スーサイドアップガール

齋藤奈々未編

齋藤さんのケーキと金髪の勇気 第3話（全8話）

「今日は晩御飯も控えめにしなくちゃ」

そう言いながらソフィアさんは煎餅に手を伸ばしていた。

美味しいお菓子とはいえ、甘いお菓子ばかりだとしょっぱい味も恋しくなってしまうのだろう。

卓上の煎餅が無くなると、ソフィアさんは自分の部屋のように全ての引き出しをチェックし始めた。

残念ながらこの部屋にはもうお菓子は残っていないので、探しているのも無意味なことなのだが。

僕はそんなソフィアさんの相手をすることもなく、残っている仕事を片付けていった。

しばらく仕事を片付けていると、小さないびきが聞こえてきた。

ソフィアさんはどうやら満足して眠ってしまったらしい。

起こすのも可愛そうなくらい幸せそうな寝顔なので、ここは特別にブランケットをかけてあげることにした。

幸せそうに寝ているソフィアさんは、しきりに口元を動かしているので夢の中でも何か食べているようだった。

ソフィアさんが静かにしていてくれると僕も仕事が捗るので嬉しい限りである。

仕事もひと段落ついてコーヒーを淹れていると、ノックも無しに齋藤さんが入ってきた。

いつもなら元気に挨拶をする齋藤さんも、ソフィアさんが寝ている姿を確認すると小さく挨拶をしてきた。

「あ、ソフィー寝てるなら私も寝ようかな」

そう言いながら齋藤さんも寝ようとしていたので、それは止めることにした。

「ま、私はどこでも寝れるタイプじゃないんで横になるだけですけどね」

「横になられてるだけでも気になるからさ」

僕は残りわずかな仕事を進めながら答えた。

「じゃあ、ソフィーが起きるか先生の仕事が終わるまで宿題やってますね」

僕のクラスの生徒はみんな真面目で素直だ。

ソフィアさんが目を覚ましたのはそれから少し経った頃だった。

目を覚ましたソフィアさんは齋藤さんに挨拶をすると、そのままトイレに向かった。

「そうだ、言ってたお土産あるんでお皿借りますね」

齋藤さんが机の上にお皿を並べると、カバンからパウンドケーキを取りだした。

家庭科部の作ったケーキと違って重量感があり食べ応えも十分にありそうな見た目の、美味しそうなパウンドケーキだった。

僕は人数分のコーヒーを淹れる事にした。

ソフィアさんは苦いコーヒーが苦手なので、いつもよりも甘めに入れてあげよう。

齋藤さんの分はわからないので、コーヒーと一緒に砂糖を出していおいた。

「ナナお待たせ」

トイレから戻ってきたソフィアさんは机の上に並べられている重量感のあるパウンドケーキを見つめていた。

アリスの指定席にだけケーキが多く置いてあることに気付いた時には、今にも泣きだしそうな顔でこちらに助けを求めているようだった。

僕は親指を立ててウインクをかえすと、ソフィアさんのコーヒーにいつもより多く砂糖を追加しておいた。

絶対に気付かれないように、誰よりも慎重に追加しておいた。