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第10話 栗宮院うまなの決断
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イザーが異世界に行って工藤太郎の手助けをするという事を止めることが出来なかった栗宮院うまなではあったが、止められないのであれば自分の出来る最善の事をすればいいだけだと割り切って物事を考えることにした。
それでも、栗宮院うまなは工藤珠希とデートをする権利を簡単に手に入れることが出来るのは今回だけで、次回からはイザーに全て持っていかれてしまうのではないかと言う焦りもあったのだ。一対一の勝負になれば栗宮院うまながイザーに勝てる要素など何も無いと思っていたところに見つかったイザーの弱点も無効化できるという事が判明したし、工藤太郎が戻ってくるとイザー以外のサキュバスに対しても悪い影響があるような気がしてならないのだ。
だが、逆に考えるとたった一回だけだったとしても工藤珠希とデートをすることが出来るというのは栗宮院うまなにとって大きな経験となることは確実なのだ。その一回の経験の差がこれから争う他のサキュバスに対してのアドバンテージになることは明白であるし、工藤珠希と最初にデートをしたという称号は何物にも代えがたいものがある。
「イザーちゃんはさ、承認を受けなくても転送ゲートを使うことが出来るって思ってるみたいだけど、それは無理なんじゃないかな。昔と違って今は転送ゲートのある部屋までにも複数の手順を踏んで行かないといけないし、いくらイザーちゃんとは言え能力を使えない状態のままではそこまで行けないよね?」
「そう言われるとそうかもしれないね。でも、それって普通に正規の道を通っていった場合の話だよね。私がそんな面倒なことをするって思ってるのかな?」
「思ってるよ。だって、イザーちゃんはルールをちゃんと守るじゃない」
「それはそうなんだけど、今回はサキュバス側としての行動じゃなくてレジスタンス側としての行動になるわけだし、サキュバス側の決まりを守る必要はないんじゃないかなって思うんだ」
「そんな事したらイザーちゃんはサキュバスと敵対することになっちゃうよ。私はそんなの嫌だよ。イザーちゃんと戦うのはつらいよ。でも、どうしてもレジスタンスの頼みを聞くって言うんだったら、私は今回に限ってはイザーちゃんの味方をするよ」
「うまなちゃん、ありがとう」
色々とこの先の事を考えた結果、栗宮院うまなが出した結論は今回だけはイザーのために協力するという事だった。
イザーに協力することでイザーが異世界に行ってしまうという事はつまり、今回の工藤珠希とのデート権争いにおいて大幅に優位に立てるという事を表しているのだ。栗宮院うまなはイザーと工藤太郎がいなければ他のサキュバスなんて簡単に説得することが出来るとしか思っていないのである。
海でのデートを終えた後はそのままの流れで温泉に行ってもいいと思っているし、デートをしている段階で次回のデートの約束を取り付けてしまえばこのまま永遠に工藤珠希とデートをし続けられるのではないかとすら考えているのである。
もちろん、イザーはそんな事を考えていないし、一緒についてきているサキュバスの子も栗宮院うまなの考えなど想像することすらないだろう。二人ともきっと栗宮院うまなが親友であるイザーのために協力しているとしか考えていないはずだ。
「うまなさんが協力してくださるというのでしたら、きっと転送ゲートへの通路は通れると思うんですよ。でも、転送ゲートまでたどり着いたとして、転送ゲートを起動するための許可はどうするんですか?」
「問題はそれなのよね。イザーちゃんは平気だって言ってるけど、そんなに簡単にどうなるものでもないんだって。私とイザーちゃんで順番に一人ずつ説得していけば何とかなるかもしれないけど、さすがに理事長を説得するのは私でも無理だと思う。仕事の時は家族とか関係ないって言ってるし、どんなに甘えても無理なんだよね」
「理事長ってうまなさんに甘い印象だったんですけど、線引きはしっかりしている人なんですね。でも、私たちが見てる限りでは理事長も奥さんには甘いと思うんですけど。お母さんの説得とか出来ないんですか?」
「そっちの方が無理かも。お母さんってレジスタンスに対してみんなが思っている以上に嫌悪感を抱いているのよ。何があったのかは教えて貰えないんだけど、高校生の時によほどひどいトラウマを植え付けられたんじゃないかって思うんだよね。家でも気軽にレジスタンスの話をすることが出来ないし、サキュバスの子がレジスタンスにやられちゃうのを見ると泣いちゃってるんだもん」
栗宮院うまなの母親は零楼館大学にある研究棟で未知の生物に関する研究をしているようだ。イザーの協力もあってこの世界には存在しない生物を取り扱う事も出来ているのだが、それらは決して世間に発表できるようなことではなく完全に趣味で研究しているという。
イザーの他にも別の世界からやってきた獣人がいるのだが、その子は完全にこの世界に溶け込んでいるので誰も獣人がいるという違和感に気付く者はいないのだ。そもそも、サキュバスが平気で暮らしているような世界なので獣人がいても気にするものなどいないという話なのだが、さすがに異世界からやってきたという事がわかれば問題になるかもしれないという事くらいは本人も気付いているので余計なことは言わないようにしているようだ。
「そんなわけで、いくら私でも両親を説得するのは無理だと思うんだよね。太郎ちゃんを助けに行くって言わなかったら行けるとは思うけど、そんなだまし討ちみたいなことをしたら二度とお願い出来なくなっちゃうと思うんだよ。どうしたらいいんだろうね」
「気にすることはないよ。私は“転送しちゃう門”の所まで行ければ問題ないし。太郎ちゃんのいる場所に行くだけだったら特別なことなんて何もしなくても大丈夫だって。あの二人にだって気を使う必要ないし、私が勝手にやったことだって言えばうまなちゃんも怒られたりしないから安心してね」
それでも、栗宮院うまなは工藤珠希とデートをする権利を簡単に手に入れることが出来るのは今回だけで、次回からはイザーに全て持っていかれてしまうのではないかと言う焦りもあったのだ。一対一の勝負になれば栗宮院うまながイザーに勝てる要素など何も無いと思っていたところに見つかったイザーの弱点も無効化できるという事が判明したし、工藤太郎が戻ってくるとイザー以外のサキュバスに対しても悪い影響があるような気がしてならないのだ。
だが、逆に考えるとたった一回だけだったとしても工藤珠希とデートをすることが出来るというのは栗宮院うまなにとって大きな経験となることは確実なのだ。その一回の経験の差がこれから争う他のサキュバスに対してのアドバンテージになることは明白であるし、工藤珠希と最初にデートをしたという称号は何物にも代えがたいものがある。
「イザーちゃんはさ、承認を受けなくても転送ゲートを使うことが出来るって思ってるみたいだけど、それは無理なんじゃないかな。昔と違って今は転送ゲートのある部屋までにも複数の手順を踏んで行かないといけないし、いくらイザーちゃんとは言え能力を使えない状態のままではそこまで行けないよね?」
「そう言われるとそうかもしれないね。でも、それって普通に正規の道を通っていった場合の話だよね。私がそんな面倒なことをするって思ってるのかな?」
「思ってるよ。だって、イザーちゃんはルールをちゃんと守るじゃない」
「それはそうなんだけど、今回はサキュバス側としての行動じゃなくてレジスタンス側としての行動になるわけだし、サキュバス側の決まりを守る必要はないんじゃないかなって思うんだ」
「そんな事したらイザーちゃんはサキュバスと敵対することになっちゃうよ。私はそんなの嫌だよ。イザーちゃんと戦うのはつらいよ。でも、どうしてもレジスタンスの頼みを聞くって言うんだったら、私は今回に限ってはイザーちゃんの味方をするよ」
「うまなちゃん、ありがとう」
色々とこの先の事を考えた結果、栗宮院うまなが出した結論は今回だけはイザーのために協力するという事だった。
イザーに協力することでイザーが異世界に行ってしまうという事はつまり、今回の工藤珠希とのデート権争いにおいて大幅に優位に立てるという事を表しているのだ。栗宮院うまなはイザーと工藤太郎がいなければ他のサキュバスなんて簡単に説得することが出来るとしか思っていないのである。
海でのデートを終えた後はそのままの流れで温泉に行ってもいいと思っているし、デートをしている段階で次回のデートの約束を取り付けてしまえばこのまま永遠に工藤珠希とデートをし続けられるのではないかとすら考えているのである。
もちろん、イザーはそんな事を考えていないし、一緒についてきているサキュバスの子も栗宮院うまなの考えなど想像することすらないだろう。二人ともきっと栗宮院うまなが親友であるイザーのために協力しているとしか考えていないはずだ。
「うまなさんが協力してくださるというのでしたら、きっと転送ゲートへの通路は通れると思うんですよ。でも、転送ゲートまでたどり着いたとして、転送ゲートを起動するための許可はどうするんですか?」
「問題はそれなのよね。イザーちゃんは平気だって言ってるけど、そんなに簡単にどうなるものでもないんだって。私とイザーちゃんで順番に一人ずつ説得していけば何とかなるかもしれないけど、さすがに理事長を説得するのは私でも無理だと思う。仕事の時は家族とか関係ないって言ってるし、どんなに甘えても無理なんだよね」
「理事長ってうまなさんに甘い印象だったんですけど、線引きはしっかりしている人なんですね。でも、私たちが見てる限りでは理事長も奥さんには甘いと思うんですけど。お母さんの説得とか出来ないんですか?」
「そっちの方が無理かも。お母さんってレジスタンスに対してみんなが思っている以上に嫌悪感を抱いているのよ。何があったのかは教えて貰えないんだけど、高校生の時によほどひどいトラウマを植え付けられたんじゃないかって思うんだよね。家でも気軽にレジスタンスの話をすることが出来ないし、サキュバスの子がレジスタンスにやられちゃうのを見ると泣いちゃってるんだもん」
栗宮院うまなの母親は零楼館大学にある研究棟で未知の生物に関する研究をしているようだ。イザーの協力もあってこの世界には存在しない生物を取り扱う事も出来ているのだが、それらは決して世間に発表できるようなことではなく完全に趣味で研究しているという。
イザーの他にも別の世界からやってきた獣人がいるのだが、その子は完全にこの世界に溶け込んでいるので誰も獣人がいるという違和感に気付く者はいないのだ。そもそも、サキュバスが平気で暮らしているような世界なので獣人がいても気にするものなどいないという話なのだが、さすがに異世界からやってきたという事がわかれば問題になるかもしれないという事くらいは本人も気付いているので余計なことは言わないようにしているようだ。
「そんなわけで、いくら私でも両親を説得するのは無理だと思うんだよね。太郎ちゃんを助けに行くって言わなかったら行けるとは思うけど、そんなだまし討ちみたいなことをしたら二度とお願い出来なくなっちゃうと思うんだよ。どうしたらいいんだろうね」
「気にすることはないよ。私は“転送しちゃう門”の所まで行ければ問題ないし。太郎ちゃんのいる場所に行くだけだったら特別なことなんて何もしなくても大丈夫だって。あの二人にだって気を使う必要ないし、私が勝手にやったことだって言えばうまなちゃんも怒られたりしないから安心してね」
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