160 / 206
第二部
第一話 栗鳥院家の呪われた姫
しおりを挟む
新しい世界にやってきて一か月くらい経つのだが、一度も青空を拝んだことがなかった。夜は晴れていることもあるのだが、日中は一度も雨が止むこともなく世界中が何かに悲しんでいるようにも思えた。
「アスモちゃんってさ、ハッキリ言ってうまなちゃんを助けるつもりないでしょ?」
「そんなことはないよ。普通にうまなちゃんを助けに行こうとは思ってるけど、なんか上手くいってないってだけだからね。本当だったら今すぐにでもうまなちゃんの居場所を聞き出して助けに行きたいって思ってるくらいだよ。でも、占い師に聞いても預言者に聞いても導き手に聞いてもうまなちゃんの居場所なんて知らないって言われちゃってるんだよね」
「それってさ、アスモちゃんの聞き方が悪いって事なんじゃあないかな。ほら、アスモちゃんって世界を震撼させる大魔王なのに妙に優しいところが目立つじゃない。さっきの女の子も何もせずに解放しちゃってるし、色欲大魔王だったら最後までやっちゃうべきだったんじゃあないかな」
「さすがにそんなことは出来ないでしょ。どう考えたって栗鳥院藻琴はそういう対象として見てはいけない年齢だったと思うし」
「それは見た目の話だよね。あの子はああ見えて永遠とも思える長い時間をあの世界で過ごしているんだよ。その証拠に、体は子供のままなのに恐ろしいくらいの戦闘技術を持ってたのに気付いてたかな?」
「全然気づかなかった。そんなのあったなんて知らないよ」
「だろうね。でもさ、あんな小さな体であの数の熊を退治することが出来るなんて普通じゃないって思わなかったかな。あの小さな女の子が無数の熊を退治してるってのは普通に考えて無理がある話だとは思うんだけど、アスモちゃんは無意識のうちにあの女の子が熊を倒しているという現実を受け入れてしまってたんだよ。それは何故か、わかるかな?」
栗鳥院藻琴はどこからどう見ても小さな女の子にしか見えない。そんな小さな女の子が大人よりも大きく軽自動車よりも重い熊を一人で退治していた。今にして思えば、それはちょっとおかしいと思うのだけど、どうして一緒にいる時はそう思わなかったんだろう。俺もみんなも栗鳥院藻琴が熊を倒すことなんて当たり前だと感じていたということなんだろうな。
「さっきとは違って今度のアスモちゃんは私の質問に対してちゃんと考えてるんだね。あの女の子の事はちゃんと考えてるのに、うまなちゃんに関する質問はあらかじめ用意された答えを即答しているだけみたいに聞こえちゃうよね。それって、うまなちゃんを助けに行くのが面倒で私の質問にも適当に答えるために答えを用意してるって事じゃあないよね?」
「そんなわけないでしょ。俺はちゃんとうまなちゃんを助けたいって思ってるからね」
イザーちゃんは俺のウソに気付いているんだろうな。わかってて俺を泳がせているようにも感じているんだけど、そうなるとイザーちゃんも俺がうまなちゃんをすぐに助けに行かないことに納得しているということになるのではないだろうか。もしかしたら、うまなちゃん自身も俺がすぐに助けに行くことを望んでいないのかもしれない。
「話は変わるけどさ、この世界に来てずっと雨が降っているのはなんでだろうって考えたことあるかな?」
「この世界に来てからずっと青空を見ていないとは思ってたけど、何か理由があるっていうことなのかな?」
俺とイザーちゃんは同時に空を見上げていた。窓にあたる雨粒はいつもよりも小さく数も少なく感じているのだけど、相変わらず雲が途切れる気配はなかった。いつまでもこの雨が続いてしまうのではないかと感じさせるほどではないにしろ、世の中にはやまない雨もあるのではないかと思わせるには十分な期間雨が続いていた。
「この雨を降らせているのは栗鳥院稲穂。どういう理由なのかわからないけど、彼女の健康状態とこの世界の天気がリンクしているということらしい。栗鳥院稲穂が幼いころは晴れる日もあったみたいだけど、今は寝ていて体調がいい時しか晴れることがないみたいだよ。日中はずっと気分も体調も悪いようでさ、このまま雨が続いてしまうとどうなっちゃうんだろうね。この国の人たちもみんな栗鳥院稲穂みたいに暗く陰鬱な感じになっちゃうのかもしれないよ」
「そんなことがあるわけない。とも言い切れないんだよな。イザーちゃんたちの先生がそういう世界にしたって事なんでしょ?」
「そういうことだね。さすがにもう理解してくれてるようで助かるよ」
「そこで一つ聞きたいんだけど、その栗鳥院稲穂が死んでしまったらどうなるのかな?」
「さあ、どうなるんだろうね。でも、一つ確かなことは、栗鳥院稲穂は死ぬことがないって話だよ。アスモちゃんは気付いてなかったかもしれないけど、栗鳥院家の人たちは自分の意志で死にたいと思わない限り死ぬことはないからね。アスモちゃんが栗鳥院家の人間と対立して殺したいなって思うことがあったら、相手に自ら死ぬ道を選ばせないと駄目だからね。それ以外はアスモちゃんが諦めるって選択肢しかないからね」
俺は別に誰かと戦っても相手を殺したいなんて思ったことはないんだよな。勝ちたいとも勝たないと駄目だとも思ったことがないし、負けたって問題ないとさえ思っている。そんな俺が相手を殺したいなんて思う日がやってくるのだろうか。イザーちゃんがこんなことをわざわざ俺に教えてくれるということは、そんな日がやって来るかもしれないということなのだろうか。
「じゃあ、今回は栗鳥院稲穂にかけられている呪いを解いてこの世界を幸せにしてしまおう。それが出来たらきっとうまなちゃんの居場所を知るヒントが手に入るはずさ」
「かけられている呪いって、呪いをかけた相手を殺せって事なの?」
「そういうことじゃないよ。栗鳥院稲穂の話をよーく聞いて相手が何を求めているか考えてみたらいいんじゃないかな。アスモちゃんは優しいからそういうことが出来ると思うよ」
「アスモちゃんってさ、ハッキリ言ってうまなちゃんを助けるつもりないでしょ?」
「そんなことはないよ。普通にうまなちゃんを助けに行こうとは思ってるけど、なんか上手くいってないってだけだからね。本当だったら今すぐにでもうまなちゃんの居場所を聞き出して助けに行きたいって思ってるくらいだよ。でも、占い師に聞いても預言者に聞いても導き手に聞いてもうまなちゃんの居場所なんて知らないって言われちゃってるんだよね」
「それってさ、アスモちゃんの聞き方が悪いって事なんじゃあないかな。ほら、アスモちゃんって世界を震撼させる大魔王なのに妙に優しいところが目立つじゃない。さっきの女の子も何もせずに解放しちゃってるし、色欲大魔王だったら最後までやっちゃうべきだったんじゃあないかな」
「さすがにそんなことは出来ないでしょ。どう考えたって栗鳥院藻琴はそういう対象として見てはいけない年齢だったと思うし」
「それは見た目の話だよね。あの子はああ見えて永遠とも思える長い時間をあの世界で過ごしているんだよ。その証拠に、体は子供のままなのに恐ろしいくらいの戦闘技術を持ってたのに気付いてたかな?」
「全然気づかなかった。そんなのあったなんて知らないよ」
「だろうね。でもさ、あんな小さな体であの数の熊を退治することが出来るなんて普通じゃないって思わなかったかな。あの小さな女の子が無数の熊を退治してるってのは普通に考えて無理がある話だとは思うんだけど、アスモちゃんは無意識のうちにあの女の子が熊を倒しているという現実を受け入れてしまってたんだよ。それは何故か、わかるかな?」
栗鳥院藻琴はどこからどう見ても小さな女の子にしか見えない。そんな小さな女の子が大人よりも大きく軽自動車よりも重い熊を一人で退治していた。今にして思えば、それはちょっとおかしいと思うのだけど、どうして一緒にいる時はそう思わなかったんだろう。俺もみんなも栗鳥院藻琴が熊を倒すことなんて当たり前だと感じていたということなんだろうな。
「さっきとは違って今度のアスモちゃんは私の質問に対してちゃんと考えてるんだね。あの女の子の事はちゃんと考えてるのに、うまなちゃんに関する質問はあらかじめ用意された答えを即答しているだけみたいに聞こえちゃうよね。それって、うまなちゃんを助けに行くのが面倒で私の質問にも適当に答えるために答えを用意してるって事じゃあないよね?」
「そんなわけないでしょ。俺はちゃんとうまなちゃんを助けたいって思ってるからね」
イザーちゃんは俺のウソに気付いているんだろうな。わかってて俺を泳がせているようにも感じているんだけど、そうなるとイザーちゃんも俺がうまなちゃんをすぐに助けに行かないことに納得しているということになるのではないだろうか。もしかしたら、うまなちゃん自身も俺がすぐに助けに行くことを望んでいないのかもしれない。
「話は変わるけどさ、この世界に来てずっと雨が降っているのはなんでだろうって考えたことあるかな?」
「この世界に来てからずっと青空を見ていないとは思ってたけど、何か理由があるっていうことなのかな?」
俺とイザーちゃんは同時に空を見上げていた。窓にあたる雨粒はいつもよりも小さく数も少なく感じているのだけど、相変わらず雲が途切れる気配はなかった。いつまでもこの雨が続いてしまうのではないかと感じさせるほどではないにしろ、世の中にはやまない雨もあるのではないかと思わせるには十分な期間雨が続いていた。
「この雨を降らせているのは栗鳥院稲穂。どういう理由なのかわからないけど、彼女の健康状態とこの世界の天気がリンクしているということらしい。栗鳥院稲穂が幼いころは晴れる日もあったみたいだけど、今は寝ていて体調がいい時しか晴れることがないみたいだよ。日中はずっと気分も体調も悪いようでさ、このまま雨が続いてしまうとどうなっちゃうんだろうね。この国の人たちもみんな栗鳥院稲穂みたいに暗く陰鬱な感じになっちゃうのかもしれないよ」
「そんなことがあるわけない。とも言い切れないんだよな。イザーちゃんたちの先生がそういう世界にしたって事なんでしょ?」
「そういうことだね。さすがにもう理解してくれてるようで助かるよ」
「そこで一つ聞きたいんだけど、その栗鳥院稲穂が死んでしまったらどうなるのかな?」
「さあ、どうなるんだろうね。でも、一つ確かなことは、栗鳥院稲穂は死ぬことがないって話だよ。アスモちゃんは気付いてなかったかもしれないけど、栗鳥院家の人たちは自分の意志で死にたいと思わない限り死ぬことはないからね。アスモちゃんが栗鳥院家の人間と対立して殺したいなって思うことがあったら、相手に自ら死ぬ道を選ばせないと駄目だからね。それ以外はアスモちゃんが諦めるって選択肢しかないからね」
俺は別に誰かと戦っても相手を殺したいなんて思ったことはないんだよな。勝ちたいとも勝たないと駄目だとも思ったことがないし、負けたって問題ないとさえ思っている。そんな俺が相手を殺したいなんて思う日がやってくるのだろうか。イザーちゃんがこんなことをわざわざ俺に教えてくれるということは、そんな日がやって来るかもしれないということなのだろうか。
「じゃあ、今回は栗鳥院稲穂にかけられている呪いを解いてこの世界を幸せにしてしまおう。それが出来たらきっとうまなちゃんの居場所を知るヒントが手に入るはずさ」
「かけられている呪いって、呪いをかけた相手を殺せって事なの?」
「そういうことじゃないよ。栗鳥院稲穂の話をよーく聞いて相手が何を求めているか考えてみたらいいんじゃないかな。アスモちゃんは優しいからそういうことが出来ると思うよ」
0
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる