7 / 100
始まりの春休み編
沙緒莉と脱衣所で
しおりを挟む
僕は今まで生きて生きた中で一番早くお風呂から出たのだ。脱衣所は鍵をかけているのだけれど、何かが起きてはいけないと思い僕はさっとお風呂を済ませたのだ。と言っても、頭も体も全身綺麗に洗っているので問題はない。ただ、湯船に浸かっていないだけなのだ。冗談だとは思うのだけれど、真弓が本当に入ってくるかもしれないという恐れもあったのと、沙緒莉姉さんと陽香が浸かったお湯に入るのが何となく恥ずかしかったというのもあるからだ。
脱衣所で髪を乾かしていると、ドアノブがガチャガチャと音を立てていた。一瞬何かわからなかったのだけれど、それと同時に真弓の声が聞こえてきた。
「ねえ、昌兄ちゃんはもうお風呂終わったの?」
「うん、今は髪を乾かしててこれから出るところだよ」
「ええ、早すぎるよ。そんなに早くてちゃんと体を綺麗にしたの?」
「ちゃんと洗ったよ。真弓はそこで何しているの?」
「何しているのって、昌兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうと思ったんだよ。それなのにさ、昌兄ちゃんってもうお風呂から出てるってどういうことなのさ」
「どういうことなのって、お風呂が終わったってだけの話だよ」
「沙緒莉お姉ちゃんのせいで昌兄ちゃんと一緒にお風呂に入れなかったじゃない。もう、どうしてくれるのよ」
「どうしてくれるのって、昌晃君も困ってると思うよ。真弓はもう子供じゃないんだから一人でお風呂に入れるでしょ?」
「入れるけどさ、ここのお風呂は今日初めて入るからちょっと怖いんだよね。幽霊とか出たら守ってくれる人がいないしさ。昌兄ちゃんなら守ってくれるかなって思ってるんだけど」
「え、幽霊なんて出ないから大丈夫だよ。沙緒莉姉さんが入っている時って幽霊出たの?」
「ううん、出てないよ。でも、真弓ってちょっと怖がりなところあるからね」
「怖がりなんじゃないよ。お風呂が特別怖いってだけなの。寝る時は一人でも平気だし、夜だってお散歩に行ったりも出来るよ」
「じゃあ、一人でお風呂に入るのも平気でしょ?」
「だから、お風呂は特別なの。もう、昌兄ちゃんが出ちゃったなら沙緒莉お姉ちゃんと二人でそこで真弓が出るまで待っててよ」
「え、普通に嫌だけど。ここで真弓の事を待つのなんてお姉ちゃん嫌だよ。お姉ちゃんだってみんなとゲームしたいもん」
「そんなこと言わないでさ、昌兄ちゃんは待っててくれるって言ってるし、沙緒莉お姉ちゃんも待っててよ」
「いや、僕はそんな事言ってないけど」
「もう、昌兄ちゃんはずっとそこで待っててくれればいいの。そんな事を言うんだったら、沙緒莉お姉ちゃんはいなくてもいいよ」
なぜか扉一枚隔てて沙緒莉姉さんと真弓が喧嘩を始めてしまった。その理由も何となくお風呂が怖いという真弓のワガママなのだ。しかも、僕は何も言っていないのにここで真弓がお風呂から出てくるまで待たないといけないらしい。それはちょっと嫌だな。
僕は神が完全に乾いているのを確認すると、ドアの鍵を開けてからゆっくりとドアを開いた。そこにはなぜかもう下着姿になっている真弓が立っていたのだが、僕の横をすり抜けるとそのまま全裸になってお風呂に入っていった。お風呂のドアは少しだけ空いているのだけれど、僕は真弓の方を見ないようにしていた。そんな僕を沙緒莉姉さんは申し訳ないといった表情で見ていたのだった。
「ごめんね。いつもはこうじゃないんだけど、初めての家だからちょっと緊張してるのかも。あの子って緊張すると怖い幻覚が見えるみたいで、今みたいにワガママになっちゃうのよね。もうすぐ中学生になるっていうのに変な事で困らせちゃってごめんなさいね。でも、良かったらここで昌晃君とお話ししたいんだけど、いいかな?」
「あ、僕は構わないですけど、何か飲み物を持ってきますか?」
「そうね、でも、それだったら私が何か持ってくるよ。昌晃君は何がいいかな?」
「そうですか。それなら、炭酸系がいいです。お願いします」
「わかったわ。炭酸ね。炭酸なら何でもいいの?」
「はい、コーラかサイダーがあると思うのでどっちでもいいです」
「ねえ、真弓も何か飲み物欲しい」
「駄目、お風呂から出てからにしなさい」
沙緒莉姉さんは真弓が脱ぎ散らかした下着を軽く畳んで洗濯籠に入れていた。僕はなるべく見ないようにはしていたのだけれど、沙緒莉姉さんの動きが洗練された感じだったので思わず見入ってしまっていた。でも、真弓の身に着けていた下着は見ていないと思う。
お風呂のドアが少しだけ空いているのが気になって閉めようとしたのだけれど、僕がドアを閉めようとしているのを感じ取った真弓がそれを頑なに拒んでいた。なんで閉めようとしたのがわかるのかは謎だったが、そんな事は気にせずに僕は脱衣所の壁によしかかって沙緒莉姉さんが戻ってくるのを待っていた。
「ごめんね。陽香に説明してたら少し時間がかかっちゃった。あの子もここに来ようと思ったみたいなんだけど、おじさんとおばさんと高校の事で話をしてたみたいでさ、向こうにいるみたい」
「高校の事って、まだ入学式も終わってないのに?」
「そうなのよね。あの子は新入生代表として挨拶することになったみたいなんだけど、それの事で何か考えてるみたいよ。でも、内部進学してる子じゃなくて外部受験した陽香が挨拶とかして大丈夫かしらね?」
「大丈夫とは?」
「私もさ、大学からあの学校に通うんで内部事情は分からないけれどさ、ああ言ったところってエスカレーター組と外部入学組で派閥争いとか揉め事とか多そうじゃない。昔から見てる漫画とかドラマとかだとそう言ったので喧嘩になったりしてさ、特に、新入生代表の挨拶とかしてしまったらエスカレーター組のボスから目を付けられていじめのターゲットになったりすることが多いじゃない。だからさ、陽香に何かあったらどうしようかなって思ってるのよ。大学と高校って結構校舎が離れているから何かあってもすぐに行けないし、陽香に何かあったとしてもすぐに気づけないかもしれないのよね」
「でも、そんな事って本当にあるんですかね。漫画だけの話じゃないですか?」
「そうかもしれないけれどさ、一応用心しておいた方がいいでしょ。何も無ければ何もないで良い事だし、何かあったとしても最低限の準備だけはしておいた方がいいと思うのよね。でも、私だけじゃ陽香を守れないと思うし、良かったら昌晃君も陽香を守ってくれないかな?」
「はい、何かありそうだったら僕が守りますよ。出来ることなんて限られているとは思いますが、それでもちゃんと守りますから。陽香に何かあったらみんなが悲しむと思いますからね」
「ありがとうね。それと、良かったら真弓の事も気にかけてもらってもいいかな?」
「ええ、それも問題ないですよ。高校と中学は校舎も近いですし、何かあったらすぐに行けると思います」
「良かった。どっちかって言うと、私は陽香よりも真弓の方が心配なのよね。真弓ってさ、勉強でも運動でも遊びでも何でも一通り高い水準で出来ちゃうのよ。その事で小学校の時にちょっと問題があったのよ。真弓自身はそれに関して何も感じてはいなかったみたいなんだけど、いつからか友達と遊ばないようになっちゃったのよね。それは良くないと思って色々と試してみたんだけど、小学校ではずっと先生以外とは話もしてなかったみたいなのよ。それはいじめに遭ってるんじゃないかなって思ってたんだけど、実際は真弓の方から友達を拒絶してたみたいなのよね。なんて言えばいいのかわからないけど、真弓が優秀過ぎたせいで他の友達と壁を作っちゃったみたいなんだ。真弓はそれを変だとは思ってなかったみたいだし、それで困ることは全然なかったみたいなんだけど、そのままみんなと同じ中学に進むのは良くないような気がしてね、私達三人で大紅団扇大学の受験を決めたのよ。私は大学で陽香は高校で真弓は中学のね。私は真弓はちゃんと合格すると思ってたし、陽香だってケアレスミスをしなければ大丈夫だって確信はあったのよ。でも、私って三人の中じゃ一番勉強出来ないから少し不安だったのよね。でも、今となっては三人とも合格出来て良かったなって思ってるよ。それに、高校には昌晃君もいることだしね」
僕は沙緒莉姉さんの話を聞いて三人ともやっぱり苦労しているんだなと思っていた。良く冷えたサイダーが僕の喉を通る刺激が少し強かったけれど、その強さは嫌ではなかった。真弓も友達がいなかったんだったら、僕は親戚のお兄ちゃんというだけではなく友達みたいに遊んであげてもいいかなと思っていたりもした。得意なはずのゲームで負け越しているからという理由ではなく、もっと一緒に遊んであげたいと思ってしまった。
「最初はさ、ここにお世話になるのも申し訳ない気持ちで一杯だったんだけど、おじさんもおばさんも快く私達を迎えてくれたんだよね。昌晃君は今日まで知らなかったみたいだけど、こうして受け入れてくれてるしね。ありがとうね」
「確かに、聞いた時はびっくりしたけどさ、沙緒莉姉さんたちが悪い人じゃないってのは知ってるからね。それに、僕も受験の時におじさん達にお世話になってるから」
「そうだったね。パパもママも昌晃君に勉強を教えるのは楽しいって言ってたよ。私も陽香も真弓もパパとママに教えてもらうよりも参考書を見たりひたすら問題を解く方が好きだったからね」
「へえ、そんなに問題を解くのが好きなんだ。受験のために結構厳選したりしてたの?」
「いや、そう言った知識はあまりなくてね。とりあえず、問題集一冊に掛ける時間は一週間以内って決めてやってたな。最終的には過去問もやりつくして同じのやったりもしてたけどね」
「え、それってみんなで一冊やってたってこと?」
「違うよ。一人一冊だよ。ウチって、お小遣いが少ないけど勉強にかけるお金は自由にしていいって決まりだったからね。そう言った面では恵まれていたのかも」
「はは、それは凄いや。僕なんて問題集を一冊やり切ったことないかも」
「普通はそう言うもんなのかな。でも、昌晃君がウチのパパとママを説得してくれたってところもあるんだよ。ちゃんと熱心に勉強してくれていたし、パパもママもおじさんとおばさんの事は信用してたんだけど、年頃の男の子である昌晃君の事は少し心配だったみたいなんだよね。でも、昌晃君は大丈夫だったんだってさ」
「大丈夫だったって、ただ勉強を教えてもらってただけだったけど?」
「それなんだけどね、ママが酷いことをしてたんだよ。昌晃君に勉強を教えていた部屋に私と陽香の下着をわかりやすいところに置いてたんだって。それを見た昌晃君がどうするのかってテストを何回かしたみたいだよ」
「あ、それって何となく覚えているかも。おじさんとおばさんがいなくなったなって思ったら、テレビの前とか冷蔵庫の横とかに下着っぽいものが落ちてた気がする。最初は気付かなかったけど、何のために置いてあるんだろうってのは気になってたかも」
「でも、それを拾ったり持って帰ったりしてなくて良かったわ。もしも、それをもって言ってたら私達はここに住めなかったかもしれないしね。だってさ、置いてある下着を持って帰るような人とは一緒に住めないってパパもママも思うだろうしね」
「まあ、そりゃそうだろうけどさ、誰のかわからないようなものは持って帰らないと思うよ」
「そうなんだ。じゃあ、誰のかわかってたら持って帰ったりするのかな?」
「そう言うわけじゃないけど」
「じゃあ、昌晃君は高いところと低いところだったらどっちが好きなのかな?」
「高いところと低いところか。その二つだったら低い方かな。高いところも苦手ではないけど、低い方がいいかも」
「低い方ね。じゃあ、そのままそこに座っていてね」
僕は残り少ないサイダーを少しずつ味わって飲みながら沙緒莉姉さんが何をするのだろうと思って眺めていた。
沙緒莉姉さんは僕の斜め前に移動していた。僕はこれから何をするつもりなんだろうと思いながら見ていると、沙緒莉姉さんは僕に背を向けてから地面に手と膝をつけて四つん這いの姿勢になっていた。僕はその行動と先ほどの質問に何の関連性があるのか理解出来なかったのだが、沙緒莉姉さんは何を思ったのかパジャマのズボンを脱いで履いているパンツを僕に見せてきたのだ。
「もう少し低い方が良かったかな?」
「何を考えているんですか。やめてくださいよ」
「でもさ、誰のかわからないパンツじゃなくて私が履いているパンツなんだからね。だけど、触るのはダメよ」
「そんなことしませんって」
このタイミングで真弓が出てきたら気まずいなと思っていたのだけれど、真弓は気持ちよさそうに鼻歌を歌っているのでまだ出てくる気配はなかった。それでも、僕は目の前で四つん這いになってパンツを見せてくる沙緒莉姉さんの事を直視することは出来なかったのだ。
脱衣所で髪を乾かしていると、ドアノブがガチャガチャと音を立てていた。一瞬何かわからなかったのだけれど、それと同時に真弓の声が聞こえてきた。
「ねえ、昌兄ちゃんはもうお風呂終わったの?」
「うん、今は髪を乾かしててこれから出るところだよ」
「ええ、早すぎるよ。そんなに早くてちゃんと体を綺麗にしたの?」
「ちゃんと洗ったよ。真弓はそこで何しているの?」
「何しているのって、昌兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうと思ったんだよ。それなのにさ、昌兄ちゃんってもうお風呂から出てるってどういうことなのさ」
「どういうことなのって、お風呂が終わったってだけの話だよ」
「沙緒莉お姉ちゃんのせいで昌兄ちゃんと一緒にお風呂に入れなかったじゃない。もう、どうしてくれるのよ」
「どうしてくれるのって、昌晃君も困ってると思うよ。真弓はもう子供じゃないんだから一人でお風呂に入れるでしょ?」
「入れるけどさ、ここのお風呂は今日初めて入るからちょっと怖いんだよね。幽霊とか出たら守ってくれる人がいないしさ。昌兄ちゃんなら守ってくれるかなって思ってるんだけど」
「え、幽霊なんて出ないから大丈夫だよ。沙緒莉姉さんが入っている時って幽霊出たの?」
「ううん、出てないよ。でも、真弓ってちょっと怖がりなところあるからね」
「怖がりなんじゃないよ。お風呂が特別怖いってだけなの。寝る時は一人でも平気だし、夜だってお散歩に行ったりも出来るよ」
「じゃあ、一人でお風呂に入るのも平気でしょ?」
「だから、お風呂は特別なの。もう、昌兄ちゃんが出ちゃったなら沙緒莉お姉ちゃんと二人でそこで真弓が出るまで待っててよ」
「え、普通に嫌だけど。ここで真弓の事を待つのなんてお姉ちゃん嫌だよ。お姉ちゃんだってみんなとゲームしたいもん」
「そんなこと言わないでさ、昌兄ちゃんは待っててくれるって言ってるし、沙緒莉お姉ちゃんも待っててよ」
「いや、僕はそんな事言ってないけど」
「もう、昌兄ちゃんはずっとそこで待っててくれればいいの。そんな事を言うんだったら、沙緒莉お姉ちゃんはいなくてもいいよ」
なぜか扉一枚隔てて沙緒莉姉さんと真弓が喧嘩を始めてしまった。その理由も何となくお風呂が怖いという真弓のワガママなのだ。しかも、僕は何も言っていないのにここで真弓がお風呂から出てくるまで待たないといけないらしい。それはちょっと嫌だな。
僕は神が完全に乾いているのを確認すると、ドアの鍵を開けてからゆっくりとドアを開いた。そこにはなぜかもう下着姿になっている真弓が立っていたのだが、僕の横をすり抜けるとそのまま全裸になってお風呂に入っていった。お風呂のドアは少しだけ空いているのだけれど、僕は真弓の方を見ないようにしていた。そんな僕を沙緒莉姉さんは申し訳ないといった表情で見ていたのだった。
「ごめんね。いつもはこうじゃないんだけど、初めての家だからちょっと緊張してるのかも。あの子って緊張すると怖い幻覚が見えるみたいで、今みたいにワガママになっちゃうのよね。もうすぐ中学生になるっていうのに変な事で困らせちゃってごめんなさいね。でも、良かったらここで昌晃君とお話ししたいんだけど、いいかな?」
「あ、僕は構わないですけど、何か飲み物を持ってきますか?」
「そうね、でも、それだったら私が何か持ってくるよ。昌晃君は何がいいかな?」
「そうですか。それなら、炭酸系がいいです。お願いします」
「わかったわ。炭酸ね。炭酸なら何でもいいの?」
「はい、コーラかサイダーがあると思うのでどっちでもいいです」
「ねえ、真弓も何か飲み物欲しい」
「駄目、お風呂から出てからにしなさい」
沙緒莉姉さんは真弓が脱ぎ散らかした下着を軽く畳んで洗濯籠に入れていた。僕はなるべく見ないようにはしていたのだけれど、沙緒莉姉さんの動きが洗練された感じだったので思わず見入ってしまっていた。でも、真弓の身に着けていた下着は見ていないと思う。
お風呂のドアが少しだけ空いているのが気になって閉めようとしたのだけれど、僕がドアを閉めようとしているのを感じ取った真弓がそれを頑なに拒んでいた。なんで閉めようとしたのがわかるのかは謎だったが、そんな事は気にせずに僕は脱衣所の壁によしかかって沙緒莉姉さんが戻ってくるのを待っていた。
「ごめんね。陽香に説明してたら少し時間がかかっちゃった。あの子もここに来ようと思ったみたいなんだけど、おじさんとおばさんと高校の事で話をしてたみたいでさ、向こうにいるみたい」
「高校の事って、まだ入学式も終わってないのに?」
「そうなのよね。あの子は新入生代表として挨拶することになったみたいなんだけど、それの事で何か考えてるみたいよ。でも、内部進学してる子じゃなくて外部受験した陽香が挨拶とかして大丈夫かしらね?」
「大丈夫とは?」
「私もさ、大学からあの学校に通うんで内部事情は分からないけれどさ、ああ言ったところってエスカレーター組と外部入学組で派閥争いとか揉め事とか多そうじゃない。昔から見てる漫画とかドラマとかだとそう言ったので喧嘩になったりしてさ、特に、新入生代表の挨拶とかしてしまったらエスカレーター組のボスから目を付けられていじめのターゲットになったりすることが多いじゃない。だからさ、陽香に何かあったらどうしようかなって思ってるのよ。大学と高校って結構校舎が離れているから何かあってもすぐに行けないし、陽香に何かあったとしてもすぐに気づけないかもしれないのよね」
「でも、そんな事って本当にあるんですかね。漫画だけの話じゃないですか?」
「そうかもしれないけれどさ、一応用心しておいた方がいいでしょ。何も無ければ何もないで良い事だし、何かあったとしても最低限の準備だけはしておいた方がいいと思うのよね。でも、私だけじゃ陽香を守れないと思うし、良かったら昌晃君も陽香を守ってくれないかな?」
「はい、何かありそうだったら僕が守りますよ。出来ることなんて限られているとは思いますが、それでもちゃんと守りますから。陽香に何かあったらみんなが悲しむと思いますからね」
「ありがとうね。それと、良かったら真弓の事も気にかけてもらってもいいかな?」
「ええ、それも問題ないですよ。高校と中学は校舎も近いですし、何かあったらすぐに行けると思います」
「良かった。どっちかって言うと、私は陽香よりも真弓の方が心配なのよね。真弓ってさ、勉強でも運動でも遊びでも何でも一通り高い水準で出来ちゃうのよ。その事で小学校の時にちょっと問題があったのよ。真弓自身はそれに関して何も感じてはいなかったみたいなんだけど、いつからか友達と遊ばないようになっちゃったのよね。それは良くないと思って色々と試してみたんだけど、小学校ではずっと先生以外とは話もしてなかったみたいなのよ。それはいじめに遭ってるんじゃないかなって思ってたんだけど、実際は真弓の方から友達を拒絶してたみたいなのよね。なんて言えばいいのかわからないけど、真弓が優秀過ぎたせいで他の友達と壁を作っちゃったみたいなんだ。真弓はそれを変だとは思ってなかったみたいだし、それで困ることは全然なかったみたいなんだけど、そのままみんなと同じ中学に進むのは良くないような気がしてね、私達三人で大紅団扇大学の受験を決めたのよ。私は大学で陽香は高校で真弓は中学のね。私は真弓はちゃんと合格すると思ってたし、陽香だってケアレスミスをしなければ大丈夫だって確信はあったのよ。でも、私って三人の中じゃ一番勉強出来ないから少し不安だったのよね。でも、今となっては三人とも合格出来て良かったなって思ってるよ。それに、高校には昌晃君もいることだしね」
僕は沙緒莉姉さんの話を聞いて三人ともやっぱり苦労しているんだなと思っていた。良く冷えたサイダーが僕の喉を通る刺激が少し強かったけれど、その強さは嫌ではなかった。真弓も友達がいなかったんだったら、僕は親戚のお兄ちゃんというだけではなく友達みたいに遊んであげてもいいかなと思っていたりもした。得意なはずのゲームで負け越しているからという理由ではなく、もっと一緒に遊んであげたいと思ってしまった。
「最初はさ、ここにお世話になるのも申し訳ない気持ちで一杯だったんだけど、おじさんもおばさんも快く私達を迎えてくれたんだよね。昌晃君は今日まで知らなかったみたいだけど、こうして受け入れてくれてるしね。ありがとうね」
「確かに、聞いた時はびっくりしたけどさ、沙緒莉姉さんたちが悪い人じゃないってのは知ってるからね。それに、僕も受験の時におじさん達にお世話になってるから」
「そうだったね。パパもママも昌晃君に勉強を教えるのは楽しいって言ってたよ。私も陽香も真弓もパパとママに教えてもらうよりも参考書を見たりひたすら問題を解く方が好きだったからね」
「へえ、そんなに問題を解くのが好きなんだ。受験のために結構厳選したりしてたの?」
「いや、そう言った知識はあまりなくてね。とりあえず、問題集一冊に掛ける時間は一週間以内って決めてやってたな。最終的には過去問もやりつくして同じのやったりもしてたけどね」
「え、それってみんなで一冊やってたってこと?」
「違うよ。一人一冊だよ。ウチって、お小遣いが少ないけど勉強にかけるお金は自由にしていいって決まりだったからね。そう言った面では恵まれていたのかも」
「はは、それは凄いや。僕なんて問題集を一冊やり切ったことないかも」
「普通はそう言うもんなのかな。でも、昌晃君がウチのパパとママを説得してくれたってところもあるんだよ。ちゃんと熱心に勉強してくれていたし、パパもママもおじさんとおばさんの事は信用してたんだけど、年頃の男の子である昌晃君の事は少し心配だったみたいなんだよね。でも、昌晃君は大丈夫だったんだってさ」
「大丈夫だったって、ただ勉強を教えてもらってただけだったけど?」
「それなんだけどね、ママが酷いことをしてたんだよ。昌晃君に勉強を教えていた部屋に私と陽香の下着をわかりやすいところに置いてたんだって。それを見た昌晃君がどうするのかってテストを何回かしたみたいだよ」
「あ、それって何となく覚えているかも。おじさんとおばさんがいなくなったなって思ったら、テレビの前とか冷蔵庫の横とかに下着っぽいものが落ちてた気がする。最初は気付かなかったけど、何のために置いてあるんだろうってのは気になってたかも」
「でも、それを拾ったり持って帰ったりしてなくて良かったわ。もしも、それをもって言ってたら私達はここに住めなかったかもしれないしね。だってさ、置いてある下着を持って帰るような人とは一緒に住めないってパパもママも思うだろうしね」
「まあ、そりゃそうだろうけどさ、誰のかわからないようなものは持って帰らないと思うよ」
「そうなんだ。じゃあ、誰のかわかってたら持って帰ったりするのかな?」
「そう言うわけじゃないけど」
「じゃあ、昌晃君は高いところと低いところだったらどっちが好きなのかな?」
「高いところと低いところか。その二つだったら低い方かな。高いところも苦手ではないけど、低い方がいいかも」
「低い方ね。じゃあ、そのままそこに座っていてね」
僕は残り少ないサイダーを少しずつ味わって飲みながら沙緒莉姉さんが何をするのだろうと思って眺めていた。
沙緒莉姉さんは僕の斜め前に移動していた。僕はこれから何をするつもりなんだろうと思いながら見ていると、沙緒莉姉さんは僕に背を向けてから地面に手と膝をつけて四つん這いの姿勢になっていた。僕はその行動と先ほどの質問に何の関連性があるのか理解出来なかったのだが、沙緒莉姉さんは何を思ったのかパジャマのズボンを脱いで履いているパンツを僕に見せてきたのだ。
「もう少し低い方が良かったかな?」
「何を考えているんですか。やめてくださいよ」
「でもさ、誰のかわからないパンツじゃなくて私が履いているパンツなんだからね。だけど、触るのはダメよ」
「そんなことしませんって」
このタイミングで真弓が出てきたら気まずいなと思っていたのだけれど、真弓は気持ちよさそうに鼻歌を歌っているのでまだ出てくる気配はなかった。それでも、僕は目の前で四つん這いになってパンツを見せてくる沙緒莉姉さんの事を直視することは出来なかったのだ。
28
あなたにおすすめの小説
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる