあの一瞬だけで、殿下のファンになったらしい。
「我が家の自慢の娘ですわ。さあ、いってらっしゃい!」
「待ってくださいまし。まだ、鏡を一度もご覧になっておりません!」
メアリが、鏡を私の方に向けた。
鏡の中の私は知らない人だった。
こんな顔だったっけ。そして、こんなスタイルだったっけ。
「本当におきれいですよ」
メアリが心を込めて言った。
「大人になったのねえ。そりゃエクスター殿下だって惚れ込むわ」
これまで、あまり鏡なんか見たことなかった。
私は、顔も体もずっと細長くなっていた。大人のドレスが似合うようになっていた。
そして、自分のことをそう言うのはおかしかったが、私は確かに美人だった。なかなかお目にかかれないほどの。
夕方、パーティに参加する者たちは男子は食堂に続く廊下から、女子は隣接する小食堂に集合してから中に入って行く。
私は小食堂にこっそり入った。人数は多くなかったが、あふれんばかりに華やかでワクワクした雰囲気がそこにはあった。
制服組は誰もいない。貴族でも、ドレスや正装を用意出来ない人は出席できないからだ。
アンドレア嬢も、その取り巻きも、もちろんマデリーン・フェアマス嬢も出来る限り飾り立てていた。
彼女たちは私に気がつくと、ちょっと驚いた様子をして、思わず私のことを見つめた。そして我に返って、ひそひそと何かささやいていた。
多分、彼女たちは私にパートナーはいないと思っていたのだと思う。私は誰にもパートナーナーの話をしなかった。だから参加しないと思っていたのだと思う。
パートナーの話なんか説明できたもんじゃなかった。大体ややこしすぎる。その上、途中でパートナーは入れ替わっているのだ。
なんだか緊張する。みんなから見られている気がする。気のせいかしら。
「エクスター殿下が来ているのをさっき廊下で見たわ! 正装だったわ! ものすごくお似合いだった。ステキだった」
興奮気味にバクルー子爵令嬢のジョゼフィンが、傍らの親友のマコーリー男爵令嬢に話しかけた。
「踊るつもりなんだわ! 本気なのね? 相手は誰かしら?」
「もう、決まってらっしゃるのよね? ってことは、この中におられるのよね!」
彼女たちは周りを見回した。私はうつむいた。
「誰なのかしら?」
「気になるわ」
あー、本当に緊張する。
「あらあ、ダンスパーティーに出る予定だったの? フロレンス嬢」
いつのまにかそばに来ていたアンドレア嬢が不意に声をかけてきた。
驚いたが、彼女の次の言葉に固まってしまった。
「まさか、あなたにお相手がいたとは知らなかったわ。一体誰なの? 最終組?」
ダンスは基本男性の身分順に踊るので、最終組は一番身分の低い男性の組になる。そのパートナーの多くは富豪出身の平民の女性たちだ。
この人、どうしてそんなバカにしたようなことばかり言うのかしら。
彼女が誰と踊るのか知らないけれど、私の相手が誰だかわかったら……きっと怒るんだろうな。
アンドレア嬢なんかに返事はしない方がいい。
私は黙って、すっと背筋を伸ばした。
今日の私は、私に似合っているとハドソン夫人のお墨付きのドレスを身にまとっている。結い上げた髪には、白い花だけを飾りに挿し、大きめのものではなく小ぶりの宝石を付けた。
アンドレア嬢なんかに負けない。
今晩ばかりは、目立たなくてはいけない。エクスター殿下のお相手を務める以上、出来る限り美しく見せるのは義務だろう。
係の先生が現れて、男子生徒が会場に入ったので、続いて入るように合図があった。
ドアを開けて食堂の中に入っていくと、みんなから注目された。
特に、今年入学の、初めてダンスパーティーに臨む女子ほど、じろじろ見られると言われていた。
私も思い切り視線を浴びた。
ドキドキするけど、知らん顔をして男子の前を通り過ぎて行く。
所定の場所についてから、男性側に目を向けると、エクスター公子を始めとして、ジャヴォーネン伯爵家嫡子のヘンリ、クラレンドン子爵の次男フィリップ、バーナム男爵アーサー、モートン男爵の嫡男のコリンなどが並んでいた。
男性側は、服装に女子ほどバリエーションはないが、いずれもビシッとキマっている。カッコいい。特にエクスター殿下は目立っていた。だってキラキラの金髪なのだもの。
くるくる巻き毛がかわいいサミュエル・ブライトン、騎士団長の息子だと言っていたダニエル・ハーバードも来ている。彼らはうまくパートナーを見つけられたのかしら。
全員が所定の場所に着くまでそこそこ時間がかかり、その後学園長の話が続いた。
アンドレア嬢はムッとした様子でエクスター殿下を見つめていた。彼女のパートナーは誰なんだろうな。弛緩した頭で私は考えた。
そして、そちらを見る度胸もなかったのだが、序列第一のエクスター殿下は、最初に踊る組の最前列で踊ることに決まっていた。
学園長の話も終わったころには、夕闇が深まってきていた。係の者が長い棒でローソクに火をつけて回る。音楽の音が大きくなり始めると、エクスター殿下がフロアへ足を踏み出した。
そして、序列順に後から貴公子たちが続いていく。
私は唇をかみしめた。
あそこへ、あの場所に行かなくてはいけない。
大勢の人たちが、エクスター殿下の隣を占める女性は誰だろうと、彼の隣を見つめていた。
所定の場所に着いたエクスター殿下は振り返って、私を見つめた。ニコリと微笑んで。
殿下の相手の女性が先頭になる。私が動かないと、続く女性たちも動けない。
私は足を踏み出した。
すべての他の女性たちを押しのけて。
ジュディスが訳知り顔にニヤリと微笑んだのが目に入った。
アリスとメアリと、監督者の母は、精一杯私を着飾らせた。私はだんだんと不安になってきた。こういう面ではあまり自信がない。
「珍しい生地のドレスだけど、絶対目立つわ!」
母は宝石とドレスには目が利くのだ。
その母が言うのだから、きっと目立つのだろう。
「ねえ、フロレンス、とてもきれいだわ。あのエクスター殿下に恥をかかせてはいけないわ。ダンスホール一番の美人でないと!」
また、そう言うプレッシャーを。
母はあの一瞬だけで、殿下のファンになったらしい。
「我が家の自慢の娘ですわ。さあ、いってらっしゃい!」
「待ってくださいまし。まだ、鏡を一度もご覧になっておりません!」
メアリが、鏡を私の方に向けた。
鏡の中の私は知らない人だった。
こんな顔だったっけ。そして、こんなスタイルだったっけ。
「本当におきれいですよ」
メアリが心を込めて言った。
「大人になったのねえ。そりゃエクスター殿下だって惚れ込むわ」
これまで、あまり鏡なんか見たことなかった。
私は、顔も体もずっと細長くなっていた。大人のドレスが似合うようになっていた。
そして、自分のことをそう言うのはおかしかったが、私は確かに美人だった。なかなかお目にかかれないほどの。
夕方、パーティに参加する者たちは男子は食堂に続く廊下から、女子は隣接する小食堂に集合してから中に入って行く。
私は小食堂にこっそり入った。人数は多くなかったが、あふれんばかりに華やかでワクワクした雰囲気がそこにはあった。
制服組は誰もいない。貴族でも、ドレスや正装を用意出来ない人は出席できないからだ。
アンドレア嬢も、その取り巻きも、もちろんマデリーン・フェアマス嬢も出来る限り飾り立てていた。
彼女たちは私に気がつくと、ちょっと驚いた様子をして、思わず私のことを見つめた。そして我に返って、ひそひそと何かささやいていた。
多分、彼女たちは私にパートナーはいないと思っていたのだと思う。私は誰にもパートナーナーの話をしなかった。だから参加しないと思っていたのだと思う。
パートナーの話なんか説明できたもんじゃなかった。大体ややこしすぎる。その上、途中でパートナーは入れ替わっているのだ。
なんだか緊張する。みんなから見られている気がする。気のせいかしら。
「エクスター殿下が来ているのをさっき廊下で見たわ! 正装だったわ! ものすごくお似合いだった。ステキだった」
興奮気味にバクルー子爵令嬢のジョゼフィンが、傍らの親友のマコーリー男爵令嬢に話しかけた。
「踊るつもりなんだわ! 本気なのね? 相手は誰かしら?」
「もう、決まってらっしゃるのよね? ってことは、この中におられるのよね!」
彼女たちは周りを見回した。私はうつむいた。
「誰なのかしら?」
「気になるわ」
あー、本当に緊張する。
「あらあ、ダンスパーティーに出る予定だったの? フロレンス嬢」
いつのまにかそばに来ていたアンドレア嬢が不意に声をかけてきた。
驚いたが、彼女の次の言葉に固まってしまった。
「まさか、あなたにお相手がいたとは知らなかったわ。一体誰なの? 最終組?」
ダンスは基本男性の身分順に踊るので、最終組は一番身分の低い男性の組になる。そのパートナーの多くは富豪出身の平民の女性たちだ。
この人、どうしてそんなバカにしたようなことばかり言うのかしら。
彼女が誰と踊るのか知らないけれど、私の相手が誰だかわかったら……きっと怒るんだろうな。
アンドレア嬢なんかに返事はしない方がいい。
私は黙って、すっと背筋を伸ばした。
今日の私は、私に似合っているとハドソン夫人のお墨付きのドレスを身にまとっている。結い上げた髪には、白い花だけを飾りに挿し、大きめのものではなく小ぶりの宝石を付けた。
アンドレア嬢なんかに負けない。
今晩ばかりは、目立たなくてはいけない。エクスター殿下のお相手を務める以上、出来る限り美しく見せるのは義務だろう。
係の先生が現れて、男子生徒が会場に入ったので、続いて入るように合図があった。
ドアを開けて食堂の中に入っていくと、みんなから注目された。
特に、今年入学の、初めてダンスパーティーに臨む女子ほど、じろじろ見られると言われていた。
私も思い切り視線を浴びた。
ドキドキするけど、知らん顔をして男子の前を通り過ぎて行く。
所定の場所についてから、男性側に目を向けると、エクスター公子を始めとして、ジャヴォーネン伯爵家嫡子のヘンリ、クラレンドン子爵の次男フィリップ、バーナム男爵アーサー、モートン男爵の嫡男のコリンなどが並んでいた。
男性側は、服装に女子ほどバリエーションはないが、いずれもビシッとキマっている。カッコいい。特にエクスター殿下は目立っていた。だってキラキラの金髪なのだもの。
くるくる巻き毛がかわいいサミュエル・ブライトン、騎士団長の息子だと言っていたダニエル・ハーバードも来ている。彼らはうまくパートナーを見つけられたのかしら。
全員が所定の場所に着くまでそこそこ時間がかかり、その後学園長の話が続いた。
アンドレア嬢はムッとした様子でエクスター殿下を見つめていた。彼女のパートナーは誰なんだろうな。弛緩した頭で私は考えた。
そして、そちらを見る度胸もなかったのだが、序列第一のエクスター殿下は、最初に踊る組の最前列で踊ることに決まっていた。
学園長の話も終わったころには、夕闇が深まってきていた。係の者が長い棒でローソクに火をつけて回る。音楽の音が大きくなり始めると、エクスター殿下がフロアへ足を踏み出した。
そして、序列順に後から貴公子たちが続いていく。
私は唇をかみしめた。
あそこへ、あの場所に行かなくてはいけない。
大勢の人たちが、エクスター殿下の隣を占める女性は誰だろうと、彼の隣を見つめていた。
所定の場所に着いたエクスター殿下は振り返って、私を見つめた。ニコリと微笑んで。
殿下の相手の女性が先頭になる。私が動かないと、続く女性たちも動けない。
私は足を踏み出した。
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ジュディスが訳知り顔にニヤリと微笑んだのが目に入った。
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