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ゴールデンウィーク編前半
食べ放題でも見せ放題な沙緒莉と真弓
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僕たちは少し離れた食べ放題の店に向かっていた。歩いていくには少し遠すぎると思ったので自転車で行こうと思ったのだけれど、残念なことに沙緒莉姉さんと陽香は自分の自転車を持っていなかったのだった。父さんも母さんも自転車には乗らないので二人がつかえる自転車は無く、僕の自転車も真弓の自転車も当然二人乗りなんて出来るようなものではなかったのだ。
別に食べ放題の店じゃなくても歩いて行ける範囲に良い店はたくさんあるし、値段だってそっちの方が断然安いという事まであるのだが、三人はどうしても食べ放題の店で焼肉や色々なものを食べたいと言ってきかないのだ。僕も正直食べ放題には行きたい気分ではあったのだが、歩いていくという事を少し面倒に感じていた。
「ねえ、そんなに遠いんだったらさ、大きい通りまで行ってタクシー拾っていくのはどう?」
「それもいいかもね。でもさ、タクシーでどれくらいかかるんだろう?」
「さあ、タクシーって普段あまり乗らないから見当もつかないけど、千円ちょっとくらいじゃないかな?」
「それくらいだったら私が出すよ。真弓も歩くの疲れてるんじゃない?」
「うーん、少し疲れてるかもしれないけど、平気と言えば平気かな。陽香お姉ちゃんは疲れてない?」
「私は全然余裕だよ。今日は何もしてないようなもんだし、道がわかれば走って行きたい気分だよ」
「さすがに走って行くのについていこうとは思わないな。僕が道を教えなかったら陽香はたどり着けなさそうだし」
「あ、それはあるかも。陽香ってなんでかわからないけど、道に迷うよね」
「そうだよね。陽香お姉ちゃんってウチの近くでも時々迷ってるもんね。絶対にそれを認めたりしないけれどさ」
「別に私は方向音痴ってわけでもないしさ、学校の移動教室とかも迷わずに行けるし」
「それって普通だと思うよ。でもさ、お兄ちゃんと違うクラスなんだし、本当は迷ったりしてるんじゃないの?」
「いや、そんなことは無いよ。学校で迷うのなんてお弁当を忘れて何を食べるか決める時くらいでしょ」
「でもさ、陽香って最近はお弁当持ってうちのクラスに来ること多くなったよね」
「そうだっけ?」
「ちょっと、陽香お姉ちゃんってそんなことしてるの?」
「別のクラスだから学校でほとんど会う事ないって言ってたのに、陽香って私達に嘘をついてたの?」
「別に嘘なんてついてないよ。昌晃のクラスに友達が出来ただけだし。時々一緒に食べてるだけだって」
「そうなんだ。お兄ちゃんは陽香お姉ちゃんと一緒に食べたりしてるの?」
「いや、僕は一緒には食べてないよ。一回だけ一緒に食べたことあったんだけど、その時はなぜか僕と陽香の関係を疑った男子達が暴れまわって大変だったよ。そのお陰で、僕は学校でもあまり陽香と話さなくなったからね」
「その割には一緒に登下校してるじゃない。それは良いの?」
「ああ、それは皆仕方ないって思ってるんだよ。僕と陽香がいとこ同士だってのをみんな知ってくれたってのもあるんだけどさ、陽香が極度の方向音痴だってみんな知っちゃったからね」
「別に私は昌晃が一緒でもいいんだけどさ、みんながざわざわしちゃうからあんまり一緒に居ないんだよ。でもさ、学校に行って帰るくらい出来ると思うんだけどな。今までだって一度も遅刻してないしね」
「それが普通だと私は思うけど、陽香がちゃんと目的地に行くのって奇跡にしか感じないんだよね」
「もしかしてさ、これから行くお店の中でも迷子になったりしてね」
「ちょっと、それはバカにし過ぎじゃないかな。真弓はお姉ちゃんの事をバカにするような子になっちゃったんだね」
「ごめんなさい。ほんの冗談のつもりだったんだけどね。実際にありそうだとは思うけどさ」
さすがに真弓のその発言は陽香を馬鹿にし過ぎだとは思っていた。
少なくとも、お店の中に入るまではそう思っていたのだ。
食べ放題の店について僕たちが案内された席は壁と天井に隙間がある半個室の掘りごたつ席になっていた。色々と注文することになるだろう僕が入口に一番近い席に座り、隣には真弓が座っていた。正面には沙緒莉姉さんが座り、斜め向かいに陽香が座っていた。
「じゃあ、焼肉だけじゃなくて色々あるみたいだし、好きなモノを一つずつ頼んでみんなで食べ比べしようか。私は、たこ焼きが食べたいかも」
「たこ焼き良いな。真弓はかに玉が食べたいかも。陽香お姉ちゃんは?」
「私は、シーザーサラダにしようかな。お肉は昌晃が適当に頼んでよ」
「え、肉の好みとかないの?」
「大丈夫。私達は昌晃を信じているからね。昌晃が食べたいものを食べたいだけ頼んでいいから。でも、四人前とかはやめてね。きっと私達はそんなにたくさんは食べられないからさ」
「真弓は何か食べたい肉とかないの?」
「うーん、見てもあんまりわからないからお兄ちゃんに任せるよ。沙緒莉お姉ちゃんもわかってないと思うし」
「実はそうなんだよね。焼肉屋に行っても何のお肉を食べてるのかいまいちわかってなかったりするのよ。だから、昌晃君にお任せしちゃうよ」
「そういう事だったら頑張りますよ。でも、僕もそんなに詳しいわけじゃないですからね。食べたことあるやつしか頼みませんよ」
「それで大丈夫よ。じゃあ、ちょっと私はお手洗いに行ってくるわ。飲み物はウーロン茶でお願いね」
「わかったよ。どこの部屋かわからなくなったら電話するんだよ」
「もう、真弓ってやっぱりバカにしてるでしょ」
「そんな事ないけど。心配しているだけだよ」
僕たちは陽香が出て行ってすぐに注文をしていた。とりあえず、三人が食べたいものと飲み物を頼んでから、僕が食べた事のある肉を一通り頼んでおく。足りないものがあれば追加しちゃえばいいと思って少なめに頼んだのだが、イイ感じに炭が燃えている七輪と注文していた食べ物が全部到着しても陽香は戻ってきていなかった。
「それにしても、陽香お姉ちゃん遅いね。本当に道に迷ってるのかな?」
「オシャレな作りだから本当に迷ってたりしてね。ちょっと探しに行ってこようかな。すぐ戻ると思うし、昌晃君と真弓は先に食べてていいからね」
「あ、探しに行くんだったら僕が行きますよ」
「ダメよ。昌晃君は女子トイレに入れないでしょ。ここで食べながら待ってていいからね」
「でも、僕も探しに行きますよ」
「大丈夫よ。二人は一通り食べて美味しいのがどれか教えてちょうだい。追加で頼んでてくれてもいいからね。それと、もしも私が探しに行ってる間に陽香が戻ってきたら電話してね。って、下に落としちゃった。悪いんだけど、昌晃君の足元にスマホが落ちちゃったみたいなんで拾ってもらってもいいかな?」
「別にいいですよ」
僕は沙緒莉姉さんのスマホを拾おうと思って手を伸ばしたのだけれど、意外と深くなっていて手が届かなかった。普通に座った態勢では手も届きそうになかったので横になって思いっきり手を伸ばしてみたところ、指先に固いものが触れた感触があった。
僕はそれを上手い事掴もうとしたのだけれど、掘りごたつの深さに僕の手の長さが微妙に負けているようで、スマホを掴むことが出来ずにいた。仕方がないのでテーブルの下に肩まで入れてスマホを取ることにしたのだけれど、なぜかテーブルの下にスマホは無かったのだった。なるべくならテーブルの下に潜りたくなかったのだけれど、見える範囲にスマホが無いので仕方ない。
「あれ、沙緒莉姉さんのスマホが見つからないんですけど。本当にこっちのほうに落としました?」
「あ、ごめん。落としたと思ったけどポケットに入ってたわ」
「落としてないなら良かったです。じゃあ、戻りますね」
テーブルの下に潜り込んだ時にまた下着を見せられるのではないかと思っていたのだけれど、二人とも足を掘りごたつから出していてくれたのでその心配はなかった。
いくら何でも家以外でパンツを見せてくるような事はしないだろうと思っていたのだけれど、それは僕の思い過ごしであったのだ。
僕はテーブルの下から這い出ていたのだけれど、僕の視線の先には沙緒莉姉さんも真弓もいないことは確認していた。目の前にいないのであれば僕の視界に下着が入ってくることも無いだろう。そう考えていたのだけれど、僕の考えは甘かったようだ。
やっとのことでテーブルから這い出た僕が自分の席につこうとして体の向きを変えると、そこにはなぜか上半身がブラジャーだけの沙緒莉姉さんと真弓が立っていた。レースのたくさんついた大人なのか子供なのかわからない真弓と、明らかにサイズを間違えていて胸がおさまり切れていないスポーツブラの沙緒莉姉さん。
この二人はほぼ個室とはいえ、店の中でこんなことをするとは思わなかったので、僕は唖然としてしまった。
「ねえ、お兄ちゃんが好きなフリフリのいっぱいついた可愛いやつにしてみたんだけど、どうかな?」
「私は昌晃君が好きなスポブラにしてみたんだけど、ちょっとサイズが合わないのよね。でも、大好きなスポブラからはみ出てるのも、悪くないよね?」
僕はあまりにも堂々とした様子の二人にかける言葉は無かったのだが、黙って顔を見ていたところ、二人は急に恥ずかしくなってしまったようで同じタイミングでさっきまで着ていた服を着ようとしていた。
二人がちゃんとした服装に戻ってからほんの数秒で陽香が戻ってきたのだけれど、陽香には焦っている様子が無かった。落ち着いているところを見る限り、道に迷っていたわけではないようだ。
「あれ、陽香は迷ってたんじゃないの?」
「もう、お店が広いからって迷うわけないじゃない。昌晃のクラスの雪ちゃんがいたからちょっと話してたのよ。これから帰るところだって言ってたんだけど、昌晃にもよろしくって言ってたわよ」
「そうだったんだ。迷ってなくて良かったよ」
「そう言えば、陽香お姉ちゃんからは高校の話をよく聞くんだけど、お兄ちゃんからは聞いた事ないかも」
「そう言えばそうかも。昌晃君ってどんな感じの高校生なの?」
「どんな感じって、普通だと思いますけど」
「普通って何だろう。お兄ちゃんの普通と真弓たちの普通って違うかもしれないよ」
「そうね、今日は昌晃君の学校であった話を聞いてみたいかも」
「あ、私も昌晃がどんな風に過ごしてたか気になるかも」
「長くなるかもしれないけどいいかな?」
「なるべく手短になるようにするよ。じゃあ、入学式の時から順番に印象に残っていることを話していくね」
僕はこうして学校であった出来事を少しずつ思い出しながら話していくのだった。
沙緒莉姉さんと真弓はもちろん知らない事なのだが、同じ高校に通っていてもクラスが別の陽香も知らないようなことがあるのかもしれない。
だが、焼肉を食べながら聞くにはちょうどいい話なのかもしれないな。
別に食べ放題の店じゃなくても歩いて行ける範囲に良い店はたくさんあるし、値段だってそっちの方が断然安いという事まであるのだが、三人はどうしても食べ放題の店で焼肉や色々なものを食べたいと言ってきかないのだ。僕も正直食べ放題には行きたい気分ではあったのだが、歩いていくという事を少し面倒に感じていた。
「ねえ、そんなに遠いんだったらさ、大きい通りまで行ってタクシー拾っていくのはどう?」
「それもいいかもね。でもさ、タクシーでどれくらいかかるんだろう?」
「さあ、タクシーって普段あまり乗らないから見当もつかないけど、千円ちょっとくらいじゃないかな?」
「それくらいだったら私が出すよ。真弓も歩くの疲れてるんじゃない?」
「うーん、少し疲れてるかもしれないけど、平気と言えば平気かな。陽香お姉ちゃんは疲れてない?」
「私は全然余裕だよ。今日は何もしてないようなもんだし、道がわかれば走って行きたい気分だよ」
「さすがに走って行くのについていこうとは思わないな。僕が道を教えなかったら陽香はたどり着けなさそうだし」
「あ、それはあるかも。陽香ってなんでかわからないけど、道に迷うよね」
「そうだよね。陽香お姉ちゃんってウチの近くでも時々迷ってるもんね。絶対にそれを認めたりしないけれどさ」
「別に私は方向音痴ってわけでもないしさ、学校の移動教室とかも迷わずに行けるし」
「それって普通だと思うよ。でもさ、お兄ちゃんと違うクラスなんだし、本当は迷ったりしてるんじゃないの?」
「いや、そんなことは無いよ。学校で迷うのなんてお弁当を忘れて何を食べるか決める時くらいでしょ」
「でもさ、陽香って最近はお弁当持ってうちのクラスに来ること多くなったよね」
「そうだっけ?」
「ちょっと、陽香お姉ちゃんってそんなことしてるの?」
「別のクラスだから学校でほとんど会う事ないって言ってたのに、陽香って私達に嘘をついてたの?」
「別に嘘なんてついてないよ。昌晃のクラスに友達が出来ただけだし。時々一緒に食べてるだけだって」
「そうなんだ。お兄ちゃんは陽香お姉ちゃんと一緒に食べたりしてるの?」
「いや、僕は一緒には食べてないよ。一回だけ一緒に食べたことあったんだけど、その時はなぜか僕と陽香の関係を疑った男子達が暴れまわって大変だったよ。そのお陰で、僕は学校でもあまり陽香と話さなくなったからね」
「その割には一緒に登下校してるじゃない。それは良いの?」
「ああ、それは皆仕方ないって思ってるんだよ。僕と陽香がいとこ同士だってのをみんな知ってくれたってのもあるんだけどさ、陽香が極度の方向音痴だってみんな知っちゃったからね」
「別に私は昌晃が一緒でもいいんだけどさ、みんながざわざわしちゃうからあんまり一緒に居ないんだよ。でもさ、学校に行って帰るくらい出来ると思うんだけどな。今までだって一度も遅刻してないしね」
「それが普通だと私は思うけど、陽香がちゃんと目的地に行くのって奇跡にしか感じないんだよね」
「もしかしてさ、これから行くお店の中でも迷子になったりしてね」
「ちょっと、それはバカにし過ぎじゃないかな。真弓はお姉ちゃんの事をバカにするような子になっちゃったんだね」
「ごめんなさい。ほんの冗談のつもりだったんだけどね。実際にありそうだとは思うけどさ」
さすがに真弓のその発言は陽香を馬鹿にし過ぎだとは思っていた。
少なくとも、お店の中に入るまではそう思っていたのだ。
食べ放題の店について僕たちが案内された席は壁と天井に隙間がある半個室の掘りごたつ席になっていた。色々と注文することになるだろう僕が入口に一番近い席に座り、隣には真弓が座っていた。正面には沙緒莉姉さんが座り、斜め向かいに陽香が座っていた。
「じゃあ、焼肉だけじゃなくて色々あるみたいだし、好きなモノを一つずつ頼んでみんなで食べ比べしようか。私は、たこ焼きが食べたいかも」
「たこ焼き良いな。真弓はかに玉が食べたいかも。陽香お姉ちゃんは?」
「私は、シーザーサラダにしようかな。お肉は昌晃が適当に頼んでよ」
「え、肉の好みとかないの?」
「大丈夫。私達は昌晃を信じているからね。昌晃が食べたいものを食べたいだけ頼んでいいから。でも、四人前とかはやめてね。きっと私達はそんなにたくさんは食べられないからさ」
「真弓は何か食べたい肉とかないの?」
「うーん、見てもあんまりわからないからお兄ちゃんに任せるよ。沙緒莉お姉ちゃんもわかってないと思うし」
「実はそうなんだよね。焼肉屋に行っても何のお肉を食べてるのかいまいちわかってなかったりするのよ。だから、昌晃君にお任せしちゃうよ」
「そういう事だったら頑張りますよ。でも、僕もそんなに詳しいわけじゃないですからね。食べたことあるやつしか頼みませんよ」
「それで大丈夫よ。じゃあ、ちょっと私はお手洗いに行ってくるわ。飲み物はウーロン茶でお願いね」
「わかったよ。どこの部屋かわからなくなったら電話するんだよ」
「もう、真弓ってやっぱりバカにしてるでしょ」
「そんな事ないけど。心配しているだけだよ」
僕たちは陽香が出て行ってすぐに注文をしていた。とりあえず、三人が食べたいものと飲み物を頼んでから、僕が食べた事のある肉を一通り頼んでおく。足りないものがあれば追加しちゃえばいいと思って少なめに頼んだのだが、イイ感じに炭が燃えている七輪と注文していた食べ物が全部到着しても陽香は戻ってきていなかった。
「それにしても、陽香お姉ちゃん遅いね。本当に道に迷ってるのかな?」
「オシャレな作りだから本当に迷ってたりしてね。ちょっと探しに行ってこようかな。すぐ戻ると思うし、昌晃君と真弓は先に食べてていいからね」
「あ、探しに行くんだったら僕が行きますよ」
「ダメよ。昌晃君は女子トイレに入れないでしょ。ここで食べながら待ってていいからね」
「でも、僕も探しに行きますよ」
「大丈夫よ。二人は一通り食べて美味しいのがどれか教えてちょうだい。追加で頼んでてくれてもいいからね。それと、もしも私が探しに行ってる間に陽香が戻ってきたら電話してね。って、下に落としちゃった。悪いんだけど、昌晃君の足元にスマホが落ちちゃったみたいなんで拾ってもらってもいいかな?」
「別にいいですよ」
僕は沙緒莉姉さんのスマホを拾おうと思って手を伸ばしたのだけれど、意外と深くなっていて手が届かなかった。普通に座った態勢では手も届きそうになかったので横になって思いっきり手を伸ばしてみたところ、指先に固いものが触れた感触があった。
僕はそれを上手い事掴もうとしたのだけれど、掘りごたつの深さに僕の手の長さが微妙に負けているようで、スマホを掴むことが出来ずにいた。仕方がないのでテーブルの下に肩まで入れてスマホを取ることにしたのだけれど、なぜかテーブルの下にスマホは無かったのだった。なるべくならテーブルの下に潜りたくなかったのだけれど、見える範囲にスマホが無いので仕方ない。
「あれ、沙緒莉姉さんのスマホが見つからないんですけど。本当にこっちのほうに落としました?」
「あ、ごめん。落としたと思ったけどポケットに入ってたわ」
「落としてないなら良かったです。じゃあ、戻りますね」
テーブルの下に潜り込んだ時にまた下着を見せられるのではないかと思っていたのだけれど、二人とも足を掘りごたつから出していてくれたのでその心配はなかった。
いくら何でも家以外でパンツを見せてくるような事はしないだろうと思っていたのだけれど、それは僕の思い過ごしであったのだ。
僕はテーブルの下から這い出ていたのだけれど、僕の視線の先には沙緒莉姉さんも真弓もいないことは確認していた。目の前にいないのであれば僕の視界に下着が入ってくることも無いだろう。そう考えていたのだけれど、僕の考えは甘かったようだ。
やっとのことでテーブルから這い出た僕が自分の席につこうとして体の向きを変えると、そこにはなぜか上半身がブラジャーだけの沙緒莉姉さんと真弓が立っていた。レースのたくさんついた大人なのか子供なのかわからない真弓と、明らかにサイズを間違えていて胸がおさまり切れていないスポーツブラの沙緒莉姉さん。
この二人はほぼ個室とはいえ、店の中でこんなことをするとは思わなかったので、僕は唖然としてしまった。
「ねえ、お兄ちゃんが好きなフリフリのいっぱいついた可愛いやつにしてみたんだけど、どうかな?」
「私は昌晃君が好きなスポブラにしてみたんだけど、ちょっとサイズが合わないのよね。でも、大好きなスポブラからはみ出てるのも、悪くないよね?」
僕はあまりにも堂々とした様子の二人にかける言葉は無かったのだが、黙って顔を見ていたところ、二人は急に恥ずかしくなってしまったようで同じタイミングでさっきまで着ていた服を着ようとしていた。
二人がちゃんとした服装に戻ってからほんの数秒で陽香が戻ってきたのだけれど、陽香には焦っている様子が無かった。落ち着いているところを見る限り、道に迷っていたわけではないようだ。
「あれ、陽香は迷ってたんじゃないの?」
「もう、お店が広いからって迷うわけないじゃない。昌晃のクラスの雪ちゃんがいたからちょっと話してたのよ。これから帰るところだって言ってたんだけど、昌晃にもよろしくって言ってたわよ」
「そうだったんだ。迷ってなくて良かったよ」
「そう言えば、陽香お姉ちゃんからは高校の話をよく聞くんだけど、お兄ちゃんからは聞いた事ないかも」
「そう言えばそうかも。昌晃君ってどんな感じの高校生なの?」
「どんな感じって、普通だと思いますけど」
「普通って何だろう。お兄ちゃんの普通と真弓たちの普通って違うかもしれないよ」
「そうね、今日は昌晃君の学校であった話を聞いてみたいかも」
「あ、私も昌晃がどんな風に過ごしてたか気になるかも」
「長くなるかもしれないけどいいかな?」
「なるべく手短になるようにするよ。じゃあ、入学式の時から順番に印象に残っていることを話していくね」
僕はこうして学校であった出来事を少しずつ思い出しながら話していくのだった。
沙緒莉姉さんと真弓はもちろん知らない事なのだが、同じ高校に通っていてもクラスが別の陽香も知らないようなことがあるのかもしれない。
だが、焼肉を食べながら聞くにはちょうどいい話なのかもしれないな。
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