うまなちゃんはもっと感じたい

釧路太郎

文字の大きさ
23 / 44
白ギャル黒ギャル戦争

四つ角地蔵の怪

しおりを挟む
 詩織ちゃんたちは学校で会っても目を合わせてくれなくなった。挨拶をすれば挨拶を返してくれるし、ちょっとした雑談にも付き合ってくれるんだけど、以前のように笑顔で私を見てくれることはなくなってしまった。
 私はお昼休みも一人で過ごすことが増えてしまったけど以前もそうだったという事を思い出すと特別寂しいという気持ちは沸いてこなかった。むしろ、誰にも気を遣わずに好きな場所でお昼を過ごすことが出来るという事に喜びを感じていた。
「うまなちゃんは今日も一人でお昼を食べているのかい?」
「うん、最近はそういう日が多いかも。でも、案外と一人もいいもんだって思ってるんだ」
「そうなんだ。寂しくなったらいつでも私たちに声をかけてくれていいからね」
 稲垣さんはいつも私を気にかけてくれている。授業でペアを作る時なんかも坂井さんよりも先に私に声をかけてくれたりしてるし、さっきみたいにお昼休みに声をかけてくれたりもしている。
 勇作さんをボコボコにしていたのはちょっと怖かったけど、あの時はあそこまでしないといけない理由があったという事を後で知ったので怖いと思うよりもありがとうという気持ちの方が強かったのだ。
「そう言えば、今日の放課後に千秋と一緒にあの交差点に行ってみるんだけど、うまなちゃんも一緒に行ってみないかな。もしかしたら、前と違うものが見えるかもしれないよ」
「誘ってくれるのは嬉しいんだけど、今日はアルバイトの日なんだ。今まで休んでいたことも多かったんで出来るだけシフトに入れてもらう事にしてるんだ」
「イッパイ働いて偉いね。私は千秋と遊んでばかりで働いたことなんて無いから尊敬するよ」
「尊敬されるほどでもないと思うけどね。そんな事言うんだったら、稲垣さんはモデルの仕事してるでしょ。そっちの方が尊敬だよ」
「アレは私が凄いんじゃなくて愛華ちゃんと千秋が凄いだけだから。私は二人に言われた通りにしてるだけだったんだよ。パパもママも私よりも千秋の事を誉めてたくらいだからね」
 そんな事を言いつつも稲垣さんは初めてみた時よりもずっと素敵な笑顔を私に見せてくれていた。あの写真で見た時よりもこっちの方が可愛いんじゃないかなと思ってしまうくらいに稲垣さんの笑顔は輝いて見えていた。
「そうだ、いいコト思いついちゃった。愛華ちゃんに頼んで今日のうまなちゃんの仕事をあの交差点で出来るやつに変えてもらおうかな」
「そんな仕事なんてないでしょ。あそこは別に写真を撮るにしても面白い場所じゃないと思うし。ただでさえお化け写真館って言われてるのに、そんなところで写真を撮ってたら余計な噂が広まっちゃうよ」
「噂なんて広まらないと思うけどね。じゃあ、放課後にまたね」
 放課後にまたねと言われても私はアルバイトがあるんだよな。稲垣さんは私を助けてくれた恩人でいい人だと思うんだけど、ちょっとだけ相手の都合を考えないことがあるんだよね。それは不快に思う程じゃないけど、ちょっとだけモヤモヤすることもあったりするんだよね。

 愛華ちゃんと稲垣さんの説明を受けた坂井さんは顔を真っ青に変化させて私の腕にしがみついていた。
「うまなちゃんごめん。でも、今だけはこうさせて。あの人たちちょっとおかしいからあの人たちには頼りたくない」
 私には見えないので何ともないんだけど、坂井さんの目には歩道の両端にずらっと並んでいるお地蔵さんの姿が見えているらしい。どのお地蔵さんも坂井さんの方を向いているという事なのだけど、見えない私にはそんなことがあり得るのかと思ってしまうくらい滑稽な話だと思った。
 怖がっている坂井さんをより怖がらせようと愛華ちゃんも稲垣さんも悪ふざけをしていた。どれもこれも幼稚な感じのいたずらでしかないと思えるのだけど、いたずらをされている坂井さんは今にも泣きだしそうで体も小刻みに震えていた。そんなか弱い子猫みたいな状態の坂井さんの手をギュッと握ってみたところ、坂井さんは少しだけ顔を上げて私の事を頼りにしていると言ってくれた。
「今まで何度もここを通ったことはあるんだけど、なんで今日はこんな状態になってるのよ。うまなちゃんは見えてないって本当なのかな。でも、見えてたらそんなに落ち着いていられないよね」
「逆に何が見えているのか聞きたいんだけど。お地蔵さんがずらっと並んでるって本当なんだよね?」
「本当だよ。歩道端に一杯並んでるんだけど、そのお地蔵さんたちはちょっとずつ角度を変えてみんな私の事を見てるんだよ。後ろを見ても他の道を見てもお地蔵さんはみんな私の事を見てるんだよ」
 私には見えないお地蔵さんの話をされているので坂井さんの怖がっている姿も演技なのかなと思ったりもしていた。でも、ここまで本気で怖がっている演技が出来るんだったらその道に進んでしまった方が良いように思えた。それくらいに坂井さんの怖がり方には嘘が無いように思えた。
 愛華ちゃんはそんな坂井さんを嬉しそうに写真に収めている。その様子を斜め後ろから見ている稲垣さんもすごく嬉しそうだ。何がそんなに楽しいんだろうと思いながらも、こんなに怖がっている坂井さんの姿を見るのは少し面白いと感じてしまっていたのは秘密にしよう。
「ホントに無理なんだけど。もう怖すぎるから帰りたいよ」
「そんなこと言わないでよ。お地蔵さんたちは千秋に何か悪いことが起きないか心配で見守ってるんだからね。みんな千秋の事を心配してくれているんだよ」
「それはわかったけど、物事には限度ってものがあるんだよ。さすがにこれは怖すぎだって」
「千秋は本当にわがままなんだからな。愛華ちゃんもドン引きしちゃってるじゃん」
「ドン引きしてるのはあんたのその行動にだよ」
 いつもみたいに楽しそうにしている稲垣さんと坂井さんだけど、その理由がお地蔵さんだというのは微笑ましいと思って良いのか悩ましいところであった。
「うまなちゃんはさ、千秋ちゃんみたいに見えるようになりたいって思ってるかな?」
「どうだろう。前までは私もお父さんたちみたいに見えるようになりたいって思ってたけど、今はそんなに思ってないかも。逆に、見えない方が幸せだって言ってた意味が分かってきたかも」
「千秋ちゃん見てるとそう感じちゃうかもね。でも、そんな千秋ちゃんも茜ちゃんもうまなちゃんのために色々と頑張ってくれたんだよ」
「うん、それは知ってるよ。でも、何があったのか知らないんだよね。教えてもらえたりするのかな?」
「そうだね。今日はもう遅いから明日のバイトの時からゆっくりと教えてあげるよ。何があったか気になってるだろうし、うまなちゃんの知らないところで何をしていたか教えてあげるね。私と茜ちゃんたちが何をしていたか、ゆっくりと教えてあげるね」
 明日から教えてもらえる私の知らない話。
 ちょっと楽しみかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...