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小さな違和感
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真っすぐに伸びていたルーちゃんの影は少しずつイザー二等兵の足へと近付いていった。太陽がほぼ真上にあるのにもかかわらず影がルーちゃんの方からイザー二等兵の方へと向かって伸びていることを不審に思うべきだったのだが、自分が絶対に負けるはずがないという確信を持っていたイザー二等兵はルーちゃんの事に何の関心も持っていなかった。
関心を持っていないというと大げさになってしまうかもしれないが、事前情報でルーちゃんは攻撃手段をほとんど持っていないという事がわかっていたので油断をしていたのだ。黙って見つめあっていて何もしない時間が長かったという事もあっていつも以上に気が抜けていたという事もあるのだが、自分に向かって伸びていた影に対してもう少し注意しておけば不幸を回避できたのかもしれない。ただ、そのことを踏まえたうえで最悪の一日という占いの結果が出たのかもしれない。
「ヤバいかも。このままだったらイザーちゃんが壊されちゃうよ」
栗宮院うまな中将の発言はいたって冷静であった。イザー二等兵が壊されてしまうという言葉の割には落ち着いているのが気になったマーちゃん中尉ではあったが、冷静に物事を判断したうえでの発言だという事を考えると栗宮院うまな中将の言葉に重みが出ているように感じてしまった。
「イザーちゃんが壊されるって、どういう事?」
「マーちゃんはこの戦いを見て何か感じるところはなかったかな?」
「感じるところと言われてもな。ルーちゃんがずっと何もしないってのは気になったかも。今までの入隊希望者って最初から全力で勝とうって人ばっかりだったのにさ、ルーちゃんは全く攻撃をしようともしないで黙ってるだけだったんだよね。それって、何かを待ってるのかなとも思ったんだけど、一対一の試合で何を待つんだろうって考えてたかも。天気が悪くなるのを待っているのかとも思ったんだけど、今日からしばらくの間は好天が続くみたいだからそれもないだろうし。あとは、イザーちゃんが焦れて何か仕掛けるのを待ってたりしたのかな。でも、資料を見た限りだとルーちゃんってカウンタータイプでもないみたいだからそれも当てはまらなさそうなんだよね」
「結構いい線いってると思うよ。マーちゃんは直接戦うのは向いてないと思うけど、そうやって観察するのは向いてるかもね。出来るだけ多くイザーちゃんの戦いを見て実戦になれてほしいって思ってたんだけど、こんなに早い段階でイザーちゃんが負けちゃう姿を見るってのは誤算だったかも。ルーちゃんと戦うのがあと半年先だったらイザーちゃんに的確なアドバイスが出来たと思うんだけど、十試合程度しか実戦を見てないんじゃ気付けないことも多いよね。それはマーちゃんが悪いとかじゃないよ。戦いなのに油断していたイザーちゃんが悪いって話なんだけどさ、マーちゃんがもう少し成長していたら違った結果にもなったんじゃないかな」
「ちょっと待ってもらっていいかな。まだどっちも攻撃をしてない段階でイザーちゃんが負けたみたいに言ってるけど、どうしてそんなことを言えるの?」
栗宮院うまな中将の言っているイザー二等兵が負けるという言葉の意味を素直に受け取ることが出来ないマーちゃん中尉は改めて画面に映し出されている二人の姿を見直していた。
二人の顔がアップで映し出されている画面を見ても、二人の様子が見える画面を見ても、引きの状態で全体像が見える画面を見てもマーちゃん中尉にはイザー二等兵が負けていると言えるだけの状況には見えなかった。
おかしなところはあるのだが、それが本当におかしいのかわからない。何となくおかしいと思っているだけであって、それは別におかしくないと言われればそうだとも思える。そんな小さな違和感でしかなかったが、一度気付いてしまった違和感も思い返してみると最初からおかしかったようにしか思えなくなっていた。なぜそんな事になっていたのに気にしていなかったのだろうか。栗宮院うまな中将の言っているように、マーちゃん中尉には戦いを観察するという経験が足りなかったからこそ気が付かなかったという事なのかもしれない。
「その感じだと何か気付いたみたいだね。マーちゃんが気付いた違和感を教えてもらえるかな?」
今はまだそれが栗宮院うまな中将の言っているイザー二等兵の負ける理由だと確信は持てない。だが、そんなことが起こっているのはおかしいという事だけは確実に言い切ることが出来るのだ。そこだけは自信を持って言えるとマーちゃん中尉は考えている。
「俺がおかしいって思ったのは、ルーちゃん自身の状態じゃなくて、ルーちゃんの影がおかしいと思ったんだ。太陽の位置によって影の形や大きさが変わってしまうことはあると思うんだけど、今はほぼ頭上に太陽があるって言うのにルーちゃんの影がイザーちゃんの方へと伸びているのはおかしいって思う。なんでそんな事になっているのかは俺にはわからないけど、明らかに不自然な伸び方をしてる影だと思う。それに、思い返してみれば、ルーちゃんの影は他の人よりも大きかったと思うし、時々だけどルーちゃんの形じゃなくて他のものに見える時もあったような気がするんだよ。俺の見間違いだったのかなって思ってたんだけど、今みたいにルーちゃんの影が太陽の位置に関係なく動いているのは、そんなこともあり得るんじゃないかって思ってしまったんだよ」
「つまり、マーちゃんはルーちゃんの影がイザーちゃんを襲って倒しちゃうって思ってるってことかな?」
マーちゃん中尉は影が伸びたり大きくなったり移動したりしているのはおかしいとは思っている。だが、その影がどうやってイザーちゃんを苦しめるのか、そこだけがどうしてもわからなかった。栗宮院うまな中将にはその理由がわかっているようなのだが、マーちゃん中尉はその答えがどうしても見つからなかったのだ。
イザーちゃんが壊されてしまうまで、あとほんの十分程度というところであった。
関心を持っていないというと大げさになってしまうかもしれないが、事前情報でルーちゃんは攻撃手段をほとんど持っていないという事がわかっていたので油断をしていたのだ。黙って見つめあっていて何もしない時間が長かったという事もあっていつも以上に気が抜けていたという事もあるのだが、自分に向かって伸びていた影に対してもう少し注意しておけば不幸を回避できたのかもしれない。ただ、そのことを踏まえたうえで最悪の一日という占いの結果が出たのかもしれない。
「ヤバいかも。このままだったらイザーちゃんが壊されちゃうよ」
栗宮院うまな中将の発言はいたって冷静であった。イザー二等兵が壊されてしまうという言葉の割には落ち着いているのが気になったマーちゃん中尉ではあったが、冷静に物事を判断したうえでの発言だという事を考えると栗宮院うまな中将の言葉に重みが出ているように感じてしまった。
「イザーちゃんが壊されるって、どういう事?」
「マーちゃんはこの戦いを見て何か感じるところはなかったかな?」
「感じるところと言われてもな。ルーちゃんがずっと何もしないってのは気になったかも。今までの入隊希望者って最初から全力で勝とうって人ばっかりだったのにさ、ルーちゃんは全く攻撃をしようともしないで黙ってるだけだったんだよね。それって、何かを待ってるのかなとも思ったんだけど、一対一の試合で何を待つんだろうって考えてたかも。天気が悪くなるのを待っているのかとも思ったんだけど、今日からしばらくの間は好天が続くみたいだからそれもないだろうし。あとは、イザーちゃんが焦れて何か仕掛けるのを待ってたりしたのかな。でも、資料を見た限りだとルーちゃんってカウンタータイプでもないみたいだからそれも当てはまらなさそうなんだよね」
「結構いい線いってると思うよ。マーちゃんは直接戦うのは向いてないと思うけど、そうやって観察するのは向いてるかもね。出来るだけ多くイザーちゃんの戦いを見て実戦になれてほしいって思ってたんだけど、こんなに早い段階でイザーちゃんが負けちゃう姿を見るってのは誤算だったかも。ルーちゃんと戦うのがあと半年先だったらイザーちゃんに的確なアドバイスが出来たと思うんだけど、十試合程度しか実戦を見てないんじゃ気付けないことも多いよね。それはマーちゃんが悪いとかじゃないよ。戦いなのに油断していたイザーちゃんが悪いって話なんだけどさ、マーちゃんがもう少し成長していたら違った結果にもなったんじゃないかな」
「ちょっと待ってもらっていいかな。まだどっちも攻撃をしてない段階でイザーちゃんが負けたみたいに言ってるけど、どうしてそんなことを言えるの?」
栗宮院うまな中将の言っているイザー二等兵が負けるという言葉の意味を素直に受け取ることが出来ないマーちゃん中尉は改めて画面に映し出されている二人の姿を見直していた。
二人の顔がアップで映し出されている画面を見ても、二人の様子が見える画面を見ても、引きの状態で全体像が見える画面を見てもマーちゃん中尉にはイザー二等兵が負けていると言えるだけの状況には見えなかった。
おかしなところはあるのだが、それが本当におかしいのかわからない。何となくおかしいと思っているだけであって、それは別におかしくないと言われればそうだとも思える。そんな小さな違和感でしかなかったが、一度気付いてしまった違和感も思い返してみると最初からおかしかったようにしか思えなくなっていた。なぜそんな事になっていたのに気にしていなかったのだろうか。栗宮院うまな中将の言っているように、マーちゃん中尉には戦いを観察するという経験が足りなかったからこそ気が付かなかったという事なのかもしれない。
「その感じだと何か気付いたみたいだね。マーちゃんが気付いた違和感を教えてもらえるかな?」
今はまだそれが栗宮院うまな中将の言っているイザー二等兵の負ける理由だと確信は持てない。だが、そんなことが起こっているのはおかしいという事だけは確実に言い切ることが出来るのだ。そこだけは自信を持って言えるとマーちゃん中尉は考えている。
「俺がおかしいって思ったのは、ルーちゃん自身の状態じゃなくて、ルーちゃんの影がおかしいと思ったんだ。太陽の位置によって影の形や大きさが変わってしまうことはあると思うんだけど、今はほぼ頭上に太陽があるって言うのにルーちゃんの影がイザーちゃんの方へと伸びているのはおかしいって思う。なんでそんな事になっているのかは俺にはわからないけど、明らかに不自然な伸び方をしてる影だと思う。それに、思い返してみれば、ルーちゃんの影は他の人よりも大きかったと思うし、時々だけどルーちゃんの形じゃなくて他のものに見える時もあったような気がするんだよ。俺の見間違いだったのかなって思ってたんだけど、今みたいにルーちゃんの影が太陽の位置に関係なく動いているのは、そんなこともあり得るんじゃないかって思ってしまったんだよ」
「つまり、マーちゃんはルーちゃんの影がイザーちゃんを襲って倒しちゃうって思ってるってことかな?」
マーちゃん中尉は影が伸びたり大きくなったり移動したりしているのはおかしいとは思っている。だが、その影がどうやってイザーちゃんを苦しめるのか、そこだけがどうしてもわからなかった。栗宮院うまな中将にはその理由がわかっているようなのだが、マーちゃん中尉はその答えがどうしても見つからなかったのだ。
イザーちゃんが壊されてしまうまで、あとほんの十分程度というところであった。
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