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第17話 伯母、現る

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泣きながら、雪に閉ざされたオリビア伯母様の隠れ家に戻った。

これから私はどうしよう。

イアンのことは大丈夫。

彼は何があってもどうにかする人だ。そして、チャンスさえあれば、チャンスがなくても思うことをやり遂げる人だ。それはわかっていた。
でも、こんな雪の中では彼は活躍する場がない。そして私はこの雪の中から出ていくことができない。

母国フリージアに私の居場所はなかった。

ここでも、うまく見つけることができなかった。

というか、成功しすぎになってしまう。

ドングリのあったかい包みは大人気だったが、途中からレモネードとホットジンジャーの方が人気になってしまった。

無意識で魔力を注ぎ込んでいたのだと思う。

危険だ。

フリージアの王家だって、魔力を狙って、私との婚約を決めて来たのだ。囲い込みだ。
フリージアの王家でなくとも、同じことを考えるだろう。
上手いこと制御できなかった。私はテーブルに突っ伏して、ずっと泣いていた。

私は、この魔力がある限り、この隠れ家にいなければならない。イアンの剣だって、私を守り切れない。



だが、突然、カチャリとドアの開く音がした。

「え?」

誰?

「こんなところに居たのかい」

声がした。

すぐには誰だかわからなかった。振り返って声の主を見た。
堂々たる豪奢なドレス姿、それはマラテスタ侯爵夫人、オリビア伯母様だった。

ずいぶん久しぶりだけど、間違いなく伯母だ。

「伯母様?」

伯母はとても心配そうな顔をしていて、私の様子を見て、困り切った顔をした。

「セバスから聞いたよ。でも、よかった。一応、無事そうだね」

伯母の心から心配している声に、感情がブチ切れてしまった。
両親以外にも、私を心配してくれる人がいる。

「あああ! 伯母様あ!」

伯母なら、大丈夫だ。もう、安心だ。よかった。

伯母も心から安堵したらしかった。

「セバスがマグリナの屋敷まで来たのよ。それで、あなたの行方が分かったの」

「セバス?」

伯母の後ろには、なつかしいセバスの姿があった。

「お嬢様! ご無事で!」

セバスは感動した声で叫んだが、大きな目をして、私を頭からつま先まで観察した。

「すっかり変な格好になってしまわれて……でも、お元気そうで何よりです」

伯母は私の手を取った。

「よかった。この屋敷に向かったと、セバスから聞いたのだけど、私が来た時はいつも居なくて。人の気配はあるんだけど」


は?

ああああ。しまった。

男を連れ込んでいたんだった。

えーと、えーと、これはどう説明したら信じてもらえるのかしら?

男を連れ込んでいたんじゃありません、あれはノラネコです?飢えて、病気で、ミーミー泣いていたので、思わずカバンにいれて……

イアンの筋肉隆々の男らしい姿を思い出した。背も高い。

あれはダメだ。どう見ても、カバンに詰め込んで持ち運べるサイズじゃない。

無理やり向こうから来たんです……ジュース愛好家で。なんでジュース愛好家が家にいるのかですって? えーと、どう言い訳したらいいのかしら。令嬢として、これはマズいわ。

私は内心、冷や汗をかいた。令嬢は、男を家に連れ込んではいけないのだった。そうだった。

あ、バレなければいいことよね。

よし。この件に関しては、黙秘権行使だ。


「泣いていたの? どうしたの? 手紙を書こうかとも思ったのだけど、直接伝えないとリナも信じにくいと思ったのよ。でも、あなたの気配がいつも幸せそうだったので、今まで見に来なかったの。でも、今日は違うのね」

見に来ないでくれて助かった。
むしろ、今、来てくれてよかった。どういう偶然なんだろう。

「とにかく私の屋敷にいらっしゃい。教えていなかったからね。来方がわからなかったろうと思うわ。こっちよ」

私たちは地下室にいたのだけれど、伯母は屋根裏部屋まで上がっていった。

そして、これまで開けたことのない物入れの引き戸を引いて中に入っていった。

「えええ?」

「私の家へはここから入れるの。リナはいつでも来れたのよ。教えておかなくて大失敗したわ」

伯母は言った。

私は口をあんぐり開けた。

知らなかった。

隠れ家を教えてくれたなら、本邸宅の方への行き方も、ついでに教えておいてほしかった。

そしたら、ジュースだのドングリの袋だの作って、お金で苦労することはなかったのに!

伯母が気まずそうに謝った。

「苦労したでしょう。すまなかったわ」

セバスが口を挟んだ。

「でも、突然お屋敷にリナ様が現れたら、お屋敷の皆様が仰天して、リナ様も奥様のお屋敷からつまみ出されてしまうわけで」

「使用人たちは、リナの顔を知りませんものね。確かに下女の格好でいきなり屋敷内に現れたんじゃ不審者以外の何者でもないからね。だが、なぜ下女の真似事なんかさせたんだか……」

伯母はため息をついた。

「あの大馬鹿者どもが。本当に何の値打ちもわからない連中だ。リナみたいな才能の塊を、下女代わりに使うだなんて、なんてバカなんだろう」

そして付け加えた。

「そして、なぜ、あんな勝手が通ると勘違いしたのか。私の想像をはるかに超えていましたよ。本当に悪かったわ、リナ。でも、隠れ家のあなたの気配くらいはわかるけど、遠国の知らない家のあなたの様子を感知するなんて、無理だからねえ」

引き戸の中は、豪華なお屋敷だった。

「奥様?」

何人かの侍女が現れた。そして、見ず知らずの私を見て驚いた様子だった。

やっりね。どう見ても、どこかの貧しい村娘にしか見えないものね。

「ずっと探していた姪のリナよ。いますぐ着替えさせておくれ」

そして、私は突然、貴族の令嬢に逆戻りした。



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