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第九十二話 三人を捜索する事になったわけだが

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 戻ってこない三人を捜索する事は俺も賛成なのだが、なぜか唯は乗り気ではないように感じた。いつも通りの唯を見て千雪ちゃんから何か連絡が着ていたのかと思って聞いてみたのだけれど、そう言う連絡は来ていないという事だったのでなぜそこまで平然としていられるのかわからなかった。
 俺としては唯菜みたいに心配する気持ちも理解出来るのだけれど、それにしては唯菜は少し心配し過ぎているようにも思えたのだ。過去に自分がストーカー被害に遭っていたことが原因なのかもしれないが、唯菜は知り合いが何か危険な目に遭っていると必要以上に心配してしまうようだ。
 二人の中間に位置するような感じで俺は様子を見守っていたのだけれど、なんだかんだ言って唯も心配しているという事もあって三人で神社に向かうのだ。何も無い一本道を黙々と歩いている途中で急に唯菜が黒い鳥居が見えたと言ってきたのだけれど、そんなものはあるはずもないと思いながら唯菜の指さした方を見てみると、一瞬ではあったが確かに俺の目にも木々の隙間から見える黒い鳥居の姿が映っていたのだ。瞬きと同時にその鳥居は見えなくなったので何かの見間違いなのかと思ったのだが、唯があまりにも平然とそれを否定してたので何かそれに対して違和感を覚えてしまった。
 三人の無事を祈りつつ無言で階段を上っているのだけれど、上を見ても一瞬だけ見えた黒い鳥居なんてものは存在せずすぐに昨日見かけた赤い鳥居が目に入ったのだ。この階段はそこまで高いものでもないので下の鳥居からでも見えていたのだが、何度見ても黒い鳥居なんてものはどこにも存在していないのだ。

 階段を上り切った先には昨日見たものとほとんど変わらない光景が広がっていたのだが、昨日と違う場所が二か所あった。
 一か所は昨日集めていた草が無くなっていたという事で、もう一か所はレジャーシートの上に横たわっている政虎と愛華だった。
 俺と唯菜はその光景が目に飛び込んできた瞬間に言葉にもならないような叫びをあげながら二人のもとへと駆け寄っていたのだが、すぐ近くにいた千雪ちゃんが俺達二人に向かって諭すように口を開いたのだ。
「大丈夫だよ。二人は疲れてお昼寝しちゃってるだけだから」
「疲れてるって、どういうこと?」
「あのね、この神社の裏にあった獣道を抜けた先にあった祠の周りの草むしりもしてたんだよ。そっちはここと違って人の手が行き届いていなかったんで時間がかかっちゃったんだ。それで、ある程度綺麗になったから帰ろうかって事になったんだけど、お兄さんと愛ちゃんが付かれたから仮眠したいって言ってここにシートを敷いて寝ちゃったんだよ。こんな場所じゃなくて旅館に帰ってから寝た方が良いって言ったんだけど、疲れて歩けそうにもないからここでいいって言って寝ちゃったんだよ。だからね、もう少しだけ寝かせてもらえるといいかも」
 神社の裏に獣道なんてあったことに気付かなかったのだが、俺と唯菜は千雪ちゃんに案内されてその獣道を奥へと進んでいった。
 その道の奥には少しだけ開けた場所があってその中心に千雪ちゃんの言っていた祠が存在していた。周りには草を抜いた形跡もあったので三人でここを綺麗にしていたのだろうというのは想像もついたのだけれど、どうして千雪ちゃんだけがそんなに元気でいられるのだろう。というよりも、なぜ政虎と愛華はあんなに精も根も果ててしまったかのように眠っているのだろうか。そこがよくわからないのだ。
「そんなに疲れるくらい頑張らなくても私達も手伝ったのにね」
 唯菜のその発言に俺は全面的に同意をするのだが、それよりもどうして昨日の時点でこの場所が見つからなかったのだろうかという疑問が浮かんでいた。
 獣道があった場所の前は俺も何度も通っていたし、他のみんなも一度や二度は通っていたはずだ。それなのに、誰一人としてこの道を見付けることが出来なかったなんておかしな話だと思う。この道自体も昨日今日出来たようなモノではないと思うし、どうしてその存在に気付くことが出来なかったのだろうと不思議で仕方がない。
「そうえば、千雪はこの辺に黒っぽい鳥居がある場所って知らないかな?」
「黒っぽい鳥居なんて聞いたことが無いかも。千雪はここの事にあんまり詳しくないから知らないだけかもしれないからさ、お姉ちゃんに聞いてみたらいいんじゃないかな。お姉ちゃんなら知ってると思うよ」
「この神社のすぐ近くに他に神社とかも無いんだよね?」
「無いんじゃないかな。旅館の方に行けば新しい神社ならあるけど、そこの鳥居は黒くなかったと思うよ」
 俺と唯菜は目の前にある祠に軽く手を合わせてこの場を去ろうとしたのだが、獣道に入ろうとした瞬間に背後から突き刺さるような視線を感じて思わず振り返ってしまった。
 そこには誰もいるはずもなく何かの気配も無かったのだ。そこにあるのは寂しげに佇む祠のみで、お供えする物を何も持っていなかった俺はその事を心の中で詫びてからもう一度手を合わせてこの場を去ることにした。
 唯菜と千雪に不思議そうな顔で見られたのだが、特に何かを言われるような事も無く廃神社へと戻ってきたのだ。
 俺達が戻ってくる少し前に政虎と愛華は目を覚ましていたようなのだが、まだ疲れが残っているのか座り込んだまま動こうとはしていない。そのすぐ隣に唯が座って二人を見守っているのだけれど、俺にはその様子が見守っているのではなく観察しているように思えていたのは気のせいなのかもしれないな。
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