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陰キャカップル誕生
後編
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週明けの月曜日。いつものように登校をしていたのだけれど、金曜日のように真柴さんが僕を待っているということは無かった。今にして思えば、僕が真柴さんと付き合っているという事も夢だったのではないかと思うのが自然のような気がしていた。週末の二日間も僕はずっと真柴さんの事を考えていたのだけれど、そんなのは気持ち悪いオタクの妄想でしかないのではないかと自嘲してしまっていた。
今日もいつも通り一人で教室のドアを開けて中に入るのだけれど、この前とは違って誰も僕に注目することは無かった。自分の席に鞄を置いて椅子に座っていたのだけれど、今まで通り僕はこのクラスの中で存在していないんじゃないかと思えるくらい誰にも相手にされていなかった。少なくとも、席について文庫本を読んでいる今の時点ではそうだった。
「森君、おはよう」
「あ、真柴さんおはよう」
僕は読みかけの文庫本から目を離して顔を上げたのだけれど、そこにいたのは僕の知っている真柴さんではなかった。
そこに立っていたのは真柴さんではなく土曜日にテレビの中で見たあの女優さんだった。いや、女優さんに似ているけど、何か違うように見る。
「あれ、森君が固まっちゃった。週末に美容室に行ってみたんだけどどうかな?」
「え、本当に真柴さん?」
「そうだよ。自分の恋人の事忘れちゃった?」
「忘れてはいないけど、金曜までと全然違うから驚いちゃった」
「今まではさ、自分の髪とか興味無かったんだけどね、森君が好きだって言う女優さんと同じ髪形にしてみたの。そうしたら、道場で一緒に練習している人がメイクも変えた方が良いよって言ってくれたんだけど、変じゃないかな?」
「変ではないよ。凄くいいと思うよ。僕は一瞬ドラマに出てる人が目の前にいるって思ってたもん。でも、ちゃんと見たら真柴さんなんだなって思えてさ。金曜までは真柴さんの目が隠れていたから何とか顔を見れたけど、こうして目を見ることが出来るのってなんか恥ずかしいね」
「ごめんね。私って目線で動きを読まれるから髪で隠してたのを忘れてたよ。明日からはちゃんと隠すようにするから嫌いにならないで」
「嫌いになんてならないよ。むしろ、真柴さんの目が綺麗でドキドキしちゃったよ。そんなに綺麗な目をしてただなんて知らなかったからさ、今でもちゃんと見れないんだ」
「そんなに私の目って綺麗なの?」
「うん、綺麗だよ。目だけじゃないけどね」
「そっか、それなら良かった。そうだ、連絡先を交換してなかったんだけど、森君の連絡先を教えてもらってもいいかな?」
「もちろん。僕の連絡先を教えるよ。週末にずっと真柴さんの事を考えてたんだけど、こんなに変わってるなんて知らなかったな。僕も何か変えようかな」
「ううん、森君はそのままでいいと思うよ。そのままの森君が素敵だからね」
僕は無事に真柴さんと連絡先を交換することが出来た。その後にあった授業中もいつものように真柴さんに見つめられていたのだけれど、いつもと違って前髪で目が隠れていないので直接見られていることを意識してしまって、いつも以上に視線を感じてしまっていたのだ。
それと、いつもと違う事がもう一つあって、休み時間に中村さんが真柴さんに話しかけたのだが、それをきっかけにしてクラス中の女子が真柴さんの席に群がって髪型やメイクの話に花を咲かせていた。
人は見た目だけじゃないとはよく聞くけど、髪かがとメイクを変えただけで女子の話題の中心になるのは凄い事だと思った。金曜までは僕も真柴さんもクラスの中では中心から外れた存在だったと思うのだけれど、こうしてみると真柴さんはクラスの中心にいてもおかしくないのではないかと思えていた。
星君に絡まれて動きを封じていた時も真柴さんは注目はされていたのだけれど、その時とは違って怖いから見ておこうというのではなく、綺麗になったから注目しようというように女子の心は動いていたように思える。男子の一部も真柴さんに話しかけようとしていたみたいなのだけれど、その動きはなぜか中村さんを中心とした陽キャ女子たちによって抑えられていた。
僕は放課後まで休み時間に真柴さんと話すことは出来なかったのだけれど、授業中に何度か目が合った事だけで満足していた。僕を見ている真柴さんの柔らかい表情を見ているだけで、僕の心は満たされているような気がしていたのだった。
放課後はさすがに女子に囲まれることのなかった真柴さんであったが、女子に囲まれる代わりに男子が代わる代わる声をかけに来ていた。僕はその様子を見て、素直に凄いなと思っていた。僕だったら、真柴さんが急に綺麗になっていたとしても話しかけることなんて出来ないと思うし、目を合わせることも出来ないと思う。まあ、今も目を合わせて話すことなんて出来ないと思うのだけれど、今みたいに話すことも出来ないのだとは思う。
「真柴さんってさ、陰キャ女子だと思ってたけど、なんかすっごいイケてるよね。良かったらさ、俺達とカラオケに行かない?」
「なんで?」
「なんでって、カラオケ楽しいっしょ」
「普通に行かないけど」
「じゃあさ、ファミレスに行って語り明かそうよ」
「別に君達と語り合う事なんてないけど」
「そんなこと言わないでさ、俺達と一緒に遊んだほうが楽しいって」
「そんな事ないと思う」
「でもさ、こんな陰キャと一緒に居るよりも俺達といた方が楽しいよ。絶対に」
「何言ってんの。私がなんで森君よりお前たちを選ぶと思ってんのよ。頭おかしいんじゃないの」
「は、お前何言ってんの。ちょっと綺麗にしてきたからって調子に乗ってんじゃね」
星君は学習能力というものが備わっていないのだろうか。先週も真柴さんに絡んで机に顔を押し付けられたというのに、今日もまた同じように星君は顔を机に押し付けられていた。今回は真柴さんが星君の顔に肘を当てて押さえつけているのだ。
「ちょっと何やってんのよ。真柴さんが迷惑しているでしょ。星君みっともないよ」
「お前らそんなこと言ってないで助けろよ」
今の状況で星君の味方になる女子はいなそうだったのだが、男子も全員が星君の味方というわけではなさそうだった。中には星君を非難するような事を言っている男子もいたのだけれど、今の状況を考えるとそれが一番自然な事なのかもしれない。
真柴さんは星君の顔に押し付けている肘に体重をかけないようにしているようなのだけれど、上手いこと間接を抑え込んでもいるので星君は全く動けそうになかった。でも、僕が見ている事に気付いた真柴さんは今にも泣きだしそうな星君を解放すると嬉しそうな表情を僕に見せてくれた。僕は泣きそうな星君を見て少し引いてしまったけれど、これは星君が悪いのだから気にしないでおこう。
「じゃあ、帰ろうか」
真柴さんは何事も無かったかのように僕の手を引いて教室を抜け出した。星君がどうなったのか気になって振り返って教室を見ていたのだが、一部の女子が僕たちに向かって拍手をして頷いていたのが印象的だった。
「ちょっとやりすぎちゃったかな?」
「まあ、そうかもしれないけど、アレは星君たちが悪いと思うから気にしなくてもいいんじゃないかな。でもさ、真柴さんを助けに行けなくてごめんね」
「え、そんな事気にしなくても大丈夫だよ。星君くらいだったら椅子に座ったままでも勝てると思うからね。あんな風に無防備に近づかれると逆に怖いんだよね」
「やっぱり基本が出来てないとどんな攻撃が来るかわからないって事なの?」
「そういうのもあるんだけど、無防備に近づいてくると手加減が出来なくなっちゃうんだよね。それだけ自信があるって事だと思っちゃってさ、本気を出さないとやられちゃうって思っちゃうんだ」
「へえ、よくわからないけど難しそうだね」
「まあ、あんな風にしちゃうのは良くないと思うんだけどね」
「そう言えば、一つ質問してもいいかな?」
「質問?」
「うん、聞いてみたいことがあるんだよね」
「どんな事かな?」
「真柴さんってさ、どうして僕と付き合ってくれたの?」
「それはね、私をちゃんと見ててくれたから」
「え、そんな理由なの?」
「まあ、他にもいろいろあるんだけどさ、細かい事が積み重なって好きになったのかも。森君はどうして私と付き合ってくれるの?」
「なんでだろう。最初は星君たちにからかわれたのに逆らえなかったってのもあるんだけど、真柴さんには勝手に親近感を抱いていたんだよね。僕って地味だと思うんだけど、先週の真柴さんも僕と同じように陰キャなのかなって思ってたんだよね。ほら、髪でほとんど表情が見えなかったりしたし、僕は髪が短いけど似たようなもんだしね。そういう風にに似ているところがあるんじゃないかなって気にはなってたんだよね。好きとか嫌いとかじゃなくて、友達に慣れた良いなって思っててさ。でも、友達じゃなくて恋人に慣れたってのは自分でも驚いたけどね」
「ねえ、森君は今みたいな私と、先週の私だったらどっちが好きかな?」
「どうだろう。今の真柴さんは凄く綺麗でテレビに出てる芸能人みたいに輝いて見えてて素敵だなって思うんだけど、一緒に居てちょっと緊張しちゃうかも。先週の真柴さんが緊張しないかと言えば、やっぱり緊張しちゃうと思うんだけどね。優柔不断なのかもしれないけど、僕はどっちの真柴さんでもいいと思うよ。確かに、見た目も大事だとは思うけれど、僕は真柴さんが落ち着く方でいいんじゃないかと思うんだよね」
「落ち着く方って?」
「うまく言えないんだけど、今の真柴さんって先週の真柴さんよりも肩に力が入っているように見えるんだよね。気のせいかもしれないけど、もう少しリラックスして過ごせるほうがいいんじゃないかなって思うんだ」
「私は今の私も先週の私もそんなに変わらないと思うんだけど。そうだ、森君が好きな方で明日から学校に行くことにするよ。どっちが良いかな?」
「うーん、悩んじゃうな。でも、僕が好きな方は――」
僕たちが付き合っているという事は学校中に広まっていたのだけれど、翌日からは真柴さんの席にやってきて話しかけてくるような生徒はいなくなった。
極稀にではあるが、物凄い美人がいると噂を聞きつけて見に来る先輩もいたりするのだけれど、その美人を見付けることが出来ずに帰って行った。
僕は無言で真柴さんに見つめられることが増えたのだけれど、会話が無くても気持ちが通じているような不思議な気分になっていた。
僕の青春は他の人には理解されないだろうけれど、とても明るく輝いていると思う。
僕が真柴さんを独占することが出来ているのだからね。
今日もいつも通り一人で教室のドアを開けて中に入るのだけれど、この前とは違って誰も僕に注目することは無かった。自分の席に鞄を置いて椅子に座っていたのだけれど、今まで通り僕はこのクラスの中で存在していないんじゃないかと思えるくらい誰にも相手にされていなかった。少なくとも、席について文庫本を読んでいる今の時点ではそうだった。
「森君、おはよう」
「あ、真柴さんおはよう」
僕は読みかけの文庫本から目を離して顔を上げたのだけれど、そこにいたのは僕の知っている真柴さんではなかった。
そこに立っていたのは真柴さんではなく土曜日にテレビの中で見たあの女優さんだった。いや、女優さんに似ているけど、何か違うように見る。
「あれ、森君が固まっちゃった。週末に美容室に行ってみたんだけどどうかな?」
「え、本当に真柴さん?」
「そうだよ。自分の恋人の事忘れちゃった?」
「忘れてはいないけど、金曜までと全然違うから驚いちゃった」
「今まではさ、自分の髪とか興味無かったんだけどね、森君が好きだって言う女優さんと同じ髪形にしてみたの。そうしたら、道場で一緒に練習している人がメイクも変えた方が良いよって言ってくれたんだけど、変じゃないかな?」
「変ではないよ。凄くいいと思うよ。僕は一瞬ドラマに出てる人が目の前にいるって思ってたもん。でも、ちゃんと見たら真柴さんなんだなって思えてさ。金曜までは真柴さんの目が隠れていたから何とか顔を見れたけど、こうして目を見ることが出来るのってなんか恥ずかしいね」
「ごめんね。私って目線で動きを読まれるから髪で隠してたのを忘れてたよ。明日からはちゃんと隠すようにするから嫌いにならないで」
「嫌いになんてならないよ。むしろ、真柴さんの目が綺麗でドキドキしちゃったよ。そんなに綺麗な目をしてただなんて知らなかったからさ、今でもちゃんと見れないんだ」
「そんなに私の目って綺麗なの?」
「うん、綺麗だよ。目だけじゃないけどね」
「そっか、それなら良かった。そうだ、連絡先を交換してなかったんだけど、森君の連絡先を教えてもらってもいいかな?」
「もちろん。僕の連絡先を教えるよ。週末にずっと真柴さんの事を考えてたんだけど、こんなに変わってるなんて知らなかったな。僕も何か変えようかな」
「ううん、森君はそのままでいいと思うよ。そのままの森君が素敵だからね」
僕は無事に真柴さんと連絡先を交換することが出来た。その後にあった授業中もいつものように真柴さんに見つめられていたのだけれど、いつもと違って前髪で目が隠れていないので直接見られていることを意識してしまって、いつも以上に視線を感じてしまっていたのだ。
それと、いつもと違う事がもう一つあって、休み時間に中村さんが真柴さんに話しかけたのだが、それをきっかけにしてクラス中の女子が真柴さんの席に群がって髪型やメイクの話に花を咲かせていた。
人は見た目だけじゃないとはよく聞くけど、髪かがとメイクを変えただけで女子の話題の中心になるのは凄い事だと思った。金曜までは僕も真柴さんもクラスの中では中心から外れた存在だったと思うのだけれど、こうしてみると真柴さんはクラスの中心にいてもおかしくないのではないかと思えていた。
星君に絡まれて動きを封じていた時も真柴さんは注目はされていたのだけれど、その時とは違って怖いから見ておこうというのではなく、綺麗になったから注目しようというように女子の心は動いていたように思える。男子の一部も真柴さんに話しかけようとしていたみたいなのだけれど、その動きはなぜか中村さんを中心とした陽キャ女子たちによって抑えられていた。
僕は放課後まで休み時間に真柴さんと話すことは出来なかったのだけれど、授業中に何度か目が合った事だけで満足していた。僕を見ている真柴さんの柔らかい表情を見ているだけで、僕の心は満たされているような気がしていたのだった。
放課後はさすがに女子に囲まれることのなかった真柴さんであったが、女子に囲まれる代わりに男子が代わる代わる声をかけに来ていた。僕はその様子を見て、素直に凄いなと思っていた。僕だったら、真柴さんが急に綺麗になっていたとしても話しかけることなんて出来ないと思うし、目を合わせることも出来ないと思う。まあ、今も目を合わせて話すことなんて出来ないと思うのだけれど、今みたいに話すことも出来ないのだとは思う。
「真柴さんってさ、陰キャ女子だと思ってたけど、なんかすっごいイケてるよね。良かったらさ、俺達とカラオケに行かない?」
「なんで?」
「なんでって、カラオケ楽しいっしょ」
「普通に行かないけど」
「じゃあさ、ファミレスに行って語り明かそうよ」
「別に君達と語り合う事なんてないけど」
「そんなこと言わないでさ、俺達と一緒に遊んだほうが楽しいって」
「そんな事ないと思う」
「でもさ、こんな陰キャと一緒に居るよりも俺達といた方が楽しいよ。絶対に」
「何言ってんの。私がなんで森君よりお前たちを選ぶと思ってんのよ。頭おかしいんじゃないの」
「は、お前何言ってんの。ちょっと綺麗にしてきたからって調子に乗ってんじゃね」
星君は学習能力というものが備わっていないのだろうか。先週も真柴さんに絡んで机に顔を押し付けられたというのに、今日もまた同じように星君は顔を机に押し付けられていた。今回は真柴さんが星君の顔に肘を当てて押さえつけているのだ。
「ちょっと何やってんのよ。真柴さんが迷惑しているでしょ。星君みっともないよ」
「お前らそんなこと言ってないで助けろよ」
今の状況で星君の味方になる女子はいなそうだったのだが、男子も全員が星君の味方というわけではなさそうだった。中には星君を非難するような事を言っている男子もいたのだけれど、今の状況を考えるとそれが一番自然な事なのかもしれない。
真柴さんは星君の顔に押し付けている肘に体重をかけないようにしているようなのだけれど、上手いこと間接を抑え込んでもいるので星君は全く動けそうになかった。でも、僕が見ている事に気付いた真柴さんは今にも泣きだしそうな星君を解放すると嬉しそうな表情を僕に見せてくれた。僕は泣きそうな星君を見て少し引いてしまったけれど、これは星君が悪いのだから気にしないでおこう。
「じゃあ、帰ろうか」
真柴さんは何事も無かったかのように僕の手を引いて教室を抜け出した。星君がどうなったのか気になって振り返って教室を見ていたのだが、一部の女子が僕たちに向かって拍手をして頷いていたのが印象的だった。
「ちょっとやりすぎちゃったかな?」
「まあ、そうかもしれないけど、アレは星君たちが悪いと思うから気にしなくてもいいんじゃないかな。でもさ、真柴さんを助けに行けなくてごめんね」
「え、そんな事気にしなくても大丈夫だよ。星君くらいだったら椅子に座ったままでも勝てると思うからね。あんな風に無防備に近づかれると逆に怖いんだよね」
「やっぱり基本が出来てないとどんな攻撃が来るかわからないって事なの?」
「そういうのもあるんだけど、無防備に近づいてくると手加減が出来なくなっちゃうんだよね。それだけ自信があるって事だと思っちゃってさ、本気を出さないとやられちゃうって思っちゃうんだ」
「へえ、よくわからないけど難しそうだね」
「まあ、あんな風にしちゃうのは良くないと思うんだけどね」
「そう言えば、一つ質問してもいいかな?」
「質問?」
「うん、聞いてみたいことがあるんだよね」
「どんな事かな?」
「真柴さんってさ、どうして僕と付き合ってくれたの?」
「それはね、私をちゃんと見ててくれたから」
「え、そんな理由なの?」
「まあ、他にもいろいろあるんだけどさ、細かい事が積み重なって好きになったのかも。森君はどうして私と付き合ってくれるの?」
「なんでだろう。最初は星君たちにからかわれたのに逆らえなかったってのもあるんだけど、真柴さんには勝手に親近感を抱いていたんだよね。僕って地味だと思うんだけど、先週の真柴さんも僕と同じように陰キャなのかなって思ってたんだよね。ほら、髪でほとんど表情が見えなかったりしたし、僕は髪が短いけど似たようなもんだしね。そういう風にに似ているところがあるんじゃないかなって気にはなってたんだよね。好きとか嫌いとかじゃなくて、友達に慣れた良いなって思っててさ。でも、友達じゃなくて恋人に慣れたってのは自分でも驚いたけどね」
「ねえ、森君は今みたいな私と、先週の私だったらどっちが好きかな?」
「どうだろう。今の真柴さんは凄く綺麗でテレビに出てる芸能人みたいに輝いて見えてて素敵だなって思うんだけど、一緒に居てちょっと緊張しちゃうかも。先週の真柴さんが緊張しないかと言えば、やっぱり緊張しちゃうと思うんだけどね。優柔不断なのかもしれないけど、僕はどっちの真柴さんでもいいと思うよ。確かに、見た目も大事だとは思うけれど、僕は真柴さんが落ち着く方でいいんじゃないかと思うんだよね」
「落ち着く方って?」
「うまく言えないんだけど、今の真柴さんって先週の真柴さんよりも肩に力が入っているように見えるんだよね。気のせいかもしれないけど、もう少しリラックスして過ごせるほうがいいんじゃないかなって思うんだ」
「私は今の私も先週の私もそんなに変わらないと思うんだけど。そうだ、森君が好きな方で明日から学校に行くことにするよ。どっちが良いかな?」
「うーん、悩んじゃうな。でも、僕が好きな方は――」
僕たちが付き合っているという事は学校中に広まっていたのだけれど、翌日からは真柴さんの席にやってきて話しかけてくるような生徒はいなくなった。
極稀にではあるが、物凄い美人がいると噂を聞きつけて見に来る先輩もいたりするのだけれど、その美人を見付けることが出来ずに帰って行った。
僕は無言で真柴さんに見つめられることが増えたのだけれど、会話が無くても気持ちが通じているような不思議な気分になっていた。
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