21 / 33
真昼のストレンジャー
第五章 2
しおりを挟む
猫だって、自分に課せられた責任のために体を張って生きている。それに引き替え自分は? 逃げ出してしまった。自分が取らなきゃいけない責任を放り出して。
庄野はルイを探していた。ルイに望みを叶えてもらわなくては。人間に戻って請け負った仕事の始末つけないといけないのだ。それが自分の責任だ。
ベンチ裏の茂みをすぎて、柔らかな土を踏みしめる。靴を履いている人のときは思いもしなかった感触が不思議だった。
「何か変だ――」
そろそろ公園の端、外と仕切るパイプゲートが見えてきたところで庄野は最大の違和感を覚えた。
空を見上げる。やはり太陽は真上で明るい。けれどゲートの向こうに映る景色は夜のように暗かった。自分の目がおかしいのかと手で擦ってみるが、暗く見えるのは変わらない。
ゲートの付近だけかと思い、横道に逸れて境界を作る茂みの隙間から外を見る。けれど暗さは同じで、そして何よりも奇妙なのは外の音がしなかった。道路を行き交う車の音が。人の声だって聞こえてもいいはずだった。
「どこなんだ、ここは」
公園ではなかったのか? 毎週足を運んでいた、噴水塔がある。
背にぞくりと嫌なものが走る。改めて自分の身に起きている異常さを感じた。
「ここにいた?」
その声に、びくり、と庄野の体は固まった。恐る恐る振り返れば、先ほどの黒マスクがにやにやしながら立っていた。
「さっきは邪魔入ったけど、こんな外れじゃ誰もいない?」
舌打ちして庄野は、駆け出す。目指すはゲートの向こう。街を知っている分、自分のほうが有利だと思った。どこか上手く建物に入り込めれば、逃げ切れるはずだ。
「逃げても無駄だよ?」
「やってみなくちゃ分からない」
だが黒マスクが言い放った言葉の意味を庄野はすぐに実感する。パイプゲートをすり抜けるはずだった体は、壁に激突したような衝撃に襲われた。
「がふっ!」
いったい何が!? 何度やっても同じで、向こうとこちら世界を分ける壁でもあるのか、庄野の行く手を阻んでいる。
「なあ、オレを人間にしてくれよ? 公園猫は人間にならないとここから出ていけないんだよ?」
「人間じゃないと出ていけない……?」
「あのゲートの向こうは鉄の塊がすごい勢いで走ってるし? 小さなこの体じゃあっという間に喰われるんだ」
黒マスクに間合いをつめられ庄野は、相手を睨めつけるしかできなかった。
「ほらほら早く?」
「できるか! 猫を人間にするなんて知るかよ」
早く、と言われても、庄野には無理な相談だった。本当に分からないのだから。
焦れた黒マスクに、ばしゅっと頭を叩かれ、爪が頬を薙いだ。痛みに顔を顰めるが、痛がっている余裕はなかった。同じように爪を出し黒マスクの顎を狙う。しかし繰り出された黒マスクの前足にまたも顔を張られる。
「お前、弱いね? これでオレに向かってきたんだから、世間知らず?」
「うるさいっ!」
よろけながらも庄野は辛うじて踏み止まる。倒れて上に乗られたら、体格差もあるから逃れられないと思った。しかしその懸念は現実のものとなる。
黒マスクが庄野めがけて飛びかかり、体を両手で押さえて後ろ足で蹴りを連続で入れる。
「ぐふっ!!」
腹をしたたかに蹴り上げられて庄野は息をつまらせた。そのまま首の後ろを噛みつかれ、背に乗られる。後ろ足が庄野の腰を固定し身動きできない。体をよじれば、噛みつかれた箇所に黒マスクの牙が食い込んだ。
「離せっ!!」
いやな予感がした。この体勢は何だ? 庄野は尻に当たった尖ったものの感触に血の気が引いていく。
「ぎゃああっああっああ――」
喉から悲鳴が迸った。すさまじい痛みが庄野の体を貫いていた。
庄野はルイを探していた。ルイに望みを叶えてもらわなくては。人間に戻って請け負った仕事の始末つけないといけないのだ。それが自分の責任だ。
ベンチ裏の茂みをすぎて、柔らかな土を踏みしめる。靴を履いている人のときは思いもしなかった感触が不思議だった。
「何か変だ――」
そろそろ公園の端、外と仕切るパイプゲートが見えてきたところで庄野は最大の違和感を覚えた。
空を見上げる。やはり太陽は真上で明るい。けれどゲートの向こうに映る景色は夜のように暗かった。自分の目がおかしいのかと手で擦ってみるが、暗く見えるのは変わらない。
ゲートの付近だけかと思い、横道に逸れて境界を作る茂みの隙間から外を見る。けれど暗さは同じで、そして何よりも奇妙なのは外の音がしなかった。道路を行き交う車の音が。人の声だって聞こえてもいいはずだった。
「どこなんだ、ここは」
公園ではなかったのか? 毎週足を運んでいた、噴水塔がある。
背にぞくりと嫌なものが走る。改めて自分の身に起きている異常さを感じた。
「ここにいた?」
その声に、びくり、と庄野の体は固まった。恐る恐る振り返れば、先ほどの黒マスクがにやにやしながら立っていた。
「さっきは邪魔入ったけど、こんな外れじゃ誰もいない?」
舌打ちして庄野は、駆け出す。目指すはゲートの向こう。街を知っている分、自分のほうが有利だと思った。どこか上手く建物に入り込めれば、逃げ切れるはずだ。
「逃げても無駄だよ?」
「やってみなくちゃ分からない」
だが黒マスクが言い放った言葉の意味を庄野はすぐに実感する。パイプゲートをすり抜けるはずだった体は、壁に激突したような衝撃に襲われた。
「がふっ!」
いったい何が!? 何度やっても同じで、向こうとこちら世界を分ける壁でもあるのか、庄野の行く手を阻んでいる。
「なあ、オレを人間にしてくれよ? 公園猫は人間にならないとここから出ていけないんだよ?」
「人間じゃないと出ていけない……?」
「あのゲートの向こうは鉄の塊がすごい勢いで走ってるし? 小さなこの体じゃあっという間に喰われるんだ」
黒マスクに間合いをつめられ庄野は、相手を睨めつけるしかできなかった。
「ほらほら早く?」
「できるか! 猫を人間にするなんて知るかよ」
早く、と言われても、庄野には無理な相談だった。本当に分からないのだから。
焦れた黒マスクに、ばしゅっと頭を叩かれ、爪が頬を薙いだ。痛みに顔を顰めるが、痛がっている余裕はなかった。同じように爪を出し黒マスクの顎を狙う。しかし繰り出された黒マスクの前足にまたも顔を張られる。
「お前、弱いね? これでオレに向かってきたんだから、世間知らず?」
「うるさいっ!」
よろけながらも庄野は辛うじて踏み止まる。倒れて上に乗られたら、体格差もあるから逃れられないと思った。しかしその懸念は現実のものとなる。
黒マスクが庄野めがけて飛びかかり、体を両手で押さえて後ろ足で蹴りを連続で入れる。
「ぐふっ!!」
腹をしたたかに蹴り上げられて庄野は息をつまらせた。そのまま首の後ろを噛みつかれ、背に乗られる。後ろ足が庄野の腰を固定し身動きできない。体をよじれば、噛みつかれた箇所に黒マスクの牙が食い込んだ。
「離せっ!!」
いやな予感がした。この体勢は何だ? 庄野は尻に当たった尖ったものの感触に血の気が引いていく。
「ぎゃああっああっああ――」
喉から悲鳴が迸った。すさまじい痛みが庄野の体を貫いていた。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる