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序章
美味しい話(おかしの家)
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零楼館の近くに出来た洋菓子店がスタッフの間でも評判になっていた。僕も何度か買いに行って食べたことがあるのだが、普段から甘いものをそこまで好んで食べない僕でもまた買いに来ようかなと思ってしまう事もあった。
いつから買い始めたのかわからないが、僕は毎週水曜日になるとこの洋菓子店でシュークリームと季節のシュークリームを人数分購入するようになっていた。それなりの値段はするのだけれど値段に見合った美味しさだと思うので特に気にしたりはしていない。むしろ、これくらいの出費でスタッフがやる気になってくれるのであれば安いくらいだと思う。
「清澄さんって写真屋さんなんですよね?」
「そうですよ。僕は経営と裏方なんで写真を撮ったり現像したりってのはしてないですけどね。家族写真とか撮る予定があるんでしたらサービスしますよ。いつもサービスしてもらってますからね」
受けた恩は必ず返す。そんなポリシーをもっているのは誰にも知られていないと思うけど、そうやって僕は生きてきたのだ。こうして毎週シュークリームを買いに来ているのも、一生懸命働いてくれているスタッフたちに恩返しをしているようなものだから。
「そういうのではないんですけど、ちょっと写真の事で気になることがあるんですよ。私のスマホで撮った写真なんですけど、何か変な風に撮れちゃってるみたいなんです」
店長さんが見せてくれた写真には二人の女性が美味しそうなホールケーキを持って笑顔で写っていた。ショーケースに並んでいるホールケーキの中に同じものがあるが乗っているフルーツが少し違うようだ。色々な角度から撮った複数の写真は当然のようにケーキがメインになっている。
ケーキがあるのならスタッフの誕生日にここでケーキを買ってもいいかもしれないな。なんて考えながら写真のケーキを見ていたところ、何か違和感を覚えてしまった。ケーキ自体も普通においしそうだし、写っている女性二人も特に変わった様子はない。前にちょっと関わってしまったあの写真のように二人の間に誰かが写っているという事もない。それなのに、他の写真と何も変わっていないように見える一枚の写真からは他の写真とは違う違和感があったのだ。
「美味しそうなケーキですよね。写真に写っている二人とも嬉しそうな感じですよね。でも、何かおかしいような気がするんですよ。こんなこと言うのは変だってのは自分でもわかってるんですけど、この写真だけ何か普通じゃないような気がするんです」
僕が手に取った写真を見た店長さんの表情が一瞬だけ曇ったような感じに見えたのだけど、すぐにいつもの爽やかな感じの笑顔に戻っていた。ただ、僕から写真を受け取ろうとしたときに店長さんの手が少しだけ震えていたのを感じ取ってしまった。
「私もこの写真だけ何かおかしいって思うんです。でも、ソレが何なのかさっぱりわからないんです。一緒に写ってる妹は変なところなんて何もないって言うんですけど、清澄さんもこの写真が何か変だって思うんですよね?」
「僕も具体的にどこがおかしいのかわからないです。でも、何かがおかしいとは思うんですよ。山村さんが平気だったらなんですけど、この写真をうちのスタッフたちにも見せて良いですか?」
「それは全然かまいませんよ。私と妹の写真を他の人に見られるのは少し恥ずかしいですけど、写真館の人だったらこんな写真を見てもなんとも思わないでしょうし、何が変なのか原因を教えてもらえるのであれば逆に嬉しいです」
僕はいつものようにシュークリームを買って零楼館へ戻っていったのだ。いつもと違うのは山村店長から預かっている写真があるという事だけなのだが、たった一つ違うだけなのに全く別のモノを買ってきたのではないかと思ってしまうような感覚に陥っていたのだった。
事務所に戻ってシュークリームを冷蔵庫にしまおうかと思って休憩室に入ると、そこにはすでに愛華とうまなちゃんを中心にスタッフが勢ぞろいしていたのだ。
冷蔵庫に入る前にシュークリームを渡すことが出来たのは良いことなのかもしれないが、何となく負けてしまったような気になってしまっていた。だからと言って、来週から買うことをやめたりしないし曜日を変えることだってしない。別に負けた気になったからと言って僕が何かの勝負に負けたというわけではないのだ。
「それがその写真なんですか。他の写真と見比べても何かがおかしいとは思うんですけど、それっていったい何なんでしょうね。うまなちゃんはどう思うかな?」
「そうですね。今月のティラミス風シュークリームも美味しかったですけど、このケーキも美味しそうですよね。このケーキも食べてみたいなんて贅沢は言わないですけど、来月はお父さんの誕生日があるんでお父さんに買ってもらおうかなって思いました」
来月にうまなちゃんのお父さんである栗宮院午彪の誕生日があるというのはすっかり忘れていた。覚えていたとしても何かをすることはないけれど、思い出してしまった以上は何か祝いの言葉でも送っておいた方が良いかもしれない。直接送らなくてもうまなちゃんを介して伝えてもらえばいいか。
「あ、もしかしたらだけど、二人とも両手が右手になってるよ。店長さんも妹さんも凄く持ちづらそうな感じでケーキを持ってるね。でも、これって心霊写真なのかな?」
霊感を持たないはずのうまなちゃんが気付じけど、まだ何かおかしいところがあるような気もしているんだよね。うまなちゃんは他に何か気になったところってあるかな?」
ジッと食い入るように写真を見つめいているうまなちゃんではあったが、その口から出てきた言葉はどれもこれもケーキに対する感想でしかなかった。
確かに、このケーキも美味しそうだとは思うけれど、何か他の事にも気付いてほしい。僕たちとは違う視点を持っているうまなちゃんになら何かわかるかもしれないと思うのだけれど、それはちょっと望み過ぎになってしまうかもしれないな。
いつから買い始めたのかわからないが、僕は毎週水曜日になるとこの洋菓子店でシュークリームと季節のシュークリームを人数分購入するようになっていた。それなりの値段はするのだけれど値段に見合った美味しさだと思うので特に気にしたりはしていない。むしろ、これくらいの出費でスタッフがやる気になってくれるのであれば安いくらいだと思う。
「清澄さんって写真屋さんなんですよね?」
「そうですよ。僕は経営と裏方なんで写真を撮ったり現像したりってのはしてないですけどね。家族写真とか撮る予定があるんでしたらサービスしますよ。いつもサービスしてもらってますからね」
受けた恩は必ず返す。そんなポリシーをもっているのは誰にも知られていないと思うけど、そうやって僕は生きてきたのだ。こうして毎週シュークリームを買いに来ているのも、一生懸命働いてくれているスタッフたちに恩返しをしているようなものだから。
「そういうのではないんですけど、ちょっと写真の事で気になることがあるんですよ。私のスマホで撮った写真なんですけど、何か変な風に撮れちゃってるみたいなんです」
店長さんが見せてくれた写真には二人の女性が美味しそうなホールケーキを持って笑顔で写っていた。ショーケースに並んでいるホールケーキの中に同じものがあるが乗っているフルーツが少し違うようだ。色々な角度から撮った複数の写真は当然のようにケーキがメインになっている。
ケーキがあるのならスタッフの誕生日にここでケーキを買ってもいいかもしれないな。なんて考えながら写真のケーキを見ていたところ、何か違和感を覚えてしまった。ケーキ自体も普通においしそうだし、写っている女性二人も特に変わった様子はない。前にちょっと関わってしまったあの写真のように二人の間に誰かが写っているという事もない。それなのに、他の写真と何も変わっていないように見える一枚の写真からは他の写真とは違う違和感があったのだ。
「美味しそうなケーキですよね。写真に写っている二人とも嬉しそうな感じですよね。でも、何かおかしいような気がするんですよ。こんなこと言うのは変だってのは自分でもわかってるんですけど、この写真だけ何か普通じゃないような気がするんです」
僕が手に取った写真を見た店長さんの表情が一瞬だけ曇ったような感じに見えたのだけど、すぐにいつもの爽やかな感じの笑顔に戻っていた。ただ、僕から写真を受け取ろうとしたときに店長さんの手が少しだけ震えていたのを感じ取ってしまった。
「私もこの写真だけ何かおかしいって思うんです。でも、ソレが何なのかさっぱりわからないんです。一緒に写ってる妹は変なところなんて何もないって言うんですけど、清澄さんもこの写真が何か変だって思うんですよね?」
「僕も具体的にどこがおかしいのかわからないです。でも、何かがおかしいとは思うんですよ。山村さんが平気だったらなんですけど、この写真をうちのスタッフたちにも見せて良いですか?」
「それは全然かまいませんよ。私と妹の写真を他の人に見られるのは少し恥ずかしいですけど、写真館の人だったらこんな写真を見てもなんとも思わないでしょうし、何が変なのか原因を教えてもらえるのであれば逆に嬉しいです」
僕はいつものようにシュークリームを買って零楼館へ戻っていったのだ。いつもと違うのは山村店長から預かっている写真があるという事だけなのだが、たった一つ違うだけなのに全く別のモノを買ってきたのではないかと思ってしまうような感覚に陥っていたのだった。
事務所に戻ってシュークリームを冷蔵庫にしまおうかと思って休憩室に入ると、そこにはすでに愛華とうまなちゃんを中心にスタッフが勢ぞろいしていたのだ。
冷蔵庫に入る前にシュークリームを渡すことが出来たのは良いことなのかもしれないが、何となく負けてしまったような気になってしまっていた。だからと言って、来週から買うことをやめたりしないし曜日を変えることだってしない。別に負けた気になったからと言って僕が何かの勝負に負けたというわけではないのだ。
「それがその写真なんですか。他の写真と見比べても何かがおかしいとは思うんですけど、それっていったい何なんでしょうね。うまなちゃんはどう思うかな?」
「そうですね。今月のティラミス風シュークリームも美味しかったですけど、このケーキも美味しそうですよね。このケーキも食べてみたいなんて贅沢は言わないですけど、来月はお父さんの誕生日があるんでお父さんに買ってもらおうかなって思いました」
来月にうまなちゃんのお父さんである栗宮院午彪の誕生日があるというのはすっかり忘れていた。覚えていたとしても何かをすることはないけれど、思い出してしまった以上は何か祝いの言葉でも送っておいた方が良いかもしれない。直接送らなくてもうまなちゃんを介して伝えてもらえばいいか。
「あ、もしかしたらだけど、二人とも両手が右手になってるよ。店長さんも妹さんも凄く持ちづらそうな感じでケーキを持ってるね。でも、これって心霊写真なのかな?」
霊感を持たないはずのうまなちゃんが気付じけど、まだ何かおかしいところがあるような気もしているんだよね。うまなちゃんは他に何か気になったところってあるかな?」
ジッと食い入るように写真を見つめいているうまなちゃんではあったが、その口から出てきた言葉はどれもこれもケーキに対する感想でしかなかった。
確かに、このケーキも美味しそうだとは思うけれど、何か他の事にも気付いてほしい。僕たちとは違う視点を持っているうまなちゃんになら何かわかるかもしれないと思うのだけれど、それはちょっと望み過ぎになってしまうかもしれないな。
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