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義之と明美の物語
僕は四人で仲良く暮らしています
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四人で仲良く暮らす家の一階にあるお兄ちゃんの部屋の出窓が僕の定位置なのだ。朝から夕方まで暖かい陽ざしが差し込む場所になっているのでとても気持ち良く昼寝が出来るのだ。最近ではお兄ちゃんも仕事が忙しくて遊んでもらえないのだけれど、その代わりにお兄ちゃんとあっちゃんの子供が僕と遊んでくれるのだ。
最初の頃は僕が面倒を見ていた小さな子供もいつの間にか大きくなっていて、何となくあっちゃんに似てきているようにも見えた。でも、話し方とかはお兄ちゃんに似ているので僕は不思議な気持ちになってしまっていた。ただ、そんな二人に似たこの子は二人と同じで僕に優しくしてくれているのだ。
「ちーちゃんってさ、パパとママのキューピットなんだってね。もう一人ディノ君って人がいたみたいだけど、私は写真とビデオでしか見た事ないんだよね。二人がいなかったらパパもママも結婚してなかったかもしれないっていうし、ありがとうね。それにしても、ちーちゃんはもうおばあちゃんなのに綺麗な毛並みなのよね。私もちーちゃんみたいに綺麗な髪だったら良かったのに。なんで私だけ癖っ気なんだろう」
娘ちゃんは僕の背中を優しく撫でながらいつもそんなことを言っている。僕とディノ君がお兄ちゃんとあっちゃんをくっつけ直したって二人は思ってるみたいんだけど、僕もディノ君も二人の気持ちが離れてはいない事を知っていたし、一時的に別れていただけで元に戻っただけだと思っているのだ。
「私もちーちゃんが人間だった時に喋りたかったな。うんと小さい時にお話をした記憶はあるんだけど、それって本当にちーちゃんだったのか覚えてないしな。お兄ちゃんはちーちゃんと話したことがあるって言ってたし、なんで私の方が先に産まれなかったんだろうな。でも、私の方がちーちゃんに好かれてるみたいだから別にいいか」
「何言ってんだよ。俺の方がちーちゃんに好かれてるって。俺は佳乃みたいに寝てるちーちゃんの邪魔をしてないしな。おやつだって俺の方があげてるんだからな。俺の方が好かれてるに決まってるさ」
「そんな事ないもん。私の方がちーちゃんに好かれてるもん。こうして撫でても逃げないし。お兄ちゃんはガサツだから撫でてもちーちゃんに嫌がられてるもんね」
息子ちゃんがお兄ちゃんって呼ばれてるのは不思議な感じがするんだよな。僕の中ではお兄ちゃんはお兄ちゃんだけなんだけど、この子達からしたらお兄ちゃんじゃなくてお父さんってことになるんだし、何とも不思議な感覚なんだよね。
息子ちゃんは力が強くて力の加減も出来ないんだけど、別に強く撫でられるのもいやじゃないしね。おやつだってくれるから嫌いでもないし、娘ちゃんはいつも優しくしてくれるから好きかも。僕の事を可愛いってたくさん言ってくれてるしね。
「こら、二人とも喧嘩しないの。ちーちゃんが寝てるのにうるさくしたらダメでしょ。それに、勝手にパパの部屋に入るのもダメって言ってるのに」
「だって、ちーちゃんがパパの部屋にこもりっきりで心配になったんだもん。最近元気ないみたいだから心配になっちゃって」
「心配するのは悪いことじゃないけど、勝手にパパの部屋には行ったらダメだからね。仕事の道具とかもあるんだから壊したら大変でしょ。佳乃は壊したりしないと思うけど、守は気を付けないとダメだからね」
「なんで俺だけ怒られるんだよ。佳乃が勝手に入ってなきゃ怒られなかったのにな」
「二人ともちーちゃんが元気なくて心配なのかもしれないけど、心配しなくても大丈夫だからね。パパが帰りにちーちゃんの好きなアイスを買ってくるって言ってたからね。アイスを見たらちーちゃんもすぐに元気になるわよ。だから、今はもう少し寝かせてあげなさい。二人はパパが帰ってくる前に宿題終わらせとくのよ」
アイスと聞いて思い出すのはあの喫茶店の事だ。初めて食べたアイスのおいしさに僕は我慢出来ずにお代わりをしてしまった。何個食べたのかはわからないけれど、アイスをあんなに食べたのはあの時が最初で最後だったと思う。
もう少し昼寝をしてたらお兄ちゃんが帰ってくる時間になるだろうし、僕は名残惜しそうに出ていく二人を見送ってから眠りについた。
「二人とも宿題は終わったのか?」
「うん、今日は数学だけだったよ。プリント一枚だからすぐに終わったよ」
「俺は宿題無かったから普通に勉強してた。昨日も英語をやったんだけどよくわかんないところがあったから今日も英語にしてみた」
「そうか。二人とも偉いな。今日はアイスを買ってきたからご飯を食べたらみんなで食べような。もちろん、ちーちゃんの分もあるからね」
お兄ちゃんはお父さんになっても僕に変わらず優しくしてくれていた。小さい時からずっと僕に優しくしてくれている。僕はそんなお兄ちゃんに甘えて過ごしているのだけれど、他の猫からはプライドが無いとか人間に媚びすぎだとか言われてるんだよね。でも、誰でもお兄ちゃんと一緒に暮らせばこうなるのは仕方ないのだと思う。ディノ君だってお兄ちゃんの事が大好きだったし、あっちゃんも子供たちもお兄ちゃんの事が好きなんだと思う。当然、お兄ちゃんと子供たちがあっちゃんの事を好きだっていうのも見ててわかるけどね。
「ねえ、ちーちゃんはもう人間になったりしないの?」
「どうだろうね。ディノ君は犬に戻った後に少しだけ人間の姿になったことはあったけどさ、そのすぐ後に亡くなっちゃったからな。俺はちーちゃんが亡くなるんだったら人間にならないで猫のまま長生きして欲しいなって思うんだよな」
「それってさ、他の家のペットもそうなの?」
「どうなんだろうね。人間になったペットの死期が近付くと元の姿に戻って最期を迎えるってのはよく聞くけどさ、人間の姿に一度戻ってお礼を言ってくれるってのはあんまり聞いた事ないかも。何人かはいたみたいだけどさ、あまり一般的な事じゃないかもな」
「私はちーちゃんが亡くなるって事は考えたくないけど、一回くらいは人間になってもらってお話してみたいって思ってる。お兄ちゃんはちーちゃんと話したことがあるって言ってたし、私だけ話したことないのは寂しいもん」
「離したことあるって言ってもさ、俺も小さい時だったからはっきり覚えてないし。俺だってちーちゃんと話をしてみたいとは思うけどさ、やっぱりまだまだ生きていて欲しいって思うからな」
「お前らは俺と母さんが忙しい時にちーちゃんにオムツを変えてもらったりしてたんだぞ。離乳食だって食べさせてもらってたしな。スプーンの使い方が下手だったちーちゃんはお前たちのためにいっぱい練習して食べさせることが出来るようになったんだからな。お前たちが大きくなったのはちーちゃんのお陰って言ってもいいかもな」
「もう、その話は何回も聞いてるよ。それに、そんな話をしてくれなくても私はちーちゃんが大好きだから。最近は寝てばっかりだけどさ、小学生の時はたくさん遊んでもらったしね」
「俺だってちーちゃんには感謝してるよ。友達と喧嘩した時とか落ち込んでる時は俺のそばにきて慰めてくれてたし。何かを察して手を差し伸べてくれるのはいつもちーちゃんが最初だったからね」
「お父さんの時も守と一緒でちーちゃんが助けてくれたんだよ。その時は猫じゃなくて人間の姿だったから言葉で慰めてくれたんだけどな。俺は人間の姿のちーちゃんに何度も助けてもらってたし、母さんだってそうなんだよ。それに、ちーちゃんとディノ君がいなかったらお父さんたちは結婚してなかったかもしれないからな」
お兄ちゃんは冷蔵庫からアイスを取り出すと、それを食べやすいように少しずつ皿の中に置いてくれた。僕はアイスを食べようと思ってお皿の前まで歩いていったのだけれど、四人の視線が僕に集中しているのに気付いてしまった。何とも食べづらいのだけれど、アイスは早く食べないと溶けてしまうからな。見られてたとしても食べなくちゃ申し訳ない。
ご飯とアイスを食べ終わった僕はお兄ちゃんの膝の上で丸まっていた。お兄ちゃんの隣にはあっちゃんが座っているのだけれど、時々あっちゃんは僕の背中を触ろうとして手を伸ばしているのに触ってくれなかった。
僕とディノ君の事をお兄ちゃんもあっちゃんも感謝してくれているみたいなのだけれど、僕たちから言わせてもらうと、僕たちを最後まで愛し続けてくれている二人にこそ感謝を伝えたい。もちろん、そんな二人の子供たちも僕の事をたくさん愛してくれているのは知っている。誰が見ても羨ましいって言われるくらいに愛されて育ってきたのだ。
「お兄ちゃん、ありがとうね」
僕はそんな思いを込めて小さな声で鳴いてみた。
いつも感謝の気持ちを抱いてはいるのだけれど、声を出したのはずいぶんと久しぶりのような気がする。
「おい、急にお礼を言うなんてどうしたんだよ。俺は何もしてないと思うけど」
「え、私じゃないよ。ママじゃないの?」
「違うよ。今のはママでも佳乃でもないのよ」
「だって、女の声でお兄ちゃんって呼ばれたよ。ちーちゃんだって猫のままだし、二人じゃなかったら幽霊って事?」
「幽霊じゃないよ。今の声がお前たちにも聞こえたのか。今のは間違いなくちーちゃんの声だよ。十年ぶりくらいに聞いたような気がするけど、昔とちっとも変わらない綺麗な声だな」
お兄ちゃんは僕の背中を撫でてくれているのだけれど、その撫で方はいつもよりも力強いのに優しく感じてしまった。
「でも、ちーちゃんがお兄ちゃんにお礼を言うなんてずるいよ。私だってお礼を言われたいのに」
「違うのよ。ちーちゃんは守の事は守って呼んでたし、佳乃の事は佳乃って呼んでるのよ。私の事はあっちゃんって呼んでくれてるんだけど、パパの事はお兄ちゃんって呼んでるのよ。ね、お兄ちゃん」
「昔からそうだったからな。俺もちーちゃんの事は妹みたいに可愛がってたしな」
「随分可愛い妹だったもんね。今みたいに猫のままでも可愛いけどね」
あっちゃんも僕を嬉しそうに撫でてくれているのだけど、二人の子供たちもそれに加わってきた。
いつも優しく撫でてくれる娘ちゃんもなぜか力が入っているし、息子ちゃんもいつも以上に力が強く感じる。さすがにコレは痛いだろうと思っているとお兄ちゃんが二人を止めてくれた。
「こら、そんなに乱暴にしたらダメだぞ。優しくしてあげないならもうちーちゃんに触るの禁止にするからな」
「ごめんなさい。そう言うつもりじゃなかったの。私も呼んで欲しかっただけだから」
「俺もちーちゃんに呼んでもらいたいって思っただけで、ごめんなさい」
「ちゃんと優しくしてあげなきゃダメだからね」
「まったく、お兄ちゃんとあっちゃんの子供なのに二人ともガサツなんだからな。守は小さい時からそこが変わらないけど佳乃は優しくなったと思ったのにな。興奮すると手加減出来ないのなんてディノ君みたいだよ。そう言えば、佳乃の髪を見てるとディノ君を思い出すな。ディノ君も佳乃も綺麗な毛をしてるし、頭だけ見たら一緒だな。そう考えると、守は髪が短くて僕に似てるのかもな。小さい時に僕の真似して付いてきた事を考えると、守がガサツになったのって僕のせいなのかな。いや、そんなことは無いはずだ。でも、お兄ちゃんもあっちゃんもそんなところは無いし。もしかして、ディノ君のガサツなところが守に影響しているのか。って、そんなはずないよな。守はディノ君にあったことも無いんだしな」
みんなが何を言っているのか完全に理解出来なくなっているように、僕の言葉もみんなは理解していないんだろうな。それでも、何となく言葉が通じているように思えるのは心が通じ合うくらい一緒に大切な時間を過ごしてきたからなのかな。
「みんな、ありがとうね」
僕が小さく短く鳴くと、四人とも驚いた顔で僕を見つめていたのだが、みんなが顔を見合わせると嬉しそうに笑っていたのだった。
最初の頃は僕が面倒を見ていた小さな子供もいつの間にか大きくなっていて、何となくあっちゃんに似てきているようにも見えた。でも、話し方とかはお兄ちゃんに似ているので僕は不思議な気持ちになってしまっていた。ただ、そんな二人に似たこの子は二人と同じで僕に優しくしてくれているのだ。
「ちーちゃんってさ、パパとママのキューピットなんだってね。もう一人ディノ君って人がいたみたいだけど、私は写真とビデオでしか見た事ないんだよね。二人がいなかったらパパもママも結婚してなかったかもしれないっていうし、ありがとうね。それにしても、ちーちゃんはもうおばあちゃんなのに綺麗な毛並みなのよね。私もちーちゃんみたいに綺麗な髪だったら良かったのに。なんで私だけ癖っ気なんだろう」
娘ちゃんは僕の背中を優しく撫でながらいつもそんなことを言っている。僕とディノ君がお兄ちゃんとあっちゃんをくっつけ直したって二人は思ってるみたいんだけど、僕もディノ君も二人の気持ちが離れてはいない事を知っていたし、一時的に別れていただけで元に戻っただけだと思っているのだ。
「私もちーちゃんが人間だった時に喋りたかったな。うんと小さい時にお話をした記憶はあるんだけど、それって本当にちーちゃんだったのか覚えてないしな。お兄ちゃんはちーちゃんと話したことがあるって言ってたし、なんで私の方が先に産まれなかったんだろうな。でも、私の方がちーちゃんに好かれてるみたいだから別にいいか」
「何言ってんだよ。俺の方がちーちゃんに好かれてるって。俺は佳乃みたいに寝てるちーちゃんの邪魔をしてないしな。おやつだって俺の方があげてるんだからな。俺の方が好かれてるに決まってるさ」
「そんな事ないもん。私の方がちーちゃんに好かれてるもん。こうして撫でても逃げないし。お兄ちゃんはガサツだから撫でてもちーちゃんに嫌がられてるもんね」
息子ちゃんがお兄ちゃんって呼ばれてるのは不思議な感じがするんだよな。僕の中ではお兄ちゃんはお兄ちゃんだけなんだけど、この子達からしたらお兄ちゃんじゃなくてお父さんってことになるんだし、何とも不思議な感覚なんだよね。
息子ちゃんは力が強くて力の加減も出来ないんだけど、別に強く撫でられるのもいやじゃないしね。おやつだってくれるから嫌いでもないし、娘ちゃんはいつも優しくしてくれるから好きかも。僕の事を可愛いってたくさん言ってくれてるしね。
「こら、二人とも喧嘩しないの。ちーちゃんが寝てるのにうるさくしたらダメでしょ。それに、勝手にパパの部屋に入るのもダメって言ってるのに」
「だって、ちーちゃんがパパの部屋にこもりっきりで心配になったんだもん。最近元気ないみたいだから心配になっちゃって」
「心配するのは悪いことじゃないけど、勝手にパパの部屋には行ったらダメだからね。仕事の道具とかもあるんだから壊したら大変でしょ。佳乃は壊したりしないと思うけど、守は気を付けないとダメだからね」
「なんで俺だけ怒られるんだよ。佳乃が勝手に入ってなきゃ怒られなかったのにな」
「二人ともちーちゃんが元気なくて心配なのかもしれないけど、心配しなくても大丈夫だからね。パパが帰りにちーちゃんの好きなアイスを買ってくるって言ってたからね。アイスを見たらちーちゃんもすぐに元気になるわよ。だから、今はもう少し寝かせてあげなさい。二人はパパが帰ってくる前に宿題終わらせとくのよ」
アイスと聞いて思い出すのはあの喫茶店の事だ。初めて食べたアイスのおいしさに僕は我慢出来ずにお代わりをしてしまった。何個食べたのかはわからないけれど、アイスをあんなに食べたのはあの時が最初で最後だったと思う。
もう少し昼寝をしてたらお兄ちゃんが帰ってくる時間になるだろうし、僕は名残惜しそうに出ていく二人を見送ってから眠りについた。
「二人とも宿題は終わったのか?」
「うん、今日は数学だけだったよ。プリント一枚だからすぐに終わったよ」
「俺は宿題無かったから普通に勉強してた。昨日も英語をやったんだけどよくわかんないところがあったから今日も英語にしてみた」
「そうか。二人とも偉いな。今日はアイスを買ってきたからご飯を食べたらみんなで食べような。もちろん、ちーちゃんの分もあるからね」
お兄ちゃんはお父さんになっても僕に変わらず優しくしてくれていた。小さい時からずっと僕に優しくしてくれている。僕はそんなお兄ちゃんに甘えて過ごしているのだけれど、他の猫からはプライドが無いとか人間に媚びすぎだとか言われてるんだよね。でも、誰でもお兄ちゃんと一緒に暮らせばこうなるのは仕方ないのだと思う。ディノ君だってお兄ちゃんの事が大好きだったし、あっちゃんも子供たちもお兄ちゃんの事が好きなんだと思う。当然、お兄ちゃんと子供たちがあっちゃんの事を好きだっていうのも見ててわかるけどね。
「ねえ、ちーちゃんはもう人間になったりしないの?」
「どうだろうね。ディノ君は犬に戻った後に少しだけ人間の姿になったことはあったけどさ、そのすぐ後に亡くなっちゃったからな。俺はちーちゃんが亡くなるんだったら人間にならないで猫のまま長生きして欲しいなって思うんだよな」
「それってさ、他の家のペットもそうなの?」
「どうなんだろうね。人間になったペットの死期が近付くと元の姿に戻って最期を迎えるってのはよく聞くけどさ、人間の姿に一度戻ってお礼を言ってくれるってのはあんまり聞いた事ないかも。何人かはいたみたいだけどさ、あまり一般的な事じゃないかもな」
「私はちーちゃんが亡くなるって事は考えたくないけど、一回くらいは人間になってもらってお話してみたいって思ってる。お兄ちゃんはちーちゃんと話したことがあるって言ってたし、私だけ話したことないのは寂しいもん」
「離したことあるって言ってもさ、俺も小さい時だったからはっきり覚えてないし。俺だってちーちゃんと話をしてみたいとは思うけどさ、やっぱりまだまだ生きていて欲しいって思うからな」
「お前らは俺と母さんが忙しい時にちーちゃんにオムツを変えてもらったりしてたんだぞ。離乳食だって食べさせてもらってたしな。スプーンの使い方が下手だったちーちゃんはお前たちのためにいっぱい練習して食べさせることが出来るようになったんだからな。お前たちが大きくなったのはちーちゃんのお陰って言ってもいいかもな」
「もう、その話は何回も聞いてるよ。それに、そんな話をしてくれなくても私はちーちゃんが大好きだから。最近は寝てばっかりだけどさ、小学生の時はたくさん遊んでもらったしね」
「俺だってちーちゃんには感謝してるよ。友達と喧嘩した時とか落ち込んでる時は俺のそばにきて慰めてくれてたし。何かを察して手を差し伸べてくれるのはいつもちーちゃんが最初だったからね」
「お父さんの時も守と一緒でちーちゃんが助けてくれたんだよ。その時は猫じゃなくて人間の姿だったから言葉で慰めてくれたんだけどな。俺は人間の姿のちーちゃんに何度も助けてもらってたし、母さんだってそうなんだよ。それに、ちーちゃんとディノ君がいなかったらお父さんたちは結婚してなかったかもしれないからな」
お兄ちゃんは冷蔵庫からアイスを取り出すと、それを食べやすいように少しずつ皿の中に置いてくれた。僕はアイスを食べようと思ってお皿の前まで歩いていったのだけれど、四人の視線が僕に集中しているのに気付いてしまった。何とも食べづらいのだけれど、アイスは早く食べないと溶けてしまうからな。見られてたとしても食べなくちゃ申し訳ない。
ご飯とアイスを食べ終わった僕はお兄ちゃんの膝の上で丸まっていた。お兄ちゃんの隣にはあっちゃんが座っているのだけれど、時々あっちゃんは僕の背中を触ろうとして手を伸ばしているのに触ってくれなかった。
僕とディノ君の事をお兄ちゃんもあっちゃんも感謝してくれているみたいなのだけれど、僕たちから言わせてもらうと、僕たちを最後まで愛し続けてくれている二人にこそ感謝を伝えたい。もちろん、そんな二人の子供たちも僕の事をたくさん愛してくれているのは知っている。誰が見ても羨ましいって言われるくらいに愛されて育ってきたのだ。
「お兄ちゃん、ありがとうね」
僕はそんな思いを込めて小さな声で鳴いてみた。
いつも感謝の気持ちを抱いてはいるのだけれど、声を出したのはずいぶんと久しぶりのような気がする。
「おい、急にお礼を言うなんてどうしたんだよ。俺は何もしてないと思うけど」
「え、私じゃないよ。ママじゃないの?」
「違うよ。今のはママでも佳乃でもないのよ」
「だって、女の声でお兄ちゃんって呼ばれたよ。ちーちゃんだって猫のままだし、二人じゃなかったら幽霊って事?」
「幽霊じゃないよ。今の声がお前たちにも聞こえたのか。今のは間違いなくちーちゃんの声だよ。十年ぶりくらいに聞いたような気がするけど、昔とちっとも変わらない綺麗な声だな」
お兄ちゃんは僕の背中を撫でてくれているのだけれど、その撫で方はいつもよりも力強いのに優しく感じてしまった。
「でも、ちーちゃんがお兄ちゃんにお礼を言うなんてずるいよ。私だってお礼を言われたいのに」
「違うのよ。ちーちゃんは守の事は守って呼んでたし、佳乃の事は佳乃って呼んでるのよ。私の事はあっちゃんって呼んでくれてるんだけど、パパの事はお兄ちゃんって呼んでるのよ。ね、お兄ちゃん」
「昔からそうだったからな。俺もちーちゃんの事は妹みたいに可愛がってたしな」
「随分可愛い妹だったもんね。今みたいに猫のままでも可愛いけどね」
あっちゃんも僕を嬉しそうに撫でてくれているのだけど、二人の子供たちもそれに加わってきた。
いつも優しく撫でてくれる娘ちゃんもなぜか力が入っているし、息子ちゃんもいつも以上に力が強く感じる。さすがにコレは痛いだろうと思っているとお兄ちゃんが二人を止めてくれた。
「こら、そんなに乱暴にしたらダメだぞ。優しくしてあげないならもうちーちゃんに触るの禁止にするからな」
「ごめんなさい。そう言うつもりじゃなかったの。私も呼んで欲しかっただけだから」
「俺もちーちゃんに呼んでもらいたいって思っただけで、ごめんなさい」
「ちゃんと優しくしてあげなきゃダメだからね」
「まったく、お兄ちゃんとあっちゃんの子供なのに二人ともガサツなんだからな。守は小さい時からそこが変わらないけど佳乃は優しくなったと思ったのにな。興奮すると手加減出来ないのなんてディノ君みたいだよ。そう言えば、佳乃の髪を見てるとディノ君を思い出すな。ディノ君も佳乃も綺麗な毛をしてるし、頭だけ見たら一緒だな。そう考えると、守は髪が短くて僕に似てるのかもな。小さい時に僕の真似して付いてきた事を考えると、守がガサツになったのって僕のせいなのかな。いや、そんなことは無いはずだ。でも、お兄ちゃんもあっちゃんもそんなところは無いし。もしかして、ディノ君のガサツなところが守に影響しているのか。って、そんなはずないよな。守はディノ君にあったことも無いんだしな」
みんなが何を言っているのか完全に理解出来なくなっているように、僕の言葉もみんなは理解していないんだろうな。それでも、何となく言葉が通じているように思えるのは心が通じ合うくらい一緒に大切な時間を過ごしてきたからなのかな。
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