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第24話 エスコート & プロポーズ
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私たちは、『真夏の王家のパーティ』に出席していた。王家主催の華やかな年に一度の大パーティだ。
私はリオンのエスコートで、荘厳な王宮のパーティ会場へ入場した。
私は、リオンの見立てた、美しいけど、気が遠くなるような金額のドレスを着ていた。
昔の貴婦人たちは、夫の家の紋章をドレスのデザインに取り入れたと言う。
リオンは自分の目の色、すなわちアイスブルーの服を勝手に仕立てていた。
それは、よく見ると銀糸で隣国の王家の紋章が刺繍されていて、光を受けるとキラキラ光った。そして、目の色と同じ色の宝石がはめ込まれたネックレスをプレゼントしてくれた。
すんごい高そう……。
「任せてって言ったよね」
「え。ええ」
「僕の気持ちをみんなにわかってもらいたいんだ。それが君を守る事にもなると思うので」
確かに、すごい本気度が伝わってくる。主に、お高いという点で。
だけど、迫りくる令嬢軍団の闘志を、真剣に萎えさせたのはリオンの態度だった。
手を取り、離れたくないと言わんばかりに付きまとい、目から目を離さない。
リオンに首ったけの私でさえ、さすがに照れて、目線の逃げ場を探して目がウロつき始めた。なにしろ恥ずかしい。かなり。いや、すごく。
ここが誰もいない森の中だったら、人目を気にせず……
「だったら、すてきだ。だけど今日は僕たちのお披露目なんだ。僕としては、もっと大勢に見て欲しい!」
ええと、どう言う神経をしているのでしょうか……
私はそもそも美人というわけではない。
姉様はひいき目で、あたたかな美人とか言って褒めてくれるけど、平凡な色合いの髪と目、なんと言うこともないスタイルの私は、リオンの隣に立つと、きっとすごく見劣りしているに違いない。
「とてもかわいい」
リオンはうっとりしたように見つめてきた。彼の態度はずっと変わらない。
「一目見た時から気になった。すごく美人だと言うことは、後になってから気がついた」
「あのう……」
そんなことはありませんと、一生懸命軌道修正しようとしていると、背中の方面から、疾風のようにシャーロット姉様が近付いてきて、耳元で囁いた。
「このバカ正直者! そんな訂正しなくてよろしい。婿の目が腐っているんだったら、それはそれで結構!」
リオンには丸聞こえだったらしい。
彼はくすっと笑って、手を差し伸べてきた。
「初ダンスだ。僕が君を好きで、君が僕を好きなら、他に気にすることってある?」
真夏の王家のパーティは、毎年恒例の王家が開いているパーティで、公式だけれど、先だっての『国王陛下御生誕五十周年記念』のような格式ばったものではなくて、もっと自由に振舞うことが出来た。
若いうちに、本当の意味での社交界デビューもせずに嫁いでしまい、そのあと家に閉じ込められていた私には、初めての世界だった。
きらびやかに飾り付けられた王宮の大広間、楽団の音楽、着飾った大勢の人たち。
しかも宝石のような私の恋人。アイスブルーのその目は、宝石そのものだ。
絶対に手に入らないだろうと思っていた、夢のようなイケメン。その上、お金持ちで、私にべたぼれで、全く理想的な私の恋人……なのに、なんだか邪悪感と危険品の匂いがするんだけど。なぜなんだろう。
「グッと緊張感が高まるわ……」
「僕もだ。みんなの注目の的だ」
「注目されているのは、あなたよ? リオン」
「そんなことないさ。ほら、ご令嬢がたは、君を見つめているよ」
それがマズイって言ってるのよ! あれは悪意よ、悪意。
「目が合うんだ。彼女たちと。でも、思うんだよね。あー、平凡だなーって。同じように飾り立てて、きっと僕が何を言っても、あの人たち、賛成してくれると思うんだ」
まあ、それはそうかも知れない。でも、私だっておおむね賛成してるわよ?
リオンは首を振った。
「君はとても正直だ。それに自分たちだけじゃなくて、広く考えてくれる。僕のやることも、それ、悪いことよ?とか全部顔に出てる。好きだ」
へ、へー。割と塩対応のつもりなんだけど、気に入ってるのか。
私だって、本当はリオンに溺れてしまいそうなくらい好きなんだけど、でも、溺死しちゃいけないと思ってるの。
どこかに正気を残しておかないと、万一の時、良くないと思うの。例えば、これが夢だった、とか。
「トマシン」
ダンスが終わった直後、フロアの真ん中で、リオンは急にひざまずいた。
周囲は、当然、何が起きるのかと引いた。
人々はざわつき、私たちの周りには円形に空間が出来てしまった。
そんな中、リオンは、顔を上げ、おもむろに私の手を取った。
そして、よく響く声で言った。
「今宵、あなたが自由になったと聞きました」
私は猛烈に小さな声で囁いた。
「リオン! 急すぎ! 離婚はまだ公表されていない……」
完全無視で、リオンは続けた。
「あなたに会ったのは、つい数週間前に過ぎません。国王陛下生誕五十周年記念誕生の席です」
あ、リオンったら、声もいい。こう、グッと……いや、違う。
「何言ってるのよ」
私はささやき声で文句を言った。リオンとの出会いはもっと前だ。娼館で出会ったのだ。
リオンは私のセリフは無視して、朗々と響く声で話し続けた。着飾った貴族たちは、きわめて礼儀正しく、全く興味のない振りをしながら、興味津々で、全身を耳にしているに違いない。
「でも、口下手な僕は、思いを伝えることすらできませんでした。ましてや、人妻」
いきなり生々しいワードを突っ込んでくるじゃない。人妻とか。
それからどこが口下手だ。今、現にペラペラしゃべっているではないか。
「でも、あなたはその鎖からやっと解放されました。あなたを密かに娼館に売るような悪辣な夫から」
そのフレーズだけ聞くと、スノードン侯爵はそこそこ知能犯みたいに聞こえるんですけど。
ちょっと過大評価していませんか? 気になるわ。
「あなたに結婚を申し込みたい」
熱烈なセリフと熱烈な視線。数人が小声でキャーと言った。断じて私ではない。
「ちょっと、リオン。これ、何の真似?」
もはや必死。何コレ劇場。どうして、今なの? 離婚はようやく成立したばかりで……
「ああ! ありがとう。結婚の承諾をしてくれて! 思いが通じると言うことがこんなにも嬉しいことだなんて!」
リオンはガバッと立ち上がると、いきなり私を抱きしめた。そして、次の瞬間、パッと離すと言った。
「失礼したッ! あまりにも嬉しすぎて、つい。許してください。……あなたを一生幸せにすると誓おう」
真っ向から目を見つめてきた。
そして、私だけに聞こえる普通の声で彼は言った。周りに聞こえないように。
「だから、僕だけのものになって。お願い」
私はリオンのエスコートで、荘厳な王宮のパーティ会場へ入場した。
私は、リオンの見立てた、美しいけど、気が遠くなるような金額のドレスを着ていた。
昔の貴婦人たちは、夫の家の紋章をドレスのデザインに取り入れたと言う。
リオンは自分の目の色、すなわちアイスブルーの服を勝手に仕立てていた。
それは、よく見ると銀糸で隣国の王家の紋章が刺繍されていて、光を受けるとキラキラ光った。そして、目の色と同じ色の宝石がはめ込まれたネックレスをプレゼントしてくれた。
すんごい高そう……。
「任せてって言ったよね」
「え。ええ」
「僕の気持ちをみんなにわかってもらいたいんだ。それが君を守る事にもなると思うので」
確かに、すごい本気度が伝わってくる。主に、お高いという点で。
だけど、迫りくる令嬢軍団の闘志を、真剣に萎えさせたのはリオンの態度だった。
手を取り、離れたくないと言わんばかりに付きまとい、目から目を離さない。
リオンに首ったけの私でさえ、さすがに照れて、目線の逃げ場を探して目がウロつき始めた。なにしろ恥ずかしい。かなり。いや、すごく。
ここが誰もいない森の中だったら、人目を気にせず……
「だったら、すてきだ。だけど今日は僕たちのお披露目なんだ。僕としては、もっと大勢に見て欲しい!」
ええと、どう言う神経をしているのでしょうか……
私はそもそも美人というわけではない。
姉様はひいき目で、あたたかな美人とか言って褒めてくれるけど、平凡な色合いの髪と目、なんと言うこともないスタイルの私は、リオンの隣に立つと、きっとすごく見劣りしているに違いない。
「とてもかわいい」
リオンはうっとりしたように見つめてきた。彼の態度はずっと変わらない。
「一目見た時から気になった。すごく美人だと言うことは、後になってから気がついた」
「あのう……」
そんなことはありませんと、一生懸命軌道修正しようとしていると、背中の方面から、疾風のようにシャーロット姉様が近付いてきて、耳元で囁いた。
「このバカ正直者! そんな訂正しなくてよろしい。婿の目が腐っているんだったら、それはそれで結構!」
リオンには丸聞こえだったらしい。
彼はくすっと笑って、手を差し伸べてきた。
「初ダンスだ。僕が君を好きで、君が僕を好きなら、他に気にすることってある?」
真夏の王家のパーティは、毎年恒例の王家が開いているパーティで、公式だけれど、先だっての『国王陛下御生誕五十周年記念』のような格式ばったものではなくて、もっと自由に振舞うことが出来た。
若いうちに、本当の意味での社交界デビューもせずに嫁いでしまい、そのあと家に閉じ込められていた私には、初めての世界だった。
きらびやかに飾り付けられた王宮の大広間、楽団の音楽、着飾った大勢の人たち。
しかも宝石のような私の恋人。アイスブルーのその目は、宝石そのものだ。
絶対に手に入らないだろうと思っていた、夢のようなイケメン。その上、お金持ちで、私にべたぼれで、全く理想的な私の恋人……なのに、なんだか邪悪感と危険品の匂いがするんだけど。なぜなんだろう。
「グッと緊張感が高まるわ……」
「僕もだ。みんなの注目の的だ」
「注目されているのは、あなたよ? リオン」
「そんなことないさ。ほら、ご令嬢がたは、君を見つめているよ」
それがマズイって言ってるのよ! あれは悪意よ、悪意。
「目が合うんだ。彼女たちと。でも、思うんだよね。あー、平凡だなーって。同じように飾り立てて、きっと僕が何を言っても、あの人たち、賛成してくれると思うんだ」
まあ、それはそうかも知れない。でも、私だっておおむね賛成してるわよ?
リオンは首を振った。
「君はとても正直だ。それに自分たちだけじゃなくて、広く考えてくれる。僕のやることも、それ、悪いことよ?とか全部顔に出てる。好きだ」
へ、へー。割と塩対応のつもりなんだけど、気に入ってるのか。
私だって、本当はリオンに溺れてしまいそうなくらい好きなんだけど、でも、溺死しちゃいけないと思ってるの。
どこかに正気を残しておかないと、万一の時、良くないと思うの。例えば、これが夢だった、とか。
「トマシン」
ダンスが終わった直後、フロアの真ん中で、リオンは急にひざまずいた。
周囲は、当然、何が起きるのかと引いた。
人々はざわつき、私たちの周りには円形に空間が出来てしまった。
そんな中、リオンは、顔を上げ、おもむろに私の手を取った。
そして、よく響く声で言った。
「今宵、あなたが自由になったと聞きました」
私は猛烈に小さな声で囁いた。
「リオン! 急すぎ! 離婚はまだ公表されていない……」
完全無視で、リオンは続けた。
「あなたに会ったのは、つい数週間前に過ぎません。国王陛下生誕五十周年記念誕生の席です」
あ、リオンったら、声もいい。こう、グッと……いや、違う。
「何言ってるのよ」
私はささやき声で文句を言った。リオンとの出会いはもっと前だ。娼館で出会ったのだ。
リオンは私のセリフは無視して、朗々と響く声で話し続けた。着飾った貴族たちは、きわめて礼儀正しく、全く興味のない振りをしながら、興味津々で、全身を耳にしているに違いない。
「でも、口下手な僕は、思いを伝えることすらできませんでした。ましてや、人妻」
いきなり生々しいワードを突っ込んでくるじゃない。人妻とか。
それからどこが口下手だ。今、現にペラペラしゃべっているではないか。
「でも、あなたはその鎖からやっと解放されました。あなたを密かに娼館に売るような悪辣な夫から」
そのフレーズだけ聞くと、スノードン侯爵はそこそこ知能犯みたいに聞こえるんですけど。
ちょっと過大評価していませんか? 気になるわ。
「あなたに結婚を申し込みたい」
熱烈なセリフと熱烈な視線。数人が小声でキャーと言った。断じて私ではない。
「ちょっと、リオン。これ、何の真似?」
もはや必死。何コレ劇場。どうして、今なの? 離婚はようやく成立したばかりで……
「ああ! ありがとう。結婚の承諾をしてくれて! 思いが通じると言うことがこんなにも嬉しいことだなんて!」
リオンはガバッと立ち上がると、いきなり私を抱きしめた。そして、次の瞬間、パッと離すと言った。
「失礼したッ! あまりにも嬉しすぎて、つい。許してください。……あなたを一生幸せにすると誓おう」
真っ向から目を見つめてきた。
そして、私だけに聞こえる普通の声で彼は言った。周りに聞こえないように。
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