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別れと始まり
名前
しおりを挟むポーカーフェイスの練習を諦め、私たちはドンディール国へ向かうために深い森に覆われた山の中を進んでいった。空気は澄んでいてとても心地は良いけど、いろんな生き物たちの鳴き声や気配があって気が抜けない。
ちょっと油断したら襲われそうな感じだ。
「シェリル、疲れていないか?我に乗るか?」
「もう、ヴァイスは心配性だよ。まだ大丈夫だし、足腰鍛えないとだからまだ歩くよ。限界になったらお願い」
「むぅ……」
しばらく自分の足で歩いているためか、さっきからヴァイスの主張がこればかりだ。まあ、屋敷にいた時にモルヴィスたちと狩猟について行く時は背中に乗って移動していたから背中が寂しいのかもしれないね。だけど、足腰を鍛えないといけないのは本当のことだし、ヴァイスに頼れない時があったら自分で動かないといけない。だから私自身の足で歩かないと。
「ヴァイス、シェリルのためですからしばらく我慢ですよ」
「そうやで?あんさんが動けへんことになった時にシェリルが一人で逃げられへんことになって怪我したら、命落としたらどないするん?」
「む、それは困る」
「だから1人で歩かせるっスよ」
キースたちが私の意図を汲んでくれたようでヴァイスに説明してくれた。ありがたい。
「それにしてもシェリル。良いのか?敬称なしで呼んで?」
「うん。だって屋敷を、レイフォード家を出たんだから敬称は不要でしょ」
「確かにそう、だけど……。……慣れない」
「ゆっくり慣れてってよ」
正直堅苦しいのは苦手で、こうして砕けた言葉遣いの方が落ち着くんだ。まあケニスはなかなか慣れないみたいだし、モウスはモウスで敬称が抜けただけになってるようだけどね。
頑張って慣れてもらわないと。
「あ、そういえば言い忘れてたんだけど、私ね、偽名を名乗ろうと思うんだ」
「偽名?」
「なぜだ?ファミリーネームだけではダメなのか?」
「シェリルという名前は五万といるだろうけど、他人の空似で同じ名前というのはかなりの低確率だろうけど、念には念を入れたいんだ」
せっかく死んだと思わせることができたはずなのに、名前で生きているのがバレて刺客を送られたとなったら意味がない。
だからこその、私たちの身を守るための偽名だ。
「どんな名前にするんだい?」
「ユウキ・ヒノザキ。私のこれからの名前だよ」
まさか前世での名前がここで役立つなんて思わなかったけど、使える物は使わないと。
シェリル・レイフォードはバレるまでお休みにして、これからはユウキ・ヒノザキとしてケニスたちと過ごそう。
ユウキがシェリルだとバレるまで───。
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