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12.じゃじゃ馬王女とやんちゃ王子
しおりを挟む「リリアナ、今日はどこに行くの?」
「ホーリー、そんなにくっつかれたら歩きにくいわ」
ストーカー事件から四日ほどが経った。
ホーリーは、リリアナに心を許し、常に隣にいるようになった。
「高貴でステキで心優しいリリアナの隣には、やっぱりわたくしが一番だわ」
親や取り巻きに、「高貴な者の隣に立つべき存在」と言われ続けてきたホーリーは、その通り、リリアナの隣にゆきついた。
「ホーリー、残念だけどずっとリリアナのそばにいるのは僕だからね」
ライムはプルンと反論するが、うっとりしているホーリーにその声は聞こえていない。
「誰にも言えなかったストーカー被害も、リリアナのおかげで解決したもの」
実際には、リリアナはその場にいただけで、とくに何もしていない。
どちらかというと、事件後のアフターケアが、実を結んだというのだろうか。
「でも、ホーリーが傷つかなくて良かった」
心からそういうリリアナに、ホーリーはキュンとする。
「それで? 今日はどこに?」
「王妃様に王女様と第二王子様の子守を任されたの。最近は王様の弟君につきっきりだから、様子を見てきてほしいって」
「そ、そうなの。あ、わたくし用を思い出しましたわ。おほほ、それじゃあねリリアナ」
明らかにおかしなタイミングで去っていくホーリー。
「どうしたのかしら?」
その理由は、すぐに分かった。
「リリアナと申します」
「ふん、母上の分身か?」
「まあ、お兄様ったら。そんなわけないじゃない。この方はただのへ・い・み・ん。そうだわ、今日は平民ごっこをしましょう」
王城の中央にある、広い中庭。
そこに、おてんば兄弟はいた。
思春期で難しい年頃の第二王子、ルイス、十四歳。
おませさんな年頃の王女、アイビー、十歳。
かわいらしい顔をしたふたりの悪魔の子守は、城に仕える者にとってまるで悪夢だった。
「リリアナ、ホーリー嬢には逃げられたんだね」
すこし意地悪そうな顔をする王子も、それだけ言って逃げて行った。
「今日は人に逃げられてばかりね」
「大丈夫、僕は逃げないよ!」
ライムは魔物でしょ、と言いかけたが、ルイスとアイビーの視線を感じ、口をつぐむ。
「えっと、どうされましたか?」
「それ、スライム?」
ムスッとした顔で、ルイスはぶっきらぼうに質問した。
リリアナが「はい」と返事をすると、ふたりはいっせいにライムに飛びついた。
「わあ、魔物なんて初めて見た!」
「ねえ、冒険者ごっこしましょうよ!」
ライムをつねったりこね回したりして、喜んでいる。
「ふたりは魔物怖くないのですか?」
「ふ、ふん。怖いわけないだろ」
「スライムは別ですわ! ああ、可愛い……!」
どこかで見た光景だ。
リリアナは思い出す。
彼女は王妃とはじめて会った時と同じデジャヴを感じていた。
「い、いたい……」
「しゃべれるスライムか、珍しいな」
「うふふ、プルプルで可愛い!」
聞くところによると、ふたりの叔父にあたる王弟が送ってくる手紙に冒険のことがたくさん書かれていて、王妃も子供たちも、スライムに憧れを持っていたらしい。
その王弟は、いま帰国しているらしいが。
「では、もしかして冒険者にも憧れていますか?」
「当たり前だろ」
「叔父様って、すごい冒険者らしいの! いいなあ、わたくしも冒険のお話をもっと聞きたいわ」
「昨日、叔父様のところに行ってすぐ帰されたくせに」
「ま! それはルイスもでしょう!?」
「はあ? 俺はおまえについて行っただけで――」
喧嘩が始まってしまった。
ふたりはにらみ合い、今にもお互い飛びかかろうとしている。
「お、落ち着てください。冒険の話なら、私もできますから」
「えっ?」
「あなた、冒険者でしたの?」
ふたりはリリアナに純粋な目を向ける。
そうしていると、おてんば兄弟とあれどもかわいらしい。
「はい。二年ほどしか冒険してないのですが、ドーバン王国で冒険者をしてましたよ」
リリアナがそういうと、今までとは打って変わって、キラキラした目でリリアナを催促した。
ふたりは芝生に座り込むと、リリアナにも同じように座るよう命じる。
「さ、はやく」
「そうですね。冒険者といっても、色々するんです。薬草の採取や、偉い方の護衛、それから魔物の退治」
わくわくした様子の思春期ボーイは、自分が思春期なのも忘れて「それでそれで?」と聞く。
「はじめての依頼は、ロック鳥の卵の納品でした。私はある男性と一緒に洞窟にゆき、奥でロック鳥と――――……と、そういうわけです」
「わああぁあ! 面白い!」
「ステキだわ、リリアナ!」
拍手喝采。
ふたりは興奮したように頬を赤くして、手を叩いている。
「リリアナは話が上手いな」
ふと振り向くと、セオドラが立っていた。
「聞いてたの」
「お兄様、リリアナってすごいの! こぉんなおっきな鳥の魔物を出し抜いて、その卵を手に入れたのよ!」
アイビーはセオドラに身振り手振りをつけて説明している。
セオドラは頭を撫で、「そうか」と笑った。
「俺はそのロック鳥にやられそうになったんだ。そこを助けてくれたのも、リリアナなんだよ」
「えぇ、リリアナすごいわ!」
「ああ、本当にすごい」
おてんば兄弟がリリアナになついた瞬間だった。
その日からリリアナは毎日のように兄弟に呼び出され、冒険の話をすることになってしまった。
「叔父様の手紙よりもこう、臨場感があるよな」
「ええ、ほんとに面白いわ!」
兄弟に呼び出されること二日目。
話し終えたリリアナに、ルイスとアイビーは感心してそういった。
すると。
「おいおい、誰より臨場感があって面白いだって?」
リリアナの背後から、聞き覚えのある声がした。
「まあ、叔父様!」
「冒険の話をしてやろうと思ったら、なんだ? 浮気か?」
リリアナは振り返る。
そこにいたのは、なんと、Sランク冒険者のアーロンだった。
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