ハズレ職? いいえ、天職です

陸奥

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別れと始まり

白い狐の脱出劇

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 シェリルがエリとケニスと共に祝祭のために王城へ向かった。我が屋敷にいるのはシェリルの父親から連れて行けぬと言われたからじゃ。我もシェリルも渋々従ったがこれは好機じゃろう。

 なんせ、シェリルはケニスたち諸共この家から抜けるからな。我もそろそろ動かねば。

 シェリルと過ごすために子狐の姿になっていたが、もうこの姿をしておる必要はない。変化を解くべく体をほぐすために背伸びをしておれば、この部屋に無断で入って来た者がいた。それはこの屋敷のメイド長であるメイサという人間。一体何しに来たのかと伺っていれば、その手にはレイピアと呼ばれる細身の剣が握られていた。

「もうあの子は帰ってこないわ。ヴァイスちゃん、その毛皮を私にちょうだいな?」

 どうやら我を殺りにきたようじゃ。此奴がシェリルの父親に必死に懇願したのは我の毛が目的じゃったか。

 我の毛はシェリルのモノじゃ。シェリルの命令なしでは我には触れさせん。

「さあ、ヴァイスちゃん。私にその毛皮を寄越しな!」

 飛びかかるように奴が我に向かってくるが、その動きは大振りでシェリルよりも遅い。普通の動物や魔物ならば捕まっておるじゃろうが、我にとっては問題はない。

 レイピアは刺すことに特化した剣。槍のように剣先に気をつければ脅威ではない。そもそも我相手に素人同然の者がレイピアで挑むこと自体間違っておる。

「ふっ」

 このように飛んで身を翻せば簡単に背後を取ることができる。匂いも毒などの類が塗られておらんし、我を随分とナメくさっておるようじゃ。

 そんな輩には罰を与えねばなるまい。それに8年前にシェリルを泣かせた報いを受けてもらわねば。

「我に触れるなど頭が高い」

「ぎゃっ」

変化を解き、尻尾で薙ぎ払えばメイサは正面から壁へ激突し動かなくなった。その背中からはレイピアの刃先が貫通して顔を出しており、血が止めどなく溢れ出て来ていた。

 人間なんぞ、シェリルとシェリルを守ろうとする者以外どうでも良い。

「モルヴィスたちと合流するか」

 シェリルがここを発ってしばらくしたら、この屋敷から離れた山奥で合流することになっておる。要らぬ屋敷ならば壊せば良いと思うんじゃが、シェリルにあらぬ疑いを着せられても困るし変な詮索をされないためらしい。

 人間とは難儀な生き物じゃ。

 少し細工をし、いつもの姿となり窓を割って飛び出せば、ここを警備しておる者たちやメイドたちが物音を聞いて集まって来た。奴らは事切れているメイサを見て驚いておるようだが、そばに落ちている毛玉にも驚いておった。それは、我が細工を施したモノで我じゃと思わせる術をかけた毛玉じゃ。高度な技術を持つの魔法師でなければ見破れん。

 それよりも彼奴らと合流してシェリルの元へ向かわねば。シェリルは寂しがり屋で甘えん坊じゃ。それに両親らと縁を切ることで相当なストレスも抱えておるじゃろうから、合流した暁にはたくさん甘やかしてやらねば。

そう思考を巡らせ、我はモルヴィスたちが待っておるじゃろう山奥へ向かった。


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