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第6話 リオン
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どれでも、好きな男を選ぶようにと、若い男が、ズラリと目の前に並べられた!
ギャー……
どうしたら、いいの?
だけど、私には選ぶことが出来なかった。
だって、怖いじゃない?
そうこうしているうちに、多分、ちっとも娼館らしくない、陰気くさく盛り下がった雰囲気が、しめやかに繰り広がってしまった。
私のせいだわ。ごめんなさい。
男たちはうんざりした顔をし始めた。それはそうだろう。
娼館はにぎやかだった。
階下では、顔馴染の女たちが次から次へと馬車で訪れているらしい。女の甲高い声や、低い男の甘い声がここまで聞こえてきた。
客が来ているのだ。こんな訳の分からない女が選ぶのを待っていたら、よいカモを逃してしまうかも知れないのだ。
結局、最後まで残った男と私は寝ることになった。
若い男で、まあ、全員若い男だったが、一番若くて素人臭い男だった。
服も一番粗末だったし、見下したような色がなかった。私が本当に素人で、心から怯えているのは彼らにも伝わったらしい。
「面白くなさそう。全然遊び慣れてないわ。めんどくさそう」
一人が去り際につぶやいたのが聞こえた。
遊ぶには遊ぶだけの資質がいるらしい。マナーとか、覚悟とか。
私には何もなかった。
その男と二人きりになってしまって私は本当に困った。
娼館。
男性用の娼館は至る所にあるらしい。
だって、だんなさまがそう言う店に行くこともあるからと、教えられたことがある。
「旦那様には気晴らしも必要ですから。ヤキモチを妬いて、困らせるようなことはないように」
「はい」
なんの話かよく分からなかったけれど、女性用もあるんだ。
「ちょっとなんか話してよ」
相手の男がじれたように言い出した。
「あっ、どうも申し訳ございません」
「ちょっと、それもどうなの? まあ、俺はもてなす側だからさ、こんな口の利き方するのはダメなんだけどさ」
私は初めてその男の顔をよく見た。
それまでは、場の雰囲気がさっぱり分からなくて緊張して足元ばかり見ていたのだ。
黒っぽい癖毛の若い男で、シャツとズボン姿だった。
シャツの前を開けて胸を見せているのは、そう言う商売だからだろう。
私はそぉっと、目を逸らした。
顔立ちは本当にきれいで、髪色と対照的に澄んだ薄い青の目がとても珍しかった。
目の色が薄いのに、縁は黒っぽく、真っ黒なまつ毛と眉が印象的な、とにかく、なるほどなと思わせる美しさだった。
私が顔を見ていることに気がつくと、男は言った。
「きれいな顔だろ?」
「えっ? ええ」
男は苦笑した。
「困ってるんだよね」
「お客様が付き過ぎてですか?」
「違うよ。目立つからさ。ちなみに客は付かない。もっと愛想良くするよう言われている」
「そうなのですか」
愛想が悪くて助かったと私は思った。
なにしろ娼館の男は怖い。みんな愛想が良過ぎる。
私に愛想良く接するだなんて、おかしいわ。
これまで、私に向かって愛想良く振る舞う人間にあったことがないもの。
だから、この人はあまり怖くない。これが普通だもの。
「俺の愛想が悪い話なんか、どうでもいいよ。それより、ここへは男と遊びに来たんだよね。お相手仕りますよ、お嬢様……あ、マダム」
男は頭をガリガリかいた。
「忘れていたよ。ここでは、お客様は全員マダムって呼ぶんだった。名前は聞かないことに、一応なってる。まあ、関係が深くなれば別だけど。俺のことは、リオンと呼んでくれ」
「リオン……」
リオンは尋ねた。
「ねえ、君、どうしてここに来たの? 男を買うようには、とても見えないけど……?」
ギャー……
どうしたら、いいの?
だけど、私には選ぶことが出来なかった。
だって、怖いじゃない?
そうこうしているうちに、多分、ちっとも娼館らしくない、陰気くさく盛り下がった雰囲気が、しめやかに繰り広がってしまった。
私のせいだわ。ごめんなさい。
男たちはうんざりした顔をし始めた。それはそうだろう。
娼館はにぎやかだった。
階下では、顔馴染の女たちが次から次へと馬車で訪れているらしい。女の甲高い声や、低い男の甘い声がここまで聞こえてきた。
客が来ているのだ。こんな訳の分からない女が選ぶのを待っていたら、よいカモを逃してしまうかも知れないのだ。
結局、最後まで残った男と私は寝ることになった。
若い男で、まあ、全員若い男だったが、一番若くて素人臭い男だった。
服も一番粗末だったし、見下したような色がなかった。私が本当に素人で、心から怯えているのは彼らにも伝わったらしい。
「面白くなさそう。全然遊び慣れてないわ。めんどくさそう」
一人が去り際につぶやいたのが聞こえた。
遊ぶには遊ぶだけの資質がいるらしい。マナーとか、覚悟とか。
私には何もなかった。
その男と二人きりになってしまって私は本当に困った。
娼館。
男性用の娼館は至る所にあるらしい。
だって、だんなさまがそう言う店に行くこともあるからと、教えられたことがある。
「旦那様には気晴らしも必要ですから。ヤキモチを妬いて、困らせるようなことはないように」
「はい」
なんの話かよく分からなかったけれど、女性用もあるんだ。
「ちょっとなんか話してよ」
相手の男がじれたように言い出した。
「あっ、どうも申し訳ございません」
「ちょっと、それもどうなの? まあ、俺はもてなす側だからさ、こんな口の利き方するのはダメなんだけどさ」
私は初めてその男の顔をよく見た。
それまでは、場の雰囲気がさっぱり分からなくて緊張して足元ばかり見ていたのだ。
黒っぽい癖毛の若い男で、シャツとズボン姿だった。
シャツの前を開けて胸を見せているのは、そう言う商売だからだろう。
私はそぉっと、目を逸らした。
顔立ちは本当にきれいで、髪色と対照的に澄んだ薄い青の目がとても珍しかった。
目の色が薄いのに、縁は黒っぽく、真っ黒なまつ毛と眉が印象的な、とにかく、なるほどなと思わせる美しさだった。
私が顔を見ていることに気がつくと、男は言った。
「きれいな顔だろ?」
「えっ? ええ」
男は苦笑した。
「困ってるんだよね」
「お客様が付き過ぎてですか?」
「違うよ。目立つからさ。ちなみに客は付かない。もっと愛想良くするよう言われている」
「そうなのですか」
愛想が悪くて助かったと私は思った。
なにしろ娼館の男は怖い。みんな愛想が良過ぎる。
私に愛想良く接するだなんて、おかしいわ。
これまで、私に向かって愛想良く振る舞う人間にあったことがないもの。
だから、この人はあまり怖くない。これが普通だもの。
「俺の愛想が悪い話なんか、どうでもいいよ。それより、ここへは男と遊びに来たんだよね。お相手仕りますよ、お嬢様……あ、マダム」
男は頭をガリガリかいた。
「忘れていたよ。ここでは、お客様は全員マダムって呼ぶんだった。名前は聞かないことに、一応なってる。まあ、関係が深くなれば別だけど。俺のことは、リオンと呼んでくれ」
「リオン……」
リオンは尋ねた。
「ねえ、君、どうしてここに来たの? 男を買うようには、とても見えないけど……?」
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