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欲求不満なイザー二等兵
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衝撃的な強さを見せたイザー二等兵の実力を知った世間は大いに驚いたのだが、国防軍の隊員たちはそこまで驚くことはなかった。マーちゃん中尉はイザー二等兵の実力をほとんど知らなかったので驚いていたのだが、彼女の戦闘能力は一個人に限って言えば国防軍の中でも五本の指に入ると思っているものが多いのだ。命令に背くことがなければ確実に将官になっていると言われているほどなのである。
「ねえ、あの人と遊んだだけじゃ消化不良だよ。もう一人くらいと戦っておきたいんだけど良いよね?」
「良いよねって言われても、そんなすぐに相手も準備できないでしょ。それに、イザーちゃんの強さを見た入隊希望者の人が辞退したいって言ってるんだけど」
イザー二等兵の圧倒的な強さを知った者はみな自分の力ではどうすることも出来ないと悟ってしまったようで、このまま入隊試験を受けたところで一次試験を突破することが出来ないと諦めてしまっているのだった。
だが、そんな空気を一瞬で変えてしまったのは栗宮院うまな中将の一言だった。
「イザー二等兵の強さを見て感じて恐れてしまう者がいるのは仕方のないことだと思います。国防軍に入るという事は自分よりも強い相手と対峙する場面も多くあると思うのです。そんな時に自分一人では何も出来ずにやられてしまうと考えてしまうのでしょうが、基本的に一人で敵と相対することなどないのです。自分よりも強い相手と対峙した時には必ず誰かが傍にいるはずなのです。今は試験なので一人で戦っているだけです。本番では一人ではなく二人で三人で四人でそれ以上の人数で強大な敵に立ち向かうことになるのです。そんな時に相手が自分より圧倒的に強いからと言って立ち止まったり逃げ出したりすることも生きる上では仕方ないと思います。ですが、そんな時に今回イザー二等兵と戦ったやっさんのように自分の命もかえりみずに立ち向かう姿を見た仲間はどう思うのでしょうか。おそらく、そんな勇気を見せられた者も勇気を奮い立たせて敵に立ち向かっていくことでしょう。私はそんな彼の勇気を称えたいと思います。やっさん、あなたは一次試験合格になります。おめでとうございます。そして、あなたが見せてくれた素晴らしい勇気に惜しみない称賛を送らせていただきます」
カメラに向かって行われた栗宮院うまな中将の演説を受けたやっさんは何が起こったのか理解していなかった。多くの人達も栗宮院うまな中将の言葉の意味を理解するのに少し時間はかかってしまったのだが、やっさんが一次試験を突破したという事だけは少しずつみんなの中に広がっていったのだった。
「ねえ、やっさんに攻撃出来なかった分だけでもいいからボクにもう一試合させてよ。それじゃないとボクのフラストレーションがとんでもないことになっちゃうかも。うまなちゃんのためにもボクにもう一回だけやらせてよ」
「うまなちゃんのために一回やらせてって、意味が分からないんだけど」
マーちゃん中尉はいつもより少し離れてイザー二等兵に話しかけているのだが、イザー二等兵の腕が少し動くたびにほんの少しだけさらに距離をとっているのであった。彼はそれを無意識のうちに行っていたのだが、本能的にイザー二等兵が危険な状態であるという事に気付いてしまっているのだろう。
「そうね。見てる人もイザーちゃんがどれくらい強いのか見てみたいって思ってるかもしれないのよね。観客の不満を解消出来てイザーちゃんのフラストレーションもためずに済む方法って、もう一試合やってもらうしかないよね。それくらいしないとみんな納得しないと思うし、マーちゃんもそれで問題ないよね?」
「問題無いって言われてもな。その問題は戦う相手が誰なのかって事だよ」
マーちゃん中尉は手に持っていた入隊希望者の資料を何度も何度も見返していたのだが、さすがに今からもう一人の試験を行うなんて通達することは出来ないだろうと考えていた。誰か一人でも勇気をもって手を挙げて名乗り出てほしいと思っているのだけど、当然マーちゃん中尉が求めるような人材がいるはずもなく時間だけが過ぎて行ってしまっていたのである。
もちろん、マーちゃん中尉にはソレ以外にもイザー二等兵と戦う相手に心当たりはあるのだけれど、それはどうしても避けたいと思っている。なぜなら、その相手は十中八九自分なのだという事に気が付いてしまっているからだ。その事態だけはどうしても避けておきたいのである。
「相手なんて決まってるじゃない。イザーちゃんと戦っても平気なのってあなたしかいないでしょ。心配しなくても大丈夫だって。あなたも『うまな式魔法術』をマスターしてるんだから問題ないって。それに、マーちゃんって強い人と実戦形式で試合したことってないでしょ。ちょうどいい機会だし、みんなに強いところを見せちゃいなさいよ」
「強いところって、俺の強いところじゃなくてイザーちゃんの強いところを見せるだけな気がするんだけど」
引くに引けない状況を作られてしまったマーちゃん中尉は不満そうではあったが、それとは対照的にイザー二等兵は満面の笑みを浮かべてマーちゃん中尉の事を見つめていたのだ。
その視線は恋する乙女のようにも見えたのだが、瞳の奥に宿る不思議なオーラは獲物を絶対に逃がさない猛獣なのではないかと思えていた。マーちゃん中尉はその視線を避けるように目を合わせないようにしていたのだった。
「マーちゃん中尉とだったらボクは全部をさらけ出せるような気がしてるよ。だから、マーちゃん中尉はボクの全てを受け止めてね。一回体験したらもう一回体験したくなっちゃうかもしれないけど、その時はちゃんとサービスしてあげるからね」
「ねえ、あの人と遊んだだけじゃ消化不良だよ。もう一人くらいと戦っておきたいんだけど良いよね?」
「良いよねって言われても、そんなすぐに相手も準備できないでしょ。それに、イザーちゃんの強さを見た入隊希望者の人が辞退したいって言ってるんだけど」
イザー二等兵の圧倒的な強さを知った者はみな自分の力ではどうすることも出来ないと悟ってしまったようで、このまま入隊試験を受けたところで一次試験を突破することが出来ないと諦めてしまっているのだった。
だが、そんな空気を一瞬で変えてしまったのは栗宮院うまな中将の一言だった。
「イザー二等兵の強さを見て感じて恐れてしまう者がいるのは仕方のないことだと思います。国防軍に入るという事は自分よりも強い相手と対峙する場面も多くあると思うのです。そんな時に自分一人では何も出来ずにやられてしまうと考えてしまうのでしょうが、基本的に一人で敵と相対することなどないのです。自分よりも強い相手と対峙した時には必ず誰かが傍にいるはずなのです。今は試験なので一人で戦っているだけです。本番では一人ではなく二人で三人で四人でそれ以上の人数で強大な敵に立ち向かうことになるのです。そんな時に相手が自分より圧倒的に強いからと言って立ち止まったり逃げ出したりすることも生きる上では仕方ないと思います。ですが、そんな時に今回イザー二等兵と戦ったやっさんのように自分の命もかえりみずに立ち向かう姿を見た仲間はどう思うのでしょうか。おそらく、そんな勇気を見せられた者も勇気を奮い立たせて敵に立ち向かっていくことでしょう。私はそんな彼の勇気を称えたいと思います。やっさん、あなたは一次試験合格になります。おめでとうございます。そして、あなたが見せてくれた素晴らしい勇気に惜しみない称賛を送らせていただきます」
カメラに向かって行われた栗宮院うまな中将の演説を受けたやっさんは何が起こったのか理解していなかった。多くの人達も栗宮院うまな中将の言葉の意味を理解するのに少し時間はかかってしまったのだが、やっさんが一次試験を突破したという事だけは少しずつみんなの中に広がっていったのだった。
「ねえ、やっさんに攻撃出来なかった分だけでもいいからボクにもう一試合させてよ。それじゃないとボクのフラストレーションがとんでもないことになっちゃうかも。うまなちゃんのためにもボクにもう一回だけやらせてよ」
「うまなちゃんのために一回やらせてって、意味が分からないんだけど」
マーちゃん中尉はいつもより少し離れてイザー二等兵に話しかけているのだが、イザー二等兵の腕が少し動くたびにほんの少しだけさらに距離をとっているのであった。彼はそれを無意識のうちに行っていたのだが、本能的にイザー二等兵が危険な状態であるという事に気付いてしまっているのだろう。
「そうね。見てる人もイザーちゃんがどれくらい強いのか見てみたいって思ってるかもしれないのよね。観客の不満を解消出来てイザーちゃんのフラストレーションもためずに済む方法って、もう一試合やってもらうしかないよね。それくらいしないとみんな納得しないと思うし、マーちゃんもそれで問題ないよね?」
「問題無いって言われてもな。その問題は戦う相手が誰なのかって事だよ」
マーちゃん中尉は手に持っていた入隊希望者の資料を何度も何度も見返していたのだが、さすがに今からもう一人の試験を行うなんて通達することは出来ないだろうと考えていた。誰か一人でも勇気をもって手を挙げて名乗り出てほしいと思っているのだけど、当然マーちゃん中尉が求めるような人材がいるはずもなく時間だけが過ぎて行ってしまっていたのである。
もちろん、マーちゃん中尉にはソレ以外にもイザー二等兵と戦う相手に心当たりはあるのだけれど、それはどうしても避けたいと思っている。なぜなら、その相手は十中八九自分なのだという事に気が付いてしまっているからだ。その事態だけはどうしても避けておきたいのである。
「相手なんて決まってるじゃない。イザーちゃんと戦っても平気なのってあなたしかいないでしょ。心配しなくても大丈夫だって。あなたも『うまな式魔法術』をマスターしてるんだから問題ないって。それに、マーちゃんって強い人と実戦形式で試合したことってないでしょ。ちょうどいい機会だし、みんなに強いところを見せちゃいなさいよ」
「強いところって、俺の強いところじゃなくてイザーちゃんの強いところを見せるだけな気がするんだけど」
引くに引けない状況を作られてしまったマーちゃん中尉は不満そうではあったが、それとは対照的にイザー二等兵は満面の笑みを浮かべてマーちゃん中尉の事を見つめていたのだ。
その視線は恋する乙女のようにも見えたのだが、瞳の奥に宿る不思議なオーラは獲物を絶対に逃がさない猛獣なのではないかと思えていた。マーちゃん中尉はその視線を避けるように目を合わせないようにしていたのだった。
「マーちゃん中尉とだったらボクは全部をさらけ出せるような気がしてるよ。だから、マーちゃん中尉はボクの全てを受け止めてね。一回体験したらもう一回体験したくなっちゃうかもしれないけど、その時はちゃんとサービスしてあげるからね」
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