スーサイドアップガール

釧路太郎

文字の大きさ
1 / 53
小学生編

金髪姉妹と地味な男 第1話(全10話)

しおりを挟む
卒業式のシーズンは雪が無い方が珍しい土地柄なのだが、今年は例年よりも気温が高かったのでほとんど雪は解けていた。



春というにはまだ早い気がしているが、日中の気温だけならポカポカとしていて気持ち良い日々が続いていた。



徹夜明けの体には厳しいくらいの日差しを浴びて家に向かっていると、数台の引っ越しトラックがマンションの前に止まっていた。



ちょうど出ていく人と新しく入居する人の引っ越しが重なったらしく、いつもは静かなエントランスがやや喧騒にまみれていた。



エレベーターが止まっている階は僕が住んでいるフロアになっていていたのだが、しばらく待っていると一階まで降りてきた。



引っ越し業者の方が四人ほど降りてきて、また荷物を取りにトラックへと駆けていった。



僕はそのままエレベーターに乗り込んで自分の階のボタンを押した。



エレベーターを降りて突き当り手前の家が僕の住む場所なのだが、家の前に見慣れない少女がいた。



この時間帯は廊下に太陽の光は届かないのだが、少女の髪は光を反射しているのではないかと思えるくらい綺麗な金色だった。



たぶん、今日引っ越してきた家の子供なのだろうと思い、日本語で挨拶をしてみたのだが、返事は無かった。



もしかしたら、日本語が苦手なのかもしれないと思って、僕はそのまま自分の家に帰る事にした。



話しかけた時に一瞬驚いた表情をしていたのだが、少しだけ合った瞳の色は吸い込まれそうなくらい綺麗な青い色だった。



ご近所さんならそのうち挨拶する機会もあるだろうと思って、その時が来たら日本語が話せるのか聞いてみようと思った。



靴を脱いでキッチンへ向かうと、いつものように料理が用意されてあったのだが、今日はいつも以上に疲れてしまっているので起きてから食べることにしよう。



一通りやるべきことを済ませて布団に入ろうかと思った時にインターフォンが鳴った。



モニターを確認すると、外国人の夫婦が笑顔で立っていた。



ドアを開けると夫婦の横に先ほど見た少女とは別の少女がいて、先ほど見た少女はお父さんの足元に隠れていた。



外国人でも人見知りをするのだと思っていると、引っ越しの挨拶に来てくれたようだった。



両親はもう仕事に行っているという事を伝えると、僕の両親が出かける前に挨拶はしていたらしかった。



リビングに置いてあった見慣れない洋菓子の箱はこの家族がくれたものだろう。



日本人よりも日本人らしい引っ越しの挨拶をされたような気がするが、引っ越しの挨拶をしたこともされたことも無かったので、丁寧な言葉遣いと柔らかい物腰がそう感じさせたのかもしれない。



二人の女の子は新年度から僕の通っていた小学校に転校してくるらしい。



長女の方は日本語がほぼ完ぺきに理解できて、読み書きも小学生レベルなら出来るらしい。



次女の方は日本語は理解できるのだが、上手く言葉にすることが出来ず読み書きも苦手らしい。



僕の母親が時々二人に日本語の読み書きを教えるそうなので、僕も協力できることがあれば手伝うと伝えると、長女の方は喜んでいたみたいだが、次女の方はずっと隠れていて表情は読み取れなかった。



挨拶が終わってそろそろ寝ようとしていると、携帯に着信が入った。



少しだけ面倒ではあったが、電話に出て眠い中で一生懸命に会話をしていると、完全にお昼の時間が終わっていた。



このままだと、朝食か昼食かわからないご飯が夕食になるなと思っていたが、睡魔には勝てずに眠りに落ちていった。





起きてから時計を見ると六時と表示されていたのだが、午前なのか午後なのか一瞬わからなくなっってしまった。



テレビをつけるよりも早く答えは見つかった。



リビングの方から聞きなれない笑い声と、聞きなれたいつもの声が響いていた。



トイレに行ってからリビングに向かうと、先ほどの家族とうちの両親が楽しそうに話していた。



時々英語が混ざる会話はわからない単語も出てきたりしていたのだが、何となくニュアンスが伝わればいいのかと思って聞いていた。



長女の方は隣に来て自己紹介をしてくれたので、僕も名前を名乗った。



次女の方は相変わらず人見知りが激しいらしく、長女が代わりに名前を教えてくれた。



ソフィアさんとアリスさんの姉妹はお互いに日本文化に興味があるらしく、マンガやアニメが好きだという事なので、僕の部屋にあるマンガを見せてあげることにした。



有名なマンガはある程度揃っているのを見ると、姉のソフィアさんはもちろん妹のアリスさんも興奮した様子で本棚の前に立ってウロウロと落ち着きのない行動をとっていた。



好きなマンガを見ていいよと言うと、ソフィアさんは一番有名な作品を手に取った。



アリスさんは色々迷っていたみたいだが、マンガを手にとっては少し捲って棚に戻す作業を繰り返していた。



日本語が読めないアリスさんには日本の漫画は絵を見るだけの本でしかないらしく、どうしたら読めるかなと思っていると、英語の勉強のために買った英語版の電子書籍に漫画がいくつかあった事を思い出した。



本棚に比べると数は少ないが、ある程度のメジャータイトルなら購入済みなので大丈夫だろう。



マンガを英語で読める状態のタブレットをアリスさんに渡すと、結構戸惑ってはいたのだがソフィアさんが説明してくれたので使い方を覚えるとソフィアさんと同じマンガを読んでいた。



それから数十分経って晩御飯を食べることになったのだが、アリスさんはタブレットを手放そうとはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

秘められたサイズへの渇望

到冠
大衆娯楽
大きな胸であることを隠してる少女たちが、自分の真のサイズを開放して比べあうお話です。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

処理中です...