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二人の気持ち
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マーちゃん中尉は画面越しではあったがイザー二等兵の姿を直視することは出来なかった。真っすぐに画面を見つめる栗宮院うまな中将と違い目をそらしてしまっていたのだが、二人とも言葉を発することはなかった。
静かな部屋の中に聞こえるのはカサカサという虫が動く音と小さなうめき声であった。もうすでに頭の先まで虫たちによって隠されてしまっているのでイザー二等兵がどうなっているのか確認することも出来ない。勝負は決しているようにも見えるけれど、ルーちゃんはずっと何かを警戒しているように身構えているので試験が終わることもなかった。
「もう止めた方が良いんじゃないかな。いや、遅過ぎるか」
マーちゃん中尉は栗宮院うまな中将に意見を求めるかのように話しかけていたのだけれど、それに対する栗宮院うまな中将の反応はマーちゃん中尉の求めていたものとは違っていた。
「ここで止めたらイザーちゃんが怒っちゃうと思うよ。私はイザーちゃんの事をマーちゃんよりも詳しく知ってるからね。ここからイザーちゃんが凄いことになるんだってわかってるもん。私は最後までイザーちゃんの事を信じてるもん」
栗宮院うまな中将の言葉は強がりにしか聞こえなかったマーちゃん中尉は少し怒っているようだった。それと同時に、栗宮院うまな中将に対して失望もしているようだった。
「イザーちゃんの体が動けなくなったって時点で止めるべきだったんじゃないかな。あの時点で止めていれば今みたいに体中を虫が這いずり回るなんて事態にはならなかったと思うよ。うまなちゃんがイザーちゃんの事を信じているというのはわかるけどさ、友達ならもっと早く助けてあげるべきだったんじゃないかな」
「マーちゃんは何を言ってるのかな。私とイザーちゃんは別に友達なんかじゃないよ。仲はいいけど友達とはちょっと違うかな」
「そういう事じゃなくてさ、友達かどうかを聞いてるんじゃないよ。友達じゃないにしても仲間ならもっと早く終わらせてあげるのも優しさなんじゃないかな」
今まで一度も栗宮院うまな中将に対して本気で怒ったことはなかったマーちゃん中尉ではあった。それが初めて怒っているのだからマーちゃん中尉は本気なのだろう。それは栗宮院うまな中将もわかってはいるけれど、マーちゃん中尉がどうしてそこまで怒っているのかが理解出来ていなかった。
「マーちゃんはいったい何に対してそこまで怒ってるのかな。私にはそれがちょっと理解出来ないんだけど」
「何に対してって、イザーちゃんの全身を虫が覆ってしまうまで何もしなかったうまなちゃんの事に対して怒ってるんだよ。俺はうまなちゃんが大丈夫だって言うから信じてみてたんだけど、今の状況はどう見たって平気じゃないよね。さっきまで聞こえていたイザーちゃんの声だって聞こえてこなくなっちゃったし、あの中がどうなってるのかわからないじゃない」
「んん、私の事を信じてくれているってのはわかってるんだけどさ、なんで今は信じてくれてないのかな。私は今もイザーちゃんが大丈夫だって信じてるよ。ここまで信じてくれたんだったら最後まで信じてほしいな。それに、私が止めるって前提で話を進めようとしているけどさ、マーちゃんにだって試験を止める権利はあったんじゃないかな。私が止めたくないって言ってもマーちゃんがここで終了って言っちゃえば試験自体が終わってたと思うよ。だって、この試験における権限を持ってるのは私じゃなくてマーちゃんなんだからね。この部隊の指揮官は私じゃなくてマーちゃんなんだから、試験を止めたいって思うんだったら私が止めるのを待つんじゃなくてマーちゃんが勝手に止めるべきなんじゃないかな」
「でも、俺が止めたらイザーちゃんに後で怒られると思うし」
「そんな情けないこと言わないでよ。イザーちゃんよりマーちゃんの方が強いんだからね。それはこの前の戦いでもわかってるでしょ。だから、もっと自信をもって行動してよ。ほら、今すぐにでも止めたいって言うんだったら試験を止めに言っていいからね。私はそれについては何も言わないよ。私は最後までイザーちゃんを信じていたいってだけの話だから。マーちゃんはイザーちゃんの事よりも自分の直感を信じて行動したらいいんじゃないかな。それが間違っていたとしても、同じことを繰り返さなければそれでいいんだと思うよ」
マーちゃん中尉はもちろんイザー二等兵が強いことを知っている。今までの戦いを見ても誰よりも強いという事はわかっている。ただ、今回の相手はイザー二等兵にとって相性が悪すぎたんだと思っていた。一対一の戦いで動きを完全に封じ込められてしまった上に魔力まで抑え込まれてしまっては抵抗することも出来ないだろう。自分があの状況に陥ったとき、いったいどうすれば打開できるかなんて想像もつかないのだが、栗宮院うまな中将にはその方法が見えているようにも思えた。
「ほら、見て見て。そろそろイザーちゃんが反撃するみたいだよ」
イザー二等兵の体を覆っていた虫がゆっくりと移動していた。頭の先からつま先まで何かを探すように触角を動かしていた虫たちがイザー二等兵のお腹あたりに向かって集中していた。
虫と虫が重なる姿をはっきりと映した映像は衝撃的だった。誰もが目をそむけたくなる程に虫が重なっている姿は異様であった。
虫たちを見守っていたルーちゃんは動かなくなったイザー二等兵に近付くこともせずに一定の距離を保っていた。保っていたはずなのにいつの間にか二人の距離が近づいていることに気付いているものは誰もいなかった。
カサカサという音だけが画面から聞こえているのは変わらない。
静かな部屋の中に聞こえるのはカサカサという虫が動く音と小さなうめき声であった。もうすでに頭の先まで虫たちによって隠されてしまっているのでイザー二等兵がどうなっているのか確認することも出来ない。勝負は決しているようにも見えるけれど、ルーちゃんはずっと何かを警戒しているように身構えているので試験が終わることもなかった。
「もう止めた方が良いんじゃないかな。いや、遅過ぎるか」
マーちゃん中尉は栗宮院うまな中将に意見を求めるかのように話しかけていたのだけれど、それに対する栗宮院うまな中将の反応はマーちゃん中尉の求めていたものとは違っていた。
「ここで止めたらイザーちゃんが怒っちゃうと思うよ。私はイザーちゃんの事をマーちゃんよりも詳しく知ってるからね。ここからイザーちゃんが凄いことになるんだってわかってるもん。私は最後までイザーちゃんの事を信じてるもん」
栗宮院うまな中将の言葉は強がりにしか聞こえなかったマーちゃん中尉は少し怒っているようだった。それと同時に、栗宮院うまな中将に対して失望もしているようだった。
「イザーちゃんの体が動けなくなったって時点で止めるべきだったんじゃないかな。あの時点で止めていれば今みたいに体中を虫が這いずり回るなんて事態にはならなかったと思うよ。うまなちゃんがイザーちゃんの事を信じているというのはわかるけどさ、友達ならもっと早く助けてあげるべきだったんじゃないかな」
「マーちゃんは何を言ってるのかな。私とイザーちゃんは別に友達なんかじゃないよ。仲はいいけど友達とはちょっと違うかな」
「そういう事じゃなくてさ、友達かどうかを聞いてるんじゃないよ。友達じゃないにしても仲間ならもっと早く終わらせてあげるのも優しさなんじゃないかな」
今まで一度も栗宮院うまな中将に対して本気で怒ったことはなかったマーちゃん中尉ではあった。それが初めて怒っているのだからマーちゃん中尉は本気なのだろう。それは栗宮院うまな中将もわかってはいるけれど、マーちゃん中尉がどうしてそこまで怒っているのかが理解出来ていなかった。
「マーちゃんはいったい何に対してそこまで怒ってるのかな。私にはそれがちょっと理解出来ないんだけど」
「何に対してって、イザーちゃんの全身を虫が覆ってしまうまで何もしなかったうまなちゃんの事に対して怒ってるんだよ。俺はうまなちゃんが大丈夫だって言うから信じてみてたんだけど、今の状況はどう見たって平気じゃないよね。さっきまで聞こえていたイザーちゃんの声だって聞こえてこなくなっちゃったし、あの中がどうなってるのかわからないじゃない」
「んん、私の事を信じてくれているってのはわかってるんだけどさ、なんで今は信じてくれてないのかな。私は今もイザーちゃんが大丈夫だって信じてるよ。ここまで信じてくれたんだったら最後まで信じてほしいな。それに、私が止めるって前提で話を進めようとしているけどさ、マーちゃんにだって試験を止める権利はあったんじゃないかな。私が止めたくないって言ってもマーちゃんがここで終了って言っちゃえば試験自体が終わってたと思うよ。だって、この試験における権限を持ってるのは私じゃなくてマーちゃんなんだからね。この部隊の指揮官は私じゃなくてマーちゃんなんだから、試験を止めたいって思うんだったら私が止めるのを待つんじゃなくてマーちゃんが勝手に止めるべきなんじゃないかな」
「でも、俺が止めたらイザーちゃんに後で怒られると思うし」
「そんな情けないこと言わないでよ。イザーちゃんよりマーちゃんの方が強いんだからね。それはこの前の戦いでもわかってるでしょ。だから、もっと自信をもって行動してよ。ほら、今すぐにでも止めたいって言うんだったら試験を止めに言っていいからね。私はそれについては何も言わないよ。私は最後までイザーちゃんを信じていたいってだけの話だから。マーちゃんはイザーちゃんの事よりも自分の直感を信じて行動したらいいんじゃないかな。それが間違っていたとしても、同じことを繰り返さなければそれでいいんだと思うよ」
マーちゃん中尉はもちろんイザー二等兵が強いことを知っている。今までの戦いを見ても誰よりも強いという事はわかっている。ただ、今回の相手はイザー二等兵にとって相性が悪すぎたんだと思っていた。一対一の戦いで動きを完全に封じ込められてしまった上に魔力まで抑え込まれてしまっては抵抗することも出来ないだろう。自分があの状況に陥ったとき、いったいどうすれば打開できるかなんて想像もつかないのだが、栗宮院うまな中将にはその方法が見えているようにも思えた。
「ほら、見て見て。そろそろイザーちゃんが反撃するみたいだよ」
イザー二等兵の体を覆っていた虫がゆっくりと移動していた。頭の先からつま先まで何かを探すように触角を動かしていた虫たちがイザー二等兵のお腹あたりに向かって集中していた。
虫と虫が重なる姿をはっきりと映した映像は衝撃的だった。誰もが目をそむけたくなる程に虫が重なっている姿は異様であった。
虫たちを見守っていたルーちゃんは動かなくなったイザー二等兵に近付くこともせずに一定の距離を保っていた。保っていたはずなのにいつの間にか二人の距離が近づいていることに気付いているものは誰もいなかった。
カサカサという音だけが画面から聞こえているのは変わらない。
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