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第十話
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今までずっと奥谷君と同じクラスになっていたし、高校生になってからは同じ演劇部で活動していたわけなので、恋人同士になったからと言って特別何かが変わるということは無かった。しいて言えば、部活終わりに一緒に帰ることが多くなったのだけれど、奥谷君の家を過ぎているのに私の家まで送ってくれるというのは優しさを感じて嬉しかった。
お昼休みも部活中も今まで通りで一緒に過ごす時間はあまりないのだけれど、放課後に一緒に帰ることが出来るだけでも私は嬉しかった。部活の無い日には愛莉も一緒に帰ることがあったのだけれど、私は三人で過ごす時間も嬉しかった。ごくたまに朋花ちゃんと高橋君も一緒に帰る時があるのだけれど、その時もとても楽しく過ごすことが出来ていた。
「今まで何度も通ったこの通学路も泉と一緒に二人で歩いているのって変な感じがするな。同じ時間に帰ることが今まで何度もあったけどさ、こうして隣で歩いているのって無かったもんね」
「そうだね。今までは私が奥谷君の前を歩いていることが多かったと思うけど、こうして隣同士に並んで歩いているのって小学校の遠足の時以来じゃないかな?」
「ああ、三年生の時に博物館まで行った時だ。あの時は結構歩いたような気がしてたけど、この前近くを通ってみたらそんなに距離は無かったんだよな」
「この前通ったって、信寛君は博物館好きなの?」
「好きか嫌いかで言えば好きだと思うけど、ここ以外は行きたくないって程でもないかな。何となく行ってみようかなって思って自転車で行ってみたんだよ」
「自転車って結構家からなら遠いんじゃない?」
「それでも一時間はかからなかったよ。途中でコンビニに寄ったりもしたけど、一時間はかからなかったな」
「へえ、私は自転車で行ってみようかなって思った事なかったから驚いたけど、信寛君ってどこでも自転車で行ってるよね」
「割とそうかも。休みの日にやることが無かったら自転車でちょっと遠出とかしちゃうな。でも、これからはあんまり行かなくなるかも」
「え、どうして?」
「どうしてって、そんな時間があったら泉と一緒に居たいからな。今まで結構すれ違ったりもしてただろうし、その分も一緒に居たいなって思ってるんだよね」
「嬉しいな。でもさ、自分の好きな事は遠慮しないでやってくれていいんだよ。私は信寛君が楽しそうにしてるのを見るのが嬉しいからね」
「それは俺も同じだよ。そうだ、今度の休みに天気が良かったらどこかに行ってみないか?」
「それは良いけど、自転車で?」
「自転車でもバスでも歩きでも何でもいいよ。泉が行きたい場所があるならそこに行こうよ」
「そうだな。話を聞いてたら博物館も行ってみたいと思ったけど、夏休み前にみんなで行った動物園に二人で行きたいな。あの時は皆が一緒に居たから二人でゆっくり出来なかったし、今みたいに二人でお話とか出来なかったもんね。二人で行ったらどんな感じになるんだろうね」
「動物園はイイかもな。あの時は動物の生態を観察して演技に活かそうみたいな感じで言ってたと思うんだけど、実は俺はずっと泉の事を見てたんだよね。その時は誰にもバレてないと思ったけど、結構バレバレだったみたいで今でもいじられたりしてるんだよ」
「それは気付かなかったかも。あの時は動物園が久しぶり過ぎて動物にしか目が行ってなかったからね。それが普通だと言われたらそうなんだけどさ、久しぶりじゃなかったら私も信寛君の事を見てたかもしれないな。でも、それをやってたら頻繁に目が合ってたかもしれないね」
「確かにな。でもさ、俺はこうして泉と付き合う前から結構泉の事を見てると思うんだけど、あんまり目が合った記憶って無いんだよね。目が合いそうで逸らすってわけでもないのに、あんまり目が合ってないのって不思議だったな」
「そう言われたらそうだったかも。私も愛莉とかに信寛君の事を見過ぎだよって言われたりもしてたんだけど、目が合った記憶って私も無いな。それが理由で信寛君が私の事に興味が無いんだろうなって勘違いしちゃったのかもしれないね」
「そうだよな。俺も結構泉を見てるのに目が合わないって事は、俺に興味無いんだろうなって思ってたもんな。もしかしたら、お互いに見たいなって思う時がズレてたのかもね。今だってこうして話してるのに、不思議と目が合ってないしね」
「うん、隣にいて同じ方向を向いて歩いているから仕方ないかもね。でも、今はまだちゃんと顔を見て、目を見て話すのって、緊張しちゃうかも。幼馴染で友達だった時とは違って意識しちゃうって言うか、あの時も好きは好きで気持ちは変わらないんだけど、信寛君も私の事を好きなんだなって思っちゃうと、緊張して喋れなくなっちゃう気がするんだよね。だからさ、今はこうして信寛君の隣に居られるだけで私は嬉しいんだよ」
私はごく自然に自分の気持ちを伝えることが出来た。何も深く考えていない思っていることを言っただけなのだ。それを伝えると同時は、私は恥ずかしいという気持ちが出てくるよりも先に信寛君の顔を見て微笑んでいた。と思う。
恋人同士になってからちゃんと信寛君の事を正面から見たのはこれが初めてだった。いつも見ている横顔と違って、信寛君の顔はとても優しさに満ち溢れていた。
「あ、目が合ったね。付き合ってから初めて目が合ったかもしれないな。それにしても、泉って普段も可愛いのに笑顔はもっと可愛いよね」
「あ、ありがとう」
私は信寛君の言葉を聞いてそれを返すのが精一杯だった。自分でもわかるくらい顔が熱く感じているのだが、きっと夕日に負けないくらい赤い顔になっているんだろうな。
それは、目を合わせていた恥ずかしさや緊張からくるものなのか、信寛君が可愛いって言ってくれた嬉しさからくるものなのか、私にはわからないけれど、とても幸せだなと感じていた。
お昼休みも部活中も今まで通りで一緒に過ごす時間はあまりないのだけれど、放課後に一緒に帰ることが出来るだけでも私は嬉しかった。部活の無い日には愛莉も一緒に帰ることがあったのだけれど、私は三人で過ごす時間も嬉しかった。ごくたまに朋花ちゃんと高橋君も一緒に帰る時があるのだけれど、その時もとても楽しく過ごすことが出来ていた。
「今まで何度も通ったこの通学路も泉と一緒に二人で歩いているのって変な感じがするな。同じ時間に帰ることが今まで何度もあったけどさ、こうして隣で歩いているのって無かったもんね」
「そうだね。今までは私が奥谷君の前を歩いていることが多かったと思うけど、こうして隣同士に並んで歩いているのって小学校の遠足の時以来じゃないかな?」
「ああ、三年生の時に博物館まで行った時だ。あの時は結構歩いたような気がしてたけど、この前近くを通ってみたらそんなに距離は無かったんだよな」
「この前通ったって、信寛君は博物館好きなの?」
「好きか嫌いかで言えば好きだと思うけど、ここ以外は行きたくないって程でもないかな。何となく行ってみようかなって思って自転車で行ってみたんだよ」
「自転車って結構家からなら遠いんじゃない?」
「それでも一時間はかからなかったよ。途中でコンビニに寄ったりもしたけど、一時間はかからなかったな」
「へえ、私は自転車で行ってみようかなって思った事なかったから驚いたけど、信寛君ってどこでも自転車で行ってるよね」
「割とそうかも。休みの日にやることが無かったら自転車でちょっと遠出とかしちゃうな。でも、これからはあんまり行かなくなるかも」
「え、どうして?」
「どうしてって、そんな時間があったら泉と一緒に居たいからな。今まで結構すれ違ったりもしてただろうし、その分も一緒に居たいなって思ってるんだよね」
「嬉しいな。でもさ、自分の好きな事は遠慮しないでやってくれていいんだよ。私は信寛君が楽しそうにしてるのを見るのが嬉しいからね」
「それは俺も同じだよ。そうだ、今度の休みに天気が良かったらどこかに行ってみないか?」
「それは良いけど、自転車で?」
「自転車でもバスでも歩きでも何でもいいよ。泉が行きたい場所があるならそこに行こうよ」
「そうだな。話を聞いてたら博物館も行ってみたいと思ったけど、夏休み前にみんなで行った動物園に二人で行きたいな。あの時は皆が一緒に居たから二人でゆっくり出来なかったし、今みたいに二人でお話とか出来なかったもんね。二人で行ったらどんな感じになるんだろうね」
「動物園はイイかもな。あの時は動物の生態を観察して演技に活かそうみたいな感じで言ってたと思うんだけど、実は俺はずっと泉の事を見てたんだよね。その時は誰にもバレてないと思ったけど、結構バレバレだったみたいで今でもいじられたりしてるんだよ」
「それは気付かなかったかも。あの時は動物園が久しぶり過ぎて動物にしか目が行ってなかったからね。それが普通だと言われたらそうなんだけどさ、久しぶりじゃなかったら私も信寛君の事を見てたかもしれないな。でも、それをやってたら頻繁に目が合ってたかもしれないね」
「確かにな。でもさ、俺はこうして泉と付き合う前から結構泉の事を見てると思うんだけど、あんまり目が合った記憶って無いんだよね。目が合いそうで逸らすってわけでもないのに、あんまり目が合ってないのって不思議だったな」
「そう言われたらそうだったかも。私も愛莉とかに信寛君の事を見過ぎだよって言われたりもしてたんだけど、目が合った記憶って私も無いな。それが理由で信寛君が私の事に興味が無いんだろうなって勘違いしちゃったのかもしれないね」
「そうだよな。俺も結構泉を見てるのに目が合わないって事は、俺に興味無いんだろうなって思ってたもんな。もしかしたら、お互いに見たいなって思う時がズレてたのかもね。今だってこうして話してるのに、不思議と目が合ってないしね」
「うん、隣にいて同じ方向を向いて歩いているから仕方ないかもね。でも、今はまだちゃんと顔を見て、目を見て話すのって、緊張しちゃうかも。幼馴染で友達だった時とは違って意識しちゃうって言うか、あの時も好きは好きで気持ちは変わらないんだけど、信寛君も私の事を好きなんだなって思っちゃうと、緊張して喋れなくなっちゃう気がするんだよね。だからさ、今はこうして信寛君の隣に居られるだけで私は嬉しいんだよ」
私はごく自然に自分の気持ちを伝えることが出来た。何も深く考えていない思っていることを言っただけなのだ。それを伝えると同時は、私は恥ずかしいという気持ちが出てくるよりも先に信寛君の顔を見て微笑んでいた。と思う。
恋人同士になってからちゃんと信寛君の事を正面から見たのはこれが初めてだった。いつも見ている横顔と違って、信寛君の顔はとても優しさに満ち溢れていた。
「あ、目が合ったね。付き合ってから初めて目が合ったかもしれないな。それにしても、泉って普段も可愛いのに笑顔はもっと可愛いよね」
「あ、ありがとう」
私は信寛君の言葉を聞いてそれを返すのが精一杯だった。自分でもわかるくらい顔が熱く感じているのだが、きっと夕日に負けないくらい赤い顔になっているんだろうな。
それは、目を合わせていた恥ずかしさや緊張からくるものなのか、信寛君が可愛いって言ってくれた嬉しさからくるものなのか、私にはわからないけれど、とても幸せだなと感じていた。
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