春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎

文字の大きさ
91 / 100
高校生編2

伊吹ちゃんは強引な女の子

しおりを挟む
「先輩、今日はお昼に遊びに行っちゃいますね」

 僕が陽香と学校へ向かっている時に真弓の友達である伊吹ちゃんが話しかけてきたのだが、僕の返答を待たずにそのまま走り去ってしまった。

「昌晃ってさ、本当にいろんな人にモテてるよね。好きな人とかいないの?」
「好きな人って、そういうのは全然だよ。人を好きになるほど深い付き合いとかしてないしね」
「それって、私達に対してもそう思ってるって事?」
「それはまた違うんじゃないかな。陽香たちの事は大切だと思うけど、好きってのとは違うでしょ」
「まあ、そうよね」

 何となくだけど、陽香は僕の答えを聞いて満足そうにしていた。少なくとも、機嫌が悪くなっているということは無かったと思う。

「先輩先輩、遊びに来ました。今日って僕たちの午後の授業は高校見学なんですよ。それで、ちょっと早いけど遊びに来ちゃいました。真弓ちゃんも一緒に来る予定だったんですけど、走ってきたら置いてきちゃったみたいです。でも、授業までに間に合えばいいんで大丈夫ですよ」
「走ってきたって、中学校からここまで走ってきたの?」
「そうですよ。給食もパンだけ食べてこっちに来ました。クラスに大食いの子がいるんでその子に僕の分も食べてもらう事にしたんですけど、パンだけだとちょっとお腹空いちゃってるかもしれないです。僕はちょっとお腹空いちゃってるかも」
「そんなにお腹が空いてるならお弁当を分けてあげようか?」
「ええ、先輩のお弁当って今日は誰が作ったんですか?」
「今日は陽香だったと思うよ」
「うーん、それだったら先輩がお弁当食べてください。僕はそれを見て満足することにしますから」
「いや、そう言うわけにもいかないというか、購買にでも行ってなんか買うにも僕はお金を持ってきていないしな」
「大丈夫です。僕はちょっとくらいの空腹には耐えられますから」
「でも、じっと見られてるのは食べづらいというか、気になっちゃうよね」
「じゃあ、僕が先輩に楽しい話をしてあげるんでそれを聞きながら食べててくださいよ。でも、僕は人の目を見てないとお話が出来ないんでその点は気にしないでくださいね」
「いや、気になるでしょ。食べてる時にじっと目を見られるのって何か嫌なんだけど」
「まあまあ、そんな些細な事は気にしなくていいですからね。でも、先輩って僕と全然目を合わせてくれないですよね。もしかして、僕の顔ってそんなに見たくない程醜いですか?」
「そんな事ないよ。全然そんな事ないって」
「じゃあ、僕って可愛いですか?」
「え、それは、まあ、そう思うよ」
「ええ、そう思うよって、可愛くないって思ってるかもしれないって事ですか?」
「いや、そうじゃなくてさ」
「僕はちゃんと言ってもらわないとわからないな。先輩、僕の目を見て答えてもらってもいいですか?」
「ええ、それはちょっと」
「先輩にとって僕は可愛く見えないって事なんですね。一生懸命走って一秒でも長く一緒にいたいと思って先輩に会いに来たのに、先輩は僕の事可愛いって言ってくれないんですね。可愛くない僕なんて、どこかに行ってた方がいいですよね。迷惑かけてごめんなさい」
「いや、そういう言い方は良くないと思うよ。それに、みんなも注目しちゃってるし」
「それは先輩が注目されてるんじゃなくて、先輩に言い寄ってる僕が注目されてるだけなんですよ。だから、先輩は注目されてないって事です」
「それってさ、結局僕も注目されてない?」
「そうかもしれないけど、それは過程で会って結果ではないんです。大事なのは、最後に誰が注目されたかって事であって、先輩は最終的に注目されてないって事なんですよ。だから、僕の目を見て可愛いかどうか言ってもらってもいいですか?」

 こんなに圧をかけられるものなのかと感心してしまっている僕がいたのだが、どう考えても伊吹ちゃんが言っていることは屁理屈でしかない。どうにもこうにも理屈が通っていないのだ。きっと、この場に真弓がいれば伊吹ちゃんもこんな事を言ってはいないと思うのだけれど、残念なことに真弓はまだ中学校を出てもいないというのだ。そもそも、本当に高校見学なんてあるのだろうか。

「もう、先輩が早く僕の事を可愛いって言ってくれないからみんな注目しちゃってますよ。何だったら、動画にとって真弓ちゃんに送ってみます?」
「いや、それはダメだと思うよ。そんな事をしても誰も幸せにならないでしょ」
「でも、僕は先輩に可愛くて愛しているよって言われたら嬉しいですけど」
「ねえ、なんか後半に付け加えてない?」
「そうでしたっけ。でも、先輩は僕の事を愛してないのにあんなことをしたんですか?」
「あんなことって、変な事はしてないよね?」
「先輩にとっては日常的な事だったかもしれないですけど、僕は男の人と二人でって初めてだったんですよ。でも、先輩ならいいかなって思っただけですし。先輩は何も悪くないですから。悪いのはそう思った僕なんですからね」

 伊吹ちゃんは元気いっぱいで明るくて素直な子なのだ。ただ、その元気さが有り余っているせいで声も大きく、伊吹ちゃんの言葉はクラス中に響き渡っている。もしかしたら、他の教室にも届いているのかもしれない。
 たぶん、伊吹ちゃんは意図的に周りの人が誤解を招くような事を言っているのだと思う。その証拠に、僕に何かを言っている時の伊吹ちゃんの顔は物凄く幸せそうで楽しそうな表情をしているのだ。後ろから見たらわからないと思うのだが、僕に向けているその表情は悪いことをして悦に浸っているようにも見える。

 伊吹ちゃんが入ってきたときにはざわついていた教室内もいつの間にか水を打ったように静かになっていて、みんなが僕の行動を見守っているように感じていた。

「先輩って、僕の事嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ。でも、あんまり強引なのは感心しないかな」
「僕は強引にしてるつもりは無いんですけど。先輩がちゃんと答えてくれないから意地悪しちゃったかもしれないですけど、それは僕が悪いんじゃないですからね。先輩が悪いんですからね」
「そうかもしれないね。ごめんよ」

 このままどうにか誤魔化せないかと思っていたのだけれど、ちょうどいいタイミングで真弓が教室に飛び込んできた。真弓は勢いよく教室の扉を開いて入ってきたので、クラスのみんなが真弓に注目していた。

「ねえ、伊吹ちゃん。置いてくなんて聞いてないよ。なんで、走って行っちゃうのよ」

 伊吹ちゃんは真弓の言葉に何も反応を返すことが出来ずに、顔を真っ赤に染めていた。それはどうしてかというと、みんなが真弓を見ている時に僕が耳元で伊吹ちゃんの言って欲しい言葉にちょっとだけサービスをして答えてあげたからだ。
 それを聞いた伊吹ちゃんは今まで見たことが無いくらいに動揺していたのだが、真弓が強く詰め寄っているせいだと思われているみたいで僕は一安心していた。
 一安心していたのだけれど、なぜか僕を見ている林田さんの目は今までに無いくらい冷たく鋭いものに変化していたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...